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››ヨウこソ『ユグドライフ・オンライン』の世界へ。
››この場所ではアナタサマの分身となるプレイヤーキャラクターの作成してイタだきマス。
››ワタクシ、サポートNPC『Ⅸ(ナイン)』と共にアナタサマの旅の準備を致シマしょウ。
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バーチャルリアリティと言う技術が世に出回って、十数年。
VR対応ゲームと言うものが世間に広く普及し、VR専用マシンが開発されたてからさらに十年。
視覚対応のみならず、五感に対応した所謂『フルダイブ』型ハードの開発に成功してからさらに三年。
世界で初となるバーチャルリアリティマルチメディアオンライン…………VRMMOのサービス開始が布告されて五年。
三十年前まで夢のまた夢、後一世紀は実現しないと言われたVRMMOと言うかつて創作の中でしか見なかったと言われるゲームの数々は、けれど今ではまだ数は少ないが、決して見ない数では無くなっている。
とは言っても、その数もこれから一年の間にまだまだ爆発的にその数を伸ばすだろうと言われている。
全ての元凶は二年前。
『ユグドライフ・オンライン』の運営である『アーティファクトカンパニー』が自社初タイトルである『レジェンダリーアドベンチャーオンライン』と共に公式ページで配布した無料ダウンロードのソフトの存在が大きいだろう。
容量およそ8000
技術の発展により、市販のハードディスク等にテラバイトと言う情報量の単位が当然のように並べられるようになった現代ですら度肝を抜かれる情報量のソフト。
ペタバイトと言う大よそ日常においてまず見ることすらない単位に、それが何かも分からず気軽にクリックした人間の大半がHDの容量不足でDLに失敗した。
そもそも公式がその『ソフト』について一切の説明をしていなかったため、大半の人間はそれが何なのか気づくことすら無くその存在を忘れていった。
ダウンロードと表示されたバナーをクリックし、出てきたのは一つのダウンロードリンク。
そしてその上に表示されたたった二文字のアルファベット。
『SR』
その言葉の意味を誰もが理解せず、結局、意味の無い物としてほとんどの人間は無視をした。
一部掲示板ではゲームのデータが保存されている、会社の機密データだ、内部告発を潜ませているのだ、などと意見が飛び交ったが、8000PBと言う規格外のデータ容量に阻まれ、分割ダウンロードすらできないそのファイルを結局誰もが開くこともできず。
『レジェンダリーアドベンチャーオンライン』、通称LAO。
後に伝説の一作と呼ばれるようになったVRMMOのサービスが開始された。
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››マズはキャラクター名を決定してくだサイ。
››アナタサマの分身となるキャラクターの名前でありマスガ、現実(リアル)での名前や、現実でのアナタサマに結ビつきのアル名前ハ、ゲームプレイに支障をキタス場合がありマスので、オススメはしまセン。
››ハイ…………ハイ、ご理解いただケタようデ幸いデス。
››……………………イエスでございマス。当ゲームはID管理を行ってイルため、他のプレイヤーの方と名前ガ重複シテモ、問題ありまセン。
››ハイ、かしこまりマシタ。
››プレイヤーネーム『ナグモ』サマ、デスネ。認証いたシマシタ。
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『スーパーリアル』
現実を超えたリアル、と言うネーミングらしい。
そもそもの話、世界初のVRMMOのサービス開始から数年、未だにゲームは現実と同等にすらなっていない。
確かにリアリティの高い視覚を始め、VRMMOは五感に対応しているとは言え。
それでも所詮はゲーム、虚構の世界。そう言った『現実との感覚の差異』を残していた。
当然の話だ、そもそもゲーム内でどれだけ現実離れした存在を出そうと、その全ては『現実で創造』された物なのだ。
非現実的な物の中に残る現実味。それがどうしてもリアリティから偽物っぽさを残してしまっていた。
リアリティを追及し過ぎた結果、逆に現実との差異が浮き彫りになってしまっている。VRゲームにはそんな欠点があったのだ。
五感対応、それでも所詮はゲーム。
それが世間でのVRゲームに対する感想であった。
『レジェンダリーアドベンチャーオンライン』
そのサービス開始と共に、世間が…………否。
――――世界が激震した。
それまでのVRゲームとそれほど大きな差があったわけではない。
決してそんなわけでは無かったのだが、それでも違った。
――――これは違ったのだ。
それまでのVRゲームにあった僅かな差異。
それが全くと言って良いほど感じられなかった。
――――これこそが第二の現実。
現実と同じ感覚で、けれど現実よりも優れた自分であれる世界。
リアルを超えたリアル。
故に。
『スーパーリアル』
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››次はアナタサマの分身であるキャラクターの外見ヲ設定しマス。
››モデルとして現実でのアナタサマを設定いたしマスカ?
››カシコマリマシタ。現実のアナタサマの身体データをダウンロード、アバターに反映いたシマス。
››次に、ゲーム内でのアナタサマの種族を選んでクダサイ。
››種族には『ヒューマン』『ビースト』『デーモン』『ドラグーン』『アウター』の五種類となります。
››かしこまりマシタ。五種族の特徴を紹介させていただきマス。
››『ヒューマン』人間種族の総称でゴザイマス。総じて能力値は平均デスガ、器用度が高くなりマス。
››『ビースト』狼人、鳥人、兎人など種族ごとに能力値の高低がアリ、得手不得手に差異がありマス。
››『デーモン』総じて高い身体能力を持ちマスガ、特定の方法でしかエネルギーが回復できない種族デス。
››『ドラグーン』種族ごとに属性に対する耐性と弱点を持ってオリ、成長するとブレスが使えマス。
››『アウター』ドワーフやエルフなどが分類されマス。『ネイバー』との親和性が高い種族デス。
››以上でございマス。何かご質問がオアリでしょウカ?
››ハイ? 『ネイバー』についてでございマスカ?
››『ネイバー』は後に説明させてイタダキマス『固有魔法』と関係のある種族でゴザイマス。
››『ネイバー』は選べないノカ、でございマスカ。
››残念ナガラ『ネイバー』はプレイヤーの種族としては選択不可能となってオリマス。
››以上、質問が無けレバ、種族の選択をお願いイタシマス。
››ハイ、カシコマリマシタ。『ヒューマン』でございマスネ。
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現実と差異の無い、そして現実よりも優しい世界に、世界中のゲーマーたちがのめり込んだ。
それは余分な物のない『王道ファンタジー』をテーマにしたストーリーもまたそれを加速させたのだろう。
シンプルなシナリオ、だがそれを現実と同じ、否、それ以上のリアリティで楽しむことができる。それが多くのゲーマーを魅了して止まなかった。
何故こうも現実との差異が少ないのか。
多くの人間が疑問に持ち。
そしてその答えは実のところ、最初からあった。
『SR』
それが公式サイトに張られたダウンロードリンクに付けられた『名前』だった。
即ち。
『S(スーパー)R(リアル)』
超性能物理演算シミュレーター。有り体に言えば『物理法則の演算模倣機器』。
『世界創造ソフト』…………“ワールドクリエーター”とすら呼ばれた今世紀最大級にして至高のプログラムである。
何よりも凄いのは、『設定』を元に『物理演算』を行い『結果』を『創造』する。
つまり、今まで空想でしか無かった存在を『現実』の存在としてゲームの世界に文字通り『産み落とす』ことが出来るのだ。
それこそが『レジェンダリーアドベンチャーオンライン』を伝説の一作とまで呼ばしめたリアリティの秘密だった。
後々にして誰もが明らかなオーバーテクノロジーであると言った。
何よりも驚愕なのは、この『SR』を『無料公開』していた点だ。
誰も気づかなかっただけで、8000PB容量のハードディスクさえ用意できるのならば、誰でもLAOと同じリアリティのVRゲームを作ることができる。
明らかに社で秘匿しなければならないはずの技術が何故公開されているのか。
――――この『SR』の公開によってVRゲームは百年は時代の先を進むだろう。
後々この話が世間で公然の話となった時、あるマスメディアの人間が『アーティファクトカンパニー』の関係者に聞いた時、今のようなことを言ったらしい。
それは社長直々の指示であり、言葉だったらしい。
事実、そこから二年、『現実との差異』が限りなく無くなった真の意味でのVRMMOが次々とサービス開始を宣言される。
これから先も次々と数を増すだろう、そうして玉石混交となっていくだろうVRMMO界に対して『アーティファクトカンパニー』が前作『レジェンダリーアドベンチャーオンライン』から二年、新たなるVRMMOゲームを発表した。
その名を、『ユグドライフ・オンライン』と言った。
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››アバターの設定を完了いたしマシタ。
››最後にアナタサマと共に『ユグドライフ・オンライン』の世界を冒険する『ネイバー』にツイテ説明いたシマス。
››『ネイバー』はその名の通り隣人(ネイバー)と呼ぶべき存在デアリ、主に妖精や精霊などの種族が該当イタシマス。
››その体は『魔力』によって構成サレテオリ、物質的な肉体ヲ持ちマセン。
››『ネイバー』は隣人の名ガ指す通リ、五種族に非常ニ友好的ナ種族デアリ、プレイヤーであるアナタサマと共に冒険し、ソノ冒険をサポートしてクレマス。
››また『ユグドライフ・オンライン』の世界デハ『スキル』と呼ぶベキ物が存在いたしマセン。ただし、現実と同じヨウに動けマスシ、行動にはステータスに応ジ、『システムアシスト』が発動イタシマス。
››デスガ『魔法』と言う物はドンナ存在も単独デハ発動することがデキマセン。
››五種族は『魔法』の発動に必要な『魔力』を持たず、体を『魔力』で構成する『ネイバー』は『魔力』を『魔法』に転化する術を持ちマセン。
››そこで『ネイバー』を自らの体に宿スコトにより、プレイヤーのアナタサマは『魔法』を発現させるコトガ可能となります。
››『魔法』はプレイヤーのミナサマがお持ちデスガ、多種多様な『魔法』の中カラドンナモノが発現スルかは、プレイヤーのミナサマのプレイングによって変ワリマス。
››『魔法』は一つトシテ同じモノは無く、プレイヤーのミナサマ『固有』の物トナリ、ミナサマの冒険の心強いチカラとなってクレるでショウ。
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あの『SR』を産み出した会社の最新作。と聞いて、誰もが期待を抑えきれなかった。
事前情報ではまたもや新しい『システム』が搭載された、これまでのゲームの常識を一遍させるとんでもない物となる、と言う噂が飛び交っており、その期待は非常に高かった。
だがサービス開始までその詳細は分からず多くのゲーマーたちをヤキモキさせてきた。
余談だがこの『アーティファクトカンパニー』と言う会社。
一切の事前テストを行わない。
αテストも、βテストも行われず、恐らく会社の内部で独自に行われているのだろうと言う予想が立てられていたが、今回もその例に漏れず一切のテスター募集の告知は行われなかった。
そうしてサービス開始当日。
唐突に公式ページに一つのページが追加された。
『新要素』
そう書かれたリンク。
そうしてそこに書かれた内容に、誰もが目を剥いた。
『感情シミュレーター』『フィクションシステム』の実装。
サービス開始までの数時間の間ではあったが、ネット界隈が騒然となった。
まさか、まさか、聞こえてくるのはそんな声ばかり。
『感情シミュレーター』
その意味を多くの人間が意見をぶつけ合い、けれど答えは出なかった。
そしてサービスが開始され、誰もが驚愕に目を見開く。
ゲームの中に居たのは…………紛れも無い『人間』だった。
ゲームの中には大別して二種類のキャラクターが存在する。
一つがPC、プレイヤーキャラクター。
プレイヤー自身が操作するキャラクターのことだ。
もう一つがNPC,ノンプレイヤーキャラクター。
プレイヤーキャラクターではない、ゲーム作成側が用意した『中身』を模倣するゲームの盛り上げ役だ。
極論を言えば、RPGなどに出てくる敵だってNPCと言って良い。
当然だが人間が操作するプレイヤーキャラクターと違って、ノンプレイヤーキャラクターは『設定』された言動を取るだけの人形のような存在だ。
それが当たりまえだった、それが当然のはず…………だったのだ。
『感情シミュレーター』によってそれは全て過去の物となった。
そこにいたのは感情の無い設定されただけの言葉を喋る『人形』などではない。
確かに生きた、感情も意思もある『人間』だった。
――――我々は第二の現実を産み出した。
後に『アーティファクトカンパニー』の社長が語った言葉を。
この時、誰もが実感していた。
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››以上でキャラクタークリエイトを終了致しマス
››ソレデハ、ナグモサマ。
››この『ユグドライフ・オンライン』の世界での、良い日々をお過ごしクダサイ。
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VRMMOって前から一度書いてみたかったんや。