史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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BATTLE.32 道場破り

「お兄様、大丈夫でしょうか?」

「疲労しただけだからな、もうそろそろ回復するだろ」

「いや、それよりも精神面が不安です・・・友人だった人に裏切られたんですから・・・」

「それについては問題ないだろ」

「え?」

「一輝は極度って言っていい程の“お人好し”だ、例え裏切られたって笑って許すさ」

「けど、私は許さないわ!!」

 

 急にステラが怒りをあらわにしながらその話に割り込んできた。

 

「折角一輝が丁寧に剣術を教えていたのにその好意を裏切ったのよ!!私だって手伝ったのに・・・」

「お前の気持ちも分かる、俺だってステラと同じ気持ちさ」

「そうです、ね」

 

 珠雫は深夜に起きた出来事を思い出していた。

 

(真琴さんはあの時、今まで見ないくらいの“怒りの表情”を浮かべていた・・・その顔は・・・とてもじゃないけど、あの“優しい真琴さん”の顔じゃなかった・・・・初めて真琴さんの事を“恐い”と思った・・・・)

 

 一輝がこのIPS再生槽に運ばれる数時間前、真琴と珠雫は白い装束衣装を身に纏った綾辻に出会している。その時に綾辻に対して怒りの表情を見せていたのだ。

 そんな事を思いながら珠雫は一輝の回復を待っていた。数十分が過ぎ、時間が十時を回った時一輝が目を覚ました。

 

「ここは・・・」

「イッキ!目が覚めたのね!」

「お兄様!」

「ステラ?・・・そうか、昨日綾辻さんに・・・そうだ!仕合は!?」

「心配すんな、一輝。仕合時間は午後の三時、現在時刻は午前十時、今から五時間後だ」

 

 

 すると、突然、一輝の病室が開き黒乃理事長が入室してきた。

 

「おお、黒鉄、やっとお目覚めか」

「理事長・・・」

「何か用ですか?理事長」

「黒鉄にな、体調が優れないところ悪いが、少し付き合って貰うぞ」

「?」

 

 真琴達は黒乃に案内され、理事長室に来ていた。

黒乃が真琴達に話があるということで、理事長室に真琴達を招き入れていた。その話とは昨晩の十一号館についてだった。

 

「やはり、あれはお前の仕業だったか・・・。昨晩、黒鉄から連絡を受け、医務室に運び込まれたと報せを耳にした時、もしやとは思ったが・・・・」

 

 

「それ相応の処罰は受けます」

「ちょっと、イッキ!何を言ってるのよ!?」

「ステラ!お前は口を挟むな、じっとしてろ」

「ステラさんは感情的に動き過ぎです、少し落ち着いて行動するのを覚えてください」

「・・・わ、分かったわよ・・・」

「・・・理事長」

「んー?」

 

 黒乃は手元にあった煙草ケースから最後の煙草を取り出しつつ、一輝の質問に耳を傾けている。

 

「教えて欲しい事があります、三年一組、綾辻絢瀬さんについて」

「・・・調べれば直ぐ分かる事だしな」

 

 黒乃が煙草に火を付け一服している。

 

「近衛」

「何ですか?理事長」

「お前は綾辻に“何があった”か大体察しているな?」

 

 黒乃のその言葉を聞いた一輝達は、一斉に真琴へ目を向ける。

 

「真琴!本当かい?」「そうなの!?マコト!」「そうなんですか!?」

 

「一斉に質問をするなぁ・・・」

「皆、そんなにがっつかないの。話せるものも話せないわ」

 

「わりぃな、アリス。助かった」

「いいのよ、気にしないで」

「・・・理事長、これはあくまで綾辻先輩を見てきた俺の推測に過ぎません・・・それでも良いですか?」

「構わん、話してみろ」

「・・・・分かりました、では、まず綾辻先輩を病室で見た時、俺はあの人の目の奥に『深い悲しみ』と『暗い復讐の炎』を確認しました。この目は第三者に大切なモノや家族なんかを奪われなければ、なることは有り得ません・・・。綾辻先輩は綾辻一刀流道場出身で、ラストサムライである“綾辻海斗”さんの実の娘。綾辻先輩は海斗さんが仕合の事故で入院してると言っていました。これはその事を聞いた俺の想像ですが・・・何者かに道場破りを挑まれ、その仕合中の怪我でラストサムライが入院している。つまり、誰かが綾辻海斗さんを打ち倒した、それも、悪質な迄に倒されている・・・こんなとこですかね・・・合ってます?」

 

「・・・概ねそれで正解だ、見事な推理だな。近衛の言ったのを補足すると、ラストサムライである綾辻海斗氏は二年前の道場破りで敗北し、その結果二度と剣を持てぬ体となった・・・・」

「え!?・・・」「まさか・・・そんな・・・」「どうして、そんな事に・・・」

 

 

「道場破りとの一対一の決闘の結果だ・・・その決闘相手とは・・・「貪狼学園、剣士殺し«ソードイーター»こと“倉敷蔵人”・・・ですか?」」

 

 一輝が黒乃の言葉を遮るように言った。

 

「そうだ」

「やっぱり、一輝は気付いていたか・・・どこで気付いた?」

「・・・綾辻さんとのファミレスで倉敷君と会った時かな・・・」

「やっぱり?マコトも気付いてたの?」

「ああ、一輝も言ったがファミレスで倉敷に会った時、あの内気だった綾辻先輩が突然、感情的な行動をとったよな?それでピンと来たんだよ、倉敷と“何かあったな”ってね」

「その“倉敷蔵人”と交わした取り決めに従い、綾辻家の土地建物は全て倉敷の所有物になってしまっている」

「それで今、海斗さんは・・・・」

「この二年間・・・意識不明だそうだ・・・」

 

―――――

 

 真琴達は学園内に設置されている公園に来ていた。いつもここで他の生徒達に剣術を教えている。綾辻にもここで学んでいた。

 

「それにしても、酷い話ね・・・愛する全てを奪われそこまで追い詰められるなんて・・・・」

「元来、道場破りってのはそういうもんさ・・・」

「仮にそうだとしても、これはやり過ぎよ・・・」

「でも今の彼女は『獣』仕合では形振り構わず牙を向いてくるでしょうね・・・・並大抵では無いわよ?」

「そうだろうね・・・綾辻さんがそう来るなら、全身全霊で応えるのみさ・・・でなきゃ綾辻さんに失礼だ・・・!」

「・・・でも!こんな卑怯な手を使われてまで!」

 

 珠雫も真琴同様に、綾辻の行いに対して怒りをあらわにした。

 

「珠雫・・・」

 

 だが同じ心境の真琴がその怒りを言葉で止めた。

 

「でも真琴さん・・・貴方だって綾辻さんに!・・・」

「分かってる・・・けどな今一番苦しんでるのは他の誰でもない綾辻先輩本人だぜ?」

「・・・・え?どういう事ですか?」

「いいか?綾辻一刀流は『人を守るための剣』として知られている、云わば“活人拳”そのものだ・・・。ラストサムライである海斗さんが実の娘の綾辻さんに、その❰信念❱を授けていない筈がない・・・」

「あっ・・・」

「大好きな親父さんの教えを裏切ってまであんな行動に出た綾辻先輩だが、もし本当に仕合に勝ちたいのなら、もっと一輝を追い詰める事だって出来た筈だろ?それをしないのは綾辻先輩の中にある良心に他ならない・・・」

 

「・・・・」

「ステラ、真琴・・・」

 

 今までベンチに座ったいた一輝がその疲弊した体を立ち上がらせた。

 

「イッキ!」

「無理すんな」

「大丈夫、有難う二人共・・・。一緒に来て欲しいところがあるんだ・・・」

「良いけど何処へ?」

「一つだけやらなきゃいけない事があるんだ・・・・仕合の前にね・・・・」

 

 

―――――

 

 そして、時間が経ち時刻は午後2時前、真琴と一輝とステラの三人は折木の前に来ていた。今回の解説を学園から任されているのは、この折木有里なのだ。       綾辻が“形振り構わず”戦うという事は、反則技も厭わないと同義だ・・・。それを伝える為、折木の元へ訪れていたのだ。

案内された場所は学園の中にある会議室だ。そこで飲み物を飲みつつ、話を始めた。

 

「何かな何かな、話しって、黒鉄君・・・」

 

 生徒達にフレンドリーに話し掛けるのは、折木の教師としての特徴である。その為、学園の生徒からは人気が高い。病弱なところも含めてである。

 

「はい、今日の仕合、綾辻さんは間違いなく反則を使ってきます」

 

 一輝のその言葉に思わず、ブシャー!!っと折木が口から血を吹き出した。持っていたハンカチでそれを拭きながら、口を開く。

 

「ほ、ホントに?黒鉄君・・・じゃ、じゃあ反則を確認したらすぐ仕合を・・・」

「いえ、この仕合反則のジャッチをとらないで欲しいんです」

 

 一輝の意外な言葉にステラが飲んでいたコーヒーを吹き出し、折木が吐血し、真琴が「やっぱりな」と一言呟いた。

 

 

「何でよ!?イッキ!?」

「ステラは少し黙って見てろ、一輝に考えがあっての事だ」

「本当に綾辻さんが反則を使ってるのだとしたら、没収仕合で黒鉄君の勝ちになるんだよ?選抜戦の一つ一つの仕合がどれだけ大事か分かってるよね?」

「はい、一つでも黒星を取ってしまえばきっと、七星剣武祭の代表には残れない・・・」

「それでも君は・・・」

 

 折木は一輝の担任だ・・・。自分の受け持つ生徒の考えの意図を汲めない教師ではない・・・。だが担任である前に一教師だ、その理由を聞かなければならなかった。

 

「理由を教えてもらえるかな?」

「僕は、綾辻さんの『心』を助けたいんです」

「心を助けたい?」

「綾辻さんの心は実家で起きた、道場破りが原因で壊れそうになっています・・・それを助けたい。僕が綾辻さんの縁を切ってしまえば僕の勝ちとなります・・・・。ですが、考えても考えても答えは出ませんでした、でも一つだけ分かった事があるんです」

「それは何?」

「綾辻さんとの縁を切りたくないという僕自身の気持ちです!」 

 

 一輝の言葉に真琴とステラは呆れるばかりだ・・・。しかし、その無類なき優しさこそが黒鉄一輝の良さであり、強さなのだ・・・。

 

「はぁ・・・全く一輝は仕方ねぇな、お人好しにも程があるぜ・・・」

「真琴・・・」

「折木先生、俺からもお願いします・・・一輝はただ綾辻先輩の心を救いたいだけなんです。もしこの機会を逃したらもう、二度と救うことは出来ないでしょう・・・一輝に、最後のチャンスを与えてやって下さい!」

 

 と真琴は頭を下げ、折木の説得を試みたのだ。一輝は綾辻の為に、真琴は一輝の為に・・・。自分の生徒がここまで己の気持ちを示したのだ。汲まなきゃ担任の名が廃るというものだ・・・・。

 

「分かったわ・・・綾辻さんの件は任せて頂戴・・・」

「本当ですか!?」

「やったわね!イッキ!」

「私のかけがえのない生徒だもの・・・我が儘くらい聞いてあげなきゃ・・・・それよりもうすぐ仕合時間よ、急ぎなさい」

「はい!んじゃ行こう、ステラ、真琴!」

「おう」「ええ!」

「あっ、近衛君は待って」

「え?何でです?何か用でも?」

「うん、血を出し過ぎて、実況席まで行けそうにないの・・・送ってくれない?」

「分かりました、それくらいなら・・・つー事だ、二人で仲良く控え室に行ってくれ。俺はお邪魔だろうからな!」

 

 その真琴の顔はニヤケながら二人に言った。

 

「ええ!?いやぁそのぉ・・・・」

「いいいい、急ぐわよイッキ!遅れちゃうわ!!」

「そ、そうだね!いいい、行こう!」

 

 二人はその言葉に顔を真っ赤にしながら入り口に向かった。

 

「「し、失礼しました!」」

「行っちゃいましたね」

「フフッそうだねぇー」

 

 折木が立ち上がると、立ち眩みからか倒れそうになった。それを真琴が支えた。

 

「折木先生、取り合えず輸血パックを貰いに行きましょうか・・・」

「そうだね、一リットル準備すれば大丈夫だと思うし・・・」

「さぁ俺がおぶりますから、背中に乗って下さい」

「うん、有難うー」

 

 そのまま二人は保健室へ立ち寄り、輸血パックを入手してから実況席へ向かった。

 一輝の仕合が行われる第三訓練場に到着し入場する真琴と折木の姿を、刀華が目撃していた。

 

「あれ?今入場したのまこ君と折木先生?何でおんぶしてたんだろ・・・」

 

 真琴は折木と楽しそうに会話をしながら、会場に入っていく・・・。

 その表情を見た刀華の心はズキッという“嫉妬”を感じていた。

 

(私、もしかして、今・・・ううん、まこ君と折木先生はクラスが同じだもん、楽しく会話してただけだよ・・・)

「どうしたの?刀華」

「ううん、何でもない・・・早くカナちゃんの仕合に行こう」

「変な刀華」

 

 

 そして、一輝と綾辻の仕合の火蓋が切って落とされた!

 

 

 

 




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