俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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次はベルメイト回とキッパリ言ったが……ありゃウソだった、こらえてくれ。

いや、すみません、予想以上に構成が長くなりました。
更新期間と一話が伸びすぎてもいけないので、キリの良い所で切って投稿します。
20日も待たせて申し訳ない限りです。


衝撃波発生システムベルメイト【2】

 ガミラス艦隊の陣容は、『駆逐』31、『軽巡』14、『重巡』3、『巡戦』2、そして、艦種不明の大型艦一隻。

 今回、これまでは艦隊旗艦として現れていた『巡戦』が複数存在し、大型艦を中心に動いていることを考えると、あれは『戦巡』以上の艦級の艦船であり、巡戦より高い指揮能力を持っていることが推測される。

 

 俺はバイド生命体としての巨大な『脳』により加速した思考の中で、不明大型艦の形状と性能について考察を行っていた。

 不明大型艦は紡錘形の上下を切り取ったような形……、つまり、いわゆる『葉巻型』のボディに武装、艦橋などの構造を付けた比較的シンプルな構造をしている。

 そして肝心の武装だが、砲塔の口径は『重巡』との差が見えない上、『巡戦』に装備されているような砲身も見られない。

 その代わりに、船体のあちこちに分かりやすく円形の開口部が設置されており、その全てが、対艦ミサイル発射口と思われる。

 そう、ガミラス文明は我々とは違い、ミサイルを対艦と対空で区別するようなのだ。

 対空ミサイルを持たず、対艦ミサイルのみを装備したこの艦は『重巡』や『巡戦』と同じく対艦特化のものだろう。

 ……それにしても数が多い、砲門は少ないが、対艦ミサイルの精度、威力を考えれば打撃力は大きさ相応以上にあると見ていい。

 

 更に、大型化し半ば船体から飛び出した艦橋は指揮能力の高さを物語っている。

 ……これらの情報から、俺は艦隊旗艦と思われる巨大不明艦を『戦艦』と呼称することにした。

 

 

 さて、我々に襲い掛かってきた『戦艦』を旗艦とした艦隊は、おそらくこの星系の付近に常駐するものではないだろう。

 根拠としては安直だが、我々が散々この星系の基地守備隊と戦闘を繰り返す間に救援としてやって来なかったこと……

 そして、あの艦隊の戦力の偏りにある。

 

 というのも、砲戦能力を主体とした艦が極端に少ないのだ。

 ガミラス艦艇は『駆逐』を除き、殆どの艦種が十分に砲戦能力を持っている(その『駆逐』も、一応の砲は装備されており、補助的な役割になるだろうが全く砲戦ができないわけではない)。

 その中でも、砲戦に特化、あるいは大きなウェイトを置いているのは『重巡』と『巡戦』の二種なのだが……。

 これらの艦種が不足していることは何を示しているのだろうか。

 

 私が導き出した答えは、『戦闘において敵との砲戦を行い、前面に出した砲戦重視の艦を多数損耗したまま、偶発的に我々の艦隊を発見し、脅威と見て急遽攻撃を決定した』というものだ。

 しかし、一基地を全滅させた相手に基地の守備艦隊以下の戦力で攻撃を行うものだろうか。

 普通に考えるのなら、十分な戦力を整えてから攻撃するはずだ。

 

 

 ……思考中に、現実時間では敵艦が減速を行い、戦闘速度への移行を終えようとしていた。

 武本の予想より約+0.2秒、まぐれでないのなら間違いなく及第点の水準だ。

 そう言っても、亜光速移動中では数万mの差が出るのだが……、これは言ってもしょうがないことだろう、防御側の持つ不利というやつだ。

 

 ───さて、考察を中断し、戦闘に専念する。

 敵は現在、我々の前方約20光秒地点を、戦闘速度にて陣形を整えつつ移動している。

 敵の陣形は、大きく陣を広げた上で両翼を前面に傾けたもの……、つまり、『鶴翼』に近い。

 ……少数の敵を押しつぶすにはよい陣形だろうが、航空機を持つ相手にろくな艦載機を持たないにも関わらず突撃を行うとは、余程損害に頓着しない指揮官なのだろう。

 それとも、『何か』の理由があるのか?

 

 俺は戦闘機隊を艦隊前面数光秒の位置に出しながら、タブロックのミサイル発射準備を行う。

 ガミラス文明の動力機関を鹵獲したことによる潤沢なエネルギーと、タキオンによる長距離でのリアルタイム通信の恩恵で、我々は以前よりも長距離に渡って索敵、データリンクを行う事ができるようになったのだ。

 

 「提督、『ベルメイト』は動かさないのですか?」

 

 「まあ待て武本……、理由はじきに分かる」

 

 武本の『はぁ……』という、いかにも釈然としていない感動詞を聞き流し、敵艦の雷撃開始をじっと待つ。

 18光秒、17光秒、16光秒……。

 13光秒、12光秒、────敵艦前方に高エネルギー体を多数確認、『対艦ミサイル』だ。

 

 「バイドシステム、ジギタリウス隊は波動砲と対空レーザーによる弾幕準備」

 「タブロックはデータが入り次第片っ端からロックし迎撃を行え、補給は工作機をまるごと一機付ける、好きなだけ放出しろ」

 

 『了解!』

 

 ベルメイト艦橋に設置された通信スピーカーから『我々』の声が届く。

 別に口に出す必要も、出させる必要もないのだが……、これは俺の精神と、思考を整えるために行う一種の儀式であり、同時に武本への通達でもある。

 私は別に饒舌な方というわけでもないのだが、ブリッジで声を張っていると自然と思考が落ち着き、心も戦場に馴染んだものになってゆく。

 精神集中と没入こそが戦闘には肝要だ。

 

 ……もっとも、この体であれば、『儀式』など必要とせず文字通り身も心も戦場に投じることができるのだが。

 

 

 

 ────さあ、戦闘開始だ。

 前方より迫る敵ミサイル群に向けて、歪曲した弾道を描くデビルウェーブ砲10機分20個のエネルギー塊、そしてバイドシード砲5門の散弾のように分散するエネルギー弾が射出された。

 更に、それを追う形でタブロックから放たれたミサイルと、波動砲を撃ち終えた戦闘機隊の対空レーザーが向かう。

 

 エネルギー弾とミサイルが交差し、かつて地上で使用された戦略核弾頭をも凌ぐ閃光が宙域全体を焦がしていく。

 そうして広がった爆発が更に多くのミサイルを巻き込み、誘爆を起こす。

 

 『ミサイル第一波消滅!続いて、第二波来ます!』

 

 「波動砲チャージを行いつつ弾幕を張り続けろ、最悪機体ごとぶつけても構わん」

 

 「機体ごとって、提督……」

 

 「文字通りだ、フォースにぶつければ一機で2、3本は巻き添えにできる、ぶつけるのはラジコン機体で、会敵するまでには修復可能だからな」

 

 地球文明では五機を一小隊として、一機のみにパイロットを載せ、残りは追従するラジコン機体として扱う『RC小隊』システムが一般的だ。

 多数まとめては使いにくい巨大な機体や、高コスト機体は一機体を一小隊として扱うが、多くのR機は小隊制を採用している。

 これによって、小隊内で破壊される機体が出ても、パイロットの補充を必要とせず、修理のみで対応を行ったり、バイド機体に至っては自己再生による戦線復帰まで可能になっているのだ。

 

 「……まあ、機体を守る『フォース』と小隊システムあっての手段だ、流石の我々もフォース無しでの特攻作戦などは用いないさ」

 

 「効率が悪いからですか?」

 

 武本が意地の悪い顔で口を挟む。

 

 「その通りだ」

 

 「……効率が良ければやるんですね」

 

 「そうだ、波動砲や艦首砲の射線に一小隊の味方が居ても、有力な敵を巻き込めるなら撃つ指揮官はゴマンといる」

 

 武本がうへえ、とばかりに嫌そうな顔をする。

 

 「異種との戦争とはそういうものだ、過度に人道や戦力維持に拘泥していては、大局を奪われさらなる犠牲者が出る……その犠牲者とは、今を生きる人類だけではなく、その子孫のことでもあるのだ」

 

 「…………誰かを救うため、誰かを捨て石にする……私も、かつては」

 

 ────そして、その救われる側には間違いなく、自分が入っている。

 提督としての作戦指揮も、『太陽系からの脱出計画』も、その点では全く変わらない。

 

 「ま、どんな作戦を取ろうと、負けない限り犠牲者は出ないんだがな、何せ人間はこのベルメイトにしか居ない」

 

 「……身も蓋もありませんね」

 

 そう、このベルメイトの艦橋に居る武本が、この大マゼラン雲でおそらく、唯一の地球人類なのだ。

 

 

 さて、ガミラス艦隊はロングレンジからの魚雷攻撃を諦め、再び速度を上げて我々に向け加速を開始してきている。

 かくなる上は、肉薄しての砲雷撃戦で決着をつけようという魂胆だろう。

 そして、厄介な事に分散した陣を引いている、これは間違いなく波動砲の情報を掴んだが故の対応だ。

 

 そこから推測できる事実、それは、この攻撃はただ単に突っ込んできたというわけではなく、確固たる意思を持って、我々を撃滅しにかかっているということだ。

 ……おそらく、それは何らかの手段で我々に関する情報を入手し、戦力を増強する前に仕留めなくてはならないと確信しているから─────

 

 ────つまり、この星系の守備艦隊が得た我々の情報は、何らかの手段によって別の艦隊に引き継がれたのだ。

 そして、その艦隊が今、我々に向けて強力な戦力をもって牙を剥いている。

 ……おそらく、もはや情報の拡散を止めることはできないだろう。

 もしかしたら、大きな意味では連絡を行った者が本隊であり、前回の戦闘で撃破したのは囮に過ぎなかったと言えるかもしれない。

 

 ガミラスと我々の戦争という大局を見て語るのなら、間違いなくそうだ。

 彼らの死は……、忌々しいことに、無駄ではなかったのだ。

 

 

 「バイドシステム、ジギタリウスは補給を終え次第、編隊を組み敵艦隊の迎撃にあたれ」

 「タブロックは後退し、本格的な敵艦隊との砲雷撃戦に備えろ」

 

 艦載機隊の再補給を行うと共に、敵艦への攻撃に充てるため加速させる。

 敵艦と艦載機隊の会敵予想地点は本艦よりおよそ7光秒……。

 この距離では、会敵までに削れる量もたかが知れているだろう、敵も『巡戦』に搭載さているであろう艦載機を展開し、ミサイルと合わせた防空を試みてくるに違いない。

 攻撃を行うため前面に出していたタブロックは一旦本艦とノーザリーの居る付近まで下げ、敵の攻撃に備える。

 

 敵のアウトレンジでの雷撃は精度も低く、燃料不足により迎撃に対する回避行動も満足に取れない程度のものだったが、航空機による迎撃を牽制する意図はしっかりと果たしたということだ。

 飛び出したバイドシステム2小隊、ジギタリウス1小隊は数十秒の内に敵艦載機隊数十機と会敵した。

 

 「バイドシード砲発射準備!」

 

 「提督、波動砲は避けられてしまうのでは?」

 

 「強力な兵器というものは、敵に命中させるだけが能ではないさ、むしろそれが持つ圧力こそが、実際に使用され、敵を打ち倒すことに並ぶ兵器の価値だ」

 

 ジギタリウス小隊の前面にエネルギーが集中するのを認識したガミラスの戦闘機隊は分散し、攻撃を回避しようと試みる。

 

 「バイドシステム隊は加速し敵中央を突破せよ! ジギタリウス隊はバイドシステム隊を攻撃する敵戦闘機に対して順次バイドシード砲を撃て!」

 

 波動砲を警戒して隊形を崩した戦闘機隊を突っ切り、一直線で敵艦隊に向かい始めるバイドシステム2小隊。

 しかし、本隊にバイドシステム隊を素通しするわけにはいかない艦載機隊は、再び集合しバイドシステムに対してミサイル攻撃を行おうとする。

 

 そうして数瞬『立ち止まった』敵機に、バイドシード砲のエネルギー弾が次々と突き刺さっていく。

 十数機が宇宙のチリと化した所で、敵はたまらずバイドシステムへの追撃を諦め、バイドシード砲の斉射を終え艦隊に向かおうとするジギタリウスに襲いかかる。

 

 「ジギタリウス隊は遅滞戦闘に入り、バイドシステム隊との合流を待て、バイドシステム隊は敵本隊に対し、デビルウェーブ砲発射をほのめかしつつ接近し、分散状態にしつつフォースシュートと目玉ミサイル主体での攻撃を行え」

 

 「……敵はどう出るのでしょうか」

 

 生徒が教師にするように、武本が俺に問いかける。

 

 「すぐ分かることだ、考えながら答えが出るのを待て」

 

 武本の表情が、いつもの呆れ顔と半笑いが混ざったようなものに変わる。

 

 「とか言って、ハズれるのが怖いだけなんじゃないです?」

 

 「……まずは、ミサイルでの飽和攻撃、同時進行で重要性の低い艦を盾にし、バイドシステムの攻撃を耐えようとしてくるだろう」

 

 「旗艦を守るというならともかく、ある艦のために別の艦を盾にするようなことを、本当に実行するのでしょうか」

 

 武本の顔が訝しげに歪む、『犠牲前提の作戦を立てる軍隊があるか』という疑問だろう。

 

 「うむ、敵は単純な指揮系統や戦略的な重要性の他に、もう一つ、艦の重要度を定める基準を持っている可能性がある」

 

 「『もう一つ』……?」

 

 「ああ、これは俺にも確信が持てないのだが……、もしこれが真実なら、対ガミラス戦においてかなり有利になる」

 

 「……もったいぶらずに教えて下さいよ」

 

 「────いや、『ハズれるのが怖い』からな」

 

 そう言って俺がニヤリと笑ってみせると、反対に本格的な呆れ顔になった武本。

 それをよそに、俺は再び『意識』を戦場に集中させる。

 現場での行動こそ『我々』に任せたが、全体指揮を行うのが『俺/私』というのには違いない。

 敵の動きを通じて、俺が抱いた『確信の持てない情報』の正否を見極めるため、全機、全艦の『目』を凝らして敵艦を観測する。

 

 『敵艦隊、陣形を変化させました、同時に対空ミサイルを次々と発射しています、総数────』

 

 さあ、ここからが正念場だ。

 

→つづける




ということで、前後編のつもりが、三話構成になってしまいました。
色々有ったとは言え、中々更新できず申し訳ない……、次こそは早期の投稿を目指します。

あと、遅まきながら小説版買いました、ちょいちょい読んで設定の参考にしていきたいです。

(RC小隊システムは(多分)先人、『R-TYPE TRPG』様のオリ設定ですが、納得できるもので都合が良かったので、自分の解釈を交えつつ採用しました)


追伸:UA一万、お気に入り500、総合評価1000突破、皆さんありがとうございます!

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