史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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こんにちは、紅河です。

ついに、ここまで来ました。決勝戦です。
 
何故、本来の一輝の仕合をカットしたのかは、後書きに書きます。

では今回もお楽しみ下さると嬉しいです。


BATTLE.62 決戦前夜

 あの事件から数日が過ぎた。

 代表選抜戦も順調に進み、残すとこあと一仕合と迫っていた。俺としては、もう最後かって感じだが。少し寂しい気もするな。

 

 四月から始まった代表戦、なんかあっという間だ。

 俺、一輝やステラ、アリスと共に問題なく勝ち進んでいる。

 

 学園ではクライマックス感が漂っているのか、程よい緊張感が俺達を包み込んでいる。

 

  

 一輝の捏造事件でステラとの噂がながれ、クラスメイトや学園の生徒達が詰め寄ってくるかと思ってはいたが、それほど来ることはなかった。

 

 

 昨日、黒乃理事長の言ってた通りか。連盟が手を回してくれたんだな。流石、黒鉄さんってところか?仕事が早い。

 

 そのお陰か、普段通りの学園生活を送れている。

 周囲の人達は最後の仕上げとばかりに、昼休みや放課後に模擬戦を行う伐刀者があとを立たない。

 次が不安なんだろう。

 あと少しで代表になれるかもしれないのだから。

 

 

 俺はというと、机に突っ伏しながら、そいつらを見ていた。

 っと、携帯の着信音が鳴った。なんとそれは連盟からの次の対戦相手の知らせだった。

 

 対戦相手か。

 どんな奴だろうな?

 メールの続きを見ようとするたびに高揚感が熔岩のように少し、また少しと沸き上がってきた。

 これは武術家の性だ。どうも仕合となると胸が高鳴って仕方がない。

 が、これまでまともに戦ったのは第六回戦、❮鋼鉄人❯こと剛鐵寺先輩のみだ。

 ま、一回戦目の中川も戦ったってのは間違いなんだが・・・。あの時は小手調べ程度だったからな。そのお陰か剛鐵寺先輩以降の仕合、気当たりのみで問題なかった。

 

 

 ここの人達は人を蔑むばかりで、自分自身を諦め、努力もせずダラダラ学生生活を謳歌するばかり。気当たりが効いたのは実践経験のない学生であったり、生半可の生徒がほとんどだったからだ。

 

 ただの学生ならそれでいいのかもしれない。

 でも俺達はあくまで伐刀者だ。

 鍛練しなければ、例え、能力を持つ伐刀者であってもただの人に落ち着いてしまう。

 そして、伐刀者には命を張る戦いってのが付いて回る。

 それはつまり、死を覚悟するってことだ。

 だから、この七星剣武祭の代表選抜戦では実践形式なんだ。実践がどれ程危険かそれを学生達に理解させるために。

 

 殺意が埋めく戦場で一度戦いが始まってしまえば、一瞬の油断で命を落とす。

 もし、仮にここの人達が戦場で生き抜いたとしよう。しかし、本物の殺意、殺気に当てられ敗北してしまえば、もう立ち上がることは出来ない。

 

 ただ生きるだけならば問題はない。

 生きるだけならな。

 しかし、本物の戦いとは恐ろしいのだ。ただ、生き残っても、その武術家、伐刀者の心にはトラウマが芽生えることになる。そうなれば、もう二度と戦いに身を投じることは出来なくなる。

 ここには子供が多すぎる。

 だから、俺にはそれがほんの少し、心配だ。早めに鍛練しておけばいいものを・・・。

 俺には師匠がいたし、実践経験も積んでる。

 けど、俺が師匠と会わず学生のままであっても自分を磨く努力は怠らなかっただろう。そうしないと、夢には到底届かないから。

 

 人の進化には努力が不可欠。

 それが世の理だ。

 

 さて、気になる俺の相手は・・・っと。

 ってマジかよ。

 よりにもよってあの人か・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのメールには破軍学園、序列第二位 貴徳原カナタの名が記載されていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで!お疲れさん」

 

「あ、ありがとうございました・・・」

 

 はぁ・・・はぁ・・・しんどい・・・。やっぱり、この人の稽古だけは一向に慣れないわ・・・。

 私が息を切らしながら、床に横たわる。

 私は今、第三訓練場にて、真琴さんの手ほどきを受けていた。

 

 明日で最後の仕合だというのに、私に稽古をつけてくれている。

 自分の訓練もしたいでしょうに、真琴さんをそうさせているのは、自分の力に揺るぎない自信があるからなのか、はたまた優しいからなのか、それはきっと両方なのでしょうね。

 

「す、すみません。最後までお世話になってしまって・・・」

 

「別にいいさ。俺だってお前のロングレンジに助かってるからな」

 

「助かる?」

 

 

 ああ、なるほど。そういうこと。

 

 

「だから、ここ数日の稽古では模擬戦形式だったんですね」

 

「そうだ。一応、ロングレンジやアウトレンジの相手の経験はあるが、少しばかり不安が無いわけじゃないからな、相手が相手だし」

 

「貴徳原カナタさんでしたね」

 

「・・・ああ」

 

 真琴さんの顔が一瞬、険しい表情へ移り変わった。

 それほどの相手ということ?

 序列第二位は伊達ではないってことね。

 

「そんなに強いのですか?」

 

 私が近くのドリンクに手を伸ばしながら聞くと・・・。

 

 

「・・・俺が本気を出すくらいには」

  

 と、答えた。

 

「真琴さんの本気、ついに見られるんですね」

 

「出さざるを得ないって感じだ。本当は見せたくはないんだけどな」

 

「手の内が知られるから?」

 

「そう」

 

「これまで、ほとんどの仕合を気当たりで乗り気った人が、それを言います?」

  

「使える手を最大限使ったまでだ」

   

「ふふっ、明日の仕合、楽しみにしておきます」

 

 そろそろ、立たないと・・・。

 

「ほらよ」

 

 すると、真琴さんが私に手を差し伸べる。

 

「ありがとうございます」

 

 その厚意に甘えさせて貰いましょう。

 

「それじゃ、今日は解散。また、明日な」

 

「ハイ、お疲れ様でした」

 

 私が別れの言葉を話すと、真琴さんは出口の方へ向かっていく。

 

「真琴さん!」

 

「ん?何だ?」

 

 私の声に気付いた彼が振り向く。

 

「私、信じてますから」

 

 昔の私だったら絶対に言わなかった言葉。他人を応援する言葉を・・・。

 

「代表の座を勝ち取るとこ、私に見せて下さいね」

 

 彼は少しばかり驚いたような表情を見せると。

 

「おう!」

 

 私に、笑って答えてくれた。

 

 

 

 

 

「珠雫、お疲れ様」

 

 物影から聞き馴染みの声が聞こえた。私のルームメイトの声だ。

 

「アリス」

 

「真琴、明日仕合なのにガッツリ模擬戦しちゃっていいのかしら?」

 

「あの人の体力は化物クラスだもの、アリスが気にすることないわ、それに」

 

「それに?」

 

「私との戦いで息切れすらしないのよ?」

 

「模擬戦中ずっと?」

 

「そう」

 

「何戦やったの?」

 

「十試合くらいだったと思うわ」

 

 きっと、彼女も驚いたのね。その話を聞いていたアリスの目が真ん丸に変化していたわ。

 

「はぁ・・・流石ってところね。一輝と真琴には驚かされてばかりだわ」

 

「ええ」

 

 それには私も同意する。

 

「それじゃ、終わったなら帰りましょ」

 

「アリスも明日、頑張ってね」

 

「任せて!」

 

 彼女はウィンクで私に返してくれた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後六時を回った。

 俺はというと、刀華の部屋に来ている。

 仕合前の最後の夜くらい、好きなとこで過ごしたいからだ。

 

「明日で最後だな」

 

「うん」

 

 お互い、ソファーに座ってるだけなのに、妙に緊張している。己の心臓は高鳴るのを止めなかった。 

 

 

「楽しみか?」

 

「もちろん」

 

 会話は必要最低限だ。

 恋人として、もっと会話をしたいところだけど、それどころではない。 

 その放った声には刀華の期待が嫌と言うほど練り込んであった。

 

 それほど、最後の相手が楽しみで仕方ないようだ。

 

「まこ君の相手はカナちゃんでしょ?」

 

「ああ」

 

「・・・ねぇ、まこ君」

 

 彼女が俺の方へ身体を向けた。

 

「ん?なんだ?」

 

 俺も向き直る。

 

「二人で最後の最後まで行こうね」

 

「・・・ああ」

 

「約束だよ?」

 

「約束だ」

 

 彼女が小指を差し出す。

 指切りげんまんだ。

 断る理由もない、俺も小指を差し出した。

 

「「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った!」」

 

 刀華とは初めての指切り。

 俺の中では複雑な思いが交錯していた。ライバルとも約束があるからだった。

 煮え切らないまま、指切りを終えた。

 

 

 

 帰るころには辺りは暗くなり、時刻は午後八時だ。  

 夕飯を食べ終えたり、様々なお宅でお風呂の準備が進んでいるころ。俺は携帯電話を取りだし、ある場所へ電話を掛けた。

 

 

「もしもし、真琴です」

 

「もしもし、風林寺です」

 

 声の主は真琴の師匠、白浜兼一だった。

 

「あれ、師匠が出るんですね。てっきりアパチャイさんかと」

 

「アパチャイさんは明日の準備に取りかかってるよ。久し振りに真琴に会うからって張り切ってる」

 

「旅行でもないのに?」

 

「ああ。よっぽどお前との再会が嬉しいんだよ」

 

「弟子としては嬉しいですね。明日は全員で来るんですよね?」 

 

「勿論!当たり前じゃないか!可愛い弟子の舞台なんだ、応援に行くに決まってるだろ?」

 

「これは、恥ずかしいとこ見せられないな・・・」

 

「真琴なら平気さ、信じてるぞ」

 

「・・・はい」

 

 師匠からの期待。

 俺が敗北することになれば、師匠達、各流派の泥を塗ることになる。

 それでも師匠は俺を信じ、送り出してくれた。

 

 その期待に応えなきゃ弟子として、失格だ。

 

「遅刻しないで来てくださいよ?」

 

「任せろ。早めに梁山泊を出ることにするから」

 

「なら、安心ですね。それじゃ・・・」

 

「もう、いいのか?」

 

「はい。少し不安だったんですけど、師匠の声を聞いたら気分が晴れました」

 

「そっか。じゃ、明日学園でな」

 

「はい、お休みなさい」

 

「おやすみ」

 

 師匠との電話を切る。

 ふと、目を閉じ、明日へのプランを立てていく。 

 最後の相手は貴徳原カナタさん。校内位階序列、第二位。絶対に油断は出来ない。

 切り札は惜しまず使う。

 師匠から授かった、技の数々。

 自分で編み出した技も、全部。

 明日にぶつける!!!

 何がなんでも、俺が、勝利をもぎ取ってやる!!

 

 

 ❮落第の拳❯近衛真琴VS❮紅の淑女❯貴徳原カナタ。

 目に見えない伐刀絶技、星屑の剣を持つ強敵。真琴はどう対処するのか・・・。

 

 対する、❮雷切❯東堂刀華の相手は❮落第騎士❯と皆に蔑まれ、疎まれた伐刀者、真琴の元ルームメイトにして親友である、黒鉄一輝。

 

 

 

 お互い、負けられない戦いの火蓋が切られることとなる。

 

 

 

 





楽しんで頂けたでしょうか?

本来の落第騎士のストーリーであれば、一輝が連盟に捕まり、そこで仕合を行います。ですが、前回一輝が連盟へ赴いたことと、自らの提案で捕まるのを阻止。本来に従うのであれば一輝の仕合をやるべきでしょうが、これ以上の蛇足は要らないと判断しカット。
これからの展開に真琴の仕合を一つ挟む予定でしたが、これもカットし、このような展開にしました。

まぁ、本音を言うとグダグダ長くするより、終わらせた方がいいかなと思ったからです。このような展開になってしまい、申し訳ございません。


御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!Twitterもやっております。メッセージなどはこちらでも構いません。@Kouga_115634です。お待ちしております。



次回更新予定日は未定です。次回の更新予定日報告はTwitterと活動報告にて発表致します。気長にお待ちいただけると幸いです。

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