前後編、三部構成と引き伸ばされ続けてきたこの戦いも、正真正銘これで最後です。
待たせたなりのクォリティ…にはなってません、すいません。
爆炎を越えた先に現れた、新たな爆炎に、我が艦は飲み込まれた。
俺が艦の状況をそう認識してから、既に光ならばガミラス-イスカンダル間を10往復できるだけの時間が経過していたように思える。
……何が起こったのか全くわからない。
敵艦隊に動きはなく、レーダー上に伏兵のようなものも見受けられなかった、敵艦載機も十分引き離されていたはずだ。
「……何が起こった」
「分かりません」
呆然と放った一言を、先に立ち直った副官に拾われた。
流石に、このざまでは司令官として格好がつかん、衝撃にぼやけた意識を何とか呼び戻して、なんとか現状への的確な推測を、曖昧な問いではなく、的確な質問を探り出す。
「レーダー、艦隊は今どうなっている?」
「は、はい……、現在、艦隊の約半数が壊滅状態にあります」
「……残存艦艇は?」
「本艦を除き、残存艦艇はクリピテラ級8、ケルカピア級7、デストリア級1、メルトリア級2……しかし、うち一隻はほぼ戦闘不能状態にあります」
当然ながら大きく、装甲の厚い艦から生き残りの割合が多い。
……いや、待て。
それにしても、流石に違和感のある数字だ。
まさか────
「────破壊された艦艇の中に機械化兵によって操艦させた艦はどれだけあった?」
「………機械化兵のみにした艦は、全て先程の『攻撃』にて壊滅しています」
ブリッジに緊張が走る。
「何らかの電子戦兵器が使用されたのか?」
「そう決めつけるのは早計かと、何しろ相手は全くもって未知の、予測不能の技術を持った敵ですから……」
副官は、俺に気を使い、『予測不能』を強調した言葉を紡ぎ補足する。
……だが、どうしようもない。
奇策を使った上で、それを無様に破られた指揮官にどんな言葉を飾っても虚しいだけだ。
しかし。
「残存艦艇による攻撃を続行せよ、目標、敵旗艦!」
艦隊を執拗に追い回していた肉塊の戦闘機隊は爆発の煽りを受け、十分引き離せている。
ツヴァルケと制空権を争っていた植物性の戦闘機も、未だこの戦線に参加できる状況にはない。
また、現在の敵旗艦と思わしき構造体は幾つかの魚雷の命中により火を吹き、作業艇に応急修理を行わせている最中だ。
あれは多くの棘状の艤装(あるいは、器官)を備えているが、戦闘中にそれが使われたことはない。
……つまり、あの旗艦は『空母』、もしくは、未知の非戦闘用艦種なのだろう。
そして、俺たちの勝利条件は、連中の主力が到着するまでに、敵母艦を破壊することであり────
「───まだ、我々は勝機を逃してはいない!」
ベルメイトに敵の対艦ミサイルが数十本命中し、幾つかの針状構造や、アンテナ状の器官が折れ、姿勢制御用ブースターの一つも煙を上げている。
ガミラス艦隊は次の斉射までタブロックを釘付けにするべく、ほそぼそとミサイルを発射し、場を繋いでいるようだ。
我々はそれを意識の片隅に追いやり、ベルメイトの目立つダメージに腐れ工作機で手当てをしていく。
バイド肉塊によって傷を埋め、不足した物質を補い、折れた構造を接着し、とりあえず機能に支障が出ないレベルにまで再生する頃には、敵艦隊は眼前に迫っていた。
「武本、乗り心地はどうだ」
「多少は揺れますね」
「……ベルメイトは比較的小型だからな、多少なら勘弁してくれ」
『敵、再度ミサイル斉射!』
「うむ、命中まで53秒の地点まで引きつけた後、ベルメイトによる迎撃を開始せよ」
ここまで、ダメージを覚悟してまでベルメイトの攻撃を出し惜しんでいたのには理由がある。
「……ここまで接近してしまえば、お互い戦いから降りることはできん、背を向けた側が殲滅されてお終いだ」
今の俺ならば、バイドとしての特性を最大限利用すればベルメイトが破壊されてもなんとかなるわけだが。
そこは事態の本質ではない、敵を逃げられなくすることで、確実な殲滅を行うことが今回の本題だ。
「この艦の攻撃力はそこまで信頼できるもの、ということですか……」
「その通り、ベルメイトの打撃力、ミサイル迎撃能力は地球文明において屈指のものだ」
そう、『生命要塞ベルメイト』の主力兵装である『衝撃波』は、攻撃範囲の範囲、威力ともに新鋭戦艦を除けばトップクラスであり、連続発射可能な回数も、同レベルの能力を持ったミサイルとは比較にならない水準にある。
もちろん、戦闘は強大な兵器一つあればいいというものではないし、そんな『強大な兵器』など、私は散々打ち破ってきた。
だが────
「────少なくとも、この殴り合いで優位を取れる程度の力はある」
「……殴り合い、ですか?」
「そうだ、見ていろ」
ベルメイトの船体中央に位置する赤色の『コア』部分にエネルギーが集中し、ベルト状の布を擦り合わせるような高音が宇宙に鳴り響く。
そう、この『高音』こそが宇宙そのものに鳴り響く音……、ベルメイトの放つ『衝撃波』なのだ。
コアから放たれ、レンズのような形を取って広がりながらも指向性を保ちつつ空間を伝わる衝撃波は、次々と襲い来るミサイルと重なり爆発を起こしていく。
……この、不可思議な技術が『どこ』から来たのか、我々地球人類は知らないし、バイドも、恐らく覚えてはいないだろう。
だが、ベルメイトの衝撃波が極めて強力な兵装であり、特にミサイルに対して無類の効果を発揮するということは、地球文明全ての戦闘指揮官が知っている。
「……なんて威力」
「亜光速で広がりながら伝わる衝撃波だ、ミサイル程度ではひとたまりもない」
「……ミサイルが通じないとなると、敵は砲撃戦に持ち込んでくる……、なるほど、それで殴り合いということですか」
「その通りだ、……このために、ここまで回りくどい手段を使い、犠牲を払って、敵戦力を削ってきた」
「……後は、根比べになるな」
口を苦笑の形にしたまま軽く歯を食いしばり、ベルメイトの損傷部位から湧き上がってくる殲滅欲求の熱を閉じ込める。
これは、バイドの熱であり、『我々』となってしまった部下たちが持っていた熱だ。
……さあ、ガミラス、お前らはどうだ?
─────次々と放たれる衝撃波の前にミサイルが粗方消滅し、爆炎を挟んでお互い、無防備な姿が晒された両艦隊。
物理法則よりなお強力な戦場の力学に支配された両者は、───例え、敵が恐るべき兵装を隠し持っていた事を理解しても───最早この賭けから降りることはできない。
片や、半壊状態、片や、一隻と一機。
……策を弄し、艦載機を捨て石にし、ようやく、ここまで持ち込めた。
敵艦隊は接近しながら、有効射程外であろう陽電子ビームを散発的に放ってきている。
長く続いた劣勢に耐えかね、艦隊の統率が乱れているのだろう。
敵とベルメイトの射程には大差がなく、お互いの射程圏が重なるまで、一分もない。
補給を終えたタブロックをベルメイトの隣に置きながら、両者を前進させる。
バイドシステム隊は敵艦隊を追跡中、ジギタリウス隊は敵戦闘機隊を追い詰めるも、戦いの中で主戦場からは引き離されてしまっており、我々と敵艦隊との戦闘に介入できる距離にはない。
その上、両者ともに度重なるダメージにより燃料枯渇した状態にある。
現在、補給に用いる事ができるユニットは『腐れPOWアーマー』、『腐れ工作機』の2つが存在するが……。
俺は、速度が遅く、修復機能のある工作機をこの場に残し、『腐れPOWアーマー』をジギタリウスに向かわせることにした。
……恐らく、POWが到着する頃には、航空機同士との戦いはカタがつき。
補給が完了してこちらに戻る頃には、この『艦隊戦』も勝敗が決している頃だ。
────これで、戦いの準備は、完全に整った。
「攻撃開始だ!敵の艦種、能力は構わず、狙いやすく、撃破しやすいものから破壊しろ!」
『了解!ベルメイト、攻撃目標、前衛『重巡』!』
『タブロック、ミサイル迎撃継続中、』
「これより、『巡戦』の有効射程圏に入る、回避行動開始!」
『回避行動を開始します!』
操舵を担当する『我々』がそう返答すると、ベルメイトの視界がゆらゆらと不規則(実際には秩序が存在するのだが)に揺れ始めた。
敵の砲塔へのエネルギー集中と発射までのラグ、そしてビームの速度から計算した着弾時間に合わせてベルメイトがその巨体を僅かにずらし続けることにより、攻撃を回避する。
もちろん、敵の攻撃は完全な精度で放たれているわけではないし、むしろ回避に備えてわざとブレを持たせてあるのだが、ただ黙っているよりは、この方が遥かによいことは明らかだ。
「ここまで頻繁に移動しているのに、ブリッジには揺れ一つないとは……」
「ザイオンググラビティドライバの力だ、ブリッジは勿論、艦全体をカバーし、慣性によって生まれる歪みから守っている」
「なるほ─────うわッ!!」
金属音が混ざった衝撃音が艦橋に鳴り響くとともに、艦が小さく揺れた。
『敵陽電子ビームにより第46番、97番構造物破損!』
『航行、及び戦闘に支障なし、ただし、衝撃波エネルギー充填速度が0.7%減衰します!』
「……流石に、直接の衝撃には耐えかねるがな」
「そ、そのようですね……」
舌を噛みかけたのか、モゴモゴと口を動かしている武本を一先ず放置し、パネルに表示された簡易宙図を睨む。
先程のビーム砲とすれ違いに放たれた衝撃波によって、巡戦はかなりのダメージを受け、攻撃力、航行能力が低下しているようだ。
そして、ビーム砲をメイン火力に切り替える準備のためか、敵の陣形は重巡を中心かつ先端に置いたものに変化している。
『『巡戦』、後退開始!ターゲットを重巡に移します!』
「待て、ここは『駆逐』、次に『軽巡』を狙え、連中は隅に隠れ油断している分、少しは狙いが定めやすい」
『了解!』
敵艦隊の辺縁部において、遠慮がちに対艦ミサイルを放っている駆逐艦に衝撃波が叩きつけられる。
衝撃波が命中した駆逐は艦首部を軽くひしゃげさせ、次に魚雷発射管から火を吹き、最後に機関から青白い閃光を吐き出し爆沈した。
三隻撃破した時点で敵駆逐は後部に下がり、代わりに重巡、軽巡が全面に出る。
『『重巡』、『軽巡』、『戦艦』に高エネルギー反応!砲撃、来ます!』
「回避行動を大ぶりにしろ、敵の攻撃範囲を絞らせるな、そして、そろそろ敵のミサイル攻撃が弱体化してくる頃合いだ、そうなり次第、タブロックも敵艦隊への攻撃に参加させろ」
『こちらジギタリウス小隊、敵戦闘機隊を撃滅するも、エネルギー不足により戦闘続行は困難!』
「POWアーマーはどうなっている?」
『到着まで、およそ130秒です』
「随分引き離されましたね……」
「練度も足りず、数でも負けているのだ、こればかりは仕方があるまい」
「むしろ、これでもなお勝ってしまうR戦闘機とは一体……」
「我々の文明の結晶にして象徴だ」
「……それは、強いわけですね」
私のナショナリズムに晒された武本が少し控えめになってつぶやく。
だが、私はそれでも、『この』地球の底力に期待するのをやめられない。
人類は、地球は、きっとなにか恐ろしい隠し玉を見せてくれるという期待を、私は持っている。
「いずれ、この地球の文明の力も見せてもらうさ」
敵艦隊はベルメイトに対してミサイル攻撃を行うことをやめ、自慢の陽電子ビーム砲での砲撃と、タブロックから放たれたミサイルの迎撃に注力している。
「……あの様子だと、対艦ミサイルはもう種切れのようだな」
『タブロック、残弾残り5単位です!』
「本艦に接近させて、残弾がなくなり次第補給作業を開始、工作機はそれまで本艦の修理に集中せよ」
『第87、57、34番構造物脱落!エネルギー充填効率、更に低下します!』
『敵駆逐、全滅しました、攻撃を軽巡に集中させます!』
「よろしい……、本艦のダメージは大きいが敵も壊滅寸前、良い交換だな」
「……大丈夫、ですよね?」
「安心しろ、ベルメイトはちょっとやそっとでは沈まん、俺はいくつも沈めてきたがな」
「はは、それならむしろ、加減もよく分かっていそうですね」
武本は無理矢理に笑うと、モニターに向き直って再び戦場を把握する試みを始めた。
……それを横目に見ながら、俺はベルメイトの頭脳で考える。
考える内容は、戦場に見落としがないか、その一点だけだ、その一点を、無限の数に膨れ上がらせて、繰り返し考える、考え続ける。
俺も、私も、Rとバイドが飛び交う戦場で痛手を負う時は、いつも偶然ではなかった。
ある時は索敵が十分でないままに突撃を行った結果波動砲の一撃を喰らい、ある時は危険な状況で敵を攻撃した挙句に沈めきれずしっぺ返しを喰らい、ある時は僅かな自陣の穴を突いて侵入した敵機により波動砲のチャージを放棄させられた。
それらは全て、自らの油断か、不注意が招いたことだった、『R』の戦場には望外の幸運はあっても、言い訳として活用可能な都合のいい不運は存在しないのだ。
好調なときも、不調なときも、きっと何か、落とし穴があると思って臨まなければ────
─────あれは!
『敵艦隊急加速!』
「速度を抑えている間にエネルギーを蓄積していたのか……!」
正面モニターにレーダーマップが表示され、敵艦隊を示す光点の前後を貫く曲線の形で、敵艦隊のとった軌道と、予測される軌道が表示される。
敵艦隊の軌道は、真っ直ぐベルメイトに突き刺さり─────
「────俺に
『敵艦の構造は、体当たりでの攻撃に適したものではありません、質量で勝る本艦に衝突した場合船体が衝突によって破壊され、内部のエネルギー伝導管などが大規模に破損、誘爆し────』
「衝突の運動エネルギーと大規模な爆発によって、艦ごと吹っ飛ぶ……、もちろん、こちらもただでは済まない」
「これではまるで……」
「特攻、あのガミラス艦隊の覚悟も、ここに極まったというわけだ」
ブリッジに立つ俺の顔からは余裕の笑みが消え、代わりに、恐れを振り払う強がりと、獰猛な闘争本能の輝きが入り混じった表情が現れる。
────人間としての肉体に精神を集中させる事をやめ艦隊全体に意識を広げた俺の『目』が、それを冷たく覗いていた。
「諸君、すまない……」
ガミラス艦隊の旗艦、『ガイデロール級航宙戦艦』の艦橋で壮年の司令官が呟いた。
(俺だって、死にたくはないさ)
だが、アレを生かしたままここを立ち去るわけにはいかない、それに。
(このままではどちらにしろ俺たちは全滅する、それなら……!)
「全艦へ通達、これより本艦隊は敵旗艦に質量攻撃を実行する、攻撃終了後、残存艦艇によって建造中の巨大艦を破壊せよ」
全艦隊で突撃し、生き残った艦で本懐を遂げる。
事前の命令という形にしたのは、司令官である自らの座乗する艦すら『弾丸』として消費せんとする覚悟の表れだった。
(死にたくない乗組員は、きっといるだろう、残してきた家族だって居るはずだ……敗北の果てに特攻を選んだ無能な司令官を、恨むなら恨んでくれ)
「……もう一度言う、すまないが、最後まで私に付き合ってもらう」
止まらないアラートと轟く機械音の中、あの世の責め苦を既に受けさせられているのかと思わされる程の、静寂が響く。
「………
副官が、小さくそう呟き、再び沈黙が流れる。
「
古株の操舵士が裏返った声で。
「ガ…
若年のレーダー手が、どもりながら。
「
砲手が、やけっぱちの大声で。
気付けば、通信チャンネルからも、万歳の合掌が響いている。
無理をさせてしまっている。
死にたい男など、ここには一人も居ないはずなのだ。
それなのに、皆無理をして、これから守る祖国を讃えて、自らを奮い立たせている。
自らのために、そして、この自分のために……。
司令官は、涙を零そうとして、それをこらえた。
「
今度は司令官自らが、音頭を取るように繰り返し、二回。
それから暫く、祈りのようなやけっぱちの万歳が響き続けた。
陣形を広げ、迎撃用のミサイルとビームを撒き散らしながらベルメイトに突撃するガミラス艦は、当然のように次々と撃破され、数を減らしていく。
ベルメイトの攻撃は度重なる損傷によって減衰しているものの健在であり、敵艦隊はダメージを蓄積させているが、突撃の速度と艦隊の残存艦艇数は、それを上回っている。
ベルメイトは回避行動を行おうとしているが、速力で勝るガミラス艦が相手では180°反転し逃げたとしても避けきることは出来ないだろう。(最も、慣性制御で移動するバイド軍艦艇に前後は基本関係なく、もっと言うならベルメイトの形状には前後の概念が存在しないのだが)
「……まさか、連中がここまで覚悟を見せるとはな」
「窮鼠猫を噛む、ですか」
驚きながらも落ち着き払った提督に対して、武本の表情は厳しい。
「連中もまた、文明を築くに値する知的生命体ということだが、本懐を遂げさせてやる気はない」
『タブロック、ミサイル残量ゼロ!』
「補給……いや、ベルメイトの修復に注力しろ、それと、タブロックの制御はこちらで貰う」
『了解!』
『タブロック、制御移譲します』
艦隊全体に広がった『提督』の意識の一部が、完全に色づいた感覚に変わる。
彼がこの宇宙にやってきた当初そうしていたように、タブロックを完全に『自分』の一部として支配したのだ。
「提督ご自身が、タブロックを動かすのですか?」
「そうだ、パイロットとして扱っている『我々』は、そこまで高度な行動が出来るようになっていないからな」
「では、何を……?」
当然、高度な行動だ。と武本に返した『提督』は、意識の中心を艦橋からタブロックに動かした。
『提督』はタブロックの視界(勿論、認識しているのは可視光だけではなく、タキオンレーダーによる位置情報なども含まれている)から、敵艦隊を睨みつける。
(このタブロックのパイロットとして定義されていた意識領域は一時的に『提督』本体の末端として吸収、接続されており、『提督』の意思を全うするためのインターフェイスのような存在になっている)
(───殴り合いとは言ったが、流石にここまですることになるとはな)
万歳三唱の熱狂から覚めたガミラス艦隊に、タブロックが牽制の『バイド粒子弾』を撒き散らしながら迫る。
「───敵ミサイル艇、本艦に接近!!」
「回避しろォー!!」
先頭を努めていた『軽巡』艦長の叫びに応え操舵手が全力で回避運動を行う……が。
慣性制御により横滑りの動きを行ったタブロックにより、側面に肩部ミサイルサイロの直撃を受けてしまう。
同時にミサイルサイロも文字通り『潰れる』ような形で破壊されたが、タブロックの本体と腕は未だに形を保っている。
この宇宙のあらゆる場所で活動可能な程の強靭性が、ここで生きたのだ。
そして、大質量物体と激突したことによる衝撃で艦のシステムと人員に多大なダメージを受けた『軽巡』は────
『衝撃波命中、軽巡一隻撃破』
そのまま、ベルメイトの衝撃波の生贄となり宇宙の藻屑となった。
「まずは一隻……!」
手応えを得た『提督』は猛然とタブロックを突撃させる。
次の『軽巡』にもう片方のミサイルサイロを、今度は艦尾に直撃させ撃破。
ベルメイトの万全を確認した後二隻任せ、最後の『軽巡』の艦橋に右手のバイド粒子弾発射口を衝突させ行動不能に追い込む。
そして、やっと事態を飲み込んだ『重巡』が放つ陽電子ビームを回避しながら、その艦首発光部を右足で蹴りつけ、艦の『頭部』をひしゃげさせた。
「……なんて力技!」
呆れたように感嘆する武本、ブリッジの『提督』がニヤリと笑みを浮かべる。
「人型機体は伊達ではないのさ」
「確かに、有効な手段ではありましたが…」
「有効ならいいのだ、飛んでいるものは作業機でも使うのが『R流』だからな」
「作業機?」
「Rの起源は作業用の小型艇だ、それに、私は暴走した採掘マシンと一戦やらかしたこともある」
閉鎖空間ということもあったが、恐ろしく強かった。
そう付け加えて、提督はまた戦場に意識を向ける。
『巡戦』……『メルトリア級航宙巡洋戦艦』二隻が速度を揃えタブロックに対し砲門を向けて加速してきている。
有砲身砲塔……『陽電子カノン砲』による自由度の高い攻撃は、回避が容易になる至近距離とはいえ十分にタブロックを狙っての攻撃を行えると言っていいだろう。
しかし、合計12門の砲身から時間差で放たれる陽電子の槍衾の中、タブロックは臆すること無く猛然と突き進む。
だが、巨体のタブロックが敵に向かって突撃しながら攻撃を全て回避できるはずもない。
タブロックのボディに陽電子ビームが突き刺さり、その直後、着弾点に対消滅爆発が発生する。
「────だが、一撃や二撃で沈むものでもない」
そう、タブロックを含めたバイド体はこの程度の口径であれば陽電子砲を受けてもなお形を保つことが可能なのである。
それはザイオンググラビティドライバによる防御フィールドの効果であり、ボディそのものが持つ耐ビーム性能であり、生体故のダメージコントロール性能によるものである。
(もちろん、地球側の兵器もまた別のアプローチで同じだけの防御力を誇っている)
そして、爆炎を吹き上げるタブロックの左足を艦橋に叩きつけられたメルトリア級巡洋戦艦は艦のコントロールを失い、ヨロヨロと惑星への落下軌道へと落ちていった。
「……司令、の、残るは本艦のみです」
ガイデロール級戦艦の通信手が、どもりながら口に出す。
司令官にはその意味が分かっていた、彼は本当ならばこう言いたいのだ『最早突撃の意味はない、加速を活かしてワープで撤退しましょう』と。
無理やり高めた士気は、崩れ去り始めていた。
「近接火器の使用と、体当たり攻撃の着弾点の限定を行えば、ガイデロール級ならばあのミサイル艇の攻撃に耐える事は可能かと思われます」
副官がそう付け加える。
「……突撃は、このまま実行する」
「司令官!」
「────操舵手、ワープは可能か?」
「……現在の速度、エネルギーならば、可能かと」
「しかし、敵の針状母艦に対しては距離が近すぎるため、ワープでの突撃は不可能です」
「よろしい、では、基地上宙域に向かってワープを行い、そのままの勢いで建造中の敵戦艦に向け突撃を行う」
「それまでワープ準備を敵に悟られるな、ギリギリまで隠し通すんだ」
俺がタブロックの腕部レドーム(盾のように見える部位だ)を敵戦艦に叩きつけようと加速している最中に、敵の真正面に赤い光の筋が現れた。
これは、間違いなく────
『敵艦ワープイン!!』
「座標計─────いや、ジギタリウス隊の状況を知らせろ!」
ガミラス軍の用いるワープBは、ある程度近距離での空間跳躍が可能だという事実を事ここに至るまですっかり忘れてしまっていた。
敵艦は、ワープBによって空間跳躍を行うことで、直接基地にワープしボルドを狙おうとしているはずだ。
『ジギタリウス隊は現在補給を終え、基地周辺を航行中ですが…』
「波動砲チャージは行っているな?」
『はい、波動砲は発射可能状態です』
「よろしい、その場に留まり、基地に対し照準を合わせろ」
「そして、敵影確認とともに波動砲を撃て」
『基地と建造中のボルドにダメージが入りますが……』
「問題ない、発射準備体勢に入れ」
「それと────」
これは、少し危険な行為かもしれないが……
「ボルドの『
被弾によるダメージで各所から爆炎が噴出しつつある我が旗艦の艦橋で、俺は考える。
連中は一体何者なのか、そして、あの艦隊を率いる指揮官はどんな『存在』なのか。
グロテスクな機体群、未知の超兵器、巨大な戦艦……。
あれは間違いなく、我々ガミラス文明とは全く無関係な、別系統の存在だ。
彼らは何処から来たのか、そして何を目指しているのか。
この一戦から掴めたと言うには、俺はあまりに非才で、経験もない。
だが、一つだけ、手がかりがある。
あのミサイル艇…機動兵器のカメラアイには、確かな知性と心の光があった。
その心が抱いていた感情は、『怒り』『恐怖』『憎悪』……。
……そして、『自分の大切なものを何としても守り抜こうとする意思』だった。
自分でも非論理的な事を考えている自覚もある、だが、そうとしか感じられなかったのも事実だ。
彼らが何に怒り、何を恐れ、何を憎しみ、何を守ろうとしているのか。
もしかしたら、ガミラス人である俺がその憎しみを受け止めるのは、誰かが与えた義務なのかもしれない。
─────だが、俺もタダで死ぬつもりはない、連中にガミラスがやられる事を認めたわけじゃない。
俺はデータを残した、俺の意思、希望はデータを受け取った者たちが継いでくれるだろう。
そして、俺は目の前に現れた極光に耐えかね目を閉じ、無理やりもう一度開く。
──────────────。
『カラドボルグ砲命中、敵艦消滅しました』
『作戦終了です』
何処からともなく、男とも女ともつかぬ声が響く。
その『我々』は、形すらもサルベージできなかった、副官達の『我々』だ。
「……艦隊を基地に収容し、ダメージを負ったバイド体の修復作業と敵艦のサルベージを開始しろ」
「ボルドが発進可能になるまで、どれほどかかる?」
『無理な攻撃でダメージはありますが……、発進だけならあと半日で可能です』
「宜しい、……ここの情報はガミラス側に把握されたと見ていいだろう」
「ワープ航跡を把握されないためにも事は迅速に起こすべきだ、発進可能になり次第すぐ出るぞ」
命令を下すと共に、次々と基地からストロバルトが飛び出て敵艦から放出されたデブリの回収を開始し、腐れ工作機がタブロックに飛びつき修復作業を開始していく。
レーダーに目をやると、腐れPOWアーマーによる補給を完了させたバイドシステムα隊がこちらに向かって帰還を始めている。
「提督、お疲れ様でした」
「うむ、殆ど観戦しかさせていないが、君も疲れただろう。基地の生活ユニットの解体は後回しにしてあるから出発前に休むといい、予想以上に苦戦してしまったからな、肝を冷やしたんじゃないか?」
戦力差からして戦いが長引き戦力消耗が激しくなるのは確実だと思っていたが……。
こうも二転三転する戦いになるとは……全く予想外だった。
完全に未知の文明との戦闘は、侮れないものがある。
「いえ、不思議と負ける気はしませんでした」
「……気を使わせてしまったか、すまないな」
「そうではありませんよ」
……うむ。
『私』もボルドの調整とこの星系の後始末を行わなければならない。
────しかし、タブロックの目から見えた、『戦艦』の司令官の姿。
祖国のため奮闘し続けるあの姿に私は─────
……………………………………俺は。
何を思えば、いいのだろうか。
→帰還する
入手トレジャー
【ワープに関する知見】
ワープA、ワープBを繰り返し、
客観的にも観測したことによって得た知見。
大マゼラン雲宙域/この宇宙における時空間のデータも含まれる。
これによって亜空間潜行能力を持った機体の開発が可能になるだろう。
【植民惑星の生態系】
地上にバイド体を降下させ入手した有機資源…もとい生物の情報。
ガミラスのテラフォーミングによって惑星は豊かな生態系を構築していた。
魚類、植物、菌類などの遺伝子情報はバイド生態系もまた豊かにする。
【ガミラス軍司令官の意思】
今回戦闘したガミラス軍司令官の眼光。
彼らもまた、人であり、勇者だった。
……申し開きは……まあ、色々ありますが。
結局の所は展開をどうしようかと悩みすぎたこと、新しい執筆法に手を出そうとして失敗したこと…とかですね。
今後の投稿については未定です、一応やりたい場所や全話通してのストーリー構成の案がないわけではないのですが、いかんせん未完結の作品の二次創作であることや難しい題材、シチュエーションということもあり、今回の件を除いても中々筆が進まないのが現状です。
一応今はさらばと言わず書き続けるつもりですが、次回の投稿がいつになるのかは分かりませんので、待っていただける方はその点についてご容赦を。
それでは、またきっとお会いしましょう。