俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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今回は割とガッツリ無双します。
まあ、今までもキルレシオと戦力比からすると完全に無双なんですけどね。
え?そうは見えない?
…それはよかった。


ボールド・ファット・ミサイル その②

 大マゼラン雲、某宙域。

 

 星雲内特有の美しい風景が全天を包む中、100隻を軽く超えた数の濃緑色艦艇が小惑星帯を航行していた。

 艦艇は物々しさを帯びた武装艦とどこか箱型をイメージさせる形状の非武装艦が半数ずつ存在し、前者が後者を包み、また先導するように浮かんでいる。

 

 そう、この艦隊は大マゼラン雲を支配する覇権国家『ガミラス帝国』の輸送艦隊と、その護衛艦隊である。

 

 ガミラス帝国の首都バレラスから数千光年離れたこの宙域は、同国家が主な版図としている大マゼラン雲の中でも比較的辺境にあたる宙域だ。

 星系の密度で言えば十分に文明圏の一部として機能するであろうこの地域は、長らくガミラスが行っている侵略行為にリソースを奪われたため発展が進んでいないのだ。

 しかし、辺境だからといってこの宙域が放置されているわけではない。

 重要度の低い辺境故に、蛮族、海賊、そして、広大な版図を蝕みつつある反乱分子の襲撃を受けたり、温床と化す危険性も高い。

 故に、重力や星間物質によって生まれる要害に基地を作り上げ、そこを拠点に巡視や防衛を行っている。

 

 ある意味ガミラスの政策の被害者とも言えるこの地域では、反乱分子その他の反政府組織への支持層も厚い。

 そのため、基地への輸送部隊は領土内を航行するには大仰すぎるほどの警戒を強いられていた……しかし、脅威とは得てして、懸念とは無関係な所から現れるものだ。

 

 

 「レーダーに未確認飛行物体多数!」

 

 「識別信号は?」

 

 「確認できません!」

 

 警報音と目まぐるしい報告、命令の応酬が護衛艦隊旗艦の艦橋を飛び交う。

 何者かによる襲撃を受けているのだ。

 襲撃者は蛮族ガトランティス帝国か?反乱分子か?海賊か?

 違う。

 

 「敵旗艦と思われる艦艇、後方より接近中、距離3000!」

 

 「データ照合…………!?、あの艦は既存のデータには存在しない艦艇です!」

 

 士官の1人が告げると、司令官が突然焦りを見せる。

 

 「まさか……、敵旗艦をパネルに写せ」

 

 「了解しました、中央パネルに表示します」

 

 美しい星雲をバックに、ついに敵旗艦が表示される。

 赤をベースにした艦体に、青の丸窓と幾つもの黄金色の突起が突き刺さった艦の姿がそこにあった。

 そう、紛れもなくその艦は─────

 

 「……星系基地を破壊した不明勢力の大型戦艦─────!!」

 

 我らが主人公アキラ・クロガネの旗艦────否、彼そのものであった。

 

 

 

 『敵護衛艦隊回頭、布陣を開始する模様』

 

 「布陣などさせるものか、強引にでも戦力をねじ込む、速度上昇、敵艦隊中央へ突撃!」

 

 武本と協議してワープ明けを見計らったかいがあった。

 敵は緊急離脱を試みつつも、時間を稼ぐためか、それともこちらを叩き潰せると踏んでいるのか、応戦する構えをとっている。

 

 『了解、出力上昇』

 

 「提督、艦載機は出さなくてもよいのですか?」

 

 命令を終え、次の行動を起こすタイミングを図っていると武本が問いかけてきた。

 

 「問題ない、ボルドと艦載機の速度はほぼ釣り合っているから、ギリギリまで出さずに温存するべきだ」

 

 「なるほど、しかし、出すタイミングは……」

 

 「それは見ていれば分かることだ」

 

 さて、敵艦隊は回頭、布陣しながら、たまに先走った艦がビーム砲を撃ってくる程度で、ほぼ沈黙していると言って良い状況だ。

 当然だろう、自陣が整っていない状況で無茶な攻撃を行えば、味方を巻き添えにしかねない。

 

 「だが、今回ばかりは無理にでも攻撃を行うべきだったな」

 

 体勢を整えた一部の艦からミサイル攻撃が飛んでくるが、馬鹿め、飽和攻撃(敵の迎撃能力を上回った攻撃)でないミサイルなどに大した価値はないのだ。

 俺はボルドの艦首ビーム砲『ボルドビーム』とミサイル砲『ファットミサイル』に迎撃を命じ逐一ミサイルを撃ち落とさせていく。

 更に、……時は来た。

 

 「バイドシステムα、ジギタリウス、アンフィビアン発進せよ!」

 

 ボルドの脇腹に備えられた戦闘用格納庫からフォースを装着した三個小隊が飛び出した。

 ゲームではフォースとセット運用するには一枠消費して出さねばならないが、この世界では十分に準備すればこのような出撃も可能になる。

 

 「アンフィビアンは後方にて待機、波動砲チャージ終了次第、着艦に見せかけ亜空間潜航を開始しろ、その他の機体は有慣性航法で本艦の前に出て、フォースシュートを叩き込め」

 

 『『了解!』』

 

 後部ロケットによる加速でボルドの前に躍り出た10機が、更にその前方にフォースを撃ち出す。

 フォースは何本かのミサイルを受けながらも、部隊を整えつつある敵艦隊の各所に突き刺さっては艦をひしゃげさせ爆煙と残骸のミックスに変えてゆく。

 

 『戦果確認、これより我々も突撃します!』

 

 「よろしい、しばらくは各自の判断に任せる」

 

 「提督、そろそろ敵艦隊が艦首砲射程距離内に入りますが…」

 

 「カラドボルグ砲の発射はまだだ、この距離で撃っても大した効果は上げられんだろう」

 

 バイドシステムとジギタリウスが突撃を行い、次々と目玉ミサイルをばらまいてゆく。

 発射された目玉ミサイルはガミラス艦の表面に施された対エネルギーコーティング(最初の戦いで我々のフォースレーザーを弾いたものだ)を無視して物理的エネルギーを敵艦に叩きつける。

 ……移動中でまともな回避行動が出来ない状態の艦艇が相手ならば、命中率の低さに定評がある目玉ミサイルでも流石に安定して命中するようだ。

 

 「……さて、そろそろ敵も体勢を整える頃だろう……が、そうはさせん」

 

 「突撃ですね?」

 

 「そうだ、本艦で敵部隊に肉薄し、R戦闘機二小隊と巡航艦の攻撃力と空間制圧能力で敵を封殺、撹乱する」

 

 「アンフィビアンは潜航し……この戦場には障害物はありませんね、どこに配置するのですか?」

 

 疑問を飛ばす武本に、アンフィビアン隊への命令を持って答える。

 

 「アンフィビアン隊は潜航後、敵艦隊右方側面で待機しつつデータリンクを支援せよ」

 

 『了解!』

 

 「側面……ですか」

 

 「ああ、側面だ……そうか、君には亜空間機能における重要なポイントを説明し忘れていたな」

 

 「……しかし、『すぐに分かる』……ですか?」

 

 皮肉げで、しかし楽しげな表情で武本が問う。

 

 「よく分かっているじゃないか」

 

 

 三小隊のR戦闘機が次々に旗艦ボルドの内部に隠れてゆく。

 敵戦力の一時的後退を好機と見たガミラス軍司令官が突撃しての反撃を命じたのを責められる者がいるだろうか。

 ……いや、彼はやはり過ちを犯している。

 敵の艦首に蓄積された奇妙なエネルギー塊を放置したままの突撃は、どのような宇宙武装組織でも許される失態ではない、少なくとも、感情と理性を持ったヒューマノイドが作り上げた組織であるならば。

 

 その理由はこの結果を見れば火を見るより明らかだ。

 

 突撃攻撃のために列をなしてボルドに向け直進していたガミラス艦は、そのままボルドの艦首から放たれた莫大な光子によって焼き払われたのだ。

 

 光子ビーム(レーザー)としては余りに異様な一塊の光子がガミラス艦隊の先鋒を務めるケルカピア級航宙高速巡洋艦をまたたく間に蒸発させ、周囲に展開していたクリピテラ級航宙駆逐艦に誘爆、さらにいくつかの艦の脇腹をえぐり轟沈させた後、突撃部隊とは無関係に待機していたデストリア級の顔面を溶解させ、ようやく止まった。

 

 この姿を見れば、どんなに愚鈍な指揮官でも未知の敵が持つ兵器に留意するようになるだろう。

 もっとも、単なる護衛任務が急転直下、貪食する群れとの戦闘に切り替わった彼の心を思えば、やはり責めるべきではないのかもしれないが。

 

 

 ガミラス旗艦……、いや、ガミラス艦隊は突然受けた大被害によって軽いパニック症状を起こし始めていた。

 

 「突撃中の部隊、全滅しました!!」

 

 「なんだと!?」

 

 慌てるレーダー手と指揮官に、副官が補足を入れる。

 

 「未知の兵器です、恐らく、例の勢力の戦闘機が用いる兵器を戦艦にも適用したものかと」

 

 「説明は後でいい、とにかく何か手を……!」

 

 「……ここはさらなる敵の攻撃に備え、艦を分散させるべきです」

 

 「そんなことは分かっている!すぐに実行させろ!」

 

 「了解しました」

 

 

 一方、その大惨事を引き起こしたボルドの艦橋では、逆に指揮官が副官に講釈を垂れていた。

 

 「<貫通光学兵器>カラドボルグ砲は波動粒子を艦首前方に収束させた後、光学エネルギーに変換して敵に射出する、レーザーとは異なる形の『光子ビーム兵器』だ」

 

 「なるほど、それによって、単に波動粒子を発射する場合より、高い弾速と威力を得ている、というわけですか」

 

 「そうだ、波動粒子によるバイド粒子の殲滅を必要としないバイドならではの兵装と言えるな」

 

 「後から除染するのであれば人類側が用いても問題ないのでは?」

 

 「『感情の問題』だ、誰に使う兵器でも、どう使う兵器でも、バイド対策に使えるのなら……、そのままにしておきたいのさ」

 

 それはバイド以外を相手とすることを専門とした戦闘兵器を作ることへの心理的抵抗であり、政治的な言い訳であり、……そして、地球人類が共有するバイドへの憎しみそのものが理由だと、彼は語った。

 

 「どう使うかではなく、どう使えるか……」

 

 「君らが気にする話ではないな、なにせ君らの敵はどうあろうと『人間』でしかない。……バイドのような化物を相手にすることはないのだから」

 

 「おや提督、それは少し違いますよ」

 

 笑って否定を返した副官に、訝しげな顔の指揮官が問いかける。

 普段とは反対の構図だ。

 

 「それはどういうことだ?」

 

 「提督、バイドでも貴方は人間ですから」

 

 「………私はバイドだ、それは変わらない」

 

 「そうですか……でも私は、貴方が人間だと思いますよ」

 

 

 

 暫く黙り込んでしまった提督と、こっ恥ずかしいセリフを吐いて黙らざるを得なくなった私をよそに、戦闘は続いています。

 現在提督は指示を飛ばしてはいませんが、恐らく伝えるまでもないことだと考えて、思考のみで戦闘を指揮しているのでしょう。

 

 ボルド艦首の下側(カラドボルグ砲は上に付いていました)に生えた二本の突起部からは盛んに数条ずつの追尾ビームが放たれ、艦上部に設置された射出口から飛び出す『ファットミサイル』と共に敵艦が撃つミサイルを迎撃。

 同時に、二小隊のR戦闘機が盛んにフォースやレーザーを駆使した迎撃を行い、時折反撃弾も飛ばしています。

 

 「しかし、このままでは…」

 

 と、半分独り言の形で私が言葉を放った瞬間、軽く艦が揺れました。

 

 「うわっ!」

 

 「騒ぐな、この艦はベルメイトにも増して頑丈だ、心の装甲も厚く持たねば戦場ではやってられんぞ」

 

 「心の装甲……」

 

 ……そうだ、私の地球の英雄である沖田十三も、昔同じようなことを言ったらしい。

 ガミラスは攻撃力に劣る我々の艦隊が遠距離に居る内は落ち着き払っているのに、こちらの砲が射程距離(と言っても効果は少ないのですが)に入り、有効打が出始めると途端に慌て陣形が乱れる……と。

 

 「分かりました、提督」

 

 「うむ、……さて、そろそろ始まるな」

 

 「そろそろ、とは?」

 

 「今回の作戦のハイライトというやつだ、お前もそろそろ焦れてきたころだろう?」

 

 バレていましたか。

 

 「う……、はい、少し……」

 

 「まあいいさ、こうやってもったいぶるのは私の趣味だからな……」

 

 あ、趣味だったんですかこれ。

 

 「亜空間潜行の弱点は、亜空間から出るとき少しインターバルを置かねばならないという点だということは、覚えているか?」

 

 「覚えています、それができるのであれば、即座に背面に回り込んでの攻撃を行いますしね」

 

 せっかく奇襲するために亜空間から出ても、動けなくなっている間に滅多打ちされては、せいぜい囮か虚仮威し程度の役目しかこなせません。

 

 「しかし、一つだけその例外がある」

 

 「……それが今回の作戦に関わってくるのですね?」

 

 「そうだ、亜空間潜行の二つ目の弱点である他の物体との干渉、それは───」

 

 そう言いながら、提督がレーダーに視線をやります。

 視線の先では、敵軍が戦闘機を発艦させRに対抗させようとしながら、カラドボルグ砲を警戒して陣形を広げつつあり……。

 

 「───高エネルギー物体と接近した際、物理的干渉がなければ突然実空間に飛び出してしまう、という性質に転化される」

 

 突如、亜空間潜行表示であったアンフィビアンの表示が実空間の機体のそれに変更され……。

 

 『敵艦エネルギーに接触しました!』

 

 「よろしい、バイドスピリット砲発射」

 

 「動けるのですか?」

 

 「機関を停止し身構えていた場合のみ、亜空間潜行機体は実空間で即座に攻撃を行うことができる」

 

 提督が返答するのとほぼ同時に、アンフィビアンのフォース前方に集中したエネルギーが開放され────

 

 ────無防備な敵艦隊の側面に、連続発射される小粒の『バイドスピリット砲』が次々と命中、敵艦を中、小破、当たりどころの悪い艦はそのまま行動不能に追い込まれてゆきました。

 

 「よし、直掩機はそのまま脆くなった領域に突撃せよ、本艦は包囲されぬよう注意しながら位置を保て!」

 

 『右上方20°、敵艦が集結しつつあります』

 

 「艦首を見せ、エネルギーをチャージして脅せ、分散した隙にファットミサイルをぶつけて削る」

 

 「……撃たないのですか?」

 

 「残念だが、数度カラドボルグ砲に被弾したからな、被弾するとチャージしたエネルギーは開放されてしまう」

 

 なるほど、しかしそれは敵に知られていないので、今は脅しとして使える……と。

 

 「……さて、戦力はこれで概ね拮抗に持ち込み、部隊も合流しつつある」

 

 「ですね」

 

 「つまり、俺の勝利だ」

 

 出ました、提督の過剰な自信!

 

 「凄まじい自信ですね……しかし、その通りでしょう」

 

 

 陽電子ビームが次々とボルドの装甲を舐め、その度に爆煙と体液が吹き上げる。

 ミサイルがバイドシステムαに衝突し、機体を巻き込んで四散。

 カラドボルグ砲はビームとミサイルの集中攻撃でヘシ折れ、艦首の構造物を巻き込む形で派手にえぐれた姿を晒している。

 

 だが、ガミラスの護衛艦隊は更に無残な有様と化していた。

 

 陣形に割り込んだボルドと横合いから叩きつけられた波動砲によって分割された陣形を3小隊のRが食い荒らす。

 ガミラス艦隊が必死の迎撃で艦載機にダメージを与えようと、超機動の母艦として機能したボルドによって即座に修復、補給され戦線に復帰。

 その母艦であるボルドを沈めようにも、500メートル以上のバイド化した巨体、超耐久力の艦を足並み揃わぬ攻撃で破壊できるはずもない。

 

 「本艦の側面に敵植物戦闘機! 『球体』が来ます!!」

 

 「回避しろ!!」

 

 「無理です、避けられ────」

 

 そして、護衛艦隊の旗艦であったメルトリア級航宙巡洋戦艦がジギタリウスのフォースシュートにより轟沈したことにより、失われた秩序の回復機会は永遠に失われた。

 

 『ジギタリウス隊が敵旗艦と思われる巡戦を撃破!』

 

 「よろしい、動揺する艦を狙ってトドメの攻勢をしかける、各部は待機せよ」

 

 『ワープBエンジン、出力上昇します』

 『ファットミサイル砲、再装填完了!』

 

 そして、ボルドと直掩機二小隊によって行われた攻勢により完全に陣形は食い破られ────

 

 「武本、後は殲滅戦だ、休んでいていいぞ」

 

 ────今度こそ、勝敗は決することとなった。

 

 

→帰還する




入手トレジャー

【逃げ出した敵輸送艦】
壊滅した敵艦隊はある程度の目的を果たしていた。
敵輸送艦隊は我々が戦闘を行っている間にワープで戦域を離脱したのだ。
彼らを逃してしまったことで、ある程度の情報が奪われ、
ガミラスの力も温存されてしまったことになる。
その反省と今回の戦闘でアンフィビアンを運用したデータから、
新たな艦を開発できるようになった。




輸送艦は資料がなかったので捏造しました。

……しかし、ちょっと武本の同意シーンが多すぎるかな、ソクラテスに同意する門人bot(@ Sontacralertes)みたいになっている。

次回投下は…未定です。(いつもの)
私も色々あるので、ハイ。


【話名の由来】
日本のメタルバンド『BOLD FAT MISSILE』
これがボルドの武装にファットミサイルが付いた理由なのか、単なる偶然なのかは不明
せっかく音楽絡みなのでジョジョの奇妙な冒険のスタンド名タイトル風に

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