B-SBS"超巨大戦艦"グリーン・インフェルノ。
全体的に艦艇がSTGシリーズよりも大型化しているTAC世界にあってもなお異常なまでの巨躯を誇る、亜空間をさまよい続ける超巨大戦艦だ。
その脅威は、全身に据え付けられたそれぞれが下手な艦艇をも上回る大きさの砲塔を見るだけで明らかであるが、奴が持つ力はそれだけではない。
接近するだけで敵を焼き尽くすブースター、僅かな身じろぎでも強力な艦艇を押しつぶし、R戦闘機をハエのように落とす圧倒的な質量。
更に、詳細は不明であるが、複数のバイド体を配下に収め運用する能力も存在しており、その数は大きさ相応とまでは行かないものの、無視できない脅威になっている。
そして、バイドにしては珍しく、奴には曖昧ながらも明確な出自がある。
宇宙のどこかにある文明が持てる技術のすべてを注ぎ込んで作った戦艦であったが、バイドに汚染され暴走を始めた、というものだ。
……違う、俺はさっき何と言った?
”例えるならば、ヤマトのような戦艦で”
混乱のさなかでありながら、嫌にクリアな思考が答えを出す。
そうだ、ヤマト、俺は確かにヤマトと言った。
宇宙戦艦ヤマト。
M-21991、もしくはBBY-01、艦種『宇宙戦艦』、ヤマト。
坊ノ岬沖にて沈没した大日本帝国海軍所属艦艇『大和』を改装、もしくはその残骸を隠れ蓑にすることで建造された地球初の超光速宇宙船だ。
最初はガミラスと呼ばれる宇宙の脅威によって追い詰められた人類が地球脱出用の恒星艦移民船として作ったが、後にイスカンダルと呼ばれる友好的な存在に提供された技術によってさらに改造を受け、波動エンジンと呼ばれる永久エネルギー機関とそれによるワープ能力、更には、超強力なタキオン兵器『波動砲』を付与され、宇宙でも最強レベルの戦艦として完成した────
「違う、今はヤマトのことなど考えている暇はない、だが、ヤマト……ガミラス……?」
2199年、ヤマトはガミラスが落した遊星爆弾で荒廃した地球を救うため、イスカンダルに向け放射能を除去できる装置を受け取りに旅立ち、ガミラスを撃退しつつ旅を終えた。
これが、『宇宙戦艦ヤマト』が辿る運命。
それはアニメーションでも、漫画でも、映画でも、小説でも、実写映画でも変わらない、ヤマトの道筋。
「そうだ、ヤマトがあるのならば、私は、俺は、戦わなくてもよかった……」
地球を守るために小マゼラン雲くんだりまで来る必要もなかった、この世界が『宇宙戦艦ヤマト2199』であるなら、そのままガミラスを蹴散らしながらまっすぐ地球に帰ればよかったはずだ。
それが、こんな────
「違和感はあった、俺は見たこともないはずのガミラス艦を見て、不自然なほど的確にその用途を言い当てていた」
事実、それは不自然だったわけだ!
ガミラスの破壊はバイドの意思?バイドは地球を救いたかった?違う!
「俺を利用してこの宇宙の情報を収集しつつ、私を地球から引き離し────」
緑の巨艦が、動いた。
航宙生命体としての空間認識能力が俺に警告する、そう、あの先にあるのは。
「全火力を持ってグリーン・インフェルノを攻撃せよ!!!」
傷だらけのドメラーズが慌てたように動く、だがドメル、勝手で済まないが……お前に構っている暇は、俺にはもうない。
……弱点などもはや狙っている余裕はない、奴のワープを妨害しなければ、地球は……いや、地球だけでは済まない、全宇宙が────
『デビルウェーブ波動砲、発射!』
『中型ミサイル全弾発射します』
『こちらベルメイト、衝撃波連続発射準備完了!』
「ファットミサイル砲H及び腹部ビームCB、発射!」
光と煙の束が、巨大な『緑』に次々と突き刺さる、しかし……。
『目標砲塔部損傷!しかし速度変化なし!』
『波動エネルギー反応上昇!これは……!』
『敵艦、ワープB!星系から脱出します!!』
俺は。
私は。
俺は、私は、このマゼラン雲で、何を。
………。
………………。
……………………。
『提督、ご指示をください』
無限に続くかと思われた苦痛は、葛藤は、この宇宙で唯一聞き覚えのある声によって強制的に断ち切られた。
「……武本、俺はどれだけ放心していた、状況はどうなっている」
『は……?いえ、緑色の巨大戦艦……確か、グリーン・インフェルノ、あれが去ってからまだ30秒ほどです』
そうか、俺は知らずに高速思考の世界に潜り込んでいたのか。
「ブラックホール、本隊双方のガミラスを警戒しつつ、別命あるまで待機せよ、次の指示は追って伝える」
『了解しました、しかし提督、あれは一体……』
「それも後でだ」
武本は俺の指示を前に渋々ながら頷き、通信を切断した。
……さて、落ち着いた。
だが、高ぶりが収まるとともに、俺の脳を絶望と虚無感が包む。
もはや、グリーン・インフェルノに追いつくことは不可能だ、跳躍空間を住処とする上、巨体故の圧倒的な機関出力を持つグリーン・インフェルノを相手にしては、同じ跳躍空間を住処とするファインモーションならいざしらず、コンバイラやボルドガングでは荷が勝ちすぎる。
何よりも、これまで行っていた戦いが無駄だったこと、態々強力な排他主義者となり虐殺を繰り広げてまで成そうとしていた大義が、いたずらに状況を引っ掻き回す徒労であったこと……。
「どうする?このまま戦域を離脱し、全力でグリーン・インフェルノを追うか?」
駄目だ、道中のガミラス軍やこの世界の国連宇宙軍がどれだけ激しく抵抗しようと大した足止めにはならないだろう。
この宇宙でおそらく現在最強の戦艦である宇宙戦艦ヤマトでも、現時点ではグリーン・インフェルノの相手にはなり得ない。
『提督、通信です』
「武本か、まだ待てと伝えておいてくれ」
『いえ、前方の『巨大戦艦』……いえ、ドメラーズ三世から映像通信が入っております』
「……ドメル将軍、敵と話したがるクセはこの世界でも同じか、……回線を開け」
画面越しに、異なる色の顔がお互いを見据えた。
(メラニン色素系の白褐色皮膚だが、濃い赤の血液が透けている、ザルツ人よりは彩度が高い……、イスカンダル人に近い色味だ)
ドメルは目の前に現れた異星人をそう分析しつつ、周囲のザルツ人と誤認した士官を諌めるように問いかけた。
「貴官は地球人か」
「その通りだ、ドメル将軍」
『提督』はこれまで隠し通してきた最重要機密事項を、自分でも驚くほどあっさり手放した。
「……通信に応じたということは、やはりあの巨大な艦は貴艦隊にとって重要な敵ということか」
「私は戦功あって提督の立場に居るが、本来政治も軍政にも興味がなく、それ故に前線を離れられない一介の鉄砲玉に過ぎない、通達したいことがあるのなら素直に言ってくれ」
ドメルはその割り切ったあり方に自分を重ねニヤリと笑ってみせると、すぐ生来の生真面目な表情に作り直す。
「我々と同盟を結び、共に奴を追え」
「分かりやすくていいじゃないか……ゲートを使うのか?」
「下調べは十分というわけか、それなら話が早い、ゲートを使い、銀河系方面に抜けた奴を追う」
ゲートとは、銀河間空間に位置する自由浮遊惑星『バラン』を中心に形成された固定型ワームホールである。
バラン星を中心に銀河系と大マゼラン雲を結ぶそのゲートは、ガミラス帝国の拡張政策を支える非常に重要な存在であった。
「ゲートのハブである自由浮遊惑星バランは、銀河系と大マゼラン雲のラグランジュポイントでもある、奴が銀河系に向かいたいのならば、航路にはバランが含まれる可能性が高い」
「……説明をありがとう、しかしよく直前まで戦闘を行っていた俺を許そうと思ったな」
提督の問いかけに答えるため、ドメルは一層神妙な雰囲気を作り出した。
「貴艦隊がこの小マゼラン雲にやってきたのは、我々の力を削ぎつつも自分たちが地球の手のものだと知られないようにする策だったと私は考えている……しかし、奴が、あの緑色の巨艦が出現したことにより、貴官は何らかの『裏切り』を受けたことを悟り、自分たちが地球人であることを隠す必要性を感じなくなった……」
「全くもって、その通りだよ、流石と言う他はない」
「であるならば、貴方方の行動は、我々ガミラス帝国に攻撃された母星を想ってのこと……、なぜ、戦力が枯渇し、『ヤマト』一隻の派遣で精一杯のはずの地球がこれほどの戦力を用意出来たかは分からないが、……とにかく、母星を守るための戦いを行っているのであれば、母星の危機は見逃すことが出来ない、絶対に同盟には応じるだろう」
「…………その通りだ」
「そして、あの新たな戦艦が増殖を始めれば、もはやガミラスに抗う術はない」
「だがそれは。俺の艦隊が生き残っても同じことだろう?」
「母星を守りたいだけの男が、裏切りを受けてまでわざわざ我々を滅ぼすとは思えなかった、それでは不足か?」
ドメルは神妙な顔をわずかに歪めて、笑みを作った。
提督は悟った。この笑みは冗談めいたものでも、皮肉めいたものでもない、敵対心と友情の入り混じった、戦士の顔だ。
こいつは戦士と戦士の魂のぶつかり合いから、敵と心を繋げたと思っているのだ……。
「十分だドメル将軍、これから先、奴を倒すまでは我々はお互い戦闘せず、航路と戦線をともにすることを誓おう」
アキラ・クロガネは、モンゴロイドおいて一般的な、黒い瞳を輝かせて、答えた。
(太陽系解放同盟と共に、ジェイド・ロス提督率いるバイド集団と戦ったときも、確かこのような気分だった……)
そう、本来彼は、
→はじめる
入手トレジャー
【ヤマトより愛を込めて】
R-TYPEを知っている男が知らないはずもない名前。
『俺』も『私』も知っていた、そして忘れていた人類の最後の希望、地球で唯一つの光の速度を越えて飛べる宇宙戦艦の、思い出。
【記憶の光】
ぼやけていた記憶の中身、提督の頭痛の原因。
滲んだ事実の輪郭を照らし出し、彼を新たな戦いへと誘う。
【好敵手】
例え憎み合ったとしても、同じ人間であるならば……いや、人間でなかったとしても手を結べるはずだ。
美しくも青臭い信念を肯定するのは、共通の敵の存在、そして戦闘という高密度のコミュニケーションである。
本来、彼はそれをよく知っていたはずだった。
Q:後編ってなに?
A:ノリで言っただけです、でもこれから展開がガラっと変わるのは本当。
ここに来て投稿が加速しているのは、本SSにもついに終わりが見えてきたからです。
終盤に入ることによって展開がガラリと変わるため、違和感のある方もいらっしゃるでしょうが、どうか最後までお付き合いいただけると幸いです。
それでは次回まで、ごきげんよう。