俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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E(・ω・´)回


ガミラス支配下星系の外縁部【後編】

 ガミラス艦隊は岩礁地帯の中に形成された回廊をまっすぐ突き進んでくる。

 俺は敵から直接視界が通るのを避ける形で大きめの小惑星に隠れ、腐れパウのデコイを前面に出すことでノーザリー周辺の索敵を行う。

 それに加えて新たにバイドシステムα2小隊を発艦させれば、旗艦周辺の防備は万全ということになる。

 

 しかし、戦力の総量で負けた側が貝のように篭っていては、ホイル焼きにされてしまうのは必定だろう。

 我々はなんとか打って出ることにより、敵勢力を撃滅しなくてはならない。

 ……旗艦も脆いのだ、ヘタに潜ってミサイルの集中砲火を浴びるよりは、いっそ岩礁に座礁した方がマシだ。

 

 敵と戦闘機隊の距離は刻一刻と近づく……俺は、ジギタリウスを迎えに行かせる形でバイドシステム一機を直掩から外し、敵の方向に向かわせてやる。

 

 ジギタリウスの波動兵器、『バイドシード砲』は速射可能である代わりにかなりの低威力、短射程だ、遮蔽物や干渉空間の存在しない純粋な宇宙空間であっても、1光秒を割る至近距離でしか有効打を出すことはできない。

 

 慎重に敵艦隊前面にジギタリウスを向かわせ、バイドシード砲を発射するべく、チャージしたエネルギーを機体前方に収束させる……と、その時だった。

 敵艦隊は急速に散開し、ジギタリウスの前方……つまり、波動砲の射程から逃れたのだ!

 情報が十分伝わっているということか、俺はバイドシード砲の発射を取りやめ、長射程のフォースレーザーを乱射することでお茶を濁し……

 散開状態から落ち着きを取り戻した敵艦に向け、『ジギタリウス』を包むように回り込んだ軌道で『デビルウェーブ砲』を叩き込んだ!

 敵艦が高エネルギーを根拠に波動兵器を回避したのであれば、高エネルギー体であるR戦闘機の背後に隠してチャージ、発射を行うことで発見を防ぐことが出来る……。

 屈曲した軌跡を描くデビルウェーブ砲ならではの攻撃手段だ。

 

 デビルウェーブ砲は幾つかの小惑星を砕きながら敵艦隊に食らいつく、波動砲はもともとアステロイドバスターとして開発され、バイド戦役用に改良され兵器化された……その歴史を思わせる、力強い弾道だ。

 『駆逐』が何隻か弾道に巻き込まれ爆発、その爆発に巻き込まれた『軽巡』が1隻誘爆、デビルウェーブ砲と相次ぐ誘爆によってかき乱されたアステロイドの前に、艦隊の動きは一時的に沈黙した。

 

 動きが止まった今こそ、矢継ぎ早に攻撃を叩き込み無力化する好機だ、そう思った俺が更に直掩のバイドシステムを回そうと思った時、敵戦隊の方角から小型のエネルギー反応を感知した。

 これは……事前に観測されていた艦載機集団だ、異文明のもの故、形から判断は出来ないが、恐らく戦闘機と攻撃機の混成部隊だろう。

 本来は直掩に当て、こちらの艦載機から艦隊を護る部隊だろうが、このタイミングで飛び出してくるということは……敵も、それなりに必死ということだ。

 

 普通なら混乱した自部隊の立て直しを支援させるために使う所を、こちらに差し向ける……恐らく、短期決戦を狙っているのだろう。

 俺が1小隊でも戦闘機をこの場に残したなら立ち往生した艦隊は立て直すどころか、良いように食い荒らされるのは目に見えていることだ。

 そこを押して、艦載機を送り出したのだ……いいだろう、望み通り勝負を受けてやる。

 

 機動戦が不可能になった敵艦隊を破滅へと追いやるべく、バイドシステムαとジギタリウス隊にはそのまま攻撃を続行させる。

 かくして、こちらの手勢は補給機、工作機を除けば直掩のバイドシステムα一小隊、タブロック、そして旗艦ノーザリーのみとなった。

 

 敵部隊はおよそ50機、配分は不明だが、近づくにつれ見えてきた形状(我々地球文明で言うところの『飛行機』に近い形状であり、いくつかの機体は羽根と思われる部位に比較的大型のミサイルを装着している)からすると、対艦攻撃を行えるものは二種、それを除いた一種は恐らく戦闘機だろう。

 彼らの文明はR戦闘機のような弾薬庫を持っていないのだろう、しかし……ステルス性能をかなぐり捨てたような、ミサイルが露出した形状にはある種の清々しささえ感じる。

 

 ガミラス文明が持つ高度さと幼稚さのモザイク構造について、私としては副官達と共に半日程語らいたい気分になったが、今は戦闘中で、彼らは既に居ない。

 心を戦場に戻し、件の航空機部隊を迎え撃つことに専念する。

 

 バイドシステムと腐れパウのデコイを先行させながらフォースをこまめに突出させ、データリンクを密にする。

 敵機の詳しい情報を共有することにより、自らの観測が届かない範囲にも攻撃を命中させる事ができるこのシステムは、形を変えながらも百年以上の時を超えて健在だ……意外と、彼らが航空機を使っているのもそういうわけなのか?

 

 さて、データリンクをするからには、その情報を元に長距離攻撃兵器を放つ存在がいるということであり……そう、前回作成した人型兵器タブロックがその役目を負うことになる。

 大規模ミサイルを装備したこの薄らでかい人型は、宇宙戦艦のミサイルサイロブロックだけを切り取って制御系統とスラスターを付けたような兵器だ。

 そう形容されるにふさわしい長射程、威力を誇るミサイルは対空、対艦、あらゆる作戦に有効に使うことが出来る……のだが。

 同時に、巨体にふさわしい鈍重さと嵩までもを獲得してしまっているのだ……要は、使いにくい。

 地球連合軍人として働いた『私』はこのようなことを意識することはなかったが、『俺』の記憶には、タブロックを出しておきながらも進軍に間に合わず、細々とミサイルを放つだけの浮き砲台にしてしまう経験が多々あった。

 

 しかし、今回のような戦場……即ち、防衛戦においては、後退しながら存分にその火力を十分に発揮する事ができるのだ。

 大規模会戦の序盤、敵の攻撃をいなしつつタブロックや母艦によって打撃を加え続け、敵を打倒するのは一つの常套手段であり、私も俺も大いに活用した覚えがある。(もっとも、『私』はタブロックを使ったことがないのだが)

 思えば、あれは『俺』の記憶を無意識になぞっていたのか?

 今回も、艦載機をバイドシステムに足止めさせながらタブロックのミサイル砲を叩き込んでいく。

 ……波動砲を乱打出来ればラクなのだが、艦載機相手に波動砲を発射しても逃げられてしまうだろうし、そもそも今度は自軍のタブロックの攻撃まで妨害してしまうだろう。

 それに、波動砲はチャージにそれなりに時間がかかる上、ダメージを受けたりすると暴発を防ぐためにエネルギーを捨てなければならないという欠点を持っている。

 

 もちろん、指揮官の手腕と戦力が十分ならば、つるべ撃ちにして敵を撃滅するような使い方も出来るのだが……今この場に居る戦力では、そんな使い方はできないだろう。

 俺は慎重にバイドシステムを操り、敵をミサイルの射線に引きずり出す。

 あのバイドシステムαは最初にフォースを装備させた、一番古い『我々』の一つだ、それなりに操作にもこなれており、ガミラス戦闘機との交戦経験もある。

 数の上では敵は10倍だが……ある程度の足止めはこなす筈だ。

 

 

 艦載機を捨てた艦隊はバイドシステムとジギタリウスにまともな対処を取ることが出来ず、無意味に砲を撒いたり当たりもしない距離でミサイルを放ったりしている。

 当然、まぐれ当たりは幾つかあるもののすぐに回復され(そう、ジギタリウスも自己再生能力を持っているのだ)、殆ど一方的にフォースレーザーやミサイルの餌食に成るばかりだ……一方的なのはいいが、そろそろ燃料が危ないか。

 

 そして、防空に差し向けたバイドシステムだが……予想通りと言うべきか、ある程度の戦闘機隊のみを残して通り抜けられてしまった。

 当然と言えば当然だろう、異文明の超高性能戦闘機など、真正面から相手をするのが間違っているのだ。

 しかし、こちらも迂回されて素通しというわけにはいかない、タブロックにミサイルを放たせ、攻撃機、爆撃機と思われる中隊の迎撃にあてることにする。

 

 タブロックのミサイルはデータリンクにより次々と敵機に命中し撃墜していく、対艦にも用いられる10m級のミサイルは近接信管により敵機の付近で爆発し、爆風と破片により強引に巻き込むことで撃墜できるのだ。

 R戦闘機の機動力ならともかくとして、ガミラス文明の戦闘機が閉塞的な岩礁宙域で回避するには荷が勝ちすぎる得物と言えるだろう。

 

 しかし、十数機の敵は見事に小惑星の影を縫いミサイルの誤爆を誘ったり、搭載したミサイルによって器用に迎撃することによってタブロックの攻撃を躱してくる。

 アレはエース部隊なのか?だが、単なるエースと呼ぶにしては、単純な戦闘能力面以外の部分での……経験の深さや、こなれた戦闘理念のようなものを感じるのだ。

 今、ノーザリーの眼下で我軍の戦闘機隊に蹂躙されている艦隊は、決して無能ではないし、むしろ思い切りなどの面では優秀とすら言えるだろうが……あの航空機隊を育てるに足るものだとは、とても思えない。

 あのような戦闘法は私の部隊では教えない、私の艦隊は、常に私の指揮を完全にこなす戦闘を行うことを良しとし、それをもって太陽系最強の戦闘力を誇っていた。

 

 ……あの部隊が行う戦闘はそれとは全く違う。

 私は戦力が不十分な今でこそ、奇策を弄して数で上回る敵を撃破する戦法を取っているが、本来は数字上の戦力を最大限にやりくりし、一つの敵に倍する数の味方を当て、それを繰り返すことで全てを撃破する究極に教科書的な戦いを好んでいる。

 あの敵は、どうやら私が言うところの『奇策』、つまり心理戦などの、敵の隙をついたり、作ったりするような策を弄して数字上の戦力以上の効果を上げる戦術を良しとしているように見える。

 俺は、私の用いた戦法を王道のものだと胸を張って言えるが、ヤツを育てた指揮官は、それ以上に戦の王道たるやりかたを踏まえているのかもしれない。

 

 ガミラス、侮りがたしと言ったところか。

 連中が強大であり、こちらが信念に溢れているからといって、決して向こうに勇者が居ないわけではないのだ。

 ……戦って、負けてやる気はないし、しないのだが。

 

 さて、バイド生命体しての処理能力で圧縮された時間で考えること数分間、現実では数十秒が経過し、既に敵機がノーザリーの目前にまで迫っていた。

 この距離に来ると、もうタブロックのミサイルはまともに狙いを定めることもままならない…そう、タブロックの弱点はその巨体とミサイルの大きさの裏返しとしての、至近距離への防御力の欠如なのだ。

 

 工作機をタブロックの背後に隠し、腐れパウのデコイを索敵に残しながらその本体を攻撃中の戦闘機隊に回す、このままでは息切れを起こし、艦隊の復活を防げなくなるだろう。

 ……敵戦闘機と交戦中のバイドシステムも流石に押され気味であり、フォースとの分離を駆使し縦横無尽に駆け巡るも、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというべきか、飽和攻撃を食らっていると言うべきか、敵機の攻撃に晒され段々と追い詰められ始めている。

 

 敵機が近づく中、俺はノーザリーとそのデコイを並べて沈黙することにした。

 タブロックを離し、二つのノーザリーを並べて同じように回避運動を取り、敵機から逃れるように動かす。

 これはもちろん、タブロックの最低射程距離内に敵機を入れ直すための時間稼ぎである。

 ……連中は洞察力と即応性に優れた軍隊である、ヘタに自艦を庇うような行動を見せれば、目ざとく見分けられて破壊されてしまうだろう。

 だから、あえて何もしない……好きでもない読み合いには乗らず、静かに踊るのだ。

 

 

 敵機が突っ込んでくる、ミサイルが次々と放たれ、あるものは空を切り岩塊へ、あるものはデコイに、そして俺に突き刺さっていく。

 ……バイド生命体に『痛み』というものは無いが、尽きること無い戦闘本能が敵機への攻撃を行おうと顔を覗かせている。

 それを必死で押さえ込む、顔を覗かせる本能を上回る意志力を持って、敵機への無鉄砲な攻撃を防ぐ。

 

 押さえ込め、時が来るまでは、敵の爆撃が止むまでは。

 

 『報復をしろ』、『敵を叩け』、『バイド体液を放て』、艦橋に存在する『私/俺』の脳を本能の囁きがゆっくりと満たしてゆく。

 

 ノーザリーにミサイルが突き刺さる、爆炎は表皮を裂き、『血』を吹き上げる。

 噴出するノーザリーの体液と、デコイの偽装体液が宙で混ざり合う。

 宙域を汚すほどに溢れた血霧を突き抜け、ミサイルが刺さる。

 やつに報いを、逆襲を、反撃を………。

 

 爆発がやみ、小さな刺激が体を叩く。

 

 これは機銃だ。

 

 

 蒼白色の閃光が宇宙空間を包みアステロイドをかき混ぜたのは、まさにその瞬間だった。

 波動エネルギーの爆裂は多数の敵機とノーザリーを巻き添えにして広がり、カイパーベルトに響き渡った。

 バイドシステムを痛めつける戦闘機が、今まさにフォースシュートで撃沈されようとしている『巡戦』が、にわかに硬直する。

 

 爆発が去った後、ガミラスの攻撃隊は半壊状態であり、……それらは、距離を取ったタブロックの射程圏に居ることに気がつく間もなくミサイルの断続的な襲撃を浴び、炎に包まれた。

 

 ……ノーザリーは、傷つきながらも健在である。

 輸送生命体『ノーザリー』には自己再生機能が備わっており、バイドシステムと同じように自らの傷を癒やすことが出来るのだ。

 敵文明の質量攻撃が全般的に弱くて助かったというほかはない、ダメージを分散することで回復量を超えぬようやり過ごし、最後にデコイ爆破で自分ごと粉砕したわけだ。

 ノーザリーはバイド生命体が形成する艦艇の中でも最も耐久力の劣った艦種である輸送艦相当のものとはいえ、波動兵器一発で沈むようなやわな作りはしていないので、こういう自爆まがいの作戦も実行可能なのである。

 さて、俺はタブロックと艦隊を壊滅させた自軍の戦闘機2小隊を敵戦闘機隊に差し向け、一息つく。

 

 ……さあ、この岩礁を抜ければガミラス星系への侵入は成ったということになる。

 俺はゆっくりと進んでいたベルメイトを急かし、オールトの雲を抜けよう。

 

 

 目の前に奇妙な円盤が立ちふさがった、更には、空母と思わしき珍妙な船までが目の前の宙域に、まるで死守でもするように浮かんでいるのだ。

 ……彼らは、恐らく名誉の玉砕を遂げようとしているのだろう、射程距離に入るか入らないかの距離だというのに、盛んにビーム砲を乱射してくる。

 俺はそれに遠慮なくミサイルと波動砲の滅多打ちを食らわせ宇宙のチリにすると、再びワープBを行いガミラス支配下星系への侵攻を開始することにした。

 

 

→帰還する




波動砲でぐちゃぐちゃに乱された挙句即座に全滅した艦隊と見せ場もなく即死したポルメリア級とガイペロン級に黙祷。
まあ、ドクトリン無視の決死行やったり、空母が護衛もつけずふわふわ浮いてたりしたらこんなもんです、岩礁内で決着付ける出来なきゃ死ぬの作戦立ててたから、覚悟の上でしょう。

あと、大活躍したタブロック君を存分に褒めてやってください。
回避されまくってるとか言っちゃダメです。

そして、次回からようやくまともな会話の相手が現れます、提督の記憶の残滓ばっかり見せつけ続けるのもアレだしね、ようやくです。
(その分、今回以上に投稿が遅くなるかもしれませんが……)

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