史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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こんにちは、紅河です!

小説を書き始めてから、もう5ヶ月が経ってました。
い、いつの間にって感じです。時って怖い・・・。

UAがなんと60000を突破しました!
有り難いことです。これも皆様のお陰です!有難う御座います!

BATTLE.38どうぞ、お楽しみ下さい!


BATTLE.38 綾辻一刀流とそれから・・・

 一輝と倉敷の戦闘が始まって、どれだけの時間が過ぎただろうか・・・。

 

 五分?

 

 十分?

 

 それとも、一時間だろうか?

 

 たった、数十秒間ですら長く感じられた。 

 時間、自身の体力をも気にせず、剣客は闘い続けている。

 二人はもし、このままずぅっと闘うことが出来るものなら、可能な限り戦うことだろう。

 

 しかし、そんな二人を観戦している、真琴、ステラ、綾辻は三者三様であった。

 

 真琴は安気しながら、次の予定(珠雫の模擬戦)の組立を思案し、ステラは一輝の身体の怪我などの心配。

 

 だが、綾辻の表情だけは違っていた。

 

 ドス黒く、歪んでいたのだ。

 ラストサムライが再起不能になったから?

 自分の大切だった場所を奪われたから?

 好きな騎士が負けそうだから?

 

 その答えは綾辻、本人にしか分からない。ただ、一つ言える事は、綾辻の目には〝敗北〟という未来しか浮かんでこなかったのだ。

 自分でもそう、考えたくはない。

 でも、自分自身が尊敬する騎士が倉敷に再起不能にさせられるかもしれない・・・・。

 一輝の七星剣武祭に支障が出るかもしれない・・・・。

 もし、そうなってしまったら、どうしよう・・・・。一輝を巻き込んでしまったのは自分の責任だ。

 ステラや、珠雫達、一輝を慕う生徒達に何て詫びればいい・・・!?

 

 その事が頭から離れない。

 次第に綾辻の頭の中は、〝絶望〟で埋め尽くされていった。

 

 気付いた頃には、右足で一歩前へ進もうとしていた。恐らく、綾辻は一輝と倉敷の決闘を止めようとしたのだろう。

 この闘いを止めさえすれば、一輝の最悪の未来は回避できる。一輝も七星剣武祭に出場出来るだろう、慕う生徒達の怒号を買うこともないだろう、ステラや珠雫達からは縁を切られるだけで済むはずだ・・・。

 

 そう、愚考していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、綾辻先輩が行ったら、永遠にこの道場は戻って来ないですよ?」

 

 そういって、綾辻を制止させたのは意外にも、真琴だった。

 綾辻と真琴の関係は最初の出会いは良かったものの、その関係は決して良好とはいえない。

 

 ファミレスでの倉敷との再会のことや、一輝の仕合前の襲撃。

 

 この二つを踏まえると、綾辻の真琴に対する感情は最悪と言っていいものだった。それがあったからこそ、真琴が言葉を発して自分を制止されるのが、意外だったのだ。

 

 綾辻は思わずステラと真琴の方へ振り向く。

 

「近衛君?君は何を言って・・・」

 

 真琴が自分を制止させたのが、信じられない様子の綾辻。

 

「事実を言ったまでですよ」  

「でも、あのままじゃアイツに、黒鉄君が・・・!」

 

 苦虫でも噛み潰したような、歪んだ表情を浮かべる綾辻。

  

「察するに、貴女には一輝が打つ手なし、一輝の敗北、それしか見えてないんでしょうね」

「・・・ぐっ、そ、それは・・・」

「一輝のあの顔を見てもそんな事が言えますか?」

「え?顔?」

 

 真琴はそういって、綾辻を一輝達の方へ注意を向けさせた。

 綾辻は真琴に言われた通り、一輝の表情に注目する。

 すると、驚くべき事に一輝は倉敷に剣戟で圧倒されながらも、その最中、口角が上がり笑っていたのだ。

 

  

 こんな事はバトルジャンキーでも無ければあり得ない事だ。

 

 だって、普通の一般人であれば、スポーツを嗜んでいたり、気の強い人間でないのなら戦闘(トラブル)を避けて日常生活を過ごし、戦闘にあったら逃げるようと立ち回る事だろう。

 それに、いざ、戦闘が始まってしまえば、笑っている余裕なんて無いはずだ。 

 

 

 こんな状況化で笑う人間なんて・・・綾辻の身内には居ない。

 

 居ない・・・。

 

 居ない・・・はずだった。

 

 よぉぉぉ~く思い出すと、思い当たる該当者が一人だけ存在していた・・・。

 

 それは、自分の父親、〝綾辻海斗〟その人だった。

 

 

 

 海斗は«現代に生きた最後の侍»で礼儀を重んじ、信念を忘れない確固たる人物。

 周囲の人間からも、そう評価されていた。少なくとも、娘である自分もそうだった。

 そんな海斗は非伐刀者でありながら、時に多くの伐刀者を打ち倒し、またある時は犯罪を犯す伐刀者を捕らえてもきた。

 

 そうやって、世間で活躍する父の事が大好きで、自慢だった。

 世間では表舞台の剣の大会ではほぼ全てで優勝を飾り、«ラストサムライ»とまで称された、父、海斗。

 綾辻の一番の幸せの一時は、父が道場の教え子達に剣を教授している姿を横から見ること。それが、最高の瞬間だった。だって、剣を他人に指導する時の父の顔が今でも忘れらない。

 ただ、厳格なだけでなく、その表情の瞳の奥には真っ赤な情熱があって、教え子が綾辻一刀流の技を身に付けた時は、優しく声を掛けてくれるのだ。剣の事となると様々な顔を見せてくれる父が誇りだった。

 

 ただ、一つだけ、父親の欠点を述べるとしたら、良くも悪くも〝侍〟という事だった。

 剣を教わっている時でさえ、自分に対する親子の情なんて一切ない。自分に厳しく、剣を指導する時は周りの人間にも厳しく当たっていた。

 そして、そんな海斗が一番嫌っているのは『決闘を第三者の人間に邪魔をされる』事。

 教え子達が決闘をする際に、怪我をする一歩手前で綾辻が止めに入った時、海斗に叱られた事があった。

 

 あの時も、そうだった。

 

 

 父、海斗が憎き倉敷との決闘の際の事だ。

 綾辻がボロボロになりそうな、そんな海斗を見たくない一心で、声を発して止めようとした時。『邪魔をするなァ!』と海斗が大声で怒鳴ったのだ。

 そうなってしまったら、綾辻に闘いを制止させる力はない。この闘いを見守る事しか出来なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その結果・・・・・・・・海斗は倉敷に敗北し、再起不能に陥ったのだ。 

 

 

 

 

「今、何で一輝が笑っているか、分かりますか?」

「・・・え?」

 

 真琴は腕を組みながら、こう続ける。

 

「確かに、倉敷がやっている事について庇護は出来ません。

 

 でも、アイツが何か卑怯な手を使いましたか?人質でもとって、負けるよう海斗氏を脅しましたか?違いますよね?道場の人達に正当な勝負を挑み、そして勝利をもぎ取り、«ラストサムライ»と戦う権利(チケット)をモノにして、戦ったじゃないんですか?」

 

「・・・・・・」

 

 その言葉に綾辻は沈黙した。しかし、ここでの沈黙は肯定の証の様なものだ。

 

「ねぇ、先輩。私も先輩と同じよ?」

 

 今度は真琴の代わりにステラが綾辻に問い掛ける。

 

「え?」

「私だって、先輩と同じ気持ちよ。闘いを止められるなら止めたいわ・・・。だってイッキが怪我を負う姿なんて見たくないもの・・・勿論、負ける姿なんか特に・・・。でもあの顔を見たら、私にはもうどうにも出来ないわ。先輩もそうじゃないの?」

 

「あっ・・・」

「あれが、男の武術家、いや«闘う者»なんですよ」

 

 

 

 そういえば、海斗も今現在の一輝と同様に笑っていた。この闘いを楽しんでいた。心の底から・・・・。

 

 

 

 そして、敗北に喫した際、最後に綾辻に向けて海斗が発した言葉があった。

 

 

 

 『すまない・・・』

 

 

 

 これだけ発して、海斗は綾辻と見つめていた顔を反らし、そのまま気絶した。『すまない』とだけ溢し、目の前で力尽きた。それは綾辻達に後目を感じたのだと、仇を取れなかったのに対してだとそう、認識していた。

 だが、違ったのだ。それは綾辻の勘違いだったのだ!

 

 綾辻達に後目を感じたからではなく、倉敷に対してだったのだ。

 倉敷に対して、「すまない・・・こんな無様な姿で・・・」

 

 

 

 

 

 漸く分かった。

 僕は、剣士じゃなかった。

 父さんを追い掛けるだけの一人の娘でしか、なかったんだ。

 闘うモノの気持ちを知らない、ただの子供だったんだ・・・。

 

 そう、思い浮かべた瞬間、綾辻の目から大きな粒が流れ出た。ボロボロ、ボロボロ、流れ続ける。そして、その場に泣き崩れた。ただただ、泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。

 後悔の念が一斉に綾辻へ押し寄せた。このまま泣き続けていたい。綾辻はそう、愚考しようとした時だ。

 

 バコーン!

 

 大きな破壊音が道場内を埋め尽くす。

 どうやら、一輝の刀が倉敷の大蛇丸を受け流し、勢い余って木製の床板にぶつかり立てた音のようだ。

 

「おい!てめぇ・・・しぶとすぎるにも程があるぞ・・・」

 

 長時間の仕合からか、倉敷が吐息を漏らす。

 

「僕は生憎、負けず嫌いで・・・こんなに剣戟で圧倒されたのは、真琴以来、久方ぶりでね!この闘いがどうにも楽しくって終わらせるのが惜しかった・・・!」

 

 一輝も倉敷に負けず吐息を漏らしている。倉敷を見つめる一輝の顔はしたり顔だった。

 

「この状況で楽しいか!へへっ、てめぇもアイツと同じ様にイカれてるじゃねぇか」

「アイツ?あぁ、真琴だね?」

「あぁ、そうさ。真琴の野郎もてめぇの様に笑っていたのさ」

「それじゃあ勿論、«ラストサムライ»もだよね?」

 

 一輝がそう、言った。

 

「当たり前の事を聞くんじゃねぇ・・・。こんな仕合を楽しめねぇヘタレが、«ラストサムライ»なんて呼ばれるわけがねぇだろうがァ!!」

 

 二人が距離を取り、間合いを造り直す。

 

「綾辻さん、倉敷君、僕は僕の最弱(さいきょう)を以て君達の二年間を取り戻す!!」

 

 倉敷に隕鉄を向け、再度、攻撃を仕掛けるため準備に入る。

 

「黒鉄君・・・」

「イッキ・・・」

 

 一輝が前屈みになり、刀を一点に集中させる。

 

「(あ?何か奥義でもあんのか?イイねぇ!その誘い乗ってやろうじゃねぇか!)」

「(もう、言葉は要らない、この技に全てを掛ける!)」

 

 お互いに自身最強の技を放つ。 

 

「来やがれ!!八岐大蛇!」

 

 倉敷が技を発動させた瞬間、世界はモノクロへと変貌をとげる。

 倉敷の伐刀絶技(ノウブルアーツ)❮八岐大蛇❯。これは四方八方から蛇腹の刃で以て、相手に八連斬戟を繰り出す、倉敷の決め技の一つ。

 対する一輝が放つ技はステラ、綾辻のましてや真琴でさえ、目にしていない奥義のようだった。

 

 

「(あの構えは一体・・・まさか、剣を一点に集中させる事で極限まで強固の制空圏を造り出しているのか!?)」

 

 この場にいる真琴だけが、一輝の放つ技を理解していた。そして、その意味も。 

 一輝が隕鉄を攻めの位置に固定させたまま、倉敷目掛けて突撃を繰り出した!

 倉敷も負けじと八岐大蛇で応戦するが、隕鉄の制空圏によって阻まれ、一輝に斬戟が当たっていない。いや、寧ろ斬戟が一輝に当たらない様に動いているようにも感じていた。倉敷はそんなつもりで操作していないのにだ。

 まるで、一輝の隕鉄は川の中にある石のように、向かってくる斬戟()を後ろへ受け流していた。

 

 

「(これはあの時、ラストサムライが俺に見せようとした!?)二年間、待った甲斐があったぞォ!!!」

 

 一輝と倉敷の固有霊装(デバイス)が再び、交わることなった。隕鉄は倉敷の斬戟を全て受け流し、最後は自分の流れにのせて斬戟をお見舞いしたのだ。

 

 

 ここで漸く綾辻が、一輝の放った技を理解する事となる。

 

 

「今の技は・・・天衣無縫(てんいむほう)!?」 

「(この技はまるで長老が有する静の極みの技の一つ、❮流水制空圏❯だな。これは剣士であるなら覚えておくべき技だろうなぁ。流石は俺のライバルだ、まだこんな技を隠し持ってたなんてな)」

 

「これが、綾辻一刀流の真髄だ!」

 

 

 辛くも、綾辻の道場破りは黒鉄一輝の勝利で幕を閉じた。

 

「やったな、一輝」

 

「うん、ぐっ・・・」

 

「イッキ!」

「黒鉄君!」

 

 流石の一輝も長時間の仕合に堪えたようだ。 

 よろめいたイッキをステラが支え、それを見守る真琴と綾辻。

 そして、一輝の後ろから倉敷が歩み寄る。

 

「おい、ヘタレ野郎、てめぇ黒鉄って名前だったな・・・?」

 

 どうやら倉敷も相当堪えている。息を漏らしながら、一輝へ名前の確認をとる。

 

「ああ。でも、まだ言ってなかったと思うけど」

「そこの真琴とかいう傷顔から名前だけは聞いてる」

「それじゃ、改めて。僕は黒鉄一輝」

 

 ステラに支えてもらいながらも、一輝は右手を倉敷へ差し出す。

 

「律儀な野郎だな・・・倉敷だ。黒鉄、この決着は七星剣武祭でつけるぞ」

 

「勿論だよ」 

 

 そう二人は握手を交わした。握手を交わした倉敷は、スタスタと入口へ歩を進める。

 

「この道場は?」

「好きにしろ。俺はもう道場主じゃあない」

 

 倉敷が入口の光へ去っていく。 

 

「さて、俺もそろそろ帰るか」

 

「一緒に帰らないの?」

 

 ステラが真琴へ声を掛けるが・・・。

 

「もうすぐ、一輝の妹との予定時刻になりそうなんでね、先に帰らせて貰うぜ?」

 

 そう言うと生徒手帳に刻まれた時計が指し示す時刻は、既に十二時半を回っていた。

 約束時間は十三時の予定でもう三十分しかないのだ。

 

「分かった。珠雫を頼むよ、真琴」

「おう。任された」

「それじゃ、またね。近衛君」

「はい、先輩も。このあと大変でしょうが、綾辻一刀流道場、再興を願ってますよ」

 

 

   

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「さて、そろそろ破軍学園到着か・・・。急いで来たから一応、五分前には着きそうだな。先に寮に行って準備しても間に合うな」

 

 

 真琴が己の俊足を用いて、綾辻一刀流道場から猛スピードで破軍学園へと走って向かっていた。

 宣言した通り、五分前に学園に到着した。その足で自分の寮に向かったのだが、自分の部屋の玄関前にある人物が立って真琴の帰りを待っていた。

 

「あの、まこ君。お、お帰りなさい」

「え?あ、ただい、ま。というか刀華さん?何故ここに?」

 

 そこには破軍学園序列第一位«雷切»東堂刀華が立っていた。

 




さて、いかがでしたか?

刀華は何故、真琴の部屋の前で待っていたのか、それは次回分かることでしょう。

次回の更新予定日は来週の9月4日~6日の17:00~21:00とさせて頂きます。
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!

今後も史上最強の伐刀者マコトを宜しくお願い致します。

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