史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

58 / 66
BATTLE.57 これから・・・

「珠雫、負けちゃったわね」

 

 珠雫VS刀華の対戦後の廊下でのステラの一言。

 そう、黒鉄珠雫は負けた。雷切に切って落とされたのだ。

 

「・・・ああ」

 

 真琴の返しは、いつもより遅く感じられた。 

 何故なら、真琴は少なからずこの対戦に責任を感じているのだ。

 

 四六時中、朝から晩まで、暇がある度に、珠雫に稽古を付けていた。

 珠雫はもはや、❮弟子❯と言っても過言ではなかった。そう、真琴の生まれて初めての❮弟子❯だ。

 いつも、教えられる側だった。

 梁山泊で・・・。

 兼一に、美羽に、長老に、逆鬼に、秋雨に、アパチャイに、剣聖に、しぐれ、鼠の闘忠丸でさえ、真琴は教えられた。

 武術から、何から何まで全てだ。

 弟子というカテゴリーから抜け出せずに居た、真琴。

 ここに来て、漸く、漸く、師匠という立場にたどり着いた。

 

 と言っても、真琴の強さは未だ妙手。師匠としての道も、武術の道も、始まったばかりなのだ。

 

 ただ、弟子が負ければ師匠の流派に傷が付く。これは今の真琴にも言えること。

 真琴は顔には出さない、しかし、その心の中には『後悔』が巣くっていた。

 珠雫を完璧に鍛え上げられなかった、自分への責務。それが、真琴の中で渦巻いていたのだ。

 

「・・・真琴」

 

 真琴の方へ振り向く一輝。

 

「有難う。あそこまで珠雫が戦えたのは真琴のお陰だ」

 

 突然のお礼の言葉。

 しかし、真琴にとっては嬉しいような謝りたいような、そんな感情が心の中で交互に顔を出していた。

  

「いや、礼を言われるほどじゃない。俺の方は謝りたいさ、珠雫を完璧に鍛え上げられなかった。すまない」

 

「いや、それは違うよ。珠雫は真琴とよく訓練をしていたみたいだけど、もし、珠雫が真琴の稽古を受けていなければ、東堂さんに一矢報いることも出来なかったはずだ」

 

「イッキ・・・」

 

「珠雫・・・強く・・・強く、なったんだな・・・」

 

 

 その青年の言葉は兄なりの誉め言葉だった。

 この事を妹である珠雫は知らない。

 今はカプセルにて治療中のはずだからだ。

 

 立ち上がってくれることを祈るのみだ。一輝達の舞台まで・・・。

 

 何故なら、闘いでは順調に勝ち上がった者が大敗することで、永遠に負けてしまうという事例が多くある。

 珠雫がそうならないよう、祈ることしか一輝達には出来なかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 それから、数時間のこと。

 辺りの暗く、月光の淡い光が窓から治療中の部屋を照らしている。

 まるで、その体を労うように・・・。

 

 珠雫もその一人。

 破軍学園がもつ、自分の病室にて治療中だ。

 そこには誰もいない。

 珠雫、ただ独りだ。

 

「(私は今まで何をやっていたの・・・?彼処まで鍛練したというのに、まだ足りないの?私の、お兄様への愛はこんなモノだというの!?)」

 

 珠雫の中にあったのは後悔と自分自身への怒りだった。

 

 他人に、真琴にも手解きを受けたというのに敗北。応えることも出来なかった。

 負けてからずっと独りで考えている。他人の助力は今は要らない。

 仕合で必要なモノは結局のところ、今までの技の鍛練と信念しかない。仕合で戦うのは他人じゃなく自分なのだから。

 

 黒鉄珠雫という人間だけだ。

 これは近衛真琴も、黒鉄一輝も、ステラ・ヴァーミリオンも一緒。

 

 だからこそ、鍛練が必要で、自分の弱点を消せる手段が必要だ。

 そのことをあれからずぅっと考えていた。

 

 この思考は夜遅くまで続いた。

 自分の弱点を克服するなにか。

 それを見つける。

 自分自身を護れるのは結局のところ、自分だけ。

 そのことを自覚した上で、クロスレンジに対する“答え”を見付けなければ・・・。

 

 少女が見つめ直しをしているころ、その師匠といえる人物は自分の部屋でなにやら、電話をしているようだ。パソコンを開き何か作業をしている。

 

 

 

「ってことだ・・・。ソイツが黒とみて間違いないようだぜ?」

 

「そうですか・・・。ありがとうございます、ロキさん」

 

「これが俺の仕事だからな。アイツからの依頼じゃなければ、断ってたところだ。最近、忙しいからな」

 

「もう、有名な探偵事務所ですもんね」

 

「お陰さまでな」

 

 今、真琴が話している人物は元ラグナレクのメンバーにして、第四拳豪として知られるロキ、本名鷹目京一である。今から数十年程前、兼一と新島率いる新白連合と何度も死闘を繰り広げていた、ラグナレクという不良グループに所属していた人物だ。

 兼一達の手によってラグナレクが解散し、ロキこと鷹目京一は探偵事務所を開業し探偵としての一歩を踏み出した。

 

 今でこそ、有名な探偵事務所であるが、開業したての頃は依頼者が一人も現れず廃業寸前まで追い込まれた。

 しかし、新島春男という人物が探偵仕事を回してくれたお陰で今の状態へ発展することが出来たのである。

 

 新島繋がりでロキとは度々、会っていた真琴。

 稽古を付けて貰ったり、兼一の意向で仕事を手伝ったりもしていた。『裏社会科見学』と称して様々な現場に行かされている。時には危険なことも・・・。

 

 そんなこんなでこの二人は仲良くなり、ある程度親交もあるのだ。

 

「情報提供ありがとうございました」

 

「いいって事だ。そうだ、真琴、梁山泊を辞めてこっちに就職したっていいんだぞ?」

 

「いつも言ってますけどそのつもりは有りませんよ。梁山泊が帰る場所ですから・・・、それに父さんとの夢がまだ叶ってませんし」

 

「そうか。こっちはいつでも席を空けとくから、気が向いたら連絡するしてくれ。じゃあな」

 

「はい、失礼します」

 

 ブツ・・・。

 と、電話音が切れる。

 

「さて、準備は整った。あとは機会を待つだけだ」

 

 そっと、パソコンに差してあったUSBメモリを抜きとった。

 

 

 

 こうして、夜は更けていく・・・。 

 人間の思惑が蠢きながら、人間(ブレイザー)の技の進歩が進みながら、それを知らない人間も居ながら、夜は朝へと進んで行く。

 時間は有限だ。

 人間一人一人に与えられた時間は二十四時間のみ。

 それを有効的に使えるのかどうかに未来は掛かっている。

 

 それは真琴も一輝もステラ、珠雫だってそうだ。

 時はあっという間に進む。

 高校生なら尚更だ。何もしなければ、ソイツの未来は暗い夜棘道になるだけだ。

 

 どう進むかは人間次第。

 どう、努力するかも人間次第。

 人間が前へ進むために必要なのはとにもかくにも、『努力』が必要不可欠なのだから・・・。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「生徒会へ呼び出し?私達が?」

 

「うん。そうみたいだよ」

 

「何かしらね?」

 

「さぁ?とりあえず行ってみないことには・・・」

 

 放課後、一輝とステラの二人は生徒会室へ向かっている。

 先日、合宿掃除を手伝ったのが切っ掛けなのか、またこの二人に白羽の矢が立ったのだ。

 

 トントンッと扉にノックする、一輝。

 

「失礼します」

 

「どうぞ~」

 

「一年の黒鉄一輝です」

「同じく、一年のステラ・ヴァーミリオンです」

 

「お、さっきぶりだなぁ」

 

 扉を開けると、そこにはよく知っている人物がゲームをしながら待っていた。

 

「マ、マコト!?アンタも呼ばれたの?」

 

「まぁな」

 

「んじゃ、役者も揃ったところだし、話を始めますか」

 

 御祓泡沫がここを仕切り、話を繰り出した。




いかがでしたか?
少し短かったですが、楽しんでいただけたでしょうか?



御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!Twitterもやっております。メッセージなどはこちらでも構いません。@Kouga_115634です。お待ちしております。


次回更新予定日は3月6日~7日の17時00分~21時00分とさせていただきます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。