俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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活動報告の通り、3日おき投稿を行います。


俺と私と私のマゼラン雲航海日誌

 大マゼラン雲と小マゼラン雲の間には、ガミラス人が築き上げた数多くの基地が存在している。

 それは、軍事的な基地の役割を持つとともに長い旅を支える休憩所の役割も持っていた。

 すなわち、そこには多くの軍船や民間船が集い、長い旅を越えるための補給、整備に勤しむとともに、その乗員たちも長旅の垢を落とすつかの間の休日を楽しんでいる。

 歓楽街、遊技場、遊園地、プール、文明人が楽しむのに必要なあらゆる設備が整ったそこは、まさに宇宙という広大な乾燥した砂漠に浮かぶオアシスと言っても過言ではないだろう。

 

 そこに、憩いの場には似つかわしくない、脈動する肉塊や生物的にうごめく突起物に身を包んだ、巨大な影の数々があった。

 港湾部に寄り添うように佇む大量の影は、その多くが周囲のガミラス船舶をはるかに上回る巨体。

 しかもいくつかは今まさにうぞうぞと表面を脈動させ、刻一刻とその姿を変えつつある。

 異様で、怖くて、気持ち悪い。

 港を行き来するガミラス船舶も、心なしか集団を避けて行動しているように見える。

 武力を振るうどころか、存在しているだけでもガミラス人達をおびえさせる、その巨大な赤い影こそ、我らが主人公、アキラ・クロガネの本体である。

 

 しかし、ガミラスを脅えさせ続ける当の本人である彼の意識はその巨艦艦隊にはなかった。そう、彼は……。

 

 

 ……青肌や彩度の低い肌色、その他多種多様の肌でにぎわう広場の噴水、俺たちはその縁のベンチに座り、周囲を眺めつつ、互いの出方を探りあっていた。

 

 「お互い久々の、我が艦隊にとっては初の上陸休暇だ、楽しもうじゃないか武本」

 

 「T・P・O全てに楽しめる要素がありません、どうしろと言うんですか」

 

 我々は現在、ガミラス帝国が築いた大小マゼラン雲間の中間基地に上陸し、久々の開放的空間を楽しんでいる。

 ……いや、楽しんでいるのは私だけか。

 我が地球連合軍・グランゼーラ合同なれの果て艦隊は現在、離散の危機にあるのだ。

 というか、その危機を招いたのは明らかに私だった。

 

 「ここでグリーン・インフェルノを撃破しなければ、ガミラスも地球もなにもない、この宇宙……少なくともこの局部銀河群は全てバイドに飲み込まれる、……その始まりが地球なのは火を見るより明らかだ」

 

 「……それは、分かっているつもりでいます」

 

 武本は不承不承ながらも、グリーン・インフェルノを打倒するための一時的な同盟について、納得してくれている様子だ。

 しかし、どうにも彼女の怒りを買った部分は、そこだけではないらしい。

 

 「じゃあ何だと言うんだ、ガミラスは長く続く権威主義的支配と近年の拡大傾向のせいで庶民文化が花開かず、我々22世紀の日本人にとって味覚的に楽しめる施設が少ないのは確かだが……」

 

 このような素朴な味もまたいいものだぞ、と付け加え、道中の店で買った、練った穀物粉に干した果実を加えて焼いたガミラスの伝統的菓子を差し出してやるが、武本はさらに渋い顔になった。

 

 「私がそこまで食い意地が張っているように見えますか?」

 

 「……いや、だがこれは結構うまいぞ、長らくバイド肉やガミラスのレーションばかり食っていたんだ、たまにはまともで新鮮な嗜好品も食わねば精神衛生上よくない」

 

 「霞どころか宇宙エネルギーを食べて生きている提督に言われてもあまり説得力がありませんね」

 

 と言いつつ、一応は焼き菓子を受け取ってくれた武本だが、やはり対応はそっけない……というより、かつてなく辛辣だ、人の身体的特徴を罵り文句に使っちゃ駄目だとお母さんに教わらなかったのか?

 だが……、うむ、そろそろ誤魔化すことはできまい。

 武本の怒りはよく分かる、分からねばならんことだ。

 

 「俺が君の心を裏切ったのは確かだ、その件については、本当にすまないと思っている」

 

 「………………」

 

 「ガミラスと戦い、滅ぼす……確かに私は、それを君に約束した」

 

 それは口約束ですらない、単なる宣言だったが、私と武本を繋ぐ重要な絆であった。

 赤く焼けただれた故郷、失われた戦友たちに報いるため、かつて青かったあの星への思いを全うするために命を投げ出して戦った彼女に誓った復讐だ。

 並大抵のことで、投げ出していいはずもなかった。

 だが────

 

 「だが、私が君に約束したのは、それだけではなかったはずだ」

 

 たとえ、地球が赤茶けた土くれの塊になっていても、人類があの星を思う心は変わらない。

 滅び、枯れ果てた星と化した地球にも、確かにまだ人類の生命と願いが息づいている。

 それを守ること、救うこともまた、私が彼女に誓った約束であったはずなのだ。

 

 「我々の使命はあくまで地球を救うこと、そう言いたいのですか?」

 

 「あの青い星────我々は、世界は違えど、あの青い星のために戦い続けると誓った身だ、そのはずだ」

 

 「そんな星はもうこの宇宙のどこにもないはずです、ないからこそ、私は……」

 

 「違う、青い星はある」

 

 そうだ、あの青い星は、思い出(過去)にではない、明日(未来)に……。

 

 「ヤマト、宇宙戦艦ヤマトは宇宙の彼方にあるイスカンダルにコスモリバースシステムを受け取りに旅立った」

 

 「……ヤマト?イズモ計画の中心艦が確か、その名前だったような……、しかし、ヤマトは地球の持てる全ての技術を注ぎ込まれたものであっても、光の速度を越えることはできないはず」

 

 「それが、できるのだ、ガミラス帝国のかつての宗主国イスカンダルは、飼い犬の狼藉を恥じたのか、躾の失敗に責任を感じたのか、単に地球を哀れんだか、波動エンジンの設計図を与え、地球を再生する装置を獲得するチャンスを与えた」

 

 「提督……、あなたは一体、どこでそれを……?」

 

 「秘密だ、こればかりは誰にも言うことは出来ん、魔法で入手したとでも思ってくれ」

 

 武本は、煙に巻かれたことに不満を覚えながらも、ひとまず俺の言うことを事実と受け入れたようだ。

 ちなみに、魔導力学には未来や過去と情報をやり取りする技術があるが、自由意志を持つ人間やバイドの魂が大量に関与する国家間の問題においては未来視も過去視もほぼ無意味なものになってしまうため、軍事目的での研究は下火である。

 

 「私には、やはり無理です、地球を焼いた奴らと手を組んで戦うなんて……!」

 

 「……だろうな」

 

 確かに、武本には無茶を強いてしまった。

 あそこまで乗せておいて、今更『あの時はバイドのせいでどうかしていたんだ、俺は異星人は潜在的には敵視してるけど、和解と被害の回復の可能性があるのに態々殺しまくるほど嫌いなわけじゃない、でえじょうぶだ真っ赤になった地球はコスモリバースで蘇る!宇宙と地球の未来のためにあいつと呉越同舟するから付いてきてくれ!』もなにもないだろう、改めて整理すると支離滅裂で意味不明かつ無神経な文句だ、私だったら突然こんなことを言い出したり一人称がラオウみたいにコロコロ変わったりする上司について行こうとは思わん。

 

 「君にはかなり負担をかけた、振り回したと、言ってもいい」

 

 「…………私は」

 

 武本は言葉に詰まり、しばし沈黙すると、すっと立ち上がった。

 

 「すいません、船に戻っています……提督が言った、ヤマトに……もし出会えたら、そこで私を移していただけると、幸いです」

 

 「分かった、迎えのガミロイドを手配しておく」

 

 私は意思を移動し、乗り付けたノーザリーからチューブを出し、支配済みのガミロイドに警備させた。

 目を開くと、武本は立ち去っておらず、そこにいる……。

 

 「すまなかったな、武本」

 

 「提督が謝ることではありません」

 

 違う、間違いなく俺が謝るべきことの筈だ。

 だが……、謝らなくても済む手段を取る道が無いのも、自分がよく分かっていた。

 

 

 

 「クロガネ提督、少しいいか?」

 

 冷めはじめた焼き菓子を頬張っていると、青いソース顔が隣に陣取った。

 ドメルだ。

 

 「いいともドメル中将、しかし何の用だ」

 

 「あの女士官は返したのか」

 

 「いや、自分から帰った……武本は貴官と私の同盟を嫌っていたからな」

 

 「……それは済まないことをしたな」

 

 「いい、同盟の必要性は奴も理解している、いずれは地球のため、共闘に同意するだろう」

 

 ドメルは余計なことを聞いたことを自覚したのか、暫し瞑目した、人の心の機微に明るくない部分はよく似ている。

 

 「……奴を倒す手段は、もう考えて……いや、()()しているのか?」

 

 「戦力の回復は既に終わり、増強にも着手したが、奴を倒す手段は手元にはない」

 

 「どうにも引っかかる物言いだな、クロガネ提督、それでは『手元以外にはある』ようだ」

 

 「その通りだドメル将軍、奴を倒す最終手段は貴官も既に知っている……()()()だよ」

 

 「……もはや『あれ』を持ってしてしか、奴を撃破することは叶わないと?」

 

 あの艦とはヤマトのこと、『あれ』とは波動砲だ。

 ……現状、未知の技術に基いて建造された15kmの図体とバイドとして与えられた能力を持った超巨大戦艦を仕留める手段は、それこそ『非人道的な飽和攻撃』を除けば、波動砲もしくは波動砲の影響を受けた巨大物質の爆発に巻き込むしかない。

 それが俺の出した結論だ。

 

 「俺の旗艦……コンバイラは最も長い全高でもたったの数キロメートル、そこをあの艦、グリーン・インフェルノは全長15キロもある、この間の戦いにおけるコンバイラの粘り強さは君も知っているだろう、その数倍、質量で言えば数十倍だ、奴の堅牢さは自明と言ってもいい」

 

 「そうかな?あの戦いでは、貴官の采配があの艦の防御力を更に高めていたと思うのだが」

 

 「……以前一度奴と矛を交えた時は、極度の閉所で後方から攻撃を仕掛け、全身の砲口とブースター……壊しうる箇所をすべて破壊したが、結局ラジエーターを破壊し行動不能に追い込めたのを持って『破壊』と認定することになった……それ以上の破壊を行う時間がなかったとも言えるが」

 

 「壊せたという時点で希望はあるだろう」

 

 「ロッカーに閉じ込めた人間の急所を鼠が食い切った所で何も誇れはしない、奴は全身の砲塔の射程も、威力も、まともに活かせてはいなかった」

 

 「……再び奴と相対するまで、奴の本当の戦力は推測するしかない、か」

 

 ドメルは再び沈黙し……しばらくしてから口を開くと同時に、立ち上がった。

 

 「ヤマトとの通信は、打診しておこう……だが、どう説得する?貴官らはどう見ても、地球のメインストリームには属していないようだが……」

 

 「素直に話せ、何もかも包み隠さずだ、そうすれば必ずあの艦は応える……あれは、そういう船だ」

 

 「ありのままに……か、了承した、こちらで検討しよう」

 

 だが……、と、前置きし、ドメルは付け加えた。

 

 「貴官は我々にありのままなど、語る気はないように見えるがな」

 

 「安心しろ、時が来れば必要なだけは話す」

 

 会話は剣呑な雰囲気で終わったが、我々はお互いに笑みを浮かべていた、皮肉げな笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「沖田艦長、前方のガミラス艦より入電です!」

 

 第一種戦闘配置中の艦内で、相原の報告がアラートをかき消す。

 

 「ガミラス艦との距離は」

 

 「かなりあります、砲撃では命中は望めないかと思われます」

 

 沖田が問いかけ、南部が答えた。

 

 「周辺宙域は特に目立ったところもない密度の低い空間……、罠の可能性は薄いが、ならばなぜこのタイミングで我々に……?」

 

 「艦長、いかが致しましょう!」

 

 真田が考え、古代が締める。

 

 その船は、紛れもなく宇宙戦艦ヤマトであった。

 

 「回線を開け、ただし決して警戒は怠るな」

 

 

 道標として見定めたバラン星宙域を前にして、正体不明のガミラス艦にコンタクトを求められたヤマト。

 警戒する彼らは、宇宙の果てで目覚めた脅威のことを、まだ知らない。

 

 ヤマトが地球を発してすでに九十五日

 

 人類滅亡と言われる日まで、二百と六十七日

 

 人類滅亡と言われる日まで、あと二百と六十七日




入手トレジャー


【小型陽電子砲】
地球文明のそれよりも絶対的に小さいガミラスの陽電子砲についてはかねてより残骸の研究を行ってきた。
……研究を完成させたのは、基地での修理を間近で観測したことによって得られたデータだった。

【決戦の予感】
敵は強大であるが、こちらの戦力も十分。
最高の戦闘とはそういうものである。
既に支配は脱したものの、彼の本性が優しい軍人さんなどと言うことがあるはずもなし。
高ぶる戦意は悪魔の記憶を呼び覚ます。

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