俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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今回はそれなりに早く出せました(当社比)
はっきり言ってつなぎ回ですが、それでもお楽しみいただけたら幸いです。


ボールド・ファット・ミサイル その①

 我々が大マゼランの大海原に漕ぎ出してから、数日が経過していた。

 ガミラス軍が我々を付け狙うような雰囲気もなく、時折航路上の星間物質に艦を揺さぶられる程度の軽微な問題を除けば、極めて平穏な航海だ。

 もっとも、その目的は剣呑そのものなのだが……。

 

 航海の安全を確認した所で、『我々』についての報告を行おうか。

 まず、建造中だった暫定艦隊旗艦『ボルド』が航行中に完成した。

 高速で戦場に駆けつけ、艦載機と並んで戦闘することも可能な母艦を手に入れたことにより、我々が取れる戦術は大きく深みを増したと言えるだろう。

 前回の戦闘において、ベルメイトは最後の最後まで自らの姿を隠し、『殴り合い』によって勝負を決める段階までずっと遊兵同然だった、ノーザリーに関しては言わずもがなだ、何の役にも立たない置物であり続けた(これはRTTⅡにおいてもよくある現象で、出撃枠を浪費しない輸送艦は無意味に出されては戦場の隅に放置されるという状態が頻繁に発生するのだ)。

 要するに、『速度が遅いため満足に戦闘機隊に混ざって戦うことが出来なかった』ということだ。

 『生命要塞』と表現される艦種にとって、ある意味これは当然の事であるし、当然そのようなデメリットを抱えてもなお強力な使いみちが存在するのではあるが、これからの戦闘────自ら襲いかかり、逃亡、応戦しようとする相手を撃滅すること────においては、この足の遅さは致命的な弱点となりうるだろう。

 よって、この『ボルド』はこれからの、ガミラスの勢力圏を食い荒らすための戦いにおいて極めて重要な存在になるはずだ。

 

 

 「……この大きさの艦がガミラス戦艦のような機動力を発揮するというのは、敵の気持ちになってみれば恐ろしいことですね」

 

 本当に想像したのだろう、武本は少し身震いしながら肩をすくめた。

 

 「その上、この艦には母艦機能があり、そこから『R』が飛び出すのだから、ガミラスにとっては自爆特攻を行って破壊するだけの価値がある艦と言えるだろうな」

 

 「しかし、後の祭り」

 

 にやり。

 

 「そうとも、しかもガミラスにとってのバッド・ニュースはこれだけじゃない」

 

 

 前回の戦闘の結果、『我々』の意識体は更に活発化し、小隊統制意識体(パイロット)と、艦艇統制意識体(艦長)を一つずつ生成することに成功した。

 

 さて、ここで一度、現在の我が部隊の陣容を確認しておこう

 まずは艦艇だ。

 現在、『三人』存在する艦長には、輸送艦ノーザリー、生命要塞ベルメイト、暴走巡航艦ボルドを宛てがっている。

 艦を統制している『艦長』が存在しなければ、戦闘に艦艇を用いることはできなくなり、単純な指示に従って航行するか、単発で砲をぶっ放す程度の行動が限界となっってしまう。

 ただし、この『三人』という数には現状あまり意味がない。

 なぜなら、前回の戦闘で途中からノーザリーが完全に居所を失い空気同然の有様だったように、余程大規模な戦いでなければ、大型バイド体を複数出すことに意味は見いだせないのだ。

 

 さて、次はパイロットだ。

 バイドシステムα隊二つ、ジギタリウス隊、腐れPOWアーマー、腐れ工作機、タブロック、ストロバルトをあてがっていたが、これでもう一つ戦場に小型機を出すことができるようになる。

 ……とはいえ、常に戦場に全ての機体を出せるわけではない、前回の戦いでも、ストロバルトはパイロットを用意されていたのにもかかわらず、戦闘からあぶれてしまった。

 

 そして最後はフォース・コンダクターだ。

 フォース・コンダクター(FC)は現在三機分存在し、変動なし。

 バイド・フォース二機と、フラワー・フォース一機のみが活動している。

 

 

 「つまり、今から作成するバイド体は『機体』に属するものになるのですね?」

 

 「その通り、だが、正確には機体一つではなく、機体とフォースのセットを作成する」

 

 「……フォースまで作成すると、現在の戦闘機隊の一つはセット運用不可能になりますね」

 

 「うむ、バイドシステムを一機バイド・フォースごとお役御免とするだけの価値ある機体だ」

 

 武本は興味深さと訝しさを半々にした風に、片目だけを軽く見開いた。

 

 「それほどの自信がある機体とは、一体どのような性能なのですか?」

 

 「端的に言うと、戦艦の主砲を装備した潜水艇だな」

 

 「……?」

 

 

 地球連合軍バイド機体種族識別コードBwf-1C、機体名『アンフィビアン』。

 (装着フォースは『ビーストフォース』、レーザーはそこまで強くない平凡なフォースだ)

 両生動物、あるいはそこから転じた『水陸両用機』の名を持つ魚型の機体は、まさしくその名の通り、『亜空間への潜行』を主機能とした機体である。

 

 「亜空間……と言いますと、ええと……」

 

 武本は少し考え込むような仕草を見せ、『これを言ってもいいのやら』とでも言いたげに頭を掻いた。

 

 「何を想像したのかは大体想像がつく、公の場でもないのだし、言ってしまえばいい」

 

 「ええと……、SFによくあるような、我々の空間とはズレた場所にあるもう一つの世界……という解釈で、いいのでしょうか?」

 

 「その理解で概ね合っている、アンフィビアンの用いる空間は通常のワープで艦艇が入る空間よりも『浅い』、低位亜空間と呼ばれるものだ」

 

 「そこに、潜り……敵を観測する?」

 

 「うむ、ある時は複雑な地形に入り込んで偵察を行い、ある時は敵の懐に突如出現し肉薄攻撃を行う、それが亜空間機能を持った機体の能力だ」

 

 「……全くの新概念です、戦争の概念が変わってしまいそうな程の…」

 

 「強力とは言え完全に無敵なワケではない、艦艇などの時空連続体に影響を与える物体とは互いに干渉しあってしまうし、亜空間から随意的に飛び出す際にはエネルギー消費から一時的に無防備になったり、大量に燃料を使用する性質から、亜空間内で燃料切れを起こし時空の間に押しつぶされることもある」

 

 「押しつぶされるって、……まさか、地球軍でも……」

 

 通常の常識が全く通じない亜空間の中、孤独のままに消滅する恐怖を想像したのだろう、武本が恐れおののく。

 それに「そうだ、私はそんなヘマをやったことはないがな」と返してやる。

 (俺は両手ではきかない程の回数やらかしたのだが、もしかしたらその経験が私に活かされたのかもしれない)

 

  さて、アンフィビアンは機体性能の面では特段優れた所のある機体ではない。

 フォースレーザーの威力は並以下、命中率こそそれなりにあるものの、ガミラスの対エネルギー兵器防御コーティングのされた艦が相手ではそう高い効果は発揮できないだろう。

 主武装となる『バイドスピリット砲』は分割された多数の波動エネルギー弾を射出する波動砲で、低威力、短射程と引き換えに比較的チャージ時間で放つことが出来る利便性の高いものだが、同等のチャージ時間で発射できる他の波動砲のことを考えると、これは優れているというよりも、まだ一つの個性と言えるレベルに留まっている。

 

 「まあ、どんな機体でも使い方次第だし、戦って戦えないということはない」

 

 「どちらにしろ、『R』である以上、この宇宙の戦闘機に対して大きな優位を持っていることは代わりありませんからね」

 

 「それはダジャレか?」

 

 「………?…………Rである……い、いえ!違いますよ、なんですかいきなり!」

 

 「まあいい、次は、我々がこれから通る航路について説明しようか」

 

 『我々』が航行している空間は、現在大マゼラン雲の中心部より少し離れた位置に広がる、比較的星間物質や恒星が少ない領域だ。

 卵の白身に相当する部位と言えば比較的分かりやすいだろうか、その黄身と殻の丁度中間辺りが、我々の存在する宙域であり、向かうべき小マゼラン雲は、黄身を挟んで反対側の殻から飛び出した向こう側にある。

 

 つまり、我々が目的地とする小マゼランに向かうために存在する航路は大まかに分けて3つ。

1・黄身を突っ切る

2・一度殻の外に出て大回り

3・白身をかき分けて黄身を回り込む

 

 「今回我々が選択したのは三番目だ、武本、理由は分かるか?」

 

 「はい、まず一番目の選択肢では、星間物質の密度が高く、危険な天体の存在も予測される宙域を航行することになるため、航路自体が比較的厳しいものになります」

 

 「その通りだ、『我々』は環境の変化に対しては強靭だが、それでもブラックホールのシュバルツシルト面に突入したり、コンパクト星(ブラックホールや中性子星などの、巨大な天体が寿命を終えた後に生まれる天体の総称)からの噴射物を直に浴びたりすれば命の危険にさらされるのは間違いない」

 

 「そうでなくとも、重力や星間物質が複雑かつ濃密に絡み合う空間を慣れない技術で航行するのには危険が伴うでしょうしね…」

 

 「うむ、それで致命的なミスを犯したり、航行が遅れたら目もあてられん」

 

 ワープのミスでブラックホール重力半径に飛び込み、そのまま重力バランスが安定する宙域まで亜光速で一月航行する、中性子星の重力に引かれて原始惑星に衝突して大被害をこうむり修復のためにまた一月、というようなことが起これば地球の危機はその分だけ差し迫ったものになる

 

 「二番目の選択肢ですが……これは単純に、大回りすぎて航路が長くなることでしょうか?」

 

 「それもあるが、より重要なのはこれから我々がガミラス軍の大部隊を相手にしなければならないということだ」

 

 「……なるほど、艦隊を強化するための資材や情報を集めるためには、ガミラスの領域を通る必要性があるということですね」

 

 「そういうことだ、また、艦隊の練度を上げ我々自身の経験を積むためにも、この大移動でのガミラスとの戦闘は必要不可欠なものとなる」

 

 「確かに提督は戦闘を繰り返すことによってご自身の中に溶け込んだ意識を分割し、運用可能な部隊の数を増やしていますからね」

 

 納得した表情で補足する武本に、提督はニヤリと笑って返す。

 

 「それもあるが、『我々』と言ったのには君も含まれている」

 

 「私……ですか、しかしこの艦隊での私の役割というのは所詮、提督の話し相手では?」

 

 「地球を守るために協力してくれるのだろう?」

 

 提督は更に笑みを深める。

 

 「そう、艦隊の意識と一体化した『俺』ではなく、誰かの命令を受ける意識体を分離すれば、俺だけが艦隊を指揮するよりも多くの艦を統制可能……と、君を拾ってから行っていたシミュレーションの結論が出た」

 

 「それはつまり、私が艦隊を指揮すると……?」

 

 武本がツバを呑む、それは緊張からの行為であり、生唾でもあった。

 

 「ああ、最初は連携を行うための部隊としてだが、最終的には俺の元から離れた場所で別部隊を指揮してもらいたい」

 

 「本当に艦隊を……」

 

 「ま、最初は見取り稽古、その次はノーザリーの指揮だ、気負わず、急いで、着実に覚えていけばいいさ」

 

 「………はい、勉強させていただきます」

 

 決意を込めてそう言った武本に頷き返して、提督は艦橋領域の開けた空間を見据える。

 

 

 「なにせ、優秀なクルーが揃っているんだからな」

 

 

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説明回ですので、これ以上補足することは殆どありません。
次回投稿は……五章公開以降になりますかね、もしかしたら見てから書くかも。
毎度のことながら、お待たせすることになって申し訳ないばかりです。

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