俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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多忙や執筆難度の高い展開を理由にずるずると執筆が長引き、気がつけば前回の投稿から3ヶ月弱。
三話構成との宣言も守れず、【4】に続く内容ですが、これ以上投稿期間が長引くのもアレなので、ご容赦を。

※今回語られる設定にはいつにもまして独自解釈が含まれております!
 無いとは思いますが真に受けて他所で語ってご迷惑などおかけせぬようにご注意を!
 ……あと、引かないでくださいお願いします


衝撃波発生システムベルメイト【3】

 俺が差し向けた『ツヴァルケ』の中隊を見事に出し抜き、僅かな足止めを残して万全な状態でこちらに向かう敵機は、10機、2小隊。

 さらに、それらの前方に装備された肉塊と光球の混合物は自律行動が可能ときた。

 ……俺達は、それを『ケルカピア級航宙高速巡洋艦』と『クリピテラ級航宙駆逐艦』の対空ミサイル、そしてこの『ガイデロール級航宙戦艦』に搭載されたなけなしの対空火器で対応しなくちゃならない。

 敵戦闘機のスペックから考えると、懐に入られる前にミサイル攻撃で撃滅することは、おそらく不可能。

 回避行動を取るか、場合によっては速力を上げ接触自体を避けなければ、この艦隊は大きな被害を受けるだろう。

 

 ────だが、ここで引くことはできない。

 被害を出してでも敵に肉薄し、砲雷撃戦にて敵の旗艦、そして今もとんでもない速度で建造が進んでいる超巨大戦艦を壊さなきゃならない。

 

 「機械化兵中心の艦を前面に出して壁にしろ、人間の乗組員は直ちに退艦、移乗を行え」

 

 「艦の運用を機械化兵に任せるので?」

 

 「ああ、動きは大分悪くなるだろうが……、差し出す形になっても構わん、時間を稼ぐんだ」

 

 「了解しました」

 

 「あの巨大な艦が完成していない現在、敵旗艦を努めていると思われる艦はそう大きくはない、砲雷撃を行える艦が十分に残っていれば撃破できる」

 

 どれだけ強靭な装甲を用いていても、物理法則に従っている以上、陽電子ビームを受けてダメージを蓄積しない兵器は存在しない……つまり、まだ勝機は残っているのだ。

 

 「苦しい戦いになるが……皆、なんとか耐えてくれ」

 

 「ザー・ベルク!」

 

 副官が声を上げて俺の指令に答える。

 

 「連中が『アレ』を完成させれば、どうあってもガミラス……大マゼラン雲のガミラスは大きな被害を出す……」

 

 あの巨大な戦艦は、航続力も相応のものを持っているだろう。

 つまり、捕捉はより難しくなる

 

 「俺達の故郷を奴らに喰わせてせてやるわけにはいかない!」

 

 

 敵艦隊に向け進撃する艦隊に、敵の戦闘機隊が迫ってくる。

 肉塊に包まれた敵機は、近づきながら高エネルギーを後方に集中させ、例の大規模攻撃の準備をし、盛んにこちらを牽制してきている。

 ……しかし、あの特殊なプラズマ攻撃は乱戦で使うことが出来ないということは、この星系の守備隊が残した情報から確認済みだ。

 俺は科学、兵器学に堪能な方ではないが、おそらくその理由は、チャージ機構が回避行動や被弾に耐えるだけの安定性を持っていないからだと考える。

 だとするなら、早期に対空ミサイルによる攻撃で敵を撹乱、牽制してやればあの兵器は使えないはずだ。

 

 「対空ミサイル斉射、ただし、ルートを大きめに分散させ、一度に全て振り切られないようにしろ」

 

 クリピテラ級、ケルカピア級から発射された数百のミサイルがその数十分の一しかない敵機に向けて殺到する。

 一機につき数十本のミサイルを敵に叩き込むことになる、普通の基準なら一機に対して数本放てばよいそれを数十打ち込む行為は、通常の戦闘であれば完全に過剰投入だ。

 しかし、あの映像を見た俺にはこの数を過剰だとは全く思えない。

 

 ────敵機群はまず、ミサイルを前に速度をそのままにほぼ直角で進路変更を行い、ミサイルの殆どを一旦振り切った。

 敵の回避行動に備えてある程度分散してミサイルを放っていなかったら、ここで全てのミサイルを振り切られてただろう。

 

 ……ミサイルをバラけさせることで、完全に振り切られてしまうことこそ防いだものの、相当な数のミサイルは明後日の方向に飛び去った。

 残されたミサイルが敵機に喰らいつくが、あるものは回避され、あるものは機体前方のエネルギー塊に飲み込まれる。

 しかし、その途轍もない機動力の高さを持っていても、方向転換によって全体的な速度が下がることまでは防げない。

 

 「ミサイル第二波、発射します!」

 

 「回避されたミサイル群、方向転換終了、敵機に向け加速開始!」

 

 「ミサイル第二波と合わせ、敵機を挟み撃ちにしろ」

 「本艦隊に到着するまでに、なるべく数を減らすんだ!」

 

 敵機に向け、ほぼ二斉射分のミサイルが迫る。

 ミサイルは、こちら側の管制ユニットにより制御されており、万が一にもミサイル同士で接触するようなことはないようになっている。

 ……我がガミラス軍は度々誤射を起こしては、防御力を圧倒的に上回る火力によって味方艦を真っ二つにしているが、改善の努力を怠っているわけではないのだ。

 

 「艦の配置はどうなっている?」

 

 副官の一人に尋ねると、大分芳しい返事が帰ってきた。

 

 「七割がた終わりました、あとは隊列を整えるだけです」

 

 「そうか……では、移動させた艦の内訳を報告してくれ」

 

 「ハッ!クリピテラ級駆逐艦が14、ケルカピア級高速巡洋艦が3、それに、デストリア級重巡洋艦が1隻です」

 

 「……大分多いな」

 

 不満を隠せず口から飛び出した言葉に怯えた副官が、急いで返事を返してきた。

 

 「は、はい!機械化兵を中心に運用していた艦を前面に出せとの命令でしたので、そうしましたが……」

 

 「独り言だ、君らに不手際があったわけではないから安心しろ」

 

 そうだ、こいつの不手際じゃない。

 ……機械化兵、つまり人工的に作られたロボット兵士は、基本的に人間よりも全体的に『役立たず』だ。

 精密な動作や、継続しての見張りなど、『いかにも』な仕事は人間よりも正確にこなすのだが……。

 いかんせん、判断能力や応用力、咄嗟の行動など、ファジーな思考が求められる場面ではテンで役に立たない。

 だから機械化兵が主に用いられる場面は、未知の敵への先陣、人間にとって適していない大気に満ちた空間での白兵戦など、人間の兵士を向かわせたくない場所や、重要度の低い警備任務などに限られていた。

 

 だが、今現在ガミラス軍は、デスラー総統が敷いた拡大政策により大きな負担……、具体的には、侵略行為による損耗、そして領域を拡大したこと自体が起こす戦線の延長を強いられている。

 艦艇などの装備に関しては、植民惑星で手に入れた資源やマンパワーが十二分に補ってくれる……、しかし、それを扱う兵士については、慢性的な不足状態だ。

 それを補うため、ガミラス軍はこれまで次々と施策を繰り返してきた。

 古参の植民惑星人の投入、艦のオートメーション化の推進、果ては優秀な一等ガミラス人のクローン(下らない表現だが、純粋なガミラス人の中で最も優秀な部類の人間を選んだのは確かだ)。

 今までは人間に行わせていた軍務を機械化兵に任せることで負担を分散、軽減していく試みもその一つ……。

 

 ────これまでの試みの中で、一番効果的で、かつ最も前線を苦しめているのが、これだ。

 機械化兵は、確かに単純作業をさせるのには良いが、『何が起こるかわからない』の極致たる戦争の場に置くのに、これほどふさわしくないものはない。

 要するに俺たちは、新兵よりなお融通が効かない、頭でっかちの無能で艦の大半を埋められ、限られた人間の指揮とフォローだけでそれを補わされている。

 

 

 「敵戦闘機隊接近、ミサイル迎撃不可能域に突入します!」

 

 鬼気迫る表情でレーダー手が叫んだ、気持ちは分かるが落ち着くように、とゼスチャーを合わせて伝えてから、質問を重ねる。

 

 「……敵機は、何機残っている?」

 

 「完全に動いているのは7機、残り3機は慣性航法でこちらに向かっています」

 

 敵機はその再生能力もさることながら、防御力……純粋な硬さも異常なレベルに達している。

 機銃はおろか、ミサイルでも当たりどころによっては行動不能に追い込むことすら出来ない……!

 

 「追尾中のミサイルをこちらに連れて来られても厄介だな……」

 

 「まだ距離はありますが、ミサイルを自爆させますか?」

 

 「そうしてくれ、ただし、大破した敵機付近に集中させ、爆破するんだ、巻き込んで木っ端微塵にできればよし、出来なくても、ある程度の足止めにはなるだろう」

 

 俺の指示を聞いた副官が伝達し、次々とミサイルが敵機に集合、爆破されていく。

 激しい電磁波がその宙域を包み効果を観測することもままならない状態になったが、それは敵からも同じのはずだ。

 

 ……そして、傷を癒やしながら迎撃不可能域へのラインを破った敵機が、ついに艦隊に食らいついた。

 

 「全艦、敵艦隊への突入を行う、攻撃体制を維持したまま加速せよ!」

 

 「了解、速度上昇!」

 

 「ここからが正念場だ、なんとか耐えてくれ……!」

 

 敵機は矢継ぎ早にミサイル(後方に糸を引いた丸い肉塊にセンサーらしき円形の部位が付いていて、まるで眼球のように見える)と、前方の球体を発射し、盾として置いた艦を破壊していく。

 かつて無い頻度で損害報告がブリッジに響き、窓の外では次々と爆炎が上がっていく。

 

 「敵艦、射程距離まで、あと12000!」

 

 最早『絶叫』と表現するに相応しい損害報告に紛れ、操舵手が敵までの距離や時間を投げ込む。

 その声だけを頼りに、兵員達は自らの席にしがみつき、敵機が人間の乗った艦……そして、自らの乗った艦にあの敵機の攻撃が届く恐怖を耐え続けている。

 

 「敵、人型ミサイル艦が前進を開始しました!」

 

 「遅滞戦闘中のツヴァルケ隊、6割が壊滅!」

 

 更なる攻撃を予感させる報告に、ブリッジが慄く。

 

 「騒ぐな、まだ敵機と本艦までには距離がある、全艦艦首魚雷装填、射程に入り次第自己判断で敵旗艦を撃て!!」

 

 「ザー・ベルク!」

 

 攻撃指令によって艦隊に一先ずの目標を与え、継続するダメージによって崩れかけた士気をなんとか持ち直す。

 

 「敵ミサイル発射を確認!弾着まで──────」

 

 「艦隊の中核……人間が乗った艦を狙っているものを優先して迎撃しろ!」

 

 ……もし『敵』司令官のカンがよければ、これで見抜かれてしまうだろうが、こうする他にない。

 前方で敵の大型ミサイルと迎撃に放ったミサイルが互いに食らいつき、プラズマ化した物質を撒き散らす。

 敵艦との距離は、我らが双子星より近く。

 つまり、あの爆炎の先に──────

 

 

 

 ───敵艦、見ゆ。

 

 輝く煙から鼻先を見せながら対艦ミサイルの槍衾を突き出した濃緑色の艦隊。

 性に合わない読み合いはしないタチだが、このタイミングは予想通りだ。

 

 しかし……

 

 『敵艦隊、対艦ミサイル展開、モニターに表示します!』

 

 『タブロックによるミサイル迎撃を開始しました!』

 

 数百本の対艦ミサイルが中央モニター上にレーダー光点として映し出された。

 ……形式上表示してはいるが、ここまで来ると指揮官には密集の度合いと集団の大きさしか認識できない。

 コンピューターのサポートを受けた砲手、操舵手───ここで言うならば、それらの制御を委任した『我々』の意識───が、あの『魚群』の相手をすることになる。

 そう、司令官は戦場の全てを把握しなければならないが、十分に大規模な宇宙戦において、ミサイルの数や、剥離、貫通された装甲板の階層、スラスターの出力などはもはや数字で把握すべき対象ですらない。

 『我々』を分離するまでの戦闘では、俺自らがすべて司っていたが、かなり神経を使ったものだ。

 

 「分かってはいましたが……、とんでもない圧迫感です」

 

 「見かけほどではないさ、いちいち怯えていたらキリがない」

 

 距離がある以上、こちらも迎撃に時間をかけられるうえ数が多いため、大半は迎撃することが出来る。

 

 ────が

 

 

 「ベルメイトは迎撃に参加せず後方で待機、工作機は各艦の被弾次第修理にあたれ」

 

 「……本艦への損害も、作戦のうちですか」

 

 『勘弁してくれ』といった表情だ。

 

 「人間が動かさない船の強みさ、沈まなければいくらでも治せる」

 

 

 「そして、今から見ることになるのが、人間が動かさない船の弱みだ」

 

 例によって疑問符を浮かべる武本を後ろに感じながら、消えていく画面の光点、

 そして、俺の『目』に映った、遠近法に従い、次第に大きさを増す濃緑色を睨みつける。

 

 ───予想は、的中した。

 

 敵艦船の一部に見られる、明らかに突出した『整然さ』。

 そして、その動きを見せた艦船を、まるで差し出して餌にでもするような艦隊行動。

 

 「まるで鹵獲機のような扱いだな、仮にも自国の艦艇だろうに」

 

 「……鹵獲?」

 

 「ああ、我々の地球文明には、特殊な弾頭で敵機を捕獲し、リモートコントロールする技術がある」

 

 網状の弾頭を通じて敵にハッキング……もしくは急速なバイド汚染をしかけ、乗っ取る非人道的な技術だが、ほぼ常に戦力で劣る戦いを強いられるRTT2ではかなり重宝した覚えがある。

 

 「それで鹵獲した機体への扱いに、アレはよく似ていると思ってな」

 

 「なるほどです、でも、あの前面に出された艦艇が鹵獲されたもの……、というワケではないんですよね?」

 

 「ああ、艤装、装甲、噴射炎を光学分析したが、恐らくは、守られている側と同じ規格だ」

 

 流石に急場で工場や材料、年式の差まで測る事はできないが、おそらく同じだろう。

 

 「それに、ただ鹵獲しただけであれば、乗っているのは自国や、植民地の軍人だ、流石にあそこまでの扱いはできないだろう」

 

 そう、種族の存亡をかけた戦いを経験していないものには、決して。

 

 「では、あの船に人が乗っていないというのはつまり……」

 

 「コンピューター、もしくはリモートコントロールによって操られていると見て間違いないだろう」

 

 「アンドロイドの給仕が居ることは知っていましたが、まさか艦艇までロボット化されているとは……」

 

 「いや、ロボットは戦闘時の即応性に欠ける、前回鹵獲した時確認したが、ガミラス文明のロボットもまた、地球のそれと同じく、宇宙戦闘に安心して投入できる程の能力は持っていない」

 

 高度に発達したロボットにはいわゆるフレーム問題など多くの問題がつきまとい、そのせいでロボットの性能は中々高くすることができないのだ。

 我々が危惧した問題───そして、今回の策の鍵───を除いても、中々実際の戦闘に使用することは難しいのだ。

 

 「恐らく、今回のはあまりに苛烈な我々の攻撃から身を守るために作り出した即興の策だろう……、まあ、そこまで難しいアイデアではないが……、ともかく連中が『その手』で来るなら、特効薬はあるということだ」

 

 「『特効薬』……?」

 

 「ああ、薬という表現は正反対か、正確には『バイキン』と表現するべきかな」

 

 「……まさか」

 

 「先程打ち込んだミサイルの弾薬は、爆弾ではない─────極限まで密度を高めたバイドの肉塊だ」

 

 絵面を想像した武本が水場の物陰にびっしりとに繁殖した黒カビを発見したような顔をする。

 

 「これが、平行世界の地球で最強を誇る提督の戦術ですか」

 

 「……やめてくれ、私だって本当は正面からの撃ち合いをやりたいんだ」

 

 何度でも言うが、こういったチマチマと策を巡らすような戦闘は『私』のガラではないし、『俺』はそもそも門外漢。

 正面切っての戦闘、そうでなくても奇襲戦なんかの、しっかりとした戦いの指揮を取ることこそが、私の本分であり、シュミでもあるのだ。

 

 

 さて、バイド素子が充満した空間を通過したガミラス艦隊はまっすぐこちらに向け進撃を続けている。

 速度でも上げてくれれば、バイド汚染デブリでもばらまいてさらに効果的な攻撃が出来るというものだが、中々辛抱強い指揮官を持っているようだ。

 

 しかし、敵艦に付着したバイド汚染物質は、多くの艦艇で『十分』な量に達した。

 俺はタキオン通信にて一定の周波数を送信し、肉塊を叩き起こす。

 

 ───数秒後、敵艦隊の半数が宇宙の藻屑と化した。

 

 「……え?」

 

 「ははは、バイド汚染対策を行っていない艦隊などあんなものよ」

 

 「いやいやいや、そんな簡単に……」

 

 「武本クン、バイド汚染は『簡単』とは言わないのだよ」

 

 「えらく得意げですね、提督」

 

 あ。

 

 「……ええと、これはだな」

 

 「いや、その……、自分が打倒した敵の強さを誇るのは、自然なこと……かと」

 

 武本のフォローが痛い。

 全く俺は何をやっているんだ、よりにもよって、バイドの強さを自慢するようなマネをするなんて。

 

 「……ゴホン、話を戻そう」

 

 気恥ずかしくなって咳払いをする。

 

 「濃縮させたバイド素子を増幅、膨張させることによって敵艦隊に強力な汚染を発生させた……、流石に一瞬で艦体の制御を乗っ取る事ができる程のものではないが……」

 

 「敵艦内部のロボットを狂わせ、自滅に誘ったと……」

 

 「そういうわけだ、いくら汚染対策や波動粒子による防御が働いていないとはいえ、(エーテル)体と(アストラル)体に守られた人間を汚染するとなると、いかなバイドと言えどそう安々と侵食することはできない」

 

 人間は肉体とそれに付随する霊体、さらに上位に存在しそれらを支配する魂に分けられる。

 バイドは肉体だけならたやすく侵蝕できるが、霊体や魂に対しての侵食は遅く、ともすれば霊的要素からの逆侵蝕によって肉体の支配まで振り切られてしまうことまである。

 そしてその防御は、人間だけではなく人間が操作する機械にも及ぶのだ。

 

 「だが、一切の霊的防御を持たないロボット相手なら別だ、たやすく侵食できる」

 

 例外として、人間の操作するR機から切り離されたコントロール・ロッドやRC機体があるが、これらも、機械的な手段によって拡張された霊的防御の恩恵を受けているのには違いない。

 

 「これが、人間の関与しない兵器の脆さだ」

 

 「エーテル……って、ええと、エーテル宇宙論のエーテルですか?でも、アスト……なんとかっていうのは」

 

 「うむ、バイドは各分野の科学的アプローチに加え魔導力学までもつぎ込んで作られている」

 

 これは『私』の知識ではなく、『俺』としてR-TYPEについて知っていたことだが……おそらく、間違ってはいないだろう。

 

 「簡潔に言えば、人類はその霊的な耐性故、多少のバイド汚染ならば抗うことが出来るのだ」

 

 「いや、その、魔導力学というのは……」

 

 「……うむ、この地球では、まだ未発達の分野だったか、その名の通り魔導、魔術を中心とした霊的領域を扱う諸分野を体系化した学問だ」

 

 「は……はぁ」

 

 「私も学生時代には大分打ち込んだ、基礎的な魔術理論はもちろんとして、あちこちのゼミに出入りしたものだ、部屋-住人型霊魂モデルの考察、五行一霊四魂(マガタマ)理論の組み立てと実験、無属性霊素の精製………まあ、殆どの研究は実を結ばなかったがね」

 

 そこまで語って気がついた、武本の目が妙に冷たい。

 

 「……バイド襲来が無ければ、眉唾の対して役に立たない学問、ということか」

 

 「いえ、そんな学問自体が存在しませんでした」

 

 武本は、俺の説明を全く信じていない顔をしている……いや、信じようとしても、異文明すぎて理解出来ないという態度だ。

 ───この地球に魔導力学が無いのであれば、それもしょうがないことだ、『私』も初めて魔導力学の教科書を手に取った時は、己の正気を疑った。

 今思えば、そこに実在している学問の『存在』に疑問を覚えた事自体が、『俺』の記憶による影響だったのかもしれない。

 

 「……まあいい、詳しいことは後からやるとして、今は人間がバイド汚染されにくいこと、ロボットはバイド汚染を受けやすいことだけ覚えておけばいい」

 

 「あ、はい」

 

 うむ、理解が早いのは助かる。

 『理解できないという理解』を行う素質は時代の最先端を生きねばならない我々のような職業の人間にとって極めて重要だ。

 

 「敵艦の操艦系統を狂わせ、それによる衝突と、その連鎖を誘った……、出来ることなら爆装も操作したかったが……少量、それも遠隔操作のバイド素子ではその程度が限界ということだ、バイドとは本来凶暴で自分勝手なものだからな」

 

 「どちらにしろ、全く理解していない技術で攻撃された向こうさんは溜まったものじゃないでしょうがね」

 

 「……それは、お前の台詞だろう?」

 

 ニヤリと笑いかけてやると、少し後ろめたい笑いが帰ってきた。

 ────『地球』を焼かれたのだ。

 子供のケンカになんとやら、江戸の敵をなんとやらと言われようと、この想いは止められるものではない。

 

 「だがまあ、武本、今はそれよりも……」

 

 「?」

 

 『敵対艦ミサイル、迎撃不可能域を突破!』

 

 「一番好きな耐ショック体勢を取っておけ、撃沈されてやる気は毛頭ないが、あれは相当痛そうだ」

 

 

 

→つづける




色々遅くなりました、申し訳ありません。

要するに、難しい展開に自ら突入し、その執筆に悩んでいたということです、情けない限り。


では、また次回。
なるべくなら、三章公開までには上げたいところです。

9/1追記:重大なミスを発見したので、修正しました。
2018年5/9:感想で頂いた文法への注意を踏まえて追記修正、今後も文法への追記や修正は行うが大幅な改変がない限り告知はしないものとします。

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