史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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BATTLE.46 来たれり!

 あんなに明るく照らしていた夕陽は、儚げなく沈み暗い闇夜が辺り一面を覆い始めようとしている。

 真琴と刀華は寮へ帰宅途中だ。

 その二人の表情はまるで月夜の満月のように明るい。周囲の暗闇を照らしているような、そんな気さえする。 

 

 つい昨日まで・・・、いや、数時間前まで、ただの仲の良い先輩後輩だった二人。

 

 だがもう今や彼氏彼女の関係。 

 男と女・・・。

 恋人同士、両想いになった。

 

 今までとは違う。別の道へ歩みを進めている。二人で一緒に・・・。

 

 これからの風景、学校の風景、商店街の風景、通学路の風景、仕合場の風景、その全てが違って見えることだろう。

 それが彼氏彼女になったと言う事だ。

 この破軍学園で様々な思い出を作っていくのだ。

 どんな思い出なのかは未来の二人しか知らないこと・・・。

 

 未来は白紙。

 どんな未来を作るのかは自分達次第だ。

 

 

 

―――――――――

 

 努湖彼野遊楽園を出発してから一時間ほど経とうとしている。辺りは暗く電灯が道を照らしている。

 二人は程無くして、自分達の寮へと到着した。

 

 

「今日は凄く楽しかったよ。今まで、一番・・・楽しかった・・・」

 

 刀華の表情はとても、満足気だった。

 

「俺も一緒ですよ」

 

 それは、真琴も同じ。

 一番大好きな人と両想いへ進展したのだ。満足しないわけがなかった。

 真琴にとって初めての彼女。

 告白を受けてからというもの彼の心はどこか、フワフワとシャボン玉の様に浮いている。

 

 これからの自分達を妄想してしまうからだろう。

 二人で行く今後のデート場所。

 梁山泊全員へ紹介する日。

 自分の子供や名前、色んな未来を考えてしまっていた。

 

 いくら梁山泊の弟子二号で武術の世界では«神童»と称され、破軍では«皇帝の拳(エンペラーフィスト)»とまで呼ばれている彼でも、発展途上の青年だ。

 妄想しても仕方がないというものだ。

 

 

「ねぇ」

 

 青年は妄想中。

 

「ねぇ、まこ君!」

 

 なおも妄想中。

 

「ねぇってば!」

 

「あぁ、はい!」

 

「さっきから何を考えてるの?」

 

「い、い、いえ、なんでもないですから、お気になさらず!」

 

 急に話し掛けられたからだろうか?真琴は取り乱してしまう。

 

「・・・んーー?本当にぃ~?」

 

 刀華が食い入るように見つめてくる。

 

「は、はい」

 

「何か疚しいこと考えたんじゃないよね?」 

 

「も、勿論です!」

 

 してました。

 

「それじゃ信じてあげる。ねぇ・・・まこ君、これは私からお願いなんだけどさ」

 

「はい、何ですか?何でも言ってください」

 

「あ、あのね・・・」

 

 刀華の表情は遊楽園の時のように、瞬く間に紅潮していく・・・。

 

「・・・・・・二人の時は呼び捨てで呼んでくれないかな?」

 

「よ、呼び捨てですか?」

 

「うん。私ね、好きな男の人に呼び捨てで呼ばれるのが夢だったの。まこ君からはこれまでずっと、さん付けだったし・・・」

 

「それはそうですけど・・・」

 

「折角、彼氏彼女になったんだし、敬語とかも無しで呼んでほしいな」

 

「(ぐぅっ・・・!)」

 

 今度は上目使いで真琴を見つめる刀華。

 今の真琴には効果は抜群だった。

 

「(な、なんてことしてくるんだこの人は!?そ、そんな事されたら、抗える男なんてこの世に居ないって!)」

 

「ダメ、かな?」

 

 更に、刀華のだめ押しだ。

 

「(ええいままよ!)」

 

 青年は覚悟を決めた。

 

「わ、分かりました。呼び捨て、ですね」

 

「うん!」

 

 少なからず、胸が高鳴る刀華。

 彼女はその時を待つ。

 

「とう、か・・・」

 

「ダメ!ちゃんと言って」

 

 刀華からの叱責が入る。

 照れてしどろもどろになってしまう。

 流石の真琴も恥ずかしさが勝ってしまっていたようだ。これは、いつもとは違う空気になれないためだろうか。

 

「すぅーはぁー・・・」

 

 深呼吸を挟み、一息つく・・・。

 ここの空気をめいいっぱい吸い込んで・・・。ゆっくりと口を開く。

 そして・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「・・・・・・刀華、これでいいか?」

 

 と言い放つ。

 

 近い距離で。

 

 息が近くに感じられる程に・・・。

 

 その青年の表情は完熟した林檎のように綺麗な赤色へと変貌している。

 

 その言葉にどれだけの時間が経っただろう。

 

 いや、そんなには経っていないはずだ。

 

 ものの数分。

 だが、この二人の体感的にはそれよりも長い時間が経っていたに違いない。

 

 その言葉で更に彼女の時は止まる。

 

 

「・・・・・・」

 

「と、刀華さん?」

 

 今度は真琴が刀華に近付く。

 見つめられたお返しではないだろうが、そっと彼女へ身体を近付けていく。

 

 

 

 

 

「刀華さん?だいじょ「有難う!まこ君!」

 

 彼女が真琴の言葉を待たず、抱き付く。

 そのせいで真琴の身体に柔らかな感触が再び襲ってきた。

 今日で何度目だろうか?

 数えてはいない。

 何故ならそんな余裕は今の真琴には、ないから。

 

「刀華さん!?」

 

「ありがとね、まこ君。私のお願いを聞いてくれて・・・」

 

「それは良いで、ん"ん"、それは良いけどよ」

 

「フフッちゃんと敬語無しで、いってくれたね」

 

「約束だからな、守る」

 

「エヘヘ・・・」

 

 刀華は嬉しさの余韻に浸っているようだ。

 

「でも、早く離れて」

 

「え?なんで?」

 

「当たってる・・・」

 

「当たってる?あ!」

 

 そこで漸く気付いたのか、刀華がバッと離れた。

 

「ご、ごめんね?」

 

「謝らなくていい、その、柔らかったし」

 

 手で頬を掻く真琴。

 

「まこ君のエッチ」

 

「男なんだから仕方ないじゃ、仕方ないだろ?」

 

「フフッ、私はまこ君ならいいけどね?」

 

「今、それ言いますか・・・」

 

「あぁ!敬語はなし!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「むぅ!」

 

「ごめん、刀華」

 

「それで良し!それじゃあ、またねまこ君」

      

「あ、ああ」

 

「学校でね!」

 

 刀華が自分の寮の方へと向かい歩き出す。

 

「おやすみ、刀華」 

 

 真琴が夜の挨拶を刀華に投げ掛けた、その時だ。

 彼女は耳元で・・・。

 

「おやすみ、ダーリン」

 

「えっ!」

 

「ウフフッ!じゃあね!」

  

 刀華の思わぬサプライズに、真琴はその場に硬直してしまう。

 そして、それと同時に悟った。

 

「(・・・俺はあの人には敵わないな、ダーリンは卑怯だぜ、全く・・・)」

 

 刀華を見送り彼が今の時刻を確認すると、なんと午後六時を回ろうとしていた。

 

「(あ、もう六時になるのか。明日は“あの件”で忙しくなるから、寮に戻って色々、準備しねぇとな)」

 

 真琴は空を見上げる。

 星空がポツポツと出始める頃だ。

 今日の出来事を思い返していた。

 

 初めてのデート。

 ソフトクリームの事。

 お化け屋敷での事。

 

 

 

 そして、観覧車での告白・・・。

 生まれて初めての彼女・・・。

 

 一日とは思えない、出来事の連続。

 似たような経験は世直しで経験済みとはいえ、それとは別の充実感で身体中が満たされていった。

 

「(刀華さんが俺の大切な人・・・活人拳度外視に、俺が意地でも、死んでも、守り抜くと思える大切な人)」 

 

 真琴のこの覚悟が揺るぐことはない。

 意地でも信念を貫くのが武術家だから。

  

 ふと、梁山泊での出立を思い出す。

 その出立で師匠からの言葉を思い返していた。

 

「(師匠・・・貴方の言う通り〝大切な人〟を見付けました。これで俺も貴方に近付いたでしょうか・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいか、真琴・・・。これは僕からの助言だ。沢山の戦いが君を待ち受けているだろう。梁山泊で教えられる事は全部教えた。これからどんな強敵が立ちはだかろうと、活人拳の矜持を忘れるんじゃないよ。〝殺すな、殺されるな〟だからね。

 それから、君は君の道を進むんだ。そして、自分の心の底から〝命懸けで守りたい〟と思う人をその学園で見付けるんだ。それが強くなる一番の近道だからね。そして、もし、何か困ったことがあったらいつでも僕達を頼るんだよ。僕らは家族なんだから』

 

 

「(師匠、師匠の言葉が俺の支えです。見ててくださいね!)」

 

 こうして、夜は更けていった。

 青年の新たな覚悟と彼女の夢と共に・・・。

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ここは406号室。

 破軍学園での真琴の部屋だ。

 そこには秋雨作の重し地蔵が置いてあるなんとも異様な光景だ。思春期の高校生の部屋とは思えないものが広がっている。

 が、そこに一輝を含め、ステラ、珠雫、アリス、そして部屋の主である真琴、計五人が集っていた。

 しかも、朝の九時半に・・・。

 

 

 

 

「ねぇ、マコト。私達を部屋に呼びつけた理由って何よ?」

 

「そうですよ。朝早くにだなんて何の用なんですか?」

 

 当然の如く、ステラ達から質問攻めだ。

 

「まぁまぁ落ち着けって今に分かる」

   

「でもステラ達の主張ももっともだよ?」

 

「そうよ、いきなり俺の部屋に九時半に集合だなんて。日曜だから良かったものの」

 

 一輝とアリスもステラ達に便乗する。

 

「それについてはすまん。何か詫びをいれるぜ。だがこれだけは言える」

 

「何よ?」

 

「一輝、これからお前にとって最も大事な日になることは間違いないぜ?」

 

「真琴?それってどういう?」

 

 ピンポーン。

 部屋のインターホンだ。

 真琴がドアへと歩を進める。誰が来たのだろう?

 一輝達には疑問符が浮かぶだけだった。

 

 対応が済んだのか、真琴の声から察するにどうやら客人のようだった。

 

 そして、真琴の後ろに付いて来る人物が一人いる。

 

 その人物が一輝達の前にやって来た。

 

 髪の毛は茶髪。

 服装は今時の一般男性が着るような季節に合うカジュアルな格好。

 腕は普通の成人男性より一回り大きい。

 手首には白いテーピングが巻かれ、その手の至るところに傷が出来ていた。

 

 そして、優しげな声でこう告げた。

 

「やぁ、こんにちは。話は真琴から聞いているよ、君達が真琴の友人達かな?僕は白浜兼一、近衛真琴の師匠やってます」




いかがでしたか?
楽しんで頂けたでしょうか?

御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております。

次回の更新予定日は11月29日~30日、17:00~21:00の間とさせていただきます!

次回でやっとやりたかった掛け合いが出来そうです!

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