このオハナシ、なんでわざわざ転生なの?単に提督じゃだめなの?と思われる方も居るかもしれません。
私も時々そう思います。
そうしない理由はまず、『提督』というキャラクター像が多様であることが上げられます、提督はマジメな人物であったり、よくネタにされるひどい人物であったりするのですが、
よくネタにされるような、事あるごとに拷問を迫ったり決戦前に愛してるぜベイビーなどと叫んだり、早く攻撃をぶっ放したいだのとほざく提督はちょっと扱いにくいので、マジメな提督をベースにしているのです。
でも、提督単体で居させたら無限に文章や行動が固くなっていくので、ある程度の柔らかさを確保するために今回は『お硬い提督+学生転生者』という形でミックスしています。
まあ、あとは『読者との繋がり』とか『ゲーム的情報の取り込みのため』とか、そういうのを重視したってことで。
言い訳は以上です、まあやろうと思ったら転生者単体でも、提督単体でも回る話ですけどね。
さて、宇宙というものは総じて、その内容物の量に対して無意味なまでに広い。
光は一秒間に30万キロメートル、地球を七周半するだけの距離を飛ぶが、地球の衛星である月は、その1.3倍の距離に浮かんでいる。
太陽と地球の距離が光でも8分以上かかり、この距離を『天文単位』と呼ぶことはよく知られているが、太陽から最も遠い惑星である『天王星』までの距離は30天文単位である。
そして、我々の『太陽』の重力に囚われた物体はなんと光の速さで1年かかる距離、一光年まで宇宙を漂っているのだ。
このように、宇宙空間というのはいちいち、精々2メートル程度の身長しか持たない人間にとって想像もつかないような広さを持っている。
人類が『グリトニル』により長距離ワープを可能にしながらも、『バイドから逃げる』、『バイドと戦う』といった、一種消極的な理由でしか外宇宙への航海を行わないのも、これが理由である。
広すぎる宇宙空間に広がっていくよりは、自らの太陽系の中で完結する文明を整える方が先決だと思われたからである。
そう、それは部分的にだが、ガミラス文明にとっても同じであるようだ。
眼下に広がるガミラスの支配下にある星系にスペクトル調査や光学的観測、タキオン波のキャッチなどの電磁波調査などを行わせて得た結果によると、どうやらこの星系におけるガミラス勢力はかなり限定的…というか、一つの地球型惑星と、そのの外周のみに集中しているようだ。
つまり、ガミラスはこの星系内を発展させようとはせず、一つの、育てたか奪った惑星を護るか、監視する形で小規模な軍事基地を置いているということになる、
恐らくワープでやってきて、この星の重力圏で一切を済ませた後、またワープで離脱するのだろう、ここはさしずめ、宇宙という砂漠にポッツリと浮かんだ大きめのオアシスといったところだ。
俺はこの基地を破壊し惑星を占拠、新たな兵器作成のための材料とテクノロジー、そしてガミラスのテクノロジー、軍事情報を接収することを目標に作戦立案を開始させた。
……そう、度々文中に『させた』と出るように、俺は『させる』相手を手にした……というか、取り戻したのである。
地球連合軍・グランゼーラ革命軍合同特別遠征艦隊の構成員や、元から居た私の副官は私と共にバイド化し、その肉体はバイドの材料として、意識は『我々』の一部として取り込まれてしまった。
俺、私、そして、『我々』……この三者が融合した存在が今の『艦隊』であるが、なんとか今回、『我々』と『俺/私』を曖昧ながら分割することに成功したのだ。
雑然と大量の意識が融合した存在である『我々』は、『俺/私』との融合を保っていた状態でも主体性無く、時々意思のみが意識上に登る存在であったが、分離した今であってもそれは変わらず、殆ど発言もせず黙々と与えた命令をこなすだけになっている。
まあともかく、それによって『俺/私』は雑事から開放され、ある程度の行動を『我々』に行わせることが可能になったのである……まあ、結局のところは一人芝居なのかもしれないが。
このままの勢いで副官達も分離出来ないだろうか、ヒロ……ゲフン、ガザロフ中尉やベラーノ中尉、ヒューゲルやクロフォード……いや、もはやいっそマッケランの大声すら恋しくなってきた。
複数の意識が融合、混在している分あまり寂しいという意識はないのだが……どうにも、人と関われないというのは寂しさ以外の面で人間を蝕んでいくものだ、心が冷えていくような感覚を覚え始めている。
───しかし、そうだ、俺の目的はガミラスを打倒し地球を救うことである。
現在、我々はガミラスが支配する星系の外惑星の外側に存在するアステロイドベルト地帯……つまり、太陽系で言うところのオールトの雲に近い構造の星系外縁部を航行中だ。
ワープにより瞬間的に移動する手段は通常空間航行に対して遥かに高速であり、星系外に移動する際にはこれを利用しなければ隣の惑星に行くだけでも決死の大航海になるだろう。
しかし、長距離ワープには、ワープA、ワープBともに重大な欠点というか、使用上の問題が存在する。
それは、ワープを行う軌道に高エネルギー物体、高重力物体が存在する場合干渉を受け、空間の振動により強制ワープアウトを余儀なくされたり、最悪船体が破壊されることだ。
故に、ワープというのは星系内で実用することは難しく、干渉を受けにくいルートを辿ったり、ワープアウトを行い、通常航行により星系内に侵入することになる。
無論、多大な労力を伴うワープAにてそれを行うことは困難であり、それが地球文明の恒星間航行の限界にもつながっていたのである。
『グリトニル』などのワープ基地が存在するのであれば、向こう側から受け入れルートを策定、作成することによって星系内へのワープが出来るが今回はそれを望むことはできない。
我々は一旦小惑星帯の前でワープアウトし、それを抜けてからもう一度ワープBにて目的となる基地まで向かうことになる。
……恐らく、敵もこちらのワープを嗅ぎつけ、外縁部で最終防衛ラインを張ってくるだろう。
小惑星の密集した地帯で巨大な『ベルメイト』を戦闘に出す事はできない……俺は、自らの意識を今一度『ノーザリー』に戻し、ベルメイトを『我々』の一部に任せることにした。
もし作戦に失敗し敗退するようなことになれば、即座にベルメイトに戻し、今度は防衛戦を行わなくてはならない。
相手も、残る戦力を出来るだけこの戦いにつぎ込んでくることだろう……これはちょっとした決戦になるはずだ。
ノーザリーと腐れPOWで艦載機隊の補給を行いながら哨戒を行わせつつ、分厚い小惑星帯を突き進んでいく。
恐らく、敵はどこかの時点で仕掛けてくるだろう……抜けた瞬間大艦隊が、ということもありうるが……その場合は『ベルメイト』が事前に察知してこちらに情報を送ってくれる。
そうしたら、俺はアステロイド内から『タブロック』にミサイルを滅多打ちさせ敵を釣り出すのみだ。
……敵は、必ずアステロイド内、それもある程度開いている場所で攻撃を仕掛けてくる。
今回鹵獲した艦を詳しく分析(スキャンもだが、戦略的、戦術的な価値、思想についての考察という意味で)してみたところ、かなりの機動性、雷撃戦重視のドクトリンが取られているということが分かった。
我々の文明のフネならば、波動兵器にさえ留意すればある程度立ち止まっての殴り合いを行うことも可能なのだが、この文明のフネにそんなことをさせたら被害は増える一方となる。
しかし、……十分な慣性制御装置を持った我々の文明ですら、岩石帯での戦闘は厄介なもの、高度な基礎科学を持ちつつも慣性制御装置に関しては未熟な彼らにとってはなおさらだ。
そんな中、ドクトリン通りに機動戦を行わなければならないのだ……彼らにとって、これはかなりのアウェーな戦場と言える。
しかし、敵は必ず来る。
ここで仕掛けてくる。
味方の居る星系に敵を招き入れ基地決戦など、到底受け入れられるはずもない……。
つまり、急ぎの決戦を行いたいこちらと、我々を星系内に入れたくないあちらで希望の作戦地域が一致することになるのだ。
現在このノーザリーは、小惑星帯の最も分厚い部分、その半ばを航行中だ。
……来るとするなら、ここを抜けた先。
…………
…………………
…………………………!
───うむっ、緊急連絡だ。
哨戒のため離れていた『ジギタリウス』小隊から敵影確認の報が入った。
敵とノーザリーの距離、およそ20光秒。
敵の航路は完全にこちらを意識したものと推測され、……これで両者ともに敵を認識したということになる。
恐らく、敵もジギタリウスの存在に気がついたのだろう、布陣が岩礁地帯での移動を重視したものから、戦闘に準備したものへと変化した。
別の場所を哨戒させていたバイドシステム2小隊を招集、補給し、同時進行で波動兵器チャージを回収させる。
20光秒の距離はこちらが準備を行うには十分だが……恐らく、敵も十分な準備を行ってくるだろう。
敵はアステロイド内に形成された『疎』の空間……つまり、一種の回廊のような宙域を進んでいる。
……予め用意されていたのか、調査していたのかは不明だが、敵にとってこの空間は完全なアウェーではないようだ。
ならば、敵の思惑通りの戦いをしないよう十分注意しなくてはならないだろう。
ジギタリウスの偵察結果によると、敵艦隊は『駆逐』40、『軽巡』5、そして例によって『巡戦』が1という構成だ。
『巡戦』が旗艦だろうが……『重巡』が一隻もないというのは、こちらの戦力が空戦に特化していることをなんらかの手段で認識したということを意味する。
前の艦隊を撃退してから拿捕するまでの間に通信を行ったと考えるのが自然だろう……、欲をかかずにミサイルで艦橋を潰してから拿捕するべきだったか。
そして……やっかいなことに、それなりの数の小型高エネルギー反応群……つまり、航空機の存在も感知した。
エネルギー量から推測される敵は3種類、詳しくは接近しないと分からないだろうが、『巡戦』の収容機能以上の艦載機が居るということは空母もあるということだろうか。
これも厄介だ、艦艇を全て撃破しても艦載機が残っているならば、俺が破壊されてしまう可能性がある。
俺は敵の索敵から逃れるべく、帯電させたバイド体液をばら撒いて宙域のレーダー波を撹乱した後、大きな岩塊に隠れデコイを作成した。
専門ではない機体でのあまり長い時間のジャミングは困難だが、ある程度の電子戦はバイド軍、地球軍双方可能なのだ……そのせいで、小さな戦場であっても早期警戒機が敵軍に突っ込んでは破壊されるのだが。
今回はデコイと本隊に分けての索敵などは行わない、分割したところで各個撃破されるだけだろう。
つまり……奇策や読み合いよりは、純粋な戦術能力による戦いになるわけだ。
───つまり、私の領分だ。
ああ、今となっては懐かしい戦場、要塞グリトニル攻略の前哨戦、太陽系解放同盟との決戦、太陽系に侵入したバイドとの戦い……。
私は敵地に侵入しての戦いを数多く行ってきたが、本当に得意なのは陸で言うところの会戦、即ち正面からのぶつかり合いなのだ。
この岩礁を抜ければ敵地、これだけの戦力を捻出すれば基地はがら空きだろう。
つまり、これが俺にとっても、敵にとっても決戦ということになる。
そう、俺をここまで追い込める戦いは、敵にとっても最後だ!
敵はそれを知らず、単に一つの基地の存亡をかけて戦うだろう、それが命取りだ。
兵器をぶつけ合い、戦略、戦術をぶつけ合い決着がつかないのならば、戦いは最終的にお互いの執念の量によって決まる。
決意を持たぬ兵士は脆弱であり、熱意を持たぬ将の指揮は力を持たない。
『俺』は地球を守護る、その為に怨敵たるガミラスを撃滅する。
この強力な意思、俺、私、我々が持つ究極の目的と同じだけの熱意を、彼らは果たして持っているのだろうか。
否!否である!俺の意思こそが宇宙最強である!
我々は地球が持った全ての軍組織の末裔たる地球連合軍、グランゼーラ革命軍の合同艦隊!
私は太陽系を二分する大戦争を制した英雄であり、先のバイド戦役を終結させた英雄を打倒した大英雄である!
俺は見劣りするか?それも否である!俺の意思はそれらを押しのけ、今地球を救わんと立ち上がったのだ!
俺は宇宙最強の軍隊の司令官だ、その誇りと自信を持っている。
ガミラス軍のいち守備隊ごとき、何するものぞ。
我軍は弱小であろうと、その力は銀河を支配するバイドのものであり、それを打倒するに足る意思が操るそれだ。
ガミラスの部隊との距離が5光秒に近づく。
さあ、戦いの始まりだ。
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各話タイトルはR関連から取るか、ヤマト関連から取って改変しています。
1話:R-TYPE TACTICS無印バイド編一話『バイドの星の中心』
航海日誌(記憶の残滓)より、開始時の表題『復活の刻…バイドの星で』
2話及び4話:R-TYPE公式資料集『ILLEGAL MISSION』に挟まる章始めのポエム(?)
3話:R-TYPE TACTICSⅡ番外編を進めることで得られる一枚絵の名前
5話:旧作ヤマトのタイトルをイメージして自作
6話:R-TYPE TACTICS無印『バイド星系外縁部』及びその航海日誌表題『悪魔の星系の外縁部』を意識
なお、2作には高い頻度で『外縁部』という単語の入ったミッションが存在するため、そのどれかと取ってもらっても構わない
ガミラスの艦艇はともかく、航空機に関しては割とふわふわとさせています。
理由は資料不足と、作中においてR側が優越していることから影が薄くなっていることです。
一応、かかってきなさい。【2】の機体はツヴァルケ、今回の機体は『スヌーカ』、『メランカ』、『ゼードラーⅡ』と考えていますが、あまり信用できる知識はないので、これダメじゃね?と思われたら何らかのツッコミをくださると有り難いです。
追伸:古本屋で松本零士版ヤマトの文庫本を入手したぞ!
永遠のジュラ編で一人だけ正気保ってる沖田艦長の強キャラっぷりがいい
しかし、デスラーとジュラ、メラの関係……こりゃあニーベルング敵勢力の原型なのか?
松本零士は味方も敵も凄い女とダメ男の布陣が多い……、何か原体験があるんだろうか
……しかし、松本零士宇宙戦艦の頑なに会戦しない姿勢はこの頃からなんだなぁ