「やぁ、こんにちは。話は真琴から聞いているよ、君達が真琴の友人達かな?僕は白浜兼一、近衛真琴の師匠やってます」
にこやかな顔で小柄な成人男性が登場した。
170㎝ほどだろうか?
成人の男性としてみては身長は普通と言ったところ。しかしながら、その身長似合わず、体躯は大きく、腕や手に無数の傷が付いている。
そして、右目の眼輪筋の下辺りに絆創膏が張ってある。
これが、近衛真琴の実の師匠、❮白浜兼一❯である。
「真琴がお世話になっているね、僕が真琴の師匠、白浜兼一だ」
「あ・・・、貴方が、かの有名な❮史上最強の弟子❯である白浜兼一さんですか!?お、御会いできて光栄です!!」
いつになく、テンションの高い一輝。
「何かテンション高いですね、御兄様」
「そりゃそうだよ、珠雫!白浜さんは僕の尊敬、憧れの武術家なんだから!」
そう、まるで、ヒーローショーをみる子供ように一輝は舞い上がっている・・・。
真琴から兼一さんの話は聞いているものの、今まで会う事は一度もなかった。梁山泊の活躍も話を聞く程度だったから、こうして目の当たりにするのは初めてだ。
僕は何も知らないまま、幼少時代を過ごした。
だからこそ、自分の武器を創るために数多くの武術書を読み漁った。
道場破りも
相手の技を見続けた。
そうやって、今まで生きて、蓄積していった。
そんな事をしていれば、自ずと武術の達人の話などが知らず知らずのうちに耳にしていくのは、最早必然と言えた。
❮無敵超人❯〝風林寺隼人〟
❮哲学する柔術家❯〝岬越寺秋雨〟
❮剣と兵器の申し子❯〝香坂しぐれ〟等、数多の武術家の達人の活躍を・・・。
勿論、白浜兼一の名前も・・・。
❮史上最強の弟子❯ ❮一人多国籍軍❯ ❮最強の凡人❯ 〝白浜兼一〟。
〝凡人〟。
この言葉が気になっていた。
凡人、それは、自分にだけ当てはまる言葉・・・いや、言葉だと、そう思っていたからだ。
それが気になって自分で調べてみる事にした。
道場破りを行った人達に話を聞いてみると、会ったことはないと語ってはいたが人伝にこう聞いたと話してくれた。
白浜兼一は『ただの普通の人』で、『極度のお人好し』で、『数多の才能を努力で捩じ伏せた凡人』で、『人の心の急所をつく天才』で、『信念を持つ武術家』だと・・・。
にわかには信じがたい・・・。だが、話を聞く限りでは嘘を付いている様子はなかった。本当の事だと、そう誰しもが口にしていた。
もし、これが本当などだとすれば・・・自分にとって兼一さんが初めての目標の人物となった・・・。
自分には〝才能〟がない。
この世に生まれ落ちた時から言われていた事。
家族からも見放され、〝居ない者〟として扱われた。
才能が無いことが嫌だった。
何度もそう思った。
けど、白浜兼一という名前を知ってから・・・、心を突き動かされる感覚が自分を襲った。
才能、凡人、才能、凡人、才能、凡人、才能!凡人!才能!凡人!
この言葉が霧の壁を作り行く手を阻んでいた。
けれど、❮白浜兼一❯という一筋の光が僕の道を示してくれた。
行く先も見えない闇の暗い道を明るく太陽のように照らしてくれた。
真っ暗な部屋に月の光が差し込むように・・・。
僕を照らしてくれた。
それが、僕と白浜兼一さんとの出会いだった。
今、この部屋に!
憧れの存在の、❮白浜兼一❯さんがいる!
夢にまで見た本物が、ここにいる!
その事が嬉しくて嬉しくて仕方がない。
「あ、ぼ、僕は黒鉄一輝と申します!真琴とは以前、ルームメイトでよく手合わせしたり、トレーニングに付き合ってもらっています」
「そうか、君が黒鉄君かぁ・・・。真琴がお世話になってるようだね、では改めて自己紹介を僕が白浜兼一だ、宜しくね」
スッと兼一の方から右手を差し出した。
どうやら握手のようだ。
憧れの存在からの握手に少し戸惑いを見せてしまう、一輝。
緊張しているのだろうか?
「そんなに緊張することはないよ、ただの握手だからね」
「僕で宜しければ!」
一輝はそう答えると、兼一と同じように右手を差し出す。
お互いの右手は吸い込まれるかのように、手と手が繋がれガッチリと握手した。
兼一は驚いた表情を浮かべる。
「(この気の流れの感じ・・・。もしかして、黒鉄君はもう既に・・・)」
「(やはり、この人只者ではない・・・。僕達とは比べられない程の力をこの人は有している)」
お互いに何かを感じとったようにも見えた。
「握手して分かったよ。君のような人が真琴の友人で居てくれて僕は嬉しいよ。いつまでも良い友でいてやってくれ」
「い、いえ!真琴には僕の方がお世話になってますから!」
「そこにある鍛練道具とかかい?」
「はい。たまに僕も使わせていただいてます。是非とも岬越寺さんにも御会いしてみたいです」
「そうだね。君ならきっと、岬越寺師匠も喜ぶと思うよ」
「イッキ?いつまで握手しているつもり?」
ステラの呼び掛けにようやく気付いたのか、一輝が兼一から手を離す。
かたい握手をしてから数分が計画していた。
「え?あ、すみません!」
「僕の方こそごめんね、えっと・・・黒鉄君」
「いえ、こちらこそすみません。白浜さんとお呼びすれば良いですか?」
「別に下の名前でも構わないよ、僕は一輝君と呼ばせてもらうから」
「あ、ありがとうございます!光栄です、兼一さん」
「宜しくね」
―――――――――
「君がステラちゃんに珠雫ちゃんね。それから君は・・・」
「アリスです。有栖院凪っていいます、生物学上、男だけれど心は女ですわ」
「そうか、宜しくね。凪ちゃん」
「流石、マコトの師匠・・・。アリスにも動じないのね」
各々の自己紹介を終え、部屋で寛いでいる。テーブルを囲むように全員が座っている。
「(この“有栖院凪”って子・・・上手く心を隠していようだけど、どうやら〝こっち側〟の人間みたいだね。目で分かる)」
「ところで、師匠」
「ん?なんだい?真琴」
「メールでは奥さんや一翔も一緒に来るって書いてありましたけど・・・」
「ああ、家内と娘は所用で遅れてくるよ」
「そうなんですね、了解です」
「え?兼一さんはご結婚なさってたんですか?」
「うん。もう何年も前だけどね」
「因みに、娘さんもいるぞ」
「えええ!?全然見えないわ!」「そうね、子持ちとは言えないわね」「良く見たら指輪してますね」
兼一は成人男性の年相応の顔立ちとは言えず、とても若く見えた。『学生です』と言い張ってもバレないと思えるほどに・・・。
童顔で格好いいというよりかは可愛いと言われる、顔をしていた。
ステラ達には彼が入夫で更には子持ちとは思えなかったのだろう。
「良く言われるよ」
「話してると本当に真琴の師匠さんなのか疑問が浮かびますね・・・。普通の人にしか見えません・・・、失礼ですけど」
「それは私も思ったわ・・・、どう見たってただの大人の男性だもの、失礼だけど」
「二人とも!」
一輝が二人を叱る。
しかし、兼一は二人の失礼な問い掛けにあっけらかんと受け入れていた。
「それは昔から耳にタコが出来る位に言われなれてるからね、全然平気だよ一輝君」
「け、兼一さん」
「ところで、何で真琴さんはご自分の師匠を呼んだんです?」
「ああ、忘れてたな。それ言うの」
「確かに、そうね。何でよマコト」
「それは、一輝に師匠を会わせたかったから。一輝が師匠を尊敬してるのは聞いてたしな」
「真琴・・・。有難う、僕の夢を叶えてくれて・・・」
本当に嬉しいのか、一輝の目には一粒の涙が浮かんでいる。
「いいって別に」
「(うんうん。美しい友情だ・・・昔を思い出すな・・・あ、)そうだ、一輝君。これから僕と手合わせなんかどうだい?」
「・・・え?」
突然の提案に、思ったような言葉が出ない一輝。
それは願ってもない申し出だった。
「良いんですか?ぼ、僕としてはとても嬉しいですけど・・・」
「ああ。真琴の友人の手助けになるんだったら、師匠である僕は何だってするよ」
「それじゃ今から連絡して・・・」
珠雫が携帯電話を取り出そうとすると・・・。
「珠雫、連絡する必要ないぜ」
「マコト!?アンタまさか!?」
「もう、手配済みだ」
「どれだけ用意周到なのよ・・・」
「昨日のうちに連絡しておいたんだよ。第四訓練場、10時から使用ってな」
ガッと真琴の肩を掴む一輝。
その腕にはやや力が入ってるようにも見える。
「真琴、何から何まで・・・。僕は君になんて言ったらいいか・・・」
「別に気にすることはないって・・・、俺が好きでやってる事だしよ」
「でも・・・何か、お礼をさせてくれ・・・。君には最近貰ってばかりだから・・・」
「んじゃ一つ、約束しろ」
「約束?なんだい?」
「必ず七星剣武祭本選で俺と戦え」
一輝にとって、その約束は困難をきわめていた。
しかも、乗り越えなければならない問題でもある。
自分の卒業がかかった、唯一の問題点。しかし、これをクリアしなければ魔導騎士の未来は途絶える。
自分の夢を叶えるにはやるしかない。
それは真琴も重々承知している。
だから、だからこその約束だった。
真琴なりの一輝へ、エールなのだ。
言葉だけならいつでも言える。
勝ち続けなければ、この約束は守れない。
例え、どんな相手だろうと剣で切り伏せなければならないのだ。
それが、この青年に課せられた難題なのだから。
「分かった。その約束、必ず果たす!」
―――――――――
「皆、先に行っちゃたね」
「そうですね、師匠。ところで師匠、途中から楽しそうに俺らを見つめてましたけど」
「ん?何か昔を思い出しただけさ、若かりし頃をね・・・さあ、僕達も行こうか」
「あっ、待ってください。師匠、一輝達の組手が終わったら・・・ちょっと時間良いですか?」
「終わったらね。その様子だと・・・、良い結果が聞けそうだね」
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次回から組手編スタートです。と言っても短めの予定ですが・・・。宜しくお願い致します!