お待たせしました!BATTLE.35更新です!
世間ではもう夏ですが、熱中症対策は大丈夫ですか?
私の方も扇風機を倉庫から出しました。
アイスを食いながら書いてます(笑)。ガリガリ君美味しいです。
それではどうぞ、お楽しみ下さい!
私は自分の弱点を克服する為、一昨日の夜、真琴さんに相談していた。夜遅くに訪れたというのに、真琴さんはお茶菓子や飲み物を用意して私を持て成し、更には快く助力すると言ってくれた。真琴さんは「俺がいった手前断れねぇよ」と言っていたけど、それを聞いた瞬間、私の中にある感情は“満足”と“申し訳無さ”が交錯し、心を埋め尽くした。
お兄様とは少し違うけど、真琴さんも随分身内には甘々だと思う。
それにしても、早起きなんて何年ぶりだろう?現在の時刻は早朝の五時。真琴さんから指示を受け、こうして寮の門前で待っているのだけど・・・。真琴さんが来ない・・・。何かあったのかしら?
自分自身の為に身体を鍛えること自体久し振りね・・・。実家から剣術を学んで以来?そうなると三、四年位前になってしまう。
そんな事を考えてると何やら地蔵を持った男性が現れた。そんな人はこの破軍学園で一人しかいないけど・・・。
「あ、真琴さん、おはようございます」
「おう。おはよう、珠雫」
お互いに挨拶を交わす。あれ?真琴さんは何やら運んで来たみたいね・・・。あれは・・・地蔵!?地蔵の全長は80㎝程だろうか?通常の地蔵よりも大きい・・・。真琴さんはそれを軽々しく運んで来た。
「わりぃな、遅れちまって」
「い、いえ、お気になさらず・・・」
近くで見るとその大きさとクオリティの高さが一際目を引いた。おぶさる形状をした地蔵は人生でこれが初めてで・・・私は思わず聞いてしまっていた。
「その地蔵、なんて言うんですか?通常よりも、大きめに設計されてるみたいですけど・・・」
「ああ、これか?これはな『おぶさり地蔵』っていって柔術の先生が鍛練用に製作したもんだぜ」
あっそういえば、前に真琴さんの部屋にお邪魔したときに、仏像や地蔵を見掛けたましたね・・・。
「でも、私達が訪れた時はその地蔵は拝見しませんでしたが・・・」
「普段はクローゼットにしまっているからな」
「そうだったんですね、もしかして!その地蔵は私が使うんですか?!」
私は思わず声を大にして、真琴さんに問いただしてしまう。あれを背負ったらまともに走れないわ・・・。
「あー違う違う・・・これは俺が使うんだよ」
「真琴さんが?」
ふぅ・・・良かった・・・。流石の真琴さんでもそんな無茶な事は言わないのね。
「ああ。とりあえず付けるの手伝ってくれるか?」
「あ、はい」
私は真琴さんに言われるがまま、『おぶさり地蔵』の装着に手を貸したのだった。真琴さんが文字通り、地蔵をおぶさり、その地蔵は四肢を鎖で繋いでいて、それを引き寄せる。私はその鎖の四つの先端が重なるように南京錠を掛ける。付けるのには、然程時間はかからなかった。
「サンキュな、珠雫」
「いえ、これくらいは・・・その地蔵はどう使用するんです?」
「ランニングで使用するぞ」
「(成る程、早朝に呼び出したのはこの為だったのね)」
私はつい聞いてしまった。
「どの位走るんですか?」
すると、真琴さんの口から思わぬ言葉が飛び出してきた。
「たった、20㎞だ」
え?・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え??20㎞???
耳を疑った。
今、真琴さんは何て言った?20㎞??
私の聞き間違いかもしれない・・・。
もう一度言葉を思いだそう。
『たった、20㎞だ』
駄目だ!何度思い出しても20㎞だった!!確かに真琴さんは20㎞って言っていた!!
信じられない!!そこまで身体を苛める伐刀者は耳にしたことが無いわ!況してや身体に重しを付けて!?
やはり・・・・・・・・・この人は、何処か〝可笑しい〟・・・・・・・!!
常軌を逸しているとしか言いようがない。
私の口は半開きのまま、暫く氷のように冷たく固まってしまった。
「おい、珠雫!何呆けているんだよ!」
真琴さんの声で私は冷静さを取り戻していく。
「ハッ!私は一体何を・・・・。というか20㎞なんて完走出来ませんよ!」
「悪いな、少し言葉が足りなかった」
え?じゃあさっきの20㎞は一体?
「20㎞っていうのは普段、俺と一輝が走破してる距離の事だ」
「あ、そうなんですか・・・良かった」
私は真琴さんの言葉に、そっと胸を撫で下ろした。
え?いやいやいや・・・。何冷静に撫で下ろしているのよ!?私!?20㎞よ!?私が走らないとはいえ、改めてお兄様と真琴さんの実力を思い知らされるわね・・・。
「それじゃ私はどの位の距離を走れば宜しいんですか?」
「珠雫はだな、20㎞の半分の10㎞かな」
「それでも多いですね・・・・」
「だろうなぁ・・・慣れてないとキツイ距離ではある」
でも・・・!
だからこそ!!
“昔の私”を払拭するにはこの距離を走り切るしかない!!
“今の私”が“未来の私”を進むべき道«進化の道»に導かなければ、お兄様にも認められず、成長も無い!!!
私は覚悟を決め、真琴さんに走る意志を伝える。
「(へっ、少しは良い目になったな・・・珠雫)まず、最初は重し無しで走ってみな。それでもキツイだろうが、頑張れ。少しずつ体が慣れて来たら重しを付けて走ろう」
「はい!」
「珠雫。これから行う鍛練について、ランニング以外もあるから詳しく説明するぞ」
「はい、宜しくお願いします」
私は頭を下げ、真琴さんの言葉を待つ。
真琴さんが話した内容はこうだ。
第一に、【基礎体力と筋力の向上】
真琴さんが言うには「珠雫の身体は基礎自体は出来てる。だけど珠雫が鍛えて来なかったから基礎の密度が低い、これからそれを向上させる」 「瞬発力と持久力を兼ね備えた良質の筋肉のみに珠雫の身体を創り変える。珠雫のクロスレンジに最も重要なのがスピードとテクニックだ」って事みたい。とりあえず私は真琴さんを信じよう。
❰「師を疑うな!」❱ ❰「疑うなら師をとるな!」❱って言葉もあるんだから。
私はお兄様やステラさんとは違い、今まで体術に力を入れてこなかった。だから私のパラメータでも、身体能力の項目はFには行かないものの、最低ランクの“E”。
多くの学生伐刀者は身体能力を見下し、体を鍛えようとしない。斯く言う私も真琴さんと会うまでは、身体能力は魔力で強化すれば十分という認識でいた。だけど破軍に来てからというもの、その認識は間違っていたと認める結果となった。
多くの伐刀者がお兄様と真琴さんに“無傷”で突破されてしまっているからが要因。しかも真琴さんに関していえば、殆どの仕合で❮気当たり❯のみを使用し、戦わずして勝利を収めている。
本当に同じ伐刀者なのかしら・・・それすら疑ってしまうわね。
第二に、【近接戦闘の強化(主に小太刀術)】
私の固有霊装は『小太刀』の形容をしている“宵時雨”。
真琴さんが言うには「小太刀は剣術の中でも接近戦に特化した剣術。小太刀は刀身が短く造型されている為、入り身主体の技が多く、体術にも長けている」って丁寧に解説してくれた。
思い返してみれば、確かに実家の小太刀術も体術の技が多くあったと記憶してる。
私は黒鉄家にて«旭日一心流»の“小太刀”を学んでいた。でもお兄様との“一件”以来、私は実の父親の事が嫌い。昔から私に媚を売る本家分家の人達も嫌悪していた。そして、“実家” “黒鉄家”そのものが自分の中でどす黒い〝モノ〟へと変化していった。
それがあって、実家の剣術を使おうとも思わなかったし・・・・。だから私の身体能力は“E”どまりなんですけど・・・。
これから、真琴さんとは毎朝のランニングもあるけど、今日から数時間にわたって組手を行う事になってる。勿論、真琴さんと私の都合の合う、時間帯でのみに限られるけど・・・。
なんでも「クロスレンジは身体を動かして、初めて身に付く」って真琴さんが豪語してた。その通りだけど、近接戦闘が得意な真琴さんが“普通”に組手をするとは思えないわ・・・。今から組手をするのが怖くなってきた・・・・。
ーーーーーーー
そして、数時間後・・・・・・・・・・・・。
私は気絶した。
10㎞のランニングを終えゴール地点の公園に足を踏み入れた。
が、次の瞬間ーーーー。
・・・私の身体は重力に身を任せて地面へと倒れこもうとしてしまった。高負荷で走行する10㎞のランニングに、私の身体は耐えきれなかったようだ・・・。
「おっと、あぶねぇ」
「うっ・・・」
「危うく怪我させるとこだったぜ。先にゴールしてて正解だったな」
私は薄れ行く意識の中、真琴さんの腕に抱かれながら、気絶した。
真琴さんは私を公園のベンチへと運び、膝枕をする形で休ませてくれた。
ランニングのやり方はお兄様や真琴さんが行う、全力疾走をしつつジョギングで緩急をつけ高負荷をかけるスタイル。普段ならこれを重しを付けて20㎞走破するみたい。
私には・・・到底無理。
だって、10㎞で重し無しで気絶しちゃうんだから・・・・・・。
「まぁ、走りきっただけでも良しとするか」
「ハァイ~、お疲れ様。二人共」
ベンチで俺と珠雫が休んでいると、リュックを背負った紫髪の男性が現れた。俺らの知人で紫色の髪の毛をしている男といったら一人しかいない。
「おお、アリス。おはよう」
「おはよう、真琴。お疲れの二人へ差し入れを持ってきたわよ♡」
アリスはベンチの前にあるテーブルにリュックを降ろし、中からスポーツドリンクを取りだしてくれた。それを俺らの前に差し出した。
「あら、珠雫、もしかして気絶してるの?」
「高負荷ランニングに耐えられなかった。まぁ、珠雫が行ったランニングは、普通の人間なら走ってる途中で、投げ出しちまう辛さだかな」
「なら、よく走りきったわね・・・でも、膝枕をする必要はないんじゃあない?」
アリスは口を歪ませ、顎に手を当てて俺を煽る。
「ベンチにそのまま寝かす訳にもいかねぇだろ?なんなら代わるか?」
「いえ、遠慮しとくわ。見てた方が面白そうだから」
「ん?それってどういう?」
すると、今まで気絶していた珠雫の瞼がゆっくり上がっていく・・・。
「お?目が覚めたか?」
俺が珠雫の方へ顔を向けると、次第に珠雫の顔が紅潮していく。
「ッ!!!」
何が気に入らなかったのか分からなかったが、珠雫が俺目掛けて頭突きをぶちかました!
「痛ッて!」
珠雫はベンチを飛び出し、俺とは対面する形で向き直った。
俺は不意の攻撃に避けられる筈もなく、見事な頭突きを貰ってしまった。
「何すんだよ!」
「そ、それはこっちの台詞ですよ!何で真琴さんが、わ、わわ、わ、私を膝枕してるですか!?」
「それは固いベンチに寝かせるのは可哀想だと思ってだなぁ・・・」
「そ、そんな気遣いは要りません!」
珠雫は顔を赤くしながら、俺へ抗議の声を上げる。
お節介焼いちまったかなぁ・・・?
そんなに硬かっただろうか?俺の太股・・・。
「まぁまぁ、二人共落ち着いて、ね?」
アリスが俺と珠雫の間に割って入り、俺らを優しく仲裁してくれた。
「アリ、ス、うっ・・・」
珠雫がよろめき、目の前に居たアリスがそれを受け止めた。
まぁ、無理もない。
珠雫に近づき、手元にあった珠雫用のスポーツドリンクを差し出す。
「悪かったな、スポーツドリンクでも飲んで落ち着け」
飲み物を手渡され、珠雫はそれを口に運びグビグビと飲み始めた。よっぽど渇いていたのだろうか?珠雫用のスポーツドリンクはたちまち無くなってしまったようだ。
「プッハァ・・・飲んだら落ち着きました。先程はすみません、真琴さん。折角運んでいただいたのに・・・」
「気にするなよ。俺も無神経に膝枕しちまったのも悪いしよ、んじゃ仲直りつーことで」
俺は仲直りの印として右手を差し出し握手を求めた。珠雫もそれに応じ、握手を交わす。
「そういやアリス、頼んでおいた訓練場を押さえてくれたか?」
「ええ、ばっちりよ。昼の一時から四時頃まで使用出来るよう、手配しておいたわ。場所は第四訓練場よ」
「ありがとな、アリス」
「・・・真琴さん」
「ん?」
「基本的に“どんな組手”をするですか?真琴さんのことですから普通ではないのは分かりきっていますし・・・・」
「お!なんだ俺の事、良く判ってんじゃねぇか。まぁ時間の許す限りだが、〝俺が合格と言うまで〟やり続けるぞ!やるからには本気で行くから、❰覚悟しろよ?❱」
俺は珠雫に向け、ほんのちょっぴりの〝闘気〟を見せた。普段、破軍学園の仕合では見せたことのない、本気の〝闘気〟を・・・。勿論、初めて珠雫で組手を行った時も見せていない。
しかし、珠雫を震え上がらせるのには充分だった。
「・・・はぅ・・・」
珠雫が俺の闘気に当てられ、体勢を崩してしまう。それをアリスが支える。
俺は闘気を直ぐ様解除し、平常の状態へと戻す。
「まぁ、言える事は一つだ。珠雫」
「・・・何ですか?」
「覚悟だけしとけ」
俺はにこやかに珠雫へ返した。
「・・・ぅ、はい」
「それにしても、真琴。珠雫から聞いたけど、遠距離魔法使用禁止だなんて珠雫の武器を封じてるようなものよ?いいの?」
「二人共、説明要るか?」
「ええ、頼むわ」
珠雫がアリスに便乗し、言葉を発する。
「お願いします、真琴さん」
「分かった、んじゃ説明するぞ」
ベンチに座り、アリスと珠雫を対面席に座らせ説明を開始した。
これまでの珠雫の仕合を見ると、ロングレンジの魔法しか使用していない。
もし、〝遠距離魔法もあり〟の組手にしたのなら珠雫の性格上、それしか使用しない恐れがある。自分自身の最大の武器なのだから、使わない手は無いんだけどよ。
だが、その場合だと自分より格上の近接特化の伐刀者とかち合った時、身体能力が乏しい珠雫では、体力的にもたないのは明確だ。そればかりか、〝相手が接近に使用する技〟すら見切れない可能性が出てくる。そうなれば珠雫の勝つ確率は無いに等しい。
現在進行形で珠雫は一輝から小太刀を学んではいる。が、実戦で、更には代表がかかった選抜戦での使用は、難しい。覚えたてが一番危ないからな。それに、珠雫より身体能力が高い伐刀者なんて、この破軍学園には腐るほどいる。その中で学びたての小太刀なんか使ったら、苦戦することは目に見えてる。敗北に喫することも出てくるだろう。少しでも身体に慣れさせて、おかないとまずい。
まぁ、こんなとこだな。
「補助魔法は禁止してねぇから、そっから自分なりの伐刀絶技〝クロスレンジへの答え〟を見付けな」
「それが分かれば苦労しませんけどね」
珠雫の表情は少し憂い顔だ。
お前なら何とかなるから、そんな顔するな。こっちまで不安になるだろ。
「成る程ね。補助魔法がありなら大丈夫そうね」
アリスは俺の説明に納得してくれたようだ。
「それより、この後“綾辻さんのとこ”に行くのよね?」
アリスの〝綾辻〟という言葉に、珠雫は先程浮かべていた憂い顔から、慍色を帯びた顔をへと変貌を遂げた。どうやら先日の“一輝への仕打ち”にまだ納得してないようだ。
まぁ俺も気持ちは分かるがな。
「そんな怖い顔すんなよ」
「仕方ないですよ。ご自身の実家がとられたとはいえ、あんな卑怯な手を使ったんですから。私は許すつもりはありません」
「そうね。ラストサムライもまさか、こんな事になるとは予想してなかったでしょうね」
アリスは腕を組み、同情的な慰めの声で話した。
「でも、真琴さんが行く必要はないじゃないです?」
「確かにそうだが、俺は綾辻先輩の“一件”の当事者と友人だからよ。保険として一応来て欲しいんだと」
「え?真琴さんは剣士殺し«ソードイーター»と友人関係なんですか!?」
話を聞いていた珠雫が俺と倉敷の関係に意想外の反応を見せている。目の前のテーブルを思いっきり叩く程・・・・。手ぇ痛そうだなぁ。でもそんなに驚く事か?
「意外と真琴って顔広いわよね~」
「そうですね。«雷切»東堂刀華と仲好さげで、当たり前ですが他の破軍学園生徒会全員とも知り合い、更には«夜叉姫»の異名を持つ西京寧々と顔見知り、つまり西京先生の師匠である«闘神»南郷寅次郎とも恐らく・・・」
「南郷さんとはうちの長老が戦友だっから、たまに道場の方にお邪魔させて貰ってたぜ。そんときにお会いしたかな」
「人は見掛けによらないってこの事を言うのねぇ~」
アリスの野郎?が一人で納得してやがるな・・・。
「へぇ~。それじゃその時に西京先生や雷切と?」
「それは珠雫達の想像に任せる」
さてっと、そろそろ向かいますかね。
〝彼奴ら〟の待ち合わせ場所に。
俺は立ち上がり公園の出口へと歩を進める。
アイツがどのくらい上げたか見物だな!
「あら、もう行くの?」
「ああ。この『おぶさり地蔵』を部屋に置いてからな」
このまま帰るのもなんだし、珠雫に一言かけてから行くか。
「珠雫!」
「何ですか?」
「戦闘のシチュエーションやっとけよー」
「言われなくても、『現在進行形』でやってますよ」
「へッ・・・」
俺は期待に胸を膨らませながら、公園を後にする。
さぁて、今日は楽しくなりそうだなッ!
いかがでしたか?
お楽しみいただけたでしょうか?
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。
次回は綾辻道場救出編です!
戦闘シーン難しいけど頑張ります。
今後も隔週更新ですので、気長に待っていただけると幸いです。