俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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今回は例によって戦闘準備回です。
次回こそベルメイト回。


衝撃波発生システムベルメイト【1】

 状況を整理しよう。

 現在、我々はこの星系における第二惑星のラグランジュポイントに位置するガミラス軍基地を占領し、そこで惑星から引き上げた資源を利用し暫定艦隊旗艦『ボルド』を建造中だ。

 この場合、我々にとって重要なのは惑星ではなく基地、ひいては建造中の『ボルド』のみ。

 ……それすらも、最悪の場合所詮あぶく銭と断じて放棄してしまっていいのだが……、流石に、建造中の旗艦を見捨てるというのはしたくない。

 一方、敵は第四惑星軌道にワープアウトし、陣形を整え亜光速でこちらに航行中だ……。

 おそらく、どこかの時点で速度を緩め、艦隊を戦闘速度にしてから向かってくるだろう。

 亜光速領域での戦闘は同航戦の場合を除き非常に困難である上、無理に突入しても、敵がデブリでもばら撒き、それに突っ込んでしまった場合大被害を受けるという危険性まで抱えている。

 これはあくまで地球文明のセオリーに照らし合わせた内容だが、同じ物理法則に支配されている以上、ガミラスでもそれは変わらないだろう。

 つまり、この場合『敵はそこで速度を緩め作戦行動に移るか』が重要になってくるわけだ。

 

 「そのタイミングについては武本、君に判断してもらう」

 「君が持つ経験と戦訓の中から、ガミラスのドクトリンと地球を攻撃している指揮官の傾向……、その二つをどれだけ分離して認識出来るかがこの作戦のキモになるだろう」

 

 「責任重大、というわけですね……」

 

 武本は大分緊張した顔つきだ、話によると『鼠』の中でも大きくない船で経験を積んでいる最中だったと言うから、このような大規模作戦の中核は少々荷が重いのだろうか。

 

 「安心しろ武本、お前がどれだけトチろうと、この艦隊と俺の実力なら敵を全滅させるのに支障はない筈だ」

 

 あえてニヤついた、自信満々といった風の顔と口調でそう言ってやる。

 

 「……挑発には乗りません」

 

 「おう、乗らんでいい、……気楽にやれ」

 

 今度は爽やかな笑み。

 

 「流石歴戦ですね、提督は」

 

 「その通り、提督を拝命してから指揮した戦闘は42回、私はその全てで勝利を収めている」

 

 「そういう意味では無いのですが……、只の数年でそれとは感服するばかりです」

 

 む、言葉の意味は気になるが、ここでただ感服されてしまっては困る。

 

 「だから……、お前のケツはこの最強無敗の提督が持つと言っているんだ」

 

 「分かっておりますとも、閣下」

 

 今度は武本がニヤリと応えた。

 

 「それならよろしい、では作戦会議を開始しよう」

 

 

 

 

 数日前、ある植民星と、そのラグランジュポイントに設営された軍事基地が連絡を絶ったという。

 それに対し、我らが偉大なる故郷、崇高なる大ガミラス帝国の麗しき帝都バレラスの極めて優秀な司令部は賢明なることに速やかな対処を望み、近隣に存在する部隊を招集しその調査に当たらせた。

 

 ……つまり、私がこの不穏な気配しかしないクソったれな任務に従事する羽目になったのは、私の艦隊が本来の任務を終え帰投する最中だったからであり……。

 不運な偶然ということだ。

 

 とは言え、命令されたからにはやらねばならないのが職業軍人の辛いところ、私は艦隊に命令し進路を変更、まずは遠巻きにレーダーなどの観測で事態を明らかにすることにした。

 こういう場合、考えられるのは大きく分けて3つだ。

 一つは反乱、……だが、この星系は待遇もよく、軍人も十分に思想調査が済んでいる筈だ。

 一つは事故、……しかし、事故が起きた際、大規模な危険を産むような施設はここにはない。

 一つは蛮族の襲来、……ところが、蛮族が暴れてるのは小マゼラン雲、ここは大マゼラン雲だ。

 

 ……浮かぶ可能性、全てに否定材料がついて回る。

 しかし、可能性で言えばやはり、蛮族が最も高いか……?

 

 「各艦に『警戒を厳となせ』と通達しろ、もし蛮族だとして、地の利がない勢力が即座に星系外に飛び出すような真似は出来ないと思うが……、万が一ということがある、気は絶対に抜くな」

 

 「ザー・ベルク!」

 

 さて、鬼が出るか、蛇が出るか。

 一番ありがたいのは反乱により現地勢力が基地を占拠したってのだが……。

 基地がまるごと裏切ってるなら、この艦隊での対処は難しいだろう。

 蛮族ならば目も当てられない、圧倒的な戦力で星系を制圧した蛮族なんて、絶対面倒な事になるに決まっている。

 

 ………。

 

 ……………。

 

 …………………「司令、基地の生き残りを保護しました!」

 

 「『生き残り』……、すると、基地は外的要因により壊滅したのか?」

 

 やはり蛮族か?

 

 「はい、それが……」

 

 報告に来た部下が言いよどむ。

 

 「なんだ、お前の失態というわけでも在るまい、ハッキリと言え」

 

 「はい、いいえ!それが、向こうの責任者の言うことが要領を得ず……」

 

 「……錯乱しているのか」

 

 「その通りです、しかも、錯乱している上に垣間見える内容も滅茶苦茶で」

 

 滅茶苦茶とはどういうことだ?ただ単に錯乱しているだけでなく、記憶の錯綜まで起こっているということだろうか、それなら軍医を呼びカウンセリングから初めなくてはならないが……。

 

 「とりあえず、聞き取れた内容だけでも報告してくれ」

 

 「ハッ!」

 

 

 

 ───曰く、星系の外に突然中型の未確認艦が現れ、調査に向かった艦隊が全滅。

 事態を重く見て向かわせた艦隊が、映像データのみを残し、また全滅。

 星系を目指し向かってくる敵を撃退しようと敷いた外縁部での決戦から外され、もしもの時の連絡要員として残されたのが自分たち……だそうだ。

 

 『嘘や、妄想だと思うなら記録したデータカプセルを再生してみてくれ』

 『ガミラスのため、我々は敵前逃亡を行った敗北者として裁かれることを厭わずこの情報を残す』

 『頼む、敵はこちらの資材を取り込み戦力を増している』

 『今も、地上から資材を引き上げ超巨大な戦闘艦を建造しているのだ』

 『一刻も早く、連中を……、手遅れになる前に』

 

 

 ……なんだこりゃ。

 

 「とにかく、カプセルを再生したまえ」

 

 「ザー・ベルク、中央モニターに表示します」

 

 艦のモニターに、肉と機械が融合したような異形の艦、そして戦闘機らしき小型機体が表示された。

 ご丁寧に、予想されるスペック、動画資料なども添付されているようだ……。

 

 「……オイオイ、マジかよ」

 

 部下に聞こえないように、小さな声でつぶやく……口に出さなければよいのだが、出さずには居られない。

 ガミラスの技術では空想すらしない高機動で飛び回り、ダメージを与えても逆再生のように『傷口』を再生させる『生きた』戦闘機。

 山ほど魚雷をぶつけても煙の中から『分身』を炸裂させ、深い傷を癒やしながら現れる母艦。

 

 「極めつけに、これか」

 

 新造艦と思わしき、戦闘データの存在しない黄色い金属のトゲの塊。

 ……そして、奪取された基地を食いつぶしながら刻一刻とその全容を表しつつある、ガミラスの標準的な基準を4倍程上回る全長を持った赤黒い巨大艦。

 

 「タッパだけで言やあ、ゼルグート以上……か、化物だな、こいつは」

 

 その大きさは、ガミラス軍が持つ一番巨大な戦艦、ゼルグート級をもしのいでいる。

 最悪の場合、連中が持っているであろう超高性能な慣性制御装置によって、あれが通常艦並の機動で宇宙をかっとぶわけだ。

 

 「あ、あの艦の完成を許してしまったら……」

 

 部下がおののく、まあ気持ちは分かる……が。

 

 「……落ち着け、見る限り建造スピードからするとまだ余裕はある」

 

 「ですが……」

 

 「誰が放置すると言った、戦闘可能な艦を集結させろ、小惑星帯の歪曲ワープ航路を利用し、今すぐ連中に攻撃をかける」

 

 「ザー・ベルク!」

 

 「それと、先の戦闘での損傷艦にデータカプセルのコピーを与え……」

 

 全く、面倒なことになった。

 

 「連絡なき時は、速やかに本国にそれを持ち帰るよう、手配しておけ」

 

 余計な仕事を残しやがって……、恨むぜ、基地司令さんよ。

 

 後は任しとけ。

 

 

 

 

 ────敵が刻一刻と近づく中、ベルメイト艦橋で武本がガミラスの戦術についての説明を行う。

 

 「ガミラスは、基本的に一撃離脱の戦術を好みます」

 

 「それは、高い機動力から既に俺も予想済みだが、……基本的ということは、太陽系での戦いでは違ったのか」

 

 「はい、国連宇宙軍との戦いの当初、ガミラスは側面突撃や反航戦を多用していましたが……」

 「沖田宙将が艦首砲を活用した戦術により大戦果を上げた『第二次火星沖海戦』以降は正面、側面からの攻撃は減り、同航戦に持ち込んでくることが多くなりました」

 

 艦首砲……、この地球にもあるのか。

 艦首砲は、戦闘艦の艦首に装備された波動砲や陽電子砲などのチャージ兵器であり、艦隊決戦における切り札……、つまり必殺の兵器だ。

 その威力は折り紙つきで、旧式の戦艦のものでも『Rwf-9A』のスタンダード波動砲10機以上の出力を持ち、射線上に存在する駆逐艦までの兵器、構造体は全て消滅させてしまう程だ。

 

 「なるほど、技術力で劣っていても、艦首砲ならば敵艦の装甲を貫徹するだけの威力は出せたということか」

 

 「そういうことです、我々の主兵装であった回転砲塔の光線砲に比べ、全電力を用いて放つ決戦兵器、艦首砲として装備されていた陽電子衝撃砲はガミラスの砲熕兵器すら上回る威力を持ち、ガミラス艦艇をアウトレンジから貫いたり、切り裂いたりすることも可能でした」

 

 「しかし……、艦首砲頼みの戦術を立案、実行しあまつさえ成功に移すとは、沖田というのは相当剛毅な男のようだな」

 

 艦がすなわち砲塔そのものであり、大規模なチャージとインターバルを必要とする艦首砲は強力ではあるのだが、結局のところ信頼を持って常用するには適したものではない。

 この世界の地球艦艇が持っているものは全電力を用いるというのだから尚更だ。

 必殺の兵器とはいえ、一発ずつしか撃てず、撃つ前後は動けなくなるような大物を活かした戦闘など、よほどの限定的状況でしかありえないだろう。

 そんな代物を頼みにした作戦を実行するなど、我々の常識で考えるなら頭がおかしいか────

 

 「唯一ガミラス相手に明確な勝利を収めた、私の地球の英雄です」

 

 「間違いなく、そうだろうな……、一度会ってみたい所だ」

 

 「どうでしょう、提督とは、指揮官としても、人間としてもタイプが違うような……」

 

 「違うからこそ、会いたいのさ」

 

 さあ、これ以上は無駄口だ……、無駄口を叩いていられる程の時間的余裕はない。

 

 武本と共にガミラスの減速地点について議論を交わしながら、脳……と言っていいのかも分からない思考領域、その別の部分で考える。

 『俺/私』は『あの地球』への想いを絶たれ、『この地球』を救うことをもって、あの青い星への想いを果たそうとしている。

 ……しかし、我々も含めた、この俺本人としての想いはどうだろうか。

 沖田宙将の話を聞いて、脳裏をよぎった思考……。

 地球に帰って、英雄たちと盃を交わせたらどんなにいいだろうか。

 『この地球』にでも、帰れたとするなら。

 我々の故郷ではない地球にでも、帰る事ができるのなら、この望郷の念は果たされるのだろうか。

 

 ───しかし、この汚染物質の塊と言っていい私が。

 多数の意識が混ざり合い、人間とはかけ離れた精神となった俺が。

 明らかに、地球文明のパワーバランスを崩す戦力を持つ我々が。

 

 『この地球』に……いや、『地球』に帰ることが許されるのか。

 いや、許していいものなのだろうか。

 

 答えは出ないまま、時間は過ぎていく…………

 

 

 

 『敵艦隊、距離約3光分地点を0.6光速で接近中!』

 

 ”我々”の声がベルメイトのブリッジに響き渡る。

 

 『予想される減速地点まで、後4分23秒!』

 

 ……答え合わせの時間だ、武本はまるでテスト返しを待つ男子中学生のような……、期待と、それ以上の不安に満ちた顔つきを、ガミラスのように青くして俺の後方に突っ立っている。

 あまり士官が不安がると、将兵の士気に影響するからあまりよろしく無い。

 そう言ってやると、『どこに将兵が居るんですか』と、苦しげに軽口を返してきた。

 まあ、それくらいの余裕があるなら戦闘中に吐き出したりはしないだろう、ひとまず安心だ。

 

 「これは半分お前の作戦だぞ、武本」

 「しっかり見届けろ、お前の司令官の戦い……そして、勝利を!」

 

 

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タイトルはR-TYPE TACTICSのギャラリーから。

第二次火星沖海戦が艦首陽電子衝撃砲の運用による勝利、というのは
『R-101が26世紀に行った結果バイドが作られた』くらいの信憑性と非公式性を持つ定番の通説ですね。
(多分)公式設定ではありませんが、説得力があるので今回は採用しました。

※4月30日追記
 遅まきながら小説版を入手しました、それを確認したところ、しっかりと第二次火星沖海戦での勝利は艦首陽電子衝撃砲の使用によるものと書いてありますね……。


更新が遅くなっていますが、飽きたとかそういうのはでありません、単にリアルで色々あるだけなのです……、申し訳ない。


追伸:ラ、ランキングに乗っていた……だと……。(過去形)
   その他の値も尋常じゃなく伸びている……、これがランキング効果ですか…!
   とにかく、ご愛読ありがとうございます、色んな意味で、ご期待に添えられるかは分かりませんが、これからも精一杯執筆していきたいと思います。

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