俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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つなぎ回は続くよどこまでも。
……いえ、もうそろそろ、次回くらいには終わりにします。


戦意醸成、愛の戦士たち!!

 ヤマト艦内は、ガミラスより送られた申し出に関する噂で持ちきりであった。

 曰く、宇宙全体が危険に晒されている。

 曰く、超巨大な宇宙戦艦が銀河系に向かって航行中である。

 曰く、自分たちだけでは破壊すらままならない敵を倒すため、ガミラスはヤマトと和平を望んでいる。

 曰く、その目的は件の戦艦を撃破する唯一の方法、ヤマトに装備された最強の兵器『波動砲』である────

 

 

 「はあ、全く、どこから漏れたんだか」

 

 南部が小さくボヤいた。

 

 「仕方ないよ、艦橋のメインモニターに写ったんだから」

 

 隣の席でカレーをぱくつきながら島が言う。

 

 「聞いた人数が多くたって誰も話さなきゃ広まらないだろ?」

 

 「そりゃまあそうだけど……」

 

 「……で、どうなると思う?」

 

 南部は半分は好奇心、半分は真剣な未来予想の参考に、といった風な顔で島に尋ねる。

 

 「艦長は分からないが、古代は間違いなく賛成するだろうな」

 

 彼らの上司、宇宙戦艦ヤマトの主である沖田十三艦長は、敵国人に対して寛容さを示し、友情を築くことが軍人としての使命だと思っている節があった。

 しかし、同時に彼は超が付くほど優秀であると同時に老境の域に入った司令官であり、()()()出来事が発生したからといって、確証もないのに飛びつくとも思えない。

 一方、戦術長の古代進は若年であると同時に夢想家であり、少しでも開明的に感じられる発想には即座に飛びつき、しかもかじりついて離さない頑固な男である。

 しばらく前に、突如迷い込んだ次元断層から脱出するためガミラス軍と協力し、その中で士官とも交流し友情を築いた成功体験の存在を考えても、彼が『ガミラスとの和平』という極めて倫理的に優れて、しかも実際的にも益がある事柄に食いつかないとは考えにくかった。

 

 「やっぱ……そうだよなぁ、お前はどうだ、島」

 

 「……なんとも言えないな、あの一件に負い目を感じてるってワケじゃないが、単に突っぱねるのもどうかと思う」

 

 「俺は別に、開戦責任が地球だけにあったってのも極端な物の見方な気もするけどな」

 

 島の言う『あの一件』とは、ガミラスと協力し次元断層から脱出した事件において、ヤマトに使者として送り込まれたガミラス士官『メルダ・ディッツ』によってもたらされた情報によって起きた、小さないざこざだ。

 ガミラス戦役の開戦事由として、地球側は『ガミラス軍による先制攻撃』を主張していたが、メルダ・ディッツや年長の乗組員によって、戦争の始まりは地球による先制攻撃であったと知らされた島が、それを認めきることが出来ずに苦悩することになった。

 最終的には、沖田艦長や父親は攻撃に反対していた事実をもって、現実と折り合いを付けることが出来たと島は思っているが……。

 

 「分かってるよ、何度も聞いた、『武器持って家ににじり寄ってくる外人を殴って何が悪い』だろ?」

 

 「あーあ、拗ねちゃった」

 

 南部には、島の出す結論に拭い去れぬ違和感があった。

 軍需産業に携わり、時には死の商人と罵られることもある南部重工の御曹司である彼の目から見ると、少々低次元の悩みに見えたのだ。

 

 「お前もしつこいよ、人に恨まれるのに慣れてるのは分かったけど、あんまりくどくど言われるとこっちもげんなりしてくる」

 

 「くどくどとは何だ、俺だって君が悩んでいるから、こうやって手助けしてるんじゃないか」

 

 「余計なお世話だ」

 

 「あっそ」

 

 にべもなく跳ね除ける島だったが、別段二人の関係が険悪というわけではない、単に南部、南部康夫という男がこういったずけずけとした物言いを好む男というだけだ。

 ともかく、彼らがじゃれ合いのようなやり取りをしている間に、食堂にはもう一人、若年の士官が入室していた。

 

 「古代、終わったのか」

 

 「ああ……、どうやらあの話、受ける流れになりそうだ……しばらくしたらブリーフィングの通達が来るだろう」

 

 古代は何やら疲れたような様子で島の問いに答える。

 二人は思った、この男はこと仕事において、そうそう疲れや苦悩の色を見せたりはしない男のはずだ……。

 何やらただならぬ様子を感じ取った島と南部は二人して息を呑んだ。

 

 

 

 「目標、『グリーン・インフェルノ』は全長15kmの戦闘艦だ」

 

 仄暗いヤマト中央作戦室の底面パネルに、緑色の巨艦が表示された。

 小さく軽く、しかし響く声でその名を呼ぶのは、ヤマト技術長兼副長、真田志郎だ。

 

 「15キロ……って、ヤマトの40倍強じゃないですか!」

 

 「すると、この一つ一つの砲塔そのものがこのヤマトに匹敵する大きさを持ってるってことになるな……」

 

 「その通りだ、ガミラスの推測データが正しければ、敵砲塔群の射程は光学兵器での捕捉が可能な限界とほぼ同値、威力の面でも、波動防壁が万全のヤマトでも直撃を受ければ一撃持つかすら未知数、至近弾でも数発で行動不能に追い込まれるだろう」

 

 自他ともに認めるデータ人間である真田副長は絶望的にも思える宣告をいとも簡単に放って見せた。

 だが、さしもの彼とはいえ、あまりの事実を前に冷血漢のままではいられないのだろう……、額には汗が滲んでいる。

 次に出す情報を決めあぐねる彼を、艦長沖田が急かす。

 

 「……その他の兵装についても、話してくれ」

 

 「は、敵艦には雷装の類は確認されておらず、直接の攻撃武装は砲塔のみ、中央上部に配置されたラジエーター付近に近接防御用兵装がある他は、艦載機の運用、もしくは放出能力を有することが確認されています、……少なくとも、一個小隊でガミラス航空機一個中隊と互角以上に戦闘可能な能力を持った艦載機が20個小隊は現れると見てよい、とのことです」

 

 「俺らとガミラスさんの航空機は概ね同格だから、あちらの航空戦力は少なく見積もってもこちらの10倍近くあるってことか……」

 

 「あくまでこれは最低での話だ、しかもグリーン・インフェルノは艦載機だけではなく、水雷艇や、ショックカノンに近い威力を持った砲艦を放出する可能性が高いらしい」

 

 真田は更に絶望的なデータを重ねた。

 

 「15キロの船体、圧倒的な攻撃力、優秀で大量の艦載機……、これは、ヤマトだけでは勝ち目ありませんね」

 

 「その通りだ」

 

 話はそこまで、とばかりに沖田艦長の声が響く。

 

 「ガミラスも、グリーン・インフェルノの独力での撃破は困難と判断した」

 

 「それで、ヤマトの『波動砲』を……!」

 

 「……確かに、波動砲であれば、原理的に言っていかなる巨大な構造物であろうとも耐える事はできない……!」

 

 波動砲、正式名称『次元波動爆縮放射機』。

 ヤマトの艦首に装備された巨大な砲口から発射されるヤマトの最終兵器である。

 余剰次元の爆縮を利用したその威力は、正面から着弾したならば木星型惑星であろうとも一撃で粉砕可能な超兵器だ。

 空間そのものを攻撃に利用するその性質からして、物理的な防御は不可能と言っても過言ではないだろう。

 

 「ああ、名指しで、『浮遊大陸を破壊し、コロナを撃ち抜いたあの兵器を、グリーン・インフェルノ撃破のために役立ててほしい』と通達が来た」

 

 「ヤマトそのものには興味なしってわけか……」

 

 「だが、グリーン・インフェルノを撃破することができるのであれば、この提案はまさに渡りに船、ガミラスと同盟を結べば俺たちは労せずして大マゼラン雲にあるイスカンダルに向かうことができるし、場合によっては水先案内人まで手にできることになる」

 

 古代が声高らかにガミラスと同盟を組む理を叫んだ。

 

 「はぁ……古代、お前が気になってるのは、ガミラスとの同盟そのものじゃないのか?」

 

 「……それは」

 

 「……本当に、ガミラスと同盟してまで、そのグリーン・インフェルノとかいう化け物と戦わなきゃいけない理由があるのか?」

 

 「ある」

 

 沖田は重く低い声で、これだけは保留に出来ないとばかりに宣言した。

 

 「提供されたデータによると、グリーン・インフェルノは明らかに銀河系に向かっている、……そして、ガミラスは出所不明ではあるが、グリーン・インフェルノの目標が太陽系の地球であるという情報も掴んでいるらしい」

 

 「地球に!?」

 

 「どうしてあんな巨大な艦がわざわざ……」

 

 「それは分からん、だが、この『グリーン・インフェルノ』という名称は、翻訳を通したものではない」

 

 「それは……つまり……」

 

 ガミラス側には、グリーン・インフェルノについてよく知る存在とのコネクションがある。

 そして、地球に関する深い造詣を持つ彼もしくは彼女は、かの巨艦をそう名付けたのか事前にそう名付けられていたのか、『グリーン・インフェルノ』という名をガミラス側に伝え、その目的地も伝えた……。

 

 「はっきり言いますが、艦長、これは我々の理解を遥かに越えた事態です」

 

 「そんなことは分かっている、我々が考えねばならないのは、『これからどうするか』の一点だ」

 

 「ガミラスから提供されたデータに改竄の痕跡はありません、そしてグリーン・インフェルノの情報が真実であれば、対処が必要です、……しかし、彼らを信頼することができるか否か、という点について考えるのに、我々が持っている判断材料はあまりに少なすぎる」

 

 「……それは、我々の信念の問題になる、と」

 

 「はい」

 

 艦長沖田は作戦室に集まった士官を睥睨した。

 少々不安の色は見えるが、自らとその副長の言葉に反感を示すものは見られない。

 ……グリーン・インフェルノの圧倒的な性能を前に、一切の軽率な発言は許されないように思えたのだろう。

 

 「では、我々はこの申し出を受諾することとする」

 

 艦長は、持てる風格全てを動員した物々しさでそう宣言した。

 

 「……解散、各自警戒を維持したまま持ち場に戻れ」

 

 

 

 

 「クロガネ提督、『ヤマト』はこちらの提案を受諾したそうだ」

 

 ドメルがそう伝えてきたのは、ドメラーズ三世で行われる幾度目かの作戦会議の前、休憩所でガミラス風のコーヒー(ガミラスにおいてコーヒーに相当するカフェイン摂取用の飲料)を飲んでいた時のことであった。

 

 「……だろうな、するとガミラスは全てをヤマトに伝えたのか」

 

 「貴官らのことは半分伏せた、一度に与える情報の量が多すぎれば混乱を招く。……第一、貴官らについては我々も知らないことが多すぎる」

 

 「お前達に知らせていないことの大半は、実のところ私もよく分かっていないことが多い、奴らが我々をここに送り込んだ原理すらも、私は知らないのだ」

 

 「……だが、物理的に存在している『あれ』を打倒することはできる………か」

 

 「その通りだ、いかに巨大な敵であろうとも、空間ごとねじ切ってマイクロブラックホールのホーキング輻射で焼き払えば、物理的な存在を維持することは不可能だ」

 

 「そのための『ゲシュ・ダールバム』……、『波動砲』……」

 

 「少々『汚染』は残る、後処理と防疫のためゲートは二度と使えなくなるだろうが、我慢してくれよ、ドメル将軍」

 

 ……バイド生命体は粒子と波の性質を兼ね備えた波動の状態にある。

 特殊な性質を持ったその存在は近隣にある物体に伝播するだけではなく、物質的にバイド体を破壊することが出来ても、その痕跡は残り、物質や霊体を汚染しいずれは再び実体を得てしまう。

 この艦隊はバイドによる汚染を俺の精神力で抑えているが、グリーン・インフェルノは違う、破壊する事ができても、処理に手間取る汚染が撒き散らされるだろう。

 

 「……聞かなかったことにする」

 

 「賢明な判断だ。……最低限の除染、防疫技術については、後ほどデータを送信しよう、今後宇宙にバイドが現れた時、お前たちがあっけなくやられてしまえば、地球が危険に陥るからな」

 

 「だが、ガミラスは間違いなくその技術を足がかりに、新たな兵器を開発しようとするだろう……いいのか?」

 

 「いい、迷惑料だと思って受け取ってくれ」

 

 「誰からの、何に対する、だ?」

 

 私は一瞬言葉に詰まり……意味深な笑みで誤魔化すことにした。

 

 

→つづける




お盆休み!……だというのに、私は法事や親族の集会、食あたりなどで大ダメージを負って書きためどころか2日おき更新の維持でやっとの有様でした、無念。

ともかく、終盤入り(後編ってのはどこに行った、というツッコミはナシでお願いします)した『俺と私』、2日おき更新は死守で進行して参りますので、どうか皆様、温かい目で見守ってくだされば幸いです。

それでは次回までごきげんよう。

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