史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

55 / 66
BATTLE.54 襲撃

 俺と生徒会の皆さんは、合宿場のロビーにて寛ぎ、刀華の到着を待っていた。

 黒乃理事長の命令で、リフレッシュ旅行とは名ばかりの雑用を頼まれ、一つの合宿場に来ていた。

 

 

「遅いですね」

 

 と、ポツリと溢す。

 遅い。

 

 一輝達が滝を見に行くと言って合宿場を後にしたのだが、その帰りが遅い。

 出掛けてからもう数時間は経とうとしている。

 一時間~二時間位ならまだいい。

 そのくらいだったら心配はいらない。

 だがもう、三時間半間近だ。

 帰ってもいい頃なのに一向に帰ってくる気配がない。

 

「確かに遅いね」

 

 うたさんが俺に便乗した。

 

「刀華の方はもうそろそろ着くみたいだよ」

 

「やっとですね」

 

「いつも通りの刀華だねぇ」

 

「会長、遅刻するときはめっぽう遅いですもの」

 

「そこが会長の良いところなんだけどね」

 

「それはそうと、俺、一輝達を探してきます」

 

 何か嫌な予感がする。胸騒ぎというかなんというか・・・。

 

「こんなに遅いもんね。なにかあったのかもしれないね」

 

「私達はここで会長を待ってますわ」

 

「俺がなかなか戻らなかったら・・・」

 

「某達が血眼になって探し出す。心配はいらぬでござるよ」

 

「ありがとうございます。では行ってきます」

 

「行ってらっしゃ~い」

 

 生徒会の皆さんを残し、一輝達が向かったであろう滝へ足を進めた。

 ここに来たときは快晴だった空もなんだか、薄暗く曇って来た。

 

「二人に何も無ければいいが・・・」

 

 俺は薄暗い、深い林の中を入っていく。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 時は遡り、真琴が出ていく数十分前のこと。

 当の二人は林の中を歩いていた。

 野生の動物達の囀り、新鮮な空気、自然豊かなこの地を堪能していた。

 

「空気が澄んでて美味しいね」

 

 グイっと身体を伸ばす一輝。

 

「う、うん」

 

 言葉を返すが少し、反応が薄いステラ。

 

「ねえ、イッキ?」

 

「ん?どうしたの?ステラ」

 

「この前の交流組手のことなんだけど」

 

「兼一さんとの?」

 

「うん」

 

「私、初めてだったの・・・」 

 

 顔を背けるステラ。

 

「・・・ん?何が?」

 

「どうやっても勝てない、これまで積み重ねてきた全ての努力が通じない、とてつもない敗北感を味わったの・・・。生まれて初めてよ、〝勝てない〟って思ったの」

 

 左肘に手を当てながら、そう語った。今まで振る舞ってきた明るい顔付きが一変していく。

 

「ステラ・・・」

 

 どんよりと落ち込んでいったが・・・。

 それは、一瞬だった。

 

「でも、いいの!こんなにも強者と戦えているんだのも!」

 

 だって、故郷じゃ私より強い人なんて現れない。仮に居たとしても『Aランクだから』『天才には勝てないし』と言い訳をされて戦ってくれなかったんだから。

 

「日本に来てから私より強い人がいることを知った。マコト、兼一さん、美羽さん、アリスに・・・それから、ちっこい珠雫も」

 

「ちっこいは余計だよ?」

 

「いいの!珠雫は居ないから!それに、イッキにも・・・」

 

 モジモジとくねり始めるステラ。どうみても照れている。

 

「うん。僕も君と会えて嬉しいよ」

 

「ねえ、イッキはどう思ったの?兼一さん達のこと」

 

「僕かい?僕は・・・」

 

 青年がその口を開く。

 

「あの戦闘は全て兼一さんの手のひらの上だったような、そんな感じがするんだ」

 

「え?全て?」

 

「うん」

 

 そう告げる一輝だったが、ステラはどうも納得いってない様子だ。

 

「だって、イッキの剣技、炸裂してたわよ?」 

  

「あの時は確かに技は発動した。けどそれも全部含めて兼一さんの計算の内だと思う。僕が技を放つ前から分かってて、僕を引き立てるためにわざと受けてくれたんじゃないかって思うんだ。これはあくまで僕の仮説に過ぎないけど。それに、蜃気狼は虚実技だからヒットしない限り確かめれない」

  

「そうだけど・・・」

 

「しかもあの時の実力は僕らと同じか、それより少し上にして戦ってくれてたんじゃないかな」

 

 ステラはその一輝の言葉を聞いた瞬間、ある事を思い出した。

 達人級である白浜美羽と戦いの最後、美羽の放った突きで沈んだ時に、それまで防いでいた妃竜の羽衣(エンプレスドレス)が打ち砕かれたのだ。

  

「そう、かもしれないわね。美羽さんの最後の突き、これまで受けた攻撃とは少し・・・質が違うように感じたわ。それに戦い方も、最初の方は大雑把でありつつも歯応えがあるような感じで、最後のはなんか一切隙のない動き、完璧なる突き、そんな感じだったわ」

 

「・・・何となく分かるよ」

 

「もし、美羽さんが弟子級緊湊で戦っていたら私は為す術もなく、負けていたでしょうね」

  

「うん。こんな経験することは滅多にないよ」

 

「え、ええ。そうね」

 

 二人が林の奥へ、奥へ、と歩いて行く中、ステラの様子が変化が訪れた。

  

 私、どうしたのかしら。

 頭の中が気持ち悪い・・・。

 なに、これ・・・。

 

「・・・セッティングしてくれた真琴に感謝だね」

 

 スッと振り向くとそこには木に寄り掛かるステラが・・・。

 

「ステラ!?大丈夫かい!?」

 

「頭が痛くて・・・それに体もなんだかダルいわ・・・イッ・・・」

 

「ステラ!」

 

 ステラが倒れ込んだ。それを一輝は抱き抱える。

 急な登山に体がついて来なかったのだろうか?

 いや、そんなに彼女は柔ではない。ふと額を触ってみると普段の体温より熱い。

 熱を発して、どうやら風邪みたいだ。普通の風邪より悪いみたいだが・・・。

 

「何処か、休めるところを探さないと・・・」

 

 ◇◆◇◆◇

 

「ったく・・・こんな時に雨か・・・。山の天気は安定しないとは聞くが・・・早く二人を探さないとな」

 

 馴れた足取りで林を進んでいく。

 師匠との修業で山籠りしていた経験もあってか、どの場所に何があるか、どの道を進めば本道に戻れるのか、目星はある程度は付ける。

 雨となると雨宿りしてるだろうな。

 だったら、雨宿り出来る場所を探すか・・・。

 

 ん?

 携帯に連絡?

 うたさんから?どうしたんだろ?

 

「はい、真琴です」

 

「あ、真琴君?黒鉄君達は見付かった?」

 

「いえ、まだです。それよりどうたんですか?」

 

「いやね、さっき連絡してみたんだけど。どうやらステラちゃんが途中で体調崩しちゃったみたいでね、黒鉄君達は山小屋にいるみたいなんだぁ」

 

「そうなんですね、そういえば道中で山小屋を見掛けました」

 

「もしかしたら其処にいるのかもしれないねぇ」

 

「それじゃ俺が先に見てきます」

 

「うん、宜しくぅ。後で僕達も合流するから。あ、刀華も無事来たから一緒に行くよ」

 

「はい、分かりました。お気をつけて」

 

 刀華も漸くか。

 掃除も終わったのか?

 よし、まずは一輝達だ。

 恐らく、彼処の小屋だろう。行くか・・・。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 ゴリッゴリッ。

 ゴツッゴツ。

 不自然な物音だ。どうやら外からのようだ。

 

「うん?なんだこれ。ステラ、ここに居てね」

 

「う、うん。気を付けてね・・・」 

 

 一輝が外に出ると、この風景には場違いな巨岩のゴーレムがこちらへ歩んで来た。

 

「な、何故こんな所にゴーレムがっ!?来てくれ、いん・・・」

 

「よせ!一輝!コイツは俺に任せておけ!」

 

 と、聞き覚えのある声がこの森に木霊する。

 

 ・・・我が身を護れ! 甲鉄陣 玉鋼!

 

「くらえ!❮風林寺千木車❯!」

 

 真琴が腕を交叉させそれを前にし、切りもみ突撃を繰り出す。

 これは❮風林寺千木車❯。

 元々は風林寺砕牙という人物の我流技。風林寺という名で分かる通り、風林寺隼人の血を受け継ぐ者。しかも血の繋がったの実子である。ということはつまり、美羽の父親だ。

 何故、それを真琴が身に付けているのかは長くなってしまうため省略する。

 以前、とある模擬戦にて中川聖夜の一派だった、鈴木らとの戦いで見せた技の発展元だ。

 本来は地面を足場で溜めを作り、切りもみ突撃を行うもの。

 

 それを、数メートルもあるであろうゴーレムの核目掛けて放ったのだ!

 

 バッコーンという快音と共に、ゴーレムが砕け散った。

 

「どうだ?」

 

 

 ガチゴチガチゴチ。ガチゴチガチゴチ。

 散らばった岩石がゆっくりと集合する。最後には元の姿より小さいが復活してしまった。

 

「そう、上手くはいかねぇか」

 

「真琴!ありがとう、助かったよ」

 

 小屋から少し離れた位置にいる真琴に声をかける一輝。

 

「ステラの方は大丈夫か?」

 

「うん。なんとかね」

 

「つか、何でこんな所にゴーレムが湧いてんだよ」

 

「それは・・・」

 

「思い当たる節はないのか?」

 

「・・・一つだけ」

 

「あるんだな?」

 

「なんとなくだけどね」

 

 一輝の頭には一人の人物が浮かび上がっていた。

 その人物とは昔、家に入り浸っていた者。黒鉄家の人物である。黒鉄家の人間ということだけでも分かるだろう。一輝の過去の仕打ちを知っている者であれば、どんな事をされて来たのか想像は容易だ。

 

「よし!とりあえず、後の事はコイツをブッ飛ばしてから考える!!」




いかがでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか?


御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!Twitterもやっております。メッセージなどはこちらでも構いません。@Kouga_115634です。お待ちしております。


次回更新予定日は2月9日~10日の17時00分~21時00分とさせていただきます!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。