俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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異文明の脅威

 ───さて、今現在、俺ことバイド生命体ノーザリーの艦内、もとい体内は強酸性の体液……人間で言うところの胃液で満たされている。

 つまり、体内に入れた物体を消化し、自らの血肉としているのだ。

 

 

 あれから、逃亡しようとする敵艦を拿捕(降伏勧告が出来ないのでミサイルを打ち尽くすまで追い回し続けた後、砲塔の死角から工作機を貼り付け、制圧させたのだが)した後、確保した船を早速工作機にて解体した。

 船をバラす理由は、彼らのエネルギーを確保すること、彼らが持っていた砲塔などの技術、構造を手に入れることにより、艦隊を強化すること、物資を得ることが目的であった。

 

 ……しかし、うーむ、これはちょっと予想外だ。

 

 彼らの艦艇のエネルギー源は燃料ではなく、一種の永久機関だったのだ。

 いや、何を言っているのか分からないかもしれないから、順を追って説明しよう。

 まず、我々の文明に所属する艦艇は、基本的に何らかの燃料を利用してエネルギーを得ている。

 地球人は、主にそれをガス惑星である木星から得られる軽元素によって賄っていたし、バイドも大抵はそういうエネルギー入手法をしていた。

 

 しかし、どうやらこの文明はそのような軛からは完全に解き放たれているようなのだ。

 俺が拿捕した船の主機関は、真空に存在する余剰次元を操作することで発生するエネルギーを、無限に宇宙から汲み出すという原理で作動している。

 これはつまり、この船が一種の『永久機関』である事を意味する。

 

 この凄まじさが理解できるだろうか、我々地球人類は固定されたガス惑星からしかエネルギーをまともに入手する事ができないのに対し、この船を作り上げた文明は宇宙のどこに居ても、大量のエネルギーを無償で得ることが出来るのだ。

 もし地球人類とこの文明が衝突したら、地球人類は無尽蔵のエネルギーに支えられた大艦隊と、拠点の位置を選ばない自由極まりない艦隊行動によってかなりの苦戦を強いられることだろう。

 

 そして、この文明が用いる超光速航行技術についても、ある程度の理解を得た。

 我々の文明が用いるワープは、跳躍空間と呼ばれる一種の異層次元内を通過することにより、実空間と全く無関係に移動し、目標地点で脱出することであたかも超光速で航行したかのような移動を可能とする航法である。

 しかし、この文明の船は、どうやら異層次元を直接航行するのではなく、実空間と異層次元の間に存在する、低位亜空間とも異なる領域を通過することにより、我々よりも遥かに高速で手軽な航行を行っているのである。

 その分、実空間からの妨害や、大質量の存在などには弱いようだが……それでもなお、我々が用いる手段よりも優位なのには変わりないだろう。

 

 この超光速航行を、仮に『ワープB』、我々が用いる手段を『ワープA』と呼ぶ。

 俺はエンジンを回収することでエネルギーを得ると共に、この機構についての理解を深め、ワープBの実用化を試みることにした。

 

 

 ──本題はここからだ。

 俺が先程の戦闘した船のうち一隻は強引な侵食により内部クルーが完全に肉塊になってしまってサルベージ不能。

 二隻目、三隻目はクルーの大半が自決してしまった上、数人は船外に飛び出して酸素の欠乏などの原因で死んでしまったため、連中の生体を回収することはできなかった。

 要するに強硬手段を取りすぎて脅かしてしまったのだ、捕虜として扱う気もあったのだが……。

 

 回収できたのは死体のみ、それも大半が酸欠により脳を損壊してしまっているため、情報を引き出すこともままならない状態だ。

 いくらバイドと言えども破壊されたものをそうでない状態にするのは極めて困難なので、ひとまず彼らの事は諦めるとする。

 

 その死んだ異星人だが、姿形や、体内の構造などは人類と酷似しているのだが……。

 なんと、体色が青色であり、詳しく解析したところ、地球人には存在しない不明な組織や器官がいくつか確認された。

 

 つまり、地球人とは別種の生物ということになる)。

 ……いや完全に未知の宙域で確認された生物を、『地球人とは別種』という消極的な分類で判断すること自体が異常事態ではあるのだが。

 この一連の生物が、地球の生物のである我々ホモ・サピエンス、ひいては地球人類と極めて近い形態、組成を持っているのは確かだ。

 地球人と交配が可能なレベルの近似であるかまではまだ分からないが、この分だと、遺伝子構造的にも交配可能なレベル、即ち人類の亜種、もしくは変種に近い存在であることが推測される。

 

 

 非常に厄介だ、人類と近いということは人類に近い思考能力と開発能力を持っているということであり──

 似ているが故に、二つの道は決して交わることがないということだ。

 

 地球では、ホモ・サピエンス以外の人類は全てホモ・サピエンスとの競争の結果滅亡した。

 ホモ・サピエンスとそれ以外の人類の競争は地域ごとではなく、世界中で一斉に行われ……結果、ホモ・サピエンス以外の人類は世界の全てから追い出されたのだ。

 この歴史的事実が示す事実は一つ、人類はどれだけ生存圏が広かろうと、決定的な違いさえ存在すればその全ての領域で争い、淘汰したり、されたりするということだ。

 

 船を得た人類が陸地を超え地球を支配したように、超光速航法を得た人類は星を伝って、銀河に、宇宙全体に広がるだろう。

 

 

 ──広がり続ける生存圏がぶつかりあった時、二つの種族が共存できるという甘い考えにすがることは、私にはとても出来ないのだ。

 

 宇宙の戦いとは、そういうことなのだろう。

 殺さない選択肢を選んだとしても、きっと共存の中で淘汰は起こる……我々は、一つの星を支配したことによってしばしば、自分自身を高等な、進化を終えた生命体だと考える。

 しかし、それは間違っていた。

 我々は未だ、宇宙という広大な世界に飛び出しただけの文明に過ぎず、これから始まる永遠の時間をかけた生存競争を生き延び無くてはならない生命体の一つでしかないのだ。

 

 俺はこの文明との出会いを通じて確信した。

 地球人類は、未だに絶滅の危機を脱してはいない。

 もっと言うならば、人間の尺度で測れる時間の内に絶滅の危機から脱することはないのだろう。

 グリーンインフェルノを作成した文明、フォレスを生み出した文明、そして、私が戦うはずだった戦闘文明……。

 宇宙は、様々な生命に満ちた世界であり──それらは全て潜在的に地球人類の敵……競争相手なのだ。

 

 宇宙は生きている……生きているからには、成長している……。

 成長する生物は、空間を奪い合い生きなければならない。

 別種同士の争いがなくなる時というのは、一つを除いてすべての生物が滅び、宇宙が統一された時になるだろう。

 もっとも、その段になっても人同士の争いは消えないだろうが。

 

 

 我々の目的が決定した、我々はこの文明についての情報を最大限入手しなくてはならない。

 そして、あらゆる手段を用いてこの文明の技術と脅威を地球人類に知らせよう。

 難破を装って船を放っても良い、バイド化させて差し向けても良い。

 ……手段は問わない、多少の犠牲が出ても構わない……俺自身が、テュール級の艦首陽電子砲で貫かれる事になろうとも、必ず成し遂げる。

 

 ……俺自身、地球に帰りたい気持ちはあるが、我々を暖かく迎え入れる場所など、バイド帝星にすら存在しないだろう。

 だから、どのような形であっても、地球のために戦うのだ。

 私の心とあの美しい星をつなげる手段は、もはやそれしかないのだから。

 

 

 ──そのためにはまず艦隊を拡充し、十分な戦力を整え、敵対勢力に対する抵抗力をつけなくてはならない。

 現状の我々は、R戦闘機隊を有するため航空戦力に関しては優越しているものの、その数も2小隊に過ぎず、艦は連中の攻撃を受ければすぐに大破してしまうであろう、輸送生命体ノーザリーしか存在しない。

 本当なら、暴走戦艦『コンバイラ』、暴走巡航艦『ボルド』、生命要塞『ベルメイト』、高速移動要塞『ファインモーション』などの強力な母艦級バイドを作成したい所なのだが、現状では技術も資材も足りない……余っているのはエネルギーだけだ。

 

 バイドとして一番必要な資源はバイドエネルギーが結晶化した『バイドルゲン』だ、これを自己生成で大量に入手出来るのは大きい……はずなのだが。

 流石のバイド生命体、流石の永久機関でも、E=mc^2の方程式を遡り物質を自ら生成するのは荷が重い……いや、出来ないことはないのだが、広島原爆のエネルギーを用いても1gの物質を生み出すのが精一杯なのだ。

 もちろん我々が得たエネルギーは原爆などの比ではないのだが、それでもなお、戦闘機一機生成するのすらかなりの労力と時間が必要だろう。

 要するに、自らの体を作るためのバイドルゲンを作成するにはそれなりの量の各種通常元素が必要なのである。

 

 

 ……というわけで、冒頭の消化シーンに戻ってくるわけだ。

 やることは人間と同じ、酸やら酵素やらで取り込んだ物質を分子や元素に分解した後、ドロドロに溶けたそれらを吸収して、体内の然るべき器官に送り込むのだ。

 先程の艦隊を分解消化することで、金属元素、炭素、水素、酸素を中心とした数多くの元素を回収することができた。

 多少金属が多すぎ栄養が偏ってしまったきらいはあるが、そこはまあ我慢しなくてはならないだろう、食には寛容が必要だ。

 

 艦の大きさを上回る程の元素を得てある程度資材が溜まったが、流石にこの程度の量では暴走巡航艦ボルドすら作ることは出来ない。

 よって、小型機を幾つか作成してお茶を濁すことにする。

 ここは不足している『バイドフォース』と、要撃兵器『キャンサー』、汚染物運搬機『ストロバルト』を生成しよう。

 

 『キャンサー』は高度な姿勢制御能力と格闘戦能力を持った半人型(下半身がホバーになっている)の機動兵器だ。

 体当たりに近い攻撃とバイド粒子弾しか持たないため、あまり大規模戦闘に有効な兵器とは言えないが、制圧能力を持っている。

 今後の戦闘で拿捕、占領などを行うことを考えると、このような兵器は一つあると便利だろう。

 

 『ストロバルト』は汚染物質運搬機の名の通り、本来は廃棄物などの運搬装置だった。

 しかし、バイド生命体の汚染を受けた結果、バイド汚染された物質をばら撒く『兵器』と化し、バイドによりそこら中で生産されている。

 もちろんその来歴の通り、あまり攻撃力、命中率ともに優れた兵器とはいえないが、バイドにしては硬い装甲と広い索敵範囲、そしてなにより『リボーよりは強くて役に立つ』という点を買って採用した。

 

 うむ、賢明な諸兄はこの言葉遣いで分かったかもしれないが、今現在の私の能力ではあまり多くのバイドを統率する事はできない。

 そのため、要撃生命体リボーはひとまず私のハラの中で眠ってもらい、その代わりに別の機体を戦場に出すことにしたのだ。

 

 

 

 エネルギー装置の組み込み、そして資材の回収と艦隊の再編を終えた俺の目に敵影が映った。

 目と言っても、実際の目ではなく、新しく得た『タキオン粒子』を利用する超光速レーダーである。

 (超光速での通信、索敵手段は我々の文明にもあるが、こちらの方が使い勝手が良さそうだ)

 敵影はおおよそ20、前回破壊した大型と小型に加え、大型より少し小さい目が4つの中型、大型よりも大型の艦隊に、小さな目と砲身つきの砲塔を備えた超大型が存在するようだ。

 敵艦のデータベースより得た情報に照らし合わせ、

比較的高い砲雷撃戦能力を持っている大型は、『重巡(重巡航艦)』

多数のミサイル発射管を持つ小型艦を『駆逐(駆逐艦)』

砲雷撃戦能力を持ちつつも、重巡(大型)よりも小さく、シャープな船体の四つ目を『軽巡(軽巡航艦)』

重巡洋艦よりもなお大きく、有砲身の砲塔から見受けられる高い砲撃能力から、超大型を『巡戦(巡航戦艦)』

と、それぞれ仮称する。

 地球連合軍艦艇なら駆逐艦の大きさにも満たない船を巡航艦や戦艦と呼ぶのには違和感があるが、性能と役割的には十分そう呼ぶのが適当なので、渋々そう呼ぶことにする。

 

 ──敵艦隊は強大であり、我々は未だ弱小である。

 敵の情報を先に知り得ただけ、我々には優位があるが……あの艦隊相手にそれが通じるかは、疑問の余地が残るだろう。

 

 だが、私は負けるわけにはいかない、必ず地球に強力な異文明の存在を知らせなければならないのだから。

 

 バイドと化した肉体の、脈動すらしない心臓の部位に熱いたぎりを感じる。

 

 この情熱がある限り、俺は不滅なのだ!

 

 

→出発する

 




入手トレジャー
【陽電子生成装置】
異文明の陽電子砲に搭載されていた陽電子砲ユニット。
我々の文明のものと比べ低出力だが、その代わりチャージなどしなくても使えるようだ。

【超光速粒子技術】
超光速粒子を生成、放射、受信するための技術。
光によってやり取りするのとは比べ物にならない速度での通信、探知が可能。

【バイドの記憶】
バイド生命体としての粒子体に刻まれた兵器の記憶。
兵器開発が出来ないことを不安に覚えていたら脳裏をよぎった。
この記憶を元にバイド生命体を作れそうだ。


何?2199ガミラスは人種レベルの差で地球人と同じ?
……いや、流石に顔どころか血液が青いレベルの差を人種差と同レベルと扱うことは難しいです、宇宙人にはテレパシーとか使うのも居るし。
呼吸色素(人間で言うところの赤血球)がヘモシアニン(銅ベースの青い色素)とか書くのはやめたから許して。

あと、パイロットユニット数やトレジャーなんかについてはある程度考えていますが、覚えていない部分やヤマト世界で入手出来そうにない類の物も多いので、ある程度適当にやっています。
番外編までもう一度クリアしてプレイ感を確かめるとかやってたら精神力持たないからね、仕方ないね。

何度も繰り返し小さい小さいとボヤいている提督、RTT世界の艦艇は輸送艦でも200mはあって、駆逐艦がその3倍くらい、巡航艦は更に~と際限なく肥大化してるから、そう見えるのも仕方ないのです。
(一応言っておくと、巡航艦は誤字ではありません、R-TYPE TACTICS シリーズでは巡洋艦の意味で巡航艦が使われています、多分銀英伝とかの先行SFの影響)

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