学校帰り、私はふと空を見上げた。
大気の向こう、宇宙の黒が滲むようなこの秋晴れなら、あの残月の手前、ラグランジュ・ポイントL1に位置するコロニーや、月面都市セレーネの明かりが見えるかもしれないと思ったのだ。
もちろん、常識的に言えば、穴あき貨幣の穴ほどにしか見えない月の手前に浮かぶ数キロの鉄塊や、月面にへばりついた数十キロの人工物が目立って見えるはずもない。
科学を志したばかりの子供が時折覚える、万能感にも似た期待感だ。
……だが、その時、私の宇宙への熱に答えるように、鈍い輝きが視界に飛び込んできた。
まず見えたのは、黄色がかったオレンジの光点、そして、それにピッタリと付きそうように、あるいは、押し出すように進む青。
あの日の私にはそれが何であるか、すぐにわかった。
あれは、人類の希望、R戦闘機だ。
私が生を受けたのは、M.C.40年代後半、公文書からは駆逐されつつも、未だに民間レベルでは使われ続ける『西暦』で言うのならば、2140年代、22世紀の中盤に当たる。
結局、シンギュラリティと呼ばれるべき人工知能・情報処理革命は発生せず、エネルギー問題とガス排出問題には、宇宙進出と技術進歩が自然な解決策を与えた、紛争はやまないものの、最早地上国家間の大戦争はここ100年ほど発生していない。
人類の領域は地球を中心としたまま広がり続け、軌道上、内惑星、外惑星、果てはアステロイドにまで広がりつつある。
そして、いくつかの必然的な星間紛争を越えた人類は、地球を中心とする夜警国家的な統治システムとして『地球連合』を設立、その指揮下に存在する『地球連合軍』の軍事力と、発展し続ける経済の元、平和を享受していた。
……だが、その裏にはすでに、宇宙の彼方より迫りつつある凶暴な戦闘生命体、バイドと、その侵攻に備え軍備拡充と新兵器の開発を続ける軍部の姿があった。
民間への情報規制も概ね解かれ、バイドの脅威が明らかになると、人類は想像しうる限り全ての意見とアプローチを持って、それに対処しようと躍起に成り始めた。
あの秋晴れの空の中見たR────おそらくは、Rwf-9Aアローヘッドの試作型────はその1つであり、最終的に最も重要とされたピースだ。
バイドの領域が地球に近付くにつれ、外交、逃亡、服従、戦闘、様々な手段で行われたアプローチがことごとく失敗していた中で、バイドより得られたエネルギーと技術を活用し作られたアローヘッドは、旧式化しつつあった超大型戦艦『ヘイムダル級』と開発中のその後継艦を除き唯一、バイドに対して有効な戦力として認められたことによって、人類の期待を一身に背負うことになる。
だが、Rの絶大な戦闘力を持ってもなお、バイドの戦力と特性は強大であり、人類は局所的には勝利を得つつも、太陽系へのバイド侵入は日常茶飯事となり、人類の脳裏には『敗北』の二文字が浮かびつあった……。
────そこに現れたのが、かの若き英雄『ジェイド・ロス』だ。
大型バイドを小規模な艦隊で群れごと撃滅し、次々と拠点を取り戻してゆく彼の活躍は大々的に報じられ、人々を熱狂させた。
……そのあおりを受けたのは、私のような生粋の宇宙好き、宇宙軍人志望だ、士官候補生の入試倍率はおよそ1000倍、人手不足の軍が無理をしてまで拡大した入試枠を持ってしても、膨れ上がった軍の人気に対応することは出来なかったのである。
私がそれを勝ち抜けたのは、(今にして思えば理由は明らかな)戦略シミュレーターにおける好成績のおかげだった。
私が長く続く士官学校での訓練を終え、半ばインターンの形で行われる略式でのキャリア訓練を受け始める頃には、ジェイド・ロス提督の外宇宙遠征の甲斐あってバイドとの戦いは小康状態に入り(だが、ジェイド・ロス提督が帰還することはなかった)、新たに地球連合とその反乱軍、グランゼーラ革命軍との戦争が始まっていた。
強力だが危険なバイド由来の兵器の破棄を主張する勢力を中心に、地球連合の反体制派が結集したグランゼーラ革命軍は、民衆の支持と対人戦闘を想定した兵器群の力もあり、寡兵ながら地球連合軍と互角の戦争を繰り広げ、その勢力は太陽圏を二分するまでになっていた。
私の戦いは、そこから始まった。
訓練が終わると、私はすぐに小さな輸送艦隊の司令官を拝命することになる。
戦いの大局には関わることが出来ない立場であったが、多少差配できる規模が小さくとも、その範囲の何もかもを支配し、与えられた課題を解決してゆくことが出来る立場は、性に合っていたのだ。
だが、それもすぐに終わることになる。
グランゼーラ革命軍の輸送艦隊を撃破したことによって上層部に目をつけられた私は、副官の増員といくつかの研修を経て、軍の機密にも関わる重大任務を次々に任され……それは、要塞ゲイルロズの攻略をもって一つの節目を迎えた。
要塞ゲイルロズは木星と土星の中間の軌道に浮かぶ堅牢極まる要塞だ。
グランゼーラ革命軍は戦争初期、バイド兵器廃絶のため、バイド兵器開発基地『ギャルプⅡ』を確保するため、その至近に存在するゲイルロズを確保するという建前の元、大規模な兵力を投入して、この要塞を自らのものとした。
グランゼーラ革命軍によって占拠されて以降、地球連合軍はその守りを破ることが出来ず、グランゼーラ革命軍の拠点として鎮座するゲイルロズを奪還することが出来ずにいたのだ。
私が参加したのは、その幾度目かの攻略作戦の一つ、最も大規模なものだったが、木星内を通過する大回りのルートで私の艦隊がゲイルロズに到着した時にはすでに主力艦隊は壊滅。
手負いとはいえ、単独でゲイルロズを攻略することとなった我々は……その戦いに、勝利を収めた。
だが、重要拠点とはいえ、基地ひとつの撃破では戦争は終わらない。
その後も、激戦は続いた。
多くの艦隊やバイド、果ては改造された工作機械とまで戦い、グランゼーラ革命軍の最後の拠点となった天冥軌道の長距離ワープ基地『グリトニル』を激戦の果てに陥落させてもなお、戦いは続いた。
グリトニルよりワープで脱出したグランゼーラ革命軍の過激派が『太陽系解放同盟』を自称し、地球、グランゼーラ両軍より確保した高い技術力を背景に新兵器を開発し、太陽圏への攻撃を計画しているという情報が伝えられると、両軍はお互いに選抜した精鋭、最新兵器と私の艦隊を合わせ、特別遠征艦隊を結成し、私を外宇宙に送り込み、太陽系解放同盟を征伐させることにしたのだ。
私は地球に帰還したかったが、任務は任務、除隊するわけにもいかず、そのまま太陽系解放同盟を追って、ワープ空間に突入することになった。
……私はそこでも、かの緑の地獄『グリーン・インフェルノ』を含めた数々のバイドと敵軍を撃破し、最後には、自らが用いたバイド兵器によって暴走した太陽系解放同盟の中核を撃破した。
────それもまた、終わりなき戦いの一節に過ぎなかった。
太陽系解放同盟撃破直後、超巨大なバイドの集団が地球に侵攻を開始したことを知らされた私は、即座に地球への帰還を開始し、バイドの討伐任務に当たることになったのだ。
バイドは少なくともこの銀河全域に広がっており、グリーン・インフェルノの故郷を含めた多くの星々や文明を汚染し、勢力を強めている……ジェイド・ロス提督による遠征の甲斐あって、初期の拠点は壊滅したものの、バイドによる汚染が消滅することはなかった、太陽系解放同盟討伐遠征の往路、復路で我々が多くのバイドの襲撃を受けたのも、そのためだ。
太陽系に帰還してからの戦いは、これまでよりも一層熾烈なものになった。
侵入したバイドに加え、太陽系に根を張ったバイド、そして、太陽系解放同盟の残党が我々の前に立ちはだかった。
だが、希望もあった。
太陽系解放同盟残党の一部は我々に協力し、侵入したバイドの迎撃に協力してくれたのだ。
……しかし、我々の勇戦も虚しく、執拗に撤退・進撃を繰り返すバイド群の前に、地球の防衛網までもが破られ、ついにバイドは地球に降下することになる。
軍事基地に向け降下する『コンバイラベーラ』を中心とするバイドの群れを見ながら、私は一種の胸騒ぎを感じていた。
武者震いでも、不安感でもないそれは、地球の軍事基地に向けまっすぐやってくるバイドに対する一種の予感……そして、まだ眠っていた、俺の記憶が見せる『真実』に怯える心だった。
────地球に向けやってきたそのバイドの正体は、かつて地球から旅立ち、バイド帝星を撃破した英雄、ジェイド・ロス提督なのだ。
バイド化すると、思考が狭まり、地球に帰る、という意思だけが巨大になるらしく、ジェイド・ロス提督はこれまで、自らが同士討ちをしているという認識すら曖昧なまま、地球を目指して進行してきていたのだった。
その時の私はそれを知るよしもないまま追撃を続け、更に進化しコンバイラリリルと化した提督を撃破することになる。
そして……。
グリーン・インフェルノは完全にその砲塔群を回復させ、コンバイラリリルなき今、最大の脅威である宇宙戦艦ヤマトに向け進撃を開始しつつある。
データリンクと島の高度な操艦技術によって初撃を免れたヤマトはバランの影に隠れることに成功したが、完全に戦場のイニシアチブを失い、総戦力的にも既に逆転された側の逃亡が長くは続かないことは、その場の誰もが確信していた。
曲射攻撃は再開されていたが、回復したグリーン・インフェルノにとっては最早有効なダメージとは言えないものでしかない。
「グリーン・インフェルノ、バランに接近!」
「こちらに回り込む気か……!」
「最速で追撃を回避可能な位置へ移動!」
だが、いかに最強の攻撃手段である波動砲と、高い通常戦闘能力を持ったヤマトであっても、この戦場においてはただ一隻の艦艇に過ぎないのだ。
「統制バイド群、ガミラスの攻撃を振り切り、グリーン・インフェルノと反対の方位よりバランに接近中!」
「曲射攻撃の対象を統制バイドへと切り替え、本艦はそのまま突入する、波動防壁展開用意!」
突撃戦法は沖田艦長が最も得意とする戦術であったが、圧倒的な戦力と即応性を持った敵に対するそれは決して有効とは言えず、突入後に訪れるべき撤退も、首刈りもあり得ないものであることもまた明白であった。
だが、沖田は諦めない。
たとえそれが暗闇の中に光る僅かな希望であろうとも。
たとえそれが、ただ前知を持ちえぬ人が抱く幻想に過ぎずとも。
沖田は、あがき続ける。
「閣下、未統制バイド群の様子が────」
「────これは……ヤマトを攻撃中のバイドに食らいついているのか……!?」
「それだけではありません!我々と交戦中の統制バイドにも攻撃が始まりました!」
分をわきまえる余裕を失ったガミラス士官が叫ぶ。
レーダー状には、未統制バイドが次々に統制バイドに向け攻撃を開始している光景があった。
それどころか、ガミラス軍に向け攻撃を行っていた未統制バイドまでもが進路を変え、統制バイドのみに攻撃を集中している。
『これは……まさか!』
ベルメイト艦橋で、副官が叫んだ。
「一体何が起こっているんだ!?」
「この機を逃すな!全艦、最大火力を持って前方の統制バイドに挟撃をかけろ!」
「艦長!?」
「今は理由などどうでも良い、この機以外に勝機が無いならば────」
「………提督」
ブリッジの端で、武本が祈るように口にした名を、真田は見逃さなかった。
「そうか……!クロガネ提督が意識体ならば……!」
「どういうことだ、真田副長」
「クロガネ提督が意識体であるならば、その意思が宿るのは、バイドを構成するエネルギー以外にはありえません、それが流出した今、クロガネ提督の意思もまた、この宙域に拡散し、バイドに伝播してもおかしくはないということです!」
「だが、都合よくそんなことが起きるものか?」
「それは……」
「いえ、確かに、これは提督が……!」
その叫びは、根拠も薄く、突拍子もなかったが、誰もがそれを否定することが出来なかった……否、信じようとしたのだ。
────仲間達が、グリーン・インフェルノに付き従うバイドを攻撃している。
バイドシステムが、ナスルエルが、タブロックが、メルトクラフトが、ヨーグゴーンが、アンフィビアンが、キャンサーが、ガウパーが、リボーが、ミッドにジータが、Uロッチ達がゲインズ達が、ストロバルトが、キャンサーが────
多種多様なバイド生命体が、同じバイドに襲いかかっていた。
だが、私の目には、それが別の姿に見えている。
それは、アローヘッドに、POWアーマーに、ミッドナイトアイに、デルタに、ワイズマンに、カグヤに、そして、単なる民間機に、あるいは、そのバイド生命体の姿のままに────
そうだ、あれは、元あった姿だ、どこかでバイド生命体に取り込まれた俺の仲間の、そして、ただバイドとして生まれた者たちの、バイドに取り込まれた、どこかの生物群の……!
「……力を貸してくれるのか、地球を、護るために」
地球を護るために戦った地球人だけではない、地球と戦ったバイドも、地球人が生み出したバイドに襲われ吸収された生物までもが、私と肩を並べて戦おうとしていた。
「────誰もが、故郷を想い、自らを想う、故郷を想って戦い、自らを想って戦う、そのために他者を犠牲にする……」
そうだ、俺も、ガミラスも、未来の地球人も……このバイドに埋もれた幾多の生命体も、それは同じだ。
「この宇宙からも、あの宇宙からも、戦いは消えない、……だがそれでいい」
戦いを起こすのも、戦いから人を守るのも、同じ人の意思でしかない。
グリーン・インフェルノが地球を襲うことは、もしかしたら、バイドの帰巣本能ではなくどこかの誰かの願いなのかもしれない、どこかの誰かの怒りで、当然の報いなのかもしれない。
「だが、お前たちに地球を滅ぼす理由があったとしても、我々にも戦う理由と、自由がある!」
そうだ、この宇宙には許しがあるのだ。
地球を滅ぼそうとしたガミラスを許したヤマトが、ガミラスを滅ぼそうとした俺を許したドメルが持っていた許し、そして、私もかつてガミラスを許し、ガミラスを許すヤマトを許したのだ。
「バイドと、それに取り込まれた数々の同胞や、まだ見ぬ異星人たち……お前達が、我々を許してくれるというのならば……」
私は、バイド粒子を介して繋がる無数のバイド達に呼びかけつつ、自らに残る全ての力を励起させた。
「バイドよ、地球を救え!!」
そして、光に包まれる。
統制バイド群と交戦中のドメラーズが大きく傾いた。
空間航跡をかき消すほどに膨れ上がった火災の煙が揺らぎ、衝撃の大きさを見せつける。
「バラン宙域全体の空間に大きな干渉を確認!!」
「中心点はどこだ!」
「…………クロガネ艦隊旗艦です!!」
「クロガネ提督……!まだ生きているのか!」
前方を塞ぐ統制バイドを破壊し尽くしたヤマトの艦橋にも、等しく衝撃は伝わった。
「クロガネ提督と未統制バイドが未知のエネルギーを放出中!空間に干渉しているようです!」
「眩しい!肉眼で分かるほどのエネルギーなんて……!」
「クロガネ提督を中心に光が広がって行きます!このままでは宙域全体を飲み込んで────」
「全艦対ショック防御!」
光は、ヤマトも、ガミラスも、バイドもなく、バラン星域の全てを飲み込んでゆく。
破壊された兵器も、撒き散らされたバイド粒子も、全て巻き込み広がる閃光は、まるでインフレーション後の宇宙のように、広がるごとにその光量を下げ────
────後には、琥珀色に染まった、宇宙空間があった。
『おかえりなさいませ、提督』
『お待ちしておりました!!』
『お席は準備しておきましたよ』
『では、指揮にお戻りください』
「……ずっとここに、居たんだな」
クロガネ提督は、空間に広がり霧散したコンバイラリリルの代わりに降り立った新たな旗艦、ベルメイトベルルの艦橋で、四人の影を見た。
かつて自らを支えた四人の影は、暫く彼に笑いかけると、すぐにせわしなく動く艦橋の群像の中に溶けてゆく。
だが、彼には、四人がいる場所がはっきりと分かった、彼らは、すぐ側に居るのだ。
B-Blmt2”生命要塞”ベルメイトベルル。
ベルメイトの象徴である金色の棘が、植物を思わせる緑の装甲に覆われたその船体は、『4つ』のブロックと中央のコアに別れ、それぞれが衝撃波を発射可能という圧倒的な手数と攻撃力に加え、亜空間バスターを射出する機能を持つ、R-TYPE TACTICSⅡの『提督』にとって、最後に座乗するに相応しい艦であった。
「所属不明バイド群、緑色のバイドを中心に陣形を展開し、グリーン・インフェルノを攻撃中!」
「……所属不明バイドを暫定的にクロガネ艦隊、緑色の未確認バイドをその旗艦として登録せよ」
「しかし、この空間は一体……」
「バイドが空間を変動させる能力を持つこと自体は、伝達された情報から知らされていた、……経緯については分からないが……、クロガネ提督が何らかの手段で周辺のバイド生命体を従える事ができ、そのエネルギーを活用することができたのなら、宇宙の一部を変性させ、改造することも可能かもしれない……!」
「────この琥珀色の宇宙がいかなる理由で生まれたものであろうと、我々が行うべきことは、変わらない……!攻撃開始、目標グリーン・インフェルノ、ただし、エネルギー消費は極力抑えろ!」
艦長沖田の号令に従い、三式融合弾や魚雷による攻撃が再開される。
エネルギーを使うべきではない理由は、誰の目にも明らかであった。
「閣下、戦況は明らかに……」
「……ああ、分かっている」
ドメルは目を暫し閉じると、見開き、声を張った。
「これより本艦隊はヤマトのゲシュ=ダールバム発射に備え後方に退避し、可能な限り砲撃を行う!!」
退避という言葉とは裏腹にドメルの顔には満足の色が満ちており、撤退ではなく凱旋を意味する退却であることを将兵全てに知らしめていた。
そして、ガミラス軍がその一糸乱れぬ退却を終え、ベルメイトベルルがついに、グリーン・インフェルノに残された最後の兵装を破壊した時────
「いつでも波動砲準備に入れます!」
「クロガネ提督に回線を繋げ」
ヤマトのビデオパネルに、クロガネの姿が映し出された。
「……こちらは、ベルメイトベルル艦橋……私は艦隊指令、アキラ・クロガネ提督だ」
「私が宇宙戦艦ヤマトの艦長、沖田です」
「本艦、ベルメイトベルルの空間干渉能力を中核とし、バイドの慣性制御能力、空間変性能力をもって全力で波動砲の射線を確保する……安心して、奴にぶっ放してくれ!」
急にわざとらしく砕けたクロガネに、沖田は軽く面食らったような顔になったが、すぐにそれを抑えると小さく笑みを浮かべ、応えた。
「任せておけ!……波動砲発射準備!」
「了解!」
波動砲の発射シークエンスは、こうだ。
まず、ヤマトの操舵=波動砲の砲口の操作を、通常の操舵手から戦略レベルの決定に相応しい士官……この場合は、古代戦術長に移譲する。
「戦術長、受け取りました」
そして、敵手に砲門を向け、波動砲へ波動エネルギーの注入を開始する。
「非常弁全閉鎖、強制注入器作動!」
波動砲の制御機構を射手の手に委ね、射手の手によって、セーフティーロックを解除する。
「最終セーフティ解除」
「薬室内タキオン粒子圧力上昇……100……110……エネルギー充填120%!」
波動砲を発射するに相応しいエネルギーの注入を終え、照準の修正作業を行う。
「データリンクに従い、自動照準を行う」
後は、実際に波動砲を発射するだけだ。
「波動砲発射用意、総員、対ショック、対閃光防御!」
「電影クロスゲージ、明度30!照準固定!」
「発射10秒前、9、8、7、6……」
そして、輝きが放たれる。
「もう眠れ、
此度は、揺るがず、まっすぐに。
あの緑の地獄は、最早この宇宙のどこにもなかった。
そして、琥珀色の宇宙さえも消え去り、そこにはただ、四枚の器官を葉のように、あるいは、花びらのように広げた、翠色の生き物が1つ、ぽつりと漂い、いくつかの船と共にある姿だけが、残っていた
→帰還する
予定通り、最終話は連続投稿です。