史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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こんにちは、紅河です。

まず、最初に読者の方々に謝らなければいけません。お待たせしてしまって大変申し訳御座いません!
私の新環境や現実の仕事等で小説を書くことが出来ませんでした・・・。

ですが、今週にやっと落ち着いて来まして漸く手につけ、更新することができました。心配するメッセージもいただき、お恥ずかしい限りです。

取り敢えず仕上がりましたので、楽しんでいただければ嬉しいです!


BATTLE.34 師弟対決!«黒鉄一輝»VS«綾辻絢瀬»

「よっ。待たせたな」

 

 真琴が景気良く手を上げて、席で待っているであろう、ステラとアリスに挨拶をする。

 

「あら、遅かったわね」

「少し、ゆりちゃん先生との会話に花が咲いちまったからな。そのせいさ」

 

 その後ろから珠雫が遅れてやって来た。珠雫の足取りはほんの少し重いように感じた。

 

「どうしたんだ?珠雫?行くぞ?」

 

 真琴が不用意に手を近付けると、珠雫は顔を赤くしてしまった。

 

「えっ!?い、いや何でもないですから!早く席に座りますよ!」

 

「お、おいっ!珠雫!いきなり押すな!」

(あら、珠雫ってば、もしかして・・・)

 

 アリスが顔に手を当てながら、その様子を見て微笑んだ。 

 

「・・・よいっしょ!はい、ここに座ってください!」

 

 珠雫が照れを隠すように真琴を押し、アリスの右隣に座らせてしまった。

 

「はぁ・・・何だよったくっ・・・」

「それで、お兄様の仕合はまだ見たいですね」

「ええ。ねぇ、真琴」

「あん?何だよ、アリス」

 

 真琴は腕組をしながらアリスの言葉を待っている。

 

「貴女は“一輝と綾辻”さんどちらが勝つと思う?」

「アリス、野暮な事聞くなよ。勝つのは一輝に決まってるだろ?一輝には戦いにおいて最も重要な要素を幾つか持っているからな、“綾辻先輩にはない”な」

「それは?」

「まず一つ、『見切る力』だ。見切りとは実践戦闘で敵と渡り合う上で最も重要な能力の一つ!しかも一輝はそれを得意としている」

「でも先輩だって見切り位するでしょ?」

 

 今まで口を開かなかったステラがアリスに代わり質問を投げ掛ける。

 

「するだろうな。というか今の破軍の現状だと、“綾辻先輩程度の腕でも見切りが出来る”と言った方が正しいな」

 

 真琴は片方の瞼を閉じ、嫌味をきかせながら答えた。

 

「それはどういう意味かしら?」

「いいか?この破軍学園の生徒達のクロスレンジは、ずぶの素人に毛が生えた程度の腕しか有していない・・・。そんでもって、多くの生徒は人間の身体能力を甘く見ている。そういう奴等の太刀筋、クロスレンジであるなら見切る事なんざ容易いだろう」

 

 真琴は続ける。

 

「それに一輝の見切りは他の伐刀者より、群を抜いている。一輝は弟子級最上位の緊湊だ。しかも数分経たない内に自分より下の伐刀者、又は同等の伐刀者のクロスレンジであれば、完璧に見切る事が出来る!綾辻先輩のそれとはレベルが違う。いや、学生伐刀者の中では最高峰だろうぜ?」

「・・・・」

 

 アリスは真琴の答に言葉を失った。

 真琴はこうも続けた。

 

「見切りが出来るということは、相手の思考を読めると同義だ。つまり、自身の体力を温存し、相手の攻撃を最小限の動きで躱せるということだからな。しかも一輝はその読みを昇華し、完璧把握«パーフェクトビジョン»という技まで編み出してしまった。これを打破出来る奴は今の学生の中じゃあ、極々僅かしかいないだろうぜ?・・・ただな・・・」

 

 真琴の瞑っていた瞼が開き、その表情は真剣な顔付きへと変わってゆく・・・。

 

「ただ?何かあるの?」

「ああ。この仕合について、少しだけ懸念事項がある」

「一体何なのですか?」

 

 珠雫も真琴のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、質問を投げ掛ける。

 

「それは・・・『綾辻先輩の伐刀者としての能力』だ」

「先輩の伐刀者としての能力?」「綾辻先輩の?」

 

 ステラと珠雫が首を傾げる。

 

「そうだ。黒乃さんが理事長に就任し大革新を行うまで、この破軍学園では能力値選抜制だったのは知ってるな?」

 

「ええ」「そうみたいね」「はい」

 

「その為、綾辻先輩は伐刀者としての能力が足りず、前回前々回の七星剣武祭に出場していないんだ。つまり、今回が初めての出場なんだよ、という事は・・・?」

「世間一般には彼女の能力が認知されていない・・・!」

 

 アリスの言葉を耳にしたステラと珠雫の表情が一変する。

 

「「!」」

 

「その通り」

「もし、先輩の能力が«狩人»並みにイッキと相性が悪かったら・・・」

「いくらお兄様でも・・・勝てない・・・という事ですね」

 

 真琴の懸念事項、この仕合の危険性を他の三名は認識することとなった。ステラが疑問に思っていた事を口にする。

 

「ねぇ、マコト」

「まだ何かあるのか?ステラ」

「一輝には重要な要素が幾つかあるって言ってたけど、見切りと読みだけなの?まだあるのよね?」

「ああ、あるぞ。だがそれについては後でだ・・・。どうやら一輝と綾辻先輩が到着したようだからな」

 

 

 

 

 真琴がそう言葉を溢すと、東ゲートの入口を照明が照らし、一人の選手がステージへ歩を進めた。その人物は真琴達が心配してやまない黒鉄一輝、その人だった。

 間もなくして、西ゲートの扉も開かれた。スポットライトで照らされ、綾辻絢瀬が現れた。

 

 

 

 

「やっぱり出てきたんだね・・・少しは不戦勝も期待したんだけどなぁ」

 

「綾辻さんに負けられない理由があるように、僕にもあるからね」

 

「そう・・・でも勝つのは僕さ!」

 

 綾辻は勝ちを確信しているような表情で固有霊装を顕現させ、一方の一輝はポーカーフェイスを維持している。

「来てくれ、陰鉄・・・」

 

 

「赤く染まれ、緋爪!」

 

 各々の思考を巡らせながら二人の武器達が出現した。

 

「綾辻先輩は剣士として上に行くために一輝から剣術を学んだ」

「言わばこれは“師弟対決”」

「しかも固有霊装が“刀同士”の対決でもあるわけね」

「だな」

 

 ステラ、珠雫、アリス、この三人は気付かなかったが、真琴は“それ”に気付いたのだ。

 

(ん?綾辻先輩、今固有霊装を空間から出した?それじゃ、もしかすると綾辻先輩の能力は“空間”に関係するのか?)

 

 真琴は腕組を外し、前のめりになりながら仕合を観戦する。すると、仕合が動き出した!

 

「はああああ!」

 

「おおっと!?黒鉄選手いきなりの跳躍だあ!速攻かぁ!?」

 

 

 綾辻が自身の固有霊装«緋爪»を逆手に持ち、柄の部分を軽く叩いたのだ。キン・・・という金属音が鳴ったかと思うと、空中に居た一輝が滅多切りにあってしまったのだ!

 

「くぅううっ!!・・・」

 

 一輝が堪らず距離をとり、バックステップを行った。 

 

「!?」

「今のは一体!?」

「何もない空間から、突然イッキが切られた!?」

 

 突然の出来事に座っていた三人が、身体を立ち上がらせてしまった。真琴だけが仕合を冷静に観ていた。

 

(・・・なるほど、そういう事か・・・。これが綾辻先輩の『能力』・・・。一輝が“突然斬られた”ということは綾辻先輩が犯した犯則もこれで、推測出来るな。つまり・・・)

 

「三人とも、落ち着け」

 

 真琴は腕を組み直し、三人に声をかける。

 

「真琴さん!綾辻先輩の攻撃方法が分からない以上、お兄様は苦戦を強いられますよ!」

「まぁそうだけどよ、俺は綾辻先輩の能力と犯則技を把握出来たぜ?」

 

「そ、それホントなの!?マコト!」

「・・・・!」

 

 

 ドヤ顔をしながら、ステラの質問にこう答えたのだった。

 

「ああ。綾辻先輩の伐刀絶技がどんな名前かまでは知らないが、綾辻先輩は“空間系能力”を持つ伐刀者だ。自身の固有霊装で予め空間に傷を付けて、自身にしか見えないトラップを造り出す。そして、綾辻先輩が犯した犯則技っていうのが『事前に仕掛けた罠』。そのトラップを発動させ、見えない鎌鼬で一輝を斬りつけたんだ」

 

 その言葉に珠雫の瞳は怒りに燃え、アリスが淡々と言葉を溢した。

 

「・・・仕合前に罠を仕掛けるのは犯則」

「犯則が分かった段階で仕合は即没収・・・!それじゃ、まさかお兄様が真琴さんとステラさんを連れて行ったのは・・・!」

「そういう事さ。綾辻先輩を救うため、折木先生に仕合を止めないよう報告に行ってたんだ」

 

 アリスが溜め息混じりに言葉を漏らした。

 

「はぁ・・甘いわね・・・いえ、こういうべきかしら?黒鉄一輝は『とことん迄に人に優しい、お人好し』」

「そうだな。それは言えてるな、一輝はそういう奴だ」

「そうね。今の私達には見守る事しか出来ないわ・・・」

「信じましょう、お兄様を・・・」

(イッキ・・・)

 

 ステラと珠雫が心配そうな心情を持って一輝の仕合を見つめていた。それをするのも無理もない。何故なら一輝は一回戦目に狩人«かりうど»こと、桐原静矢に高所から“見えない矢”でいたぶられ悪戦苦闘しながら、やっとの思いで勝利をもぎ取る事が出来たからだった。一輝が桐原戦と同じ様に“見えない技の応酬”に対応できなくても、なんら不思議では無いのだ。

 

 

 真琴達が綾辻の能力について話す数分前のこと・・・。一輝が綾辻の攻撃を受け距離をとった時、綾辻が柄を叩き、すると突如、一輝の背中が見えない鎌鼬に斬り付けられたのだ!その出来事に会場内は騒然とした。騒ぐのも無理はない。

 例えると、“何の前触れもなく、目の前の人間の背中に、不自然な傷が出来た”こんな感じだろうか。これでは斬られた本人も解らず、第三者も理解するには難しいだろう。

 

(こんなダメージを負わせた程度では、黒鉄君は倒せない!接近戦では黒鉄君の方が有利だけど、僕には«トラップ»がある!ここは攻める!)

 

「はあっ!」

 

 二人の鍔迫り合い!そして綾辻の力任せの一振りが

一輝を襲った!

 

「くっ!」

 

 完全に躱す事が出来ず、左腕を掠めてしまった。それを見過ごさず、綾辻が技の体勢に入る。キンという金属音が鳴ったと思うと一輝の傷が自然に開いてゆく!

 

「ぐぅあァァ・・・!!」

 

「「「「「キャアアアアアアーーー!!!」」」」」

 

 一輝の左腕から血が飛び出し、会場内の女性達は悲鳴を上げ、仕合を観戦していたステラ達も思わず声を上げてしまう。

 

 

「イッキ!!!」「お兄様!!」「あの傷は・・・」「・・・一輝!」

 

 ステラの表情は心配顔そのものだ。他の三人も同じ様な表情を浮かべていた。

 

「おおっと!これはぁ!?小さかった黒鉄選手の斬り傷が勝手に開いた様に見えましたがぁ、一体どういう事だぁ?これが綾辻選手の能力なんでしょうか!?」

 

 月夜見の実況が入るが綾辻はすかさず、一輝に刃を向け突撃を開始した。

 

 

「どうだい?僕の能力、風の爪痕のお味は?」

「堪えますねぇ・・・なかなかっ!!」

 

 次の攻撃に備え、お互いにバックステップを行い距離を取る。真琴の表情はひどく神妙な顔つきで二人を見つめていた。

 

(・・・チッ、綾辻先輩のあの伐刀絶技、大分厄介だな・・・。小さな被弾でも綾辻先輩が能力を起動さえ、させちまえば、一瞬にして大きな傷に早変わりとはな・・・。もし急所に掠りでもしたら、それだけで致命傷か・・・この事は一輝も気付いているだろうが・・・負けんじゃねぇぞ)

 

 その言葉に熱を込めながら、大事な親友«一輝»へエールを送った。

 

「(ここには既に数百の刀傷を仕込んである)逃場は無いよ!!」

 

「好機と見たのか、綾辻選手の猛攻だぁ!!ラッシュラッシュラッシュゥー!!捌くのが精一杯だあ!!」

 

 綾辻は一輝が傷を負ったのを良いことに、一輝に向けて斬戟を繰り出した。横凪ぎ、振り下ろし、自分が知り得ているであろう有りとあらゆる斬戟を一輝に浴びせてゆく・・・。だがしかし、綾辻の剣戟は一輝に届く事はなかった。綾辻が一輝の左腕に深い傷を負わせたにも関わらずだ。当事者である綾辻には徐々に焦りが滲み出てきたのだった。

 

「(おかしい!・・・。あれだけの傷を僕が負わせたのに、何故黒鉄君はまだ立っていられるの!?常人なら倒れてもおかしく無いのに!?い、いやまだだっ!僕にはトラップがある!)」

 

 一輝が攻撃を躱す為に後ろに跳んだ。その直後、直ぐ様綾辻が伐刀絶技の起動に入った。この技を発動させるためには自身の固有霊装を逆手に持ち返し、柄の部分を軽く指で叩く必要がある。だがそれは些細なモノだ。綾辻には数百のトラップがあるのだ。一輝には視認出来る筈のないトラップが・・・。

 綾辻は一輝の身体に重なる様に技を発動させた。しかし綾辻の«風の爪痕»は空を切り、不発に終わってしまったのだった。一輝が綾辻の技を感じ取り、素早く身を前屈させ技を回避したのだ。

 

「(なっ!躱した!?僕のトラップに気付いたっていうの!?だけど確証はないはず・・・今のうちに・・・!)」

 

 綾辻は間髪いれずに攻撃を仕掛けようとしている。実況席を確認しながら・・・。何故なら綾辻は犯則を犯してこの仕合に挑んでいるのだから、見る事は仕方ない事だった。

 そして、確認を終えた綾辻もう一度、一輝に接近戦を挑んできた・・・。後退しながら一輝は攻撃を躱していく。綾辻が振り下ろし、一輝はそれを陰鉄で受け止めそのまま上に押し上げながら、綾辻へ斬戟をお見舞した。しかし、綾辻は簡単に刀身で受け流した。そして「(止め!)」と思ったのか、最後の攻撃を繰り出した。

 

「お、お兄様!」

 

 珠雫は両手を握り締め、一輝の身を按じ誰しもが、完璧に決まったと確信していた事だろう。だが真実はそうではなかった・・・・。一輝が繰り出した攻撃は

綾辻の斬戟を誘発する“誘い”だったのだ!

 

「(や、やられた!誘いだったの!?)」

 

「やっぱり、綾辻さんは僕の思った通りの人だ」

 

「き、急に何を・・・」

 

「綾辻さん、今の貴女は・・・。呼吸、太刀筋、踏み込み、何もかもがめちゃくちゃだ・・・!」

 

 仕合途中で一輝と綾辻は立ち止まってしまう。

 

「イッキ達が立ち止まっちゃったわね」

「みたいだな。雰囲気から何となく察せるが、綾辻先輩の説得に試みているようだな」 

「そういえば、綾辻先輩の心を救うためでしたね」

「(そういえばって何気にひでぇな・・・珠雫め、今まで忘れてたな・・・)一輝が話してる内容は恐らく、綾辻先輩の“真の力”についてだろう」 

 

「“真の力”?」

「ああ。今の綾辻先輩は、一輝が教えた剣術、昔から学んでいた綾辻一刀流剣術すら出来ていない状態だ」

 

「それは本当なの?」

「・・・仕合前にベンチで真琴がそんなことを言ってたわね」

 

 アリスが顔に手を当てながら、口にする。

 

「ああ。いくら下衆を演じたところで、綾辻先輩の中にある、生粋の“活人拳”が消える事はない。綾辻先輩は“ラストサムライ”である親父さんを尊敬し、その親父さんの事が大好きみたいだからな、尚更だろう。先輩の葛藤が剣にも現れ、ここからでも“心の迷い”が見てとれる」

「(はっ!)イッキにはもう一つ大事な要素があるとか言ってたけど、もしかして“心”の事?」

 

 真琴はコクりと頷く。

 

「武術や剣術、戦いにおいてもっとも重視されるのが“心の力”だ。迷ってる剣に真の力は絶対に宿らない、俺はそれを良く知っている」

 

 真琴が語り終わった直後、一輝達が動き出した!

 まず、先に行動したのは一輝だった。左腕を負傷しながらも、両手に武器を持ち直し、綾辻へ特攻を仕掛けた!

 それに対応するため、綾辻はトラップを発動させる。しかし、一輝には当たらない。もう既に«完全把握(パーフェクトビジョン)»を終わらせていたようだった。

 

 

(くっ・・・やはり黒鉄君は強い!左腕を負傷させてから一度もヒット出来ない!でもここで退いたら剣士殺し«ソードイーター»にも勝てっこない!でも負けられない!負けたらッ・・・・)

 

 綾辻は鬼の形相で刀を地面に突き刺し、周囲にスモークを造り出した。「うおおお」という声に反応し、跳び掛かってくる一輝に向け、突きを繰り出す。

 だが一輝の身体は幻の様に消え失せてしまった。その身体は其処にあって、其処には無いのだ。

 

「第四秘剣 蜃気狼」

 

 綾辻が気付いた時には一輝は既に後ろに立っていた。

二人がほぼ同時に攻撃し、刀同士のかち合いの轟音が鳴り響きながら、綾辻が地面に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 




如何でしたか?
満足していただけたら幸いです。




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