敵艦隊と俺の勢力は刻一刻と近付いていく。
俺はバイドシステムα部隊に腐れパウアーマーと腐れ工作機をつけ、補給させながら敵艦隊に差し向ける。
戦闘機隊と敵艦隊が会敵する位置は、恐らく俺から8光秒程度の位置だろう。
8光秒の距離は我々が今持っているあらゆる兵器の射程外である……おそらくは、彼らにとっても。
地球連合軍で最長の射程を持つ『Rwf-9D系列機』の波動砲ですら、その射程距離は1.3光秒程度だ。
この射程で効果を発揮する兵器と言えば、地球連合軍がアステロイドベルト地帯に保有する超巨大レーザー兵器『ウートガルザ・ロキ』くらいのものだろう。
およそ1天文単位(約500光秒)の射程距離を誇るあの兵器でもなければこの距離を攻撃することなどできない。
要するに俺は今回、艦載機を先に敵に差し向け、俺と離れた場所で戦闘を開始させる事を選んだのだ……臆病だとは思うが、流石にあの数を目と鼻の先で相手にするのは危険すぎる
前回は敵の能力が完全に未知数であったため、わざと危険な橋を渡って敵の攻撃を誘発したが……。
今回はある程度の情報を入手した後だ。
敵艦隊の能力を見る必要がないため腐れパウのデコイを先行させ、それによって得た情報を元にデビルウェーブ砲を斉射する。
敵編成はレーダーでの観測と同じく、『駆逐』15、『重巡』2、『軽巡』3、『巡戦』1……、『巡戦』が旗艦と予想される。
さらに、『巡戦』搭載と思われる艦載機が少数ながら確認された、規模的には偵察部隊だろうか
しかし、向こうの電探は十分に高性能らしく、発艦させたまま慣性航法で温存し、しかる後攻撃に当てるつもりらしい。
……全長200mの肉塊相手によくもまあ大所帯をぶつけてきたものだ。
軽く見られるのもシャクだが、どうやら最初に差し向けた部隊の全滅を重く見ているのだろう……。
戦闘機面で優越しているとはいえ、苦戦は免れない数だ、今度こそダメージを覚悟しなくてはならない。
俺はバイドシステム隊に命じ、敵艦隊正面にデビルウェーブ砲を放たせることにした。
超高エネルギーがバイドシステムα後方に収束し、機体を回り込んで敵艦隊に向かう。
この『ワンステップ』は射程距離を大きく損なうものだが、その代わりデビルウェーブ砲は通常の波動砲にはない柔軟な弾道で発射することが出来るのだ。
不気味に蠢くデビルウェーブ砲の波動エネルギー塊が敵艦隊に喰らいつき、そこかしこ爆炎が上がる。
……命中、先頭の『駆逐』5隻を大破撃滅、2隻機関停止し落伍。
さらに、『重巡』1隻が砲塔を中心に大きく船体を抉られ中破、余波で『軽巡』1隻の爆装に引火……どうやら、消火が間に合ったようだ、腕のいいダメコン要員を載せているらしい。
大きな被害を受けた敵艦隊は大きく足取りを崩したが、ダメージを受けた艦を引きずりながらも見事な程の速度で艦隊を立て直してしまった。
どうやら、敵の指揮官はそれなりに有能であるか人望があるようだ……。
もちろん、地球連合軍のように極めて厳しい規律に守られているのかもしれないが。
(地球連合軍の規律は人類史でも異常なレベルであり、その厳しさはしばしば死を前提とした命令すらも肯定化される程だ、指令する立場としては有り難い話だが、下士官や兵士にとってはあまりよい職場とは言えないだろう)
敵の艦載機がバイドシステムに集ってくる、バイドシステムは十分な攻撃性能と機動性を持っているが、物質である以上防御力はそこまで優れたものを持たせる事ができない。
つまり、敵の攻撃が命中した場合、恐らく破壊されてしまうであろうということだ。
艦載機相手にバイドシステムを差し向けて相手をさせる。
出来ることなら全力で艦艇を攻撃させて、こちらに近づくまでに敵の打撃力を削ぎたいのだが……まあ、仕方ないだろう。
敵機は少ない、戦闘機の慣性制御技術が艦船より遥かに優れているといった特異な現象が起こっていないならば、十分一部隊(5機)で対処する事ができる筈だ。
バイドシステムαを敵機に差し向けてやると、敵機もそれに応じて機動を反らし、戦闘が始まった。
敵の艦載機がブルファイトを仕掛けてくるが、こちらのバイドシステムはそれを斜め後ろに『方向転換』することで無視、さらにレーザーによる攻撃で返礼した。
向こうは面喰らいつつも何機かは回避行動に成功し、大ぶりな軌道でバイドシステムに追いすがる。
……ザイオング慣性制御装置を搭載していない戦闘機では、こんなものか。
しかし、バイドシステムも無敵ではないし(むしろR戦闘機としては弱い部類に入る)、相手はザイオング技術を持っていないだけで、れっきとした星間国家の作った戦闘機なのだ。
何個か向こうのミサイルが命中してバイドシステムが損壊する、ミサイル性能が高いのか、パイロットの技量があるのか……、いや、両方か?
一方この俺はあまりバイドシステムの操作に慣れていないから、どうしても動きにボロが出てしまう、こればっかりは精進あるのみと言うほかない。
1機は正面に激突し大きく傷を負っただけで済んだが、一機はエンジン部に被弾しコントロールを失った。
その他、機銃などが命中し、敵機を次々撃墜しながらも、こちらにもダメージが蓄積───
───しないんだなあ、これが。
バイドシステムは傷を受けるたびに回復し、撃墜された機体までも傷を癒やし再び戦場に登る。
その様はまるで、リメイク三作目を心待ちにしていたアレの旧作劇場版/某名作古典アニメーションの量産型汎用人型決戦兵器のようだ。
そう、これこそが『Bwf-1Dα バイドシステムα』、ひいてはバイド軍生命機体の目玉である、『自己修復機能』だ。
バイド軍が持つ生命機体の殆どが持っているこの機能は、その名の通り自らのエネルギーを使用して傷ついた体を修復するというもの。
少々のダメージならば問題なく回復し戦線復帰可能なこの機能は、ダメージを負えば母艦に戻すか工作機に修理させなければ傷つきっぱなしの地球軍機にはないタフさをバイド軍機に与えている。
……もっとも、小隊が完全にツブされてしまうと回復できないという弱点もあり、それを理解している地球側は回復などさせず圧倒的火力で否応なしに撃滅してしまうのだが。
だが、この空には敵にそれを成すだけの火力も、戦力もない。
空戦は安泰だろう、そう考えた俺は意識を艦隊との戦いに移す。
さて、敵艦隊の編成は艦船への打撃力に偏っているものの、前回『駆逐』が放ったその対空ミサイル攻撃は侮りがたいものがあるし、連中を通せば次にやられるのは俺だ。
キャンサー部隊とストロバルト部隊を直掩に残してはいるものの戦闘機として役に立つかは甚だ疑問であり、艦隊を通さないことが一番の防御策だろう。
そう思った俺がミサイル攻撃を行おうとした時、敵艦隊からの飛翔体をキャッチした。
『駆逐』に加え、『軽巡』もミサイル攻撃を行えるらしく、『駆逐』には劣るものの、対空ミサイルを大量に発射してきた。
前方のミサイル発射管を使わないのかは疑問だが……ともかく、前回とは比べ物にならない量だ!
100以上のミサイルがバイドシステムα5機に殺到する。
ミサイルやレーザーによって迎撃できれば楽なのだが……あいにく、目玉ミサイルはミサイルの迎撃に適していないし、フォースレーザーはそもそも迎撃に向く性能ではない。
俺はミサイルの接近が最小限になるルートを計測し、その方向にバイドシステムを急行させる。
その間も、バイドシステムにミサイルが纏わりつき続ける……どうやら、敵の火器管制システムと戦闘指揮官は優れているようだ。
ただ単にミサイルに追わせるだけではなく、その軌道やタイミングまで操作して、こちらの逃げ道を塞いでくる。
俺は全力でバイドシステムに回避させ続けるが、ついに包囲に追いつかれる……寸前に、急加速し、自分からミサイルに突っ込む。
ミサイルは次々とフォースに激突し、爆発する……そう、これこそが『R戦闘機』の目玉の一つ、『フォース』の防御力に支えられた突破力だ!
フォースを盾にミサイルを爆破しながら突破し、1機落とされたものの艦隊に追いついた頃には、すでに敵艦と俺の距離は3光秒にまで近付いていた。
敵のミサイル網を突破したバイドシステムαが装備している『フォース』が機体を離れ、弾かれたように前方へと突き進む。
肉塊とエネルギー塊の融合したその球体は吸い込まれるように中破した『重巡』と数隻の『駆逐』に命中し、その土手っ腹をくの字に折り曲げた!
これが『フォースシュート』、波動砲と並ぶR戦闘機最大の攻撃手段である。
敵艦はバイドシステムと距離が近づきすぎていることからもはやミサイル攻撃を行う事はできない。
ミサイルに頼り切りロクな対空装備をしていない上、戦闘機隊も脆弱な艦隊は、最早食い荒らされるのみなのだ。
俺は目玉ミサイルを発射し更に『駆逐』を沈める。
次は残る『重巡』と『軽巡』を破壊し、旗艦であろう『巡戦』を制圧するだけだ……そう思った時、突然戦場で爆発が起こる、何が起こったんだ!?
爆発の正体は『軽巡』だ、『軽巡』が機関を暴走させ、自沈……自爆を行ったのだ、今まさに食いついていたバイドフォースはそれに巻き込まれ、砕け、宇宙に散った。
……向こうも『人間』ということか、すでに食いつかれているとはいえ、自らの船を爆破してまで周りを守ろうとするとは。
敵艦隊は、犠牲を無駄にせぬようにと奮起したのか、速度を上げてバイドシステムを振り切り、母艦であるノーザリーを破壊しにやってくる。
しかし、まだ俺の策は残っているのだ、俺は腐れパウのデコイを敵の正面に出す、……『本物の腐れパウ』を後方にわざと見せながら。
腐れパウを差し向けられた敵艦隊は当然、残る『軽巡』のミサイルを放ち、これを迎撃しようと躍起になり……運動性と耐久性のない腐れパウのデコイは、すぐに破壊される。
そう、まさにその瞬間にデコイを自爆させる。
デコイの自爆は、『何も巻き込まず』に炸裂し……敵艦を、余波で少しだけ揺らす。
……俺は腐れパウを下がらせ、ノーザリーから『キャンサー』と『ストロバルト』、そしてデコイを展開する。
敵までの距離、1光秒。
ノーザリーのデコイを急速に進軍させ、敵艦隊に差し向ける。
敵までの距離、0.8光秒。
敵艦隊はデコイを回避しようと、二手に別れて移動する……片方は『巡戦』と『重巡』、もう片方は『軽巡』全て。
敵までの距離、0.6光秒。
完全に無視されたデコイと、ノーザリーを護るキャンサー、ストロバルトが残される。
敵までの距離、0.4光秒。
フォースを破壊されたバイドシステムと、艦載機をようやく撃退したバイドシステムが追いすがる……間に合わない。
敵までの距離、0.2光秒。
ノーザリーに敵の対艦ミサイルと砲撃が迫る、回避行動と直掩機による対処を行うが、次々と攻撃が突き刺さる
敵までの距離、0光秒。
光の速さでゼロ秒の距離、猛然と攻撃を打ち込む敵艦隊にノーザリーが横滑りし突入。
────『ノーザリーのデコイ』は、見事に敵の中心部で炸裂、『軽巡』を撃滅することに成功した。
………ふぅ。
危ない賭けになってしまったが……うむ、上手く敵を誘導することが出来たようだ。
デコイを『見せ爆発』させることにより、攻撃兵器としての側面を強調。
攻撃に反応する爆弾と見せかけ自ら突撃することで、逆に攻撃を回避。
後は、敵艦の攻撃で沈んでしまう前に突入を済ませ、撃破するのみ……敵のミサイルがマルチロール可能だったなら、追加のミサイルが放たれ、デコイは命中前に破壊されていただろう。
さて、しかし俺は賭けに勝った、この戦いに勝ったのも俺だ。
俺はストロバルト、キャンサー、両バイドシステム小隊を差し向け、残る『重巡』と『巡戦』の制圧に向かわせた。
……生きた敵と対面するのは初めてになるな、なるべく拷問などではなく、穏当な手段で情報を入手しておきたいのだが。
→帰還する
光秒とかの単位はまあ、主人公が宇宙キロを知らないから代わりに使ってると思ってください。
ヤマトなら敵機まで27光秒あればスクランブルが十分間に合う程度の距離なんで、今回はまあ多少遠距離と言ったところです、この戦いはどっちも電子戦に優れているわけじゃないしね。
光秒が戦闘の単位として成立するくせに補助エンジンやスラスターが核だったり、星系外脱出もできないのに亜光速出せるはずのガミラスと殴り合ったりと、距離と速度に関しては原作の時点で割りと適当ですから、本作もそれに倣っています。
あの異常なまでの食い下がりに文明のレベルキャップだとか核パルスで亜光速出せるとかの理由がないならヤマト地球人は本当に超攻撃的文明か何かだと思う、それか沖田艦長辺りが絢爛舞踏。
それと、戦闘機に関しては両陣営ともに説明無しで光秒を扱うようなヤバい速度出してくれてますので、もう何も考えないことにしました。
これが正しい姿勢だと思います、元々宇宙空間で戦闘機が落ちていったり、恒星間航行中のものが肉眼で見える非科学的な世界(という風に、製作陣があえて作ったもの)ですから。
なお、R-TYPEの方の速度設定も初期型R-9の208km/s程度しか存在しないので、好きに盛りました。
大気圏内で殴り合ったり、はたまた秒速2000mの大気にあらがったり、大赤斑を跨いで戦ったり。
挙句の果てにはシュバルツシルト面スレスレや二つの太陽の間なんかで殴り合ったりしているので、(極限環境による負荷もさることながら、これらの天体は提督が言ったように光秒や光分、光時の単位を使う程巨大である)宇宙空間ならば光秒程度の単位を扱えると見て問題はないでしょう。
どうせ、ヤマトもRも設定通りの戦闘速度にはとても見えないし。
まあつまり、ふわっとお互いの特徴だけ捕らえて戦ってると思ってください、相手の兵器は効く、こっちの兵器も効く、くらいで。
(それにしても、メ号作戦参加艦艇の6分の1ちょいで大所帯って言ってたらこの先大変だぞ提督)
(まあ、メ号はメ号で、滅びかけとはいえ一つの星の残存戦力を全て叩き潰せるか否かの決戦なので、ショボいとは言えないのだけど)