無限に広がる大宇宙、静寂な光に満ちた世界。
生まれていく星もあれば……、死んでいく星もある。
宇宙は生きている……と、そのような古い詩を他人事のように諳んじることが出来たのは、既に十年近くも前の事。
現在、地球は突如太陽系に来訪した未知の侵略者、『ガミラス』によって、死を迎えようとしています。
国連軍による必死の抗戦も虚しく、数年の内に内惑星軌道までの制宙権はほぼ完全に奪取され、冥王星軌道から投入される有毒物質の混入した隕石、『遊星爆弾』により地球は赤茶けた星へと変貌。
人類は十数年前に起きた内戦時のシェルターに篭り、僅かに残存した艦隊を送り出して抵抗を続けるのみ。
ある学者は、地球人類の滅亡まであと数年という計算結果をはじき出し……。
誰も、それに反論することは無かったのです。
……奪われた制宙権の中、小惑星などの放棄された基地から地球へ資源を輸送する任務……、それは第二次世界大戦時に日本が行った輸送任務になぞらえ、『鼠』などと呼ばれていました。
アステロイドなどに向かい、僅かな資源や、工作機械などを回収して地球に戻る……。
精々100メートルの大きさも持たない船で行える任務はたかが知れたものですが……、それでも、大いなる目的のためにその非効率は正当化されました。
その目的とは、ガミラスの送り込む敵性植物に汚染された地球を脱出し、別天地を探して旅するというもの……『イズモ計画』は、人類の種を残すことだけを目的とした極めて消極的で……それでいて、絶対的なまでの『正しさ』の香りを漂わせるものです。
───しかし、鼠がうろちょろと庭を駆け巡るのを、猫が許すはずもありません。
私が副官を務めていた小さな駆逐艦は、輸送任務から帰投する途中ガミラスに襲撃され、艦隊から落伍……。
私の記憶は、気持ち悪いほどに穏やかな笑みを浮かべ、壮年の艦長が、私を脱出艇に突っ込みハッチを締める場面で一度終わり。
次は、冥王星を離れるガミラスの、これまた駆逐艦の中から始まったのです。
私はいつの間にか士官服から、緑の帯が入ったオレンジ基調の服を着て、見覚えのない様式の鉄臭い小部屋の中で横たわっていました。
体にはどうしようもない倦怠感と、長い眠りによって筋肉が退化したことを思わせる脱力感が漂い、腹がカラなのにも関わらず感じる、不自然な満腹感が満ちていて……。
少し考えを巡らせてみれば、何の事はなく、艦長の思いやりは半分目的を達成し、半分裏目に出たということでしょう。
私は、ガミラスの捕虜になったということです。
部屋の中で暫く呆然とし、同じだけの時間泣いた後、さらに数時間程やることもなく呆けていると、牢獄の扉が開き、『ガミラス人』が現れました。
どんな異様な形態をしているのか、それとも、学校の恩師が時々言っていたようにヒューマノイド型なのか、扉が開く一瞬の内に脳裏では様々な想像を膨らませたのですが……。
現れたガミラス人の姿は、肌が青いということ以外は地球人と殆ど変わらない有様でした。
……宇宙人が地球人と変わらないとはどういうことなのか、少しばかり疑問に思いましたが、虜囚の身でそのようなことに長々と考えを巡らせるだけの余裕は、私にはありません。
私に対応したのはガミラスの……肌の色が違うので見かけではよく分かりませんが、若年の士官で、彼はしきりに自分の顎を指差し初めました。
……私も顎を触ると、同じ機械がくっついており、少し出っ張った部位が……なるほど、ボタンというわけですか、
私がボタンを押したのを見ると、彼は顎を指差すのをやめ、私に語りかけます。
「ふむ、劣等人種の女と言えどもその程度の知能はあるようだな」
なんと失礼な、私はこれでも当時数十倍の倍率を誇った試験をくぐり抜け入隊した上で、さらに数百倍のフィルターにかけられ選ばれたイズモ計画の一員で……。
とはいえ、女性の基準はかなり美醜、体力、若さに振ってあるイズモ計画(前世紀の熱心なフェミニストが聞いたら怒りそうな所です)、私は『人類の総合スペックでは上なのだ』と言い張ることは出来ても、知能面だけで言えば、そこまで優秀な人間とは口が裂けても言えないのですが。
しかし、それでも一般的なエリートと言える基準は満たしている身、初対面の敵国人に揶揄される謂れはありません。
そう思い、何かの反撃をしてやろうと息を吸い込んだ途端。
「食事はその時計に示された3つの目盛りを針が指した時間に支給される手筈になっている、移送中の入湯、着替えなどはその都度前日に伝えられる……娯楽は、そこの画面脇のボタンを押せば、国営放送のログが流れるようになっている。
以上だ、お前が想像するほど長い旅にはならない、お前は帝都バレラスに移送され生体サンプルとして扱われる……まあ、話によると厳密なだけの身体検査のようなものらしいが……精々健康を保つことだな」
早口でそう告げ、彼は扉を閉じてしまいました。
あれ?なんで彼は日本語を使って……。
それが、顎に取り付けられた『翻訳機』の効果であることに気がつくのはそれから数時間、給仕のアンドロイドがやってきた時でした。
……ううむ、やっぱり知能には自信がないなあ。
さて、毎日毎日、食べるものはあまり美味しくない栄養食じみたもの(ガミラスの味覚が地球人と違うのか、文化が未発達なのか、捕虜だから特別まずいのかについては分からなかった)だけ、娯楽として与えられた『国営放送のログ』は、異文明として見るなら興味深いものなのでしょうが……あいにく、その辺のガクモンには明るくない私には、つまらないものばかり。
……そんな暮らしが数ヶ月、あまり長い旅にはならないなどとは嘘っぱちと言うほかありません。
時折、エンジンが激しく唸りを上げ、船が揺れることがあり……それを給仕に訪ねてみると、『ゲシュタムジャンプ』と答えが……専門用語で語られても分かりません、これだからロボットというのは信頼できないのです。
そして、かなり長く揺れが続いた日から暫く後、爆発音が響き……。
「艦に異常が発生した、修理のため植民惑星軌道上の基地に停泊する。
お前は一度基地の牢に移送され、艦の修理点検を追えた後、今度は我々の本星、帝都バレラスに移送される」
「本星……、一体、ここはどこなんです?」
「ここは我々の故郷であり支配領域……貴様らテロン人が呼ぶところの、『大マゼラン雲』だ」
……大マゼラン雲といえば15万光年の彼方にある銀河系の伴銀河で……。
「大マゼラン雲!?一体どうやって……」
驚きのあまり声を上げた私に、例のガミラス士官はしたり顔を持って答え、『フン、自らの恒星系も出られぬ野蛮人には言っても理解できまい』と……ファック!
……そうして、私はガミラスの『基地』に移送されたわけですが……どうにも、外が騒がしくなってきました。
ここ数日間、頻繁にガミラス艦が出撃した時のものと思われる振動音が頻繁に聞こえてくるようになり……。
そして、独房の外では人々の喧騒が飛び交い、怒号や慟哭のようなものまでが飛び込んで来ました。
ああ、こんな気配を、空気を、どこかで味わった記憶がある。
そう、国連宇宙軍本部がもう少しまともに戦えていた時、基地で頻繁に感じていた雰囲気だ。
絶望的な戦いを強いられる戦士たちの匂い、還らぬ仲間を悼む戦士たちの匂い。
……ガミラスも人間ということですか。
それにしても、連中がここまで痛めつけられるとは一体どんな強力な敵がやってきたのでしょうか。
星々を喰らう魔物か、はたまた兵器を使い宇宙を消滅させる機械の化物か……そのような強力無比の敵に接触しなかったのは、むしろ地球にとって幸運なことかもしれない……というのは、いささか理論の飛躍が過ぎますが。
その『敵』は、基地に座して待つしかない私にとっても脅威なのでしょうが、ガミラスが慌てふためき、怯え、嘆いている様を感じると、多少の同情心とともに『ざまあみろ』という気持ちが湧き上がって来るものです
家族も、戦友も、上官も、みなガミラスに殺された身の私としては、どうぞ私ごとやってしまえと言いますか、半ばやけっぱちの復讐心のようなものがじっとりと私の中を満たしていきます。
ガミラスも段々と切羽詰まってきたのか、私の元にやってくるのはアンドロイドではなく『黄色の肌』の……ガミラスに征服された別人種、要は被差別階級の労働者に変わりました。
彼ら『ザルツ人』は、かなり前にガミラスに統合されたようで、今だ地球人が抵抗を続けているということを世間話の中で話すと、何故諦めないのだと、信じられないといった声色で聞き返してきました。
……そう言われましても、なんで戦っているのかは私にも分からないのです。
分からないからと言って、私は負けてしまっていいと思っているのかというと全くそういうことはないのですが。
そんな言葉を返すと、その『ザルツ人』の給仕は『死んじまった少佐殿はアンタのことを馬鹿だと言ってたが、その通りだな』と……ああ、あの人も戦死したのですね。
青いとは言えイケメンだったので、旅の間時々面会に来るのは眼福だったのですが……まあ、ガミラスの士官が死んだのなら喜ぶべきなのでしょうか。
しかし、まったく、死してなお失礼な人だ……。
……そう頭のなかでボヤくと、反対に少しだけ寂しくなり、手くらいは合わせてやってもいい気になったのだから人間というのは不思議なものです。
────さて、ひときわ大きな出撃音から数時間後、基地の中はどよめきで満ち、バタバタと人々の走り回る音が聞こえてきているわけですが。
私の元にはガミラス人どころか、アンドロイドもザルツ人も来ません……ううむ、いち捕虜などに構ってはいられないということなのでしょうが、捕らえておいてこれというのは、少し無責任ではないでしょうか。
……多少の焦りと、期待をいだきながらしばしボンヤリしていると、打撃音とともに基地が大きく揺れました。
な、何が起こったのでしょうか。
いや、分かりきったことです、『敵』が上陸したのでしょう。
コスモガンの発砲音が暫く鳴り響くと静かになり、基地内は一種の静寂に包まれ……突如、牢獄が開きました。
開いたのはガミラスでしょうか、それとも、基地を攻めている『敵』でしょうか。
……どちらでも構いません、どちらでも、やることは変わりません。
この基地から脱出します、もしここが故郷から15万光年離れた大マゼラン雲だとしても、脱出した所で直ぐに撃ち落とされるだけだとしても。
私は若年で、女だとしても宇宙戦士!
宇宙戦士には、負けると分かっていても、死ぬと分かっていても立ち向かわねばならない時がある……!
それが、無限に広がる大宇宙の中で自らを保ち、魂だけでもあの青く美しい星に還るために残された唯一の手段だということを、知らない宇宙戦士は居ないのです。
私は牢獄から飛び出し、移送される時に通った道を逆に向かい、格納庫を目指しました(もちろん目隠しなどの措置はされていましたが、その程度で道が分からなくなるようなやわな教育は受けていません)。
途中、何故か沈黙していたアンドロイドからコスモガンをかっぱらい、道中で出会った人間をひたすら撃ち殺して進みます、ガミラスもザルツもお構いなしです、武器を持っていなくても、報告されたら私が射殺されるのは間違いありませんから。
エネルギー切れに陥った銃を途中で発見したガミラス士官のものに持ち替え、更に進みます、格納庫まで後1ブロック。
……あらら、ガミラス軍人の群れが前方に。
ここまで、というわけでしょうか。
私はガミラス・コスモガンを前方に構え、最後の瞬間までそれを連射する覚悟を決め────
紅色の閃光に目を焼かれました。
「必ず、ここに来ると信じていた」
爆炎の中から現れた、純白の軍服。
「地球の勇敢な戦士ならば……、地球を、あの青く美しい星への思いを共にする人間ならば」
その胸に取り付けられたおびただしい数の略綬(勲章の『半券』のようなもの)は、持ち主の恐ろしく長い軍歴と功績を思わせ。
しかし『国連宇宙軍』には、そのような輝かしい戦いの歴史も、戦闘数も無く。
何より、あのような制服は史上存在したことがないのです。
『あなたは何者ですか?』
酷い言い草だ。
この宇宙の果てまで来て、出会った友軍、同郷にこんな言葉をかけられるとは思わなかった。
しかし、遥かこの地まで連れてこられて、目の前に現れた男をすぐさま『同胞だ』と認識するのも、また無理のある注文だろう。
ここは、答えるべきだ。
「俺は地球連合軍・グランゼーラ革命軍合同特別遠征艦隊司令官、アキラ・クロガネ大将だ」
「大将閣下であらせられましたか!!……ん?大将なんて階級は国連軍には──」
「待て、国連軍だと!?地球連合軍ではないのか!」
「なんですか地球連合軍って!」
二つの剣幕が重なった、まるでハウリングでも起こったような気がして顔をしかめる
「そちらこそ国連とは、よくもまあ大昔の名前を出したものだ、100年以上前に解消された組織じゃないか」
国連は『地球連合』の母体となった組織であり、地球連合樹立の際に発展的解消の形で解体された組織の筈だ。
「国連が解消……って」
地球の女軍人は一瞬考えるような素振りを見せた。
「今、西暦何年ですか?2199年だと記憶しているのですが」
「……西暦で言うのなら、217X年だ」
また食い違った、……ううむ、時間軸がずれているとしても、私の居た時間軸より未来で国連が健在ということはありえないだろう。
何より暦が違う、地球連合軍、およびグランゼーラ革命軍は西暦2100年を紀元とするグレゴリオ暦、『M.C.』を用いているはずだ。
「私より前じゃないですか、やっぱりニセ軍隊じゃないんですか?」
「バカな、地球連合軍も、グランゼーラ革命軍も実在のものだ」
俺にとっては架空であったが、私、我々にとっては所属したことのあるれっきとした真実だ。
「……確かに、実在でない軍隊ではこの基地を攻めることは出来ませんからね……、しかし、あなたの部下はどこに居るのですか?」
「今の俺に部下は居ない、あるのは艦隊だけだ」
……『我々』は在るが、あれを『部下』と言い張ることは出来ないだろう。
「部下が居ないって……」
「言いづらいことだが、私はバイド化してしまい、部隊はそれに溶け込んでしまったのだ、だが信じてくれ、俺はバイドとなっても地球への思いを失ってはいない!その証拠に地球を救うためにガミラスと───」
俺はバイド化したが最低限の正気を失わず、地球のための戦いを続けているのだ!
そう強く主張しようと声を荒げていると、予想外の一言が差し込まれた。
「バイド?バイドとは一体なんですか?」
「…………………待て、バイドを知らないのか?」
バイドを知らない地球人など、ありえない筈。
人類がバイドを知ったのは100年も前のこと、その頃から、政府筋や軍人、識者の間ではしっかりと認識されていたし、ここ数十年はバイド戦役もあり、その存在を意識しないでいることは出来なかった存在だ。
それを知らないというのは、50年前から山ごもりしていた武術家、とかそういう人物でない限りありえないだろう、ましてや軍人では……。
「あなたこそ、バイドだの、地球連合軍だの、本当に地球人ですか?」
「馬鹿な、俺は確かに地球人だ、あの青く美しい星のことを、片時も忘れたことはない」
「青く美しい星……確かにそうですね、しかし……」
呆れたような、それでいて真剣で、絶望的な顔が─────
「それは8年も前の話です、あなたが本当に『217X年』の人間なら、知らないのも頷けますが」
─────聞き捨てならない言葉を投げ込んだ。
「どういうことだ、地球が、青くないだと……?
ガミラスが地球を攻めているとは聞いたが、地球が青くないとは一体どのような……」
額を抑え、ため息をつくのは殆ど同時だった。
「どうやら、立ち話では、お互いの認識の溝は埋まりそうにありませんね」
「同意見だ、本格的なすり合わせをしなければならないだろう……、ちょうど、基地の制圧も終わる頃だしな」
「あ……そういえば、今まさに襲撃の最中でした」
この時ため息をつき額を抑えたのは、俺だけだった。
……数時間語り合った結果、『我々はお互いにとって並行世界の住民である』という所に結論は落ち着くこととなる。
俺は言わずもがな、武本もそれなりにSF的なものの考え方を持っていたようで、予想していたよりはすんなりとこの結論を共有することができた。
もしかしたら、単純に『パラレルワールド』などという安易な言葉でくくってしまう行為は本質的な理解から我々を遠ざけるものかもしれないが……しかし、我々はそこまで厳密な回答を要求していない。
暫定的な回答であっても、これからの行動指針に変わりはないのだから。
「2191年にファーストコンタクト、それから8年で地球は赤茶けた星に変貌……か、『ガミラス』は相当危険な文明だな」
「……22世紀初頭にファーストコンタクトを済ませ、散々準備してなお、痛めつけられる『バイド』も酷いものです」
「私と、ジェイド・ロス提督は確かにバイドに勝利したがな」
「その挙句に取り込まれて『このざま』の人が言っても説得力は……まあ、無いことは無いですか、……この艦に乗り込んだ直後、『俺の中にようこそ』と言われた時は、ドキリとしましたよ、全く」
すこし意味深な表現だ、このベルメイトはそうでもないが、ノーザリーやバイドシステムは肉の塊といった風情で、あまり快いニュアンスを含んでいないからな。
「ははは、その通りなのだから仕方ないだろう?俺もここが大マゼラン雲だと告げられた時は正直気が遠くなりかけたんだ、おあいこだよ」
「……大マゼラン雲、ですか」
反芻するように、黄昏れたような顔で復唱された。
「自分で言っておいてビビってしまったか?まあ、俺も精々数万光年程度の旅しかしたことがない、それも亜空間から出ないままな」
私がグリトニルを制圧するために戦っている中、グランゼーラ革命軍からさらに離反した反乱軍、『太陽系解放同盟』の艦隊がグリトニルのワープ装置を利用し外宇宙に逃亡、私はそれを追討するための合同艦隊司令に任命され、ワープ空間内で大遠征を行なった。
「だがまあ、宇宙の広さから考えれば、ここ、銀河系の伴銀河であるマゼランは太陽にとっての地球、地球にとっての月みたいなものだ、目と鼻の先だろう」
「簡単に言ってくれますね、うちなんか、愛唱歌が『ケンタウリ』を目指しているというのに」
「我々は火星には基地を建設出来る程度のテラフォーミングしか施せなかったが、君たちの地球は全体に入植ができる程のそれを同年代に施している、そのバイタリティは褒められるべきものだと思うが」
いや、これは本当に尊敬に値する、火星は地球より小さいとはいえ十分に巨大な惑星だというのに、その表面全体を居住可能にしてしまうとは。
「無意味なフォローは傷をえぐるだけです」
女軍人は納得のいかない称賛を受け、目をそらしながら言葉を紡ぐ。
「それで……『提督』、あなたはこれからどうするので?」
決まりきった質問だ。
「そうだな……俺は、完全に軍から切り離され、責任を負うべき部下たちも既に『失って』しまった身だ」
身一つ……ではない、身体は幾つもある。
「俺に目的を与える人間は、誰も居ない……誰も、その権利を持つものは居ない」
……自分自身を除いては。
「究極的に言ってしまえば、俺は自由だ」
「……………………」
「俺は、俺の軍隊、俺の地球への思いを、切り離された」
だが、たった一つそこに残る『俺と私』は。
「だから、自由に」
どれだけ自由であったとしても。
「自由に、この世界で活動する」
「…………提督」
「俺は、この世界の地球のために、ガミラスを討つ」
やることはたった一つしか、ない。
「私が『青く美しい星』のため、戦う思いは、どの世界に行っても変わることはない」
少しだけ目の前の若年士官の顔が陰り……直ぐに笑みを作ると、俯いて礼を言った。
「…………ありがとうございます」
なぜ彼女が暗い顔をしたのか、俺には分からないが……まあ、見当はつく。
「俺は俺のため、自由にガミラスと戦うことを決めたんだ、礼を言われる筋合いはない。……だがまあ、君にも少しだけ頼みたいことがある」
「え?」
「広い宇宙でたった一人戦うというのは、相当に精神を摩耗させるんだ」
きっと完全に精神がバイド化し、集合意識に溶けていたのであれば問題なかったのだろうが、こうして個を手にしてしまうと、精神的な負荷が大きい。
「だから、軍規を曲げさせることになって済まないのだが……、私の副官をやってくれないか?」
一瞬、面食らったような顔をした彼女は、目をつぶり考えるような素振りを見せ……
「……あなたの『性能』で、私ごときが副官をやったところで何が変わるということは無いのでしょうが────お受けしますよ、……これからよろしくお願いします、『提督』」
「うむ、よろしく頼む………ええと」
「『
「ヒロコ……うん、いい名だ、武本君、これからよろしく」
……私の、二番目の副官と同じ名前だ。
「……いえ、少し古いでしょう、両親が懐古ブームを引きずって、これまた懐古で付けた名前ですから」
「とんでもない、そんなことを言ったら俺の『翠(アキラ)』など、200年も前のSFから取った、クサい当て字だよ」
「200年と言うと……ああ、アレですか」
「アレだアレ、結構好きなんだが、自分の名前となるとな」
強力なサイキックがその力を振るい、人類の進化の一助となる……夢のある話だ。
「良いじゃないですか、私も好きですよ、あれ」
「……今、少しは楽しい旅になりそうだと思えたよ」
ニヤりと笑いかけると、武本も同じような顔を作った。
「奇遇ですね、私もです」
「では、基地の資源化を済ませたら地上施設を破壊し、早速、ガミラスの別拠点を目指して航海を開始……、その途中で出会ったガミラス艦は全て破壊し、資源化していくことになる」
作戦はシンプルだ、目の前に空間があれば進み、ガミラスが居れば破壊する、それを点を線で結ぶ形で繰り返していく。
「……武本、大量虐殺の片棒を担ぐことになるが、心の準備はいいか」
「ガミラスを人間と認めるなら、そうなるでしょうね」
意外にも、彼女は攻撃的な言葉を返してきた。
さっきした話では、確か……
「手の一つくらいは合わせても良いと、聞いたばかりなのだが」
「それは個人を相手にしての話ですよ、提督」
……ああ、こういう物言いや、言い訳のようなセリフは万国共通か。
「違う地球を故郷にしていても、人間が思うこと、言うことは同じだな……、二つの種族が激突した時に起こるのは、どちらかの滅亡だ」
「……………はい」
「滅亡するのは人類ではない、ガミラスだ」
「はい」
「人類が勝利するのを助けるため、我々は戦う、人類は勝利し、必ず生き残る!」
「はい!行きましょう提督、……人類が生き残るための戦い、あの青い星のための戦いに」
武本は、何かを振り切ったような顔で、絶望的な戦局に光を見つけた戦士の瞳で、俺の啖呵に答えを返した。
「もちろんだ、地球を守るため……ガミラスを倒そう」
「さあ、行こうか」
→出発する
タイトルはR-TYPE TACTICSⅡの『障害物』名から。
捕虜を古代守にしてやろうかとも思ったけどここは女の子で妥協。
これでようやく、提督のワンマンショーを脱却できるというもの。
でも別人視点って難しいね。(というか、提督以外のキャラを書いてなかったからキャラ描写力自体が衰えた気がする……)
(脱出する途中で『王の財宝』をブチかまして『私こそが転生者だ』とばかりに振る舞うというのも考えましたが、無意味な世界観破壊になるので中止しました)
ベルメイト出しといて活躍させられなくて、ベルメイトファンの方には申し訳ない限りです。
でもそろそろ『ボルド』も登場ですね、更に『グリッドロック』や『ファインモーション』も……。
ああ、兵器がドンドン揃っていくのは楽しくもありますが、見せ場を作るのは大変だ(既にストロバルト他で失敗した身ですが)
追伸:祝UA2000突破&お気に入り50突破!
皆様、ありがとうございます!
4月11日加筆、冒頭の状況説明と、提督の出身年代について。
『M.C.』は完全に正体不明ですが、ジェイド・ロス提督が最初の航海日誌を書いた65年と、SLG設定におけるバイドミッションの年代が重なるため、オリ設定になりますが、2100年を紀元とする新しい暦が採用されたということにしました。
2018年5月22日加筆修正:文法的な誤りを補正、内容に大きな変化はない