気付けば、30話に突入です!始めて小説を投稿してから約1ヶ月が経過しました。時が過ぎるのは早いですね・・・。
オリジナル展開がメインですが、宜しくお願い致します!それではお楽しみ下さい!
「稽古にも来ず、どうする気なのかね綾辻先輩」
「それは、分からないよ」
「それもそうだな、すまん」
真琴と一輝が教え子の生徒達を見ながらそんな事を溢した。ステラ達も側で生徒達の稽古を見ている。
「綾辻先輩が稽古に来なくて良かったですね、ステラさん。綾辻先輩が来てから、ずっと嫉妬の嵐でしたものね」
「う、うるさいわね!し、仕方無いじゃない!」
「あまり顔に出さない方が良いですよ?ステラさんは分かりやすいですから、それと足太いです」
「足は関係ないでしょ!!私のは標準よ!!」
ステラと珠雫がいつもの様に言い争いを始めた。この二人は会う度にこれを続けている。真琴は何故飽きないのか疑問に持ちながら、その光景を見ていた。
その稽古の時間はあっという間に過ぎていき、気が付けばもう下校時間になった。しかし、真琴は帰宅しておらず、アリスに呼び出されピロティに来ていた。
「お、アリス!悪い、少し遅れたか?」
「いいえ、時間通りよ。私が早く来すぎただけだから」
「話ってなんだ?まさか!お、俺はホモじゃないからな!お前は友としては好きだがっ!・・・」
「・・・・その話じゃないわ、綾辻さんの話よ」
「・・・え?綾辻先輩?」
「そうよ、貴方は綾辻さんの『心』に気付いてる様だし」
「・・・ああ、その事か。というかやっぱアリスも気付いてたんだな」
「ええ」
「まぁ、綾辻先輩のあの『心』は問題だ、だがその話をするなら一輝じゃねぇか?」
「分かっているわ、もう少しで来るはずよ」
アリスがそう言うと程無くして、一輝が姿を現した。
「アリス、僕にようかい?あれ、真琴も?用は僕だけじゃないの?」
「彼にも話に付き合って欲しくてね、単刀直入に聞くわ・・・綾辻さん、あれから本当に音沙汰無しなの?」
「え、どうして?」
「俺もそれは気になってたんだ。一輝、こんな事は余り言いたくねぇんだが、綾辻先輩とお前じゃ“実力の差は歴然”だ・・・一輝もそれは分かってるよな?」
「・・・・」
「彼女は剣士殺し«ソードイーター»戦う為、七星剣武祭に出場しなければならない、つまり選抜戦では負ける事は許されない」
「そして、勝てない相手と戦う時、そして何が何でも勝たなければ行けない時、そんな状況で人間がとる行動は一つ・・・それは、“どんな手段を使ってでも勝ちを狙う”これに尽きるぞ・・・。綾辻先輩から“何か来た”んじゃねぇか?」
二人から綾辻の事への指摘、それについて一輝は感心せざる得なかった・・・。
何故なら二人の言う通りだったからだ・・・
「二人は本当に鋭いね・・・」
一輝は生徒手帳を取りだし、綾辻から来たメールの内容を真琴とアリスに見せた。その内容とは・・・『君にしか出来ない大切な相談があるんだ、午前三時 十一号館にて待っている』という内容だった。
「やっぱりね・・・」
「一輝、これは“絶対に罠”だぞ?本当に行くのか?」
「・・・彼女は僕のこの手を好きだと言ってくれた・・・だから行くよ」
真琴はその一輝の言葉に無類なき優しさを見ていた、自分の師匠の面影を重ねがら・・・・。
一輝は本当のお人好しだ。今まで一輝の事を嫌悪していた人間をあっさり受け入れ、その人達に剣術を教えているのだ。普通ならそんな事はしない、極度のお人好しでもなければ・・・・。真琴の師匠である“白浜兼一”も超ド級のお人好しなのだ。
あるエピソードに、敵が自分の命を狙って来たとしても、その相手を思い遣り光の道へ指し示す程だ。そして、その彼の人間愛に触れ救われた者は数多い。兼一の友人には不良だった者おり、友人になる前は敵同士だった。だが彼の『優しき心』に触れる事で改心し、かけがえのない盟友になったのだった。
一輝が綾辻に行おうとしている事もそれと同じだ。一輝は綾辻を救いたいのだ、壊れそうな彼女の❮心❯を救いたい、彼を突き動かすのはその気持ちだけだった。
「(一輝は本当に師匠とそっくりだ・・・。努力家なとこといい、一途に好きな女性を想っているとこといい、お人好しなとこといい、いつか師匠に会わせたいな・・・一輝を見た師匠は何て反応するかな)」
真琴が今度、師匠を呼ぶプランを立てながらそんな事を思考していた。すると、アリスが一言言葉を溢した。
「眩しいわね」
「眩しい?」
「ええ、私はどうしても人を真っ直ぐに見れないから。でも私だから気付く事もある、綾辻さんとは縁を切る覚悟もしていた方がいいわ」
「そうだぞ、一輝。それだけは会う前に済ませとけ、後悔しないようにな・・・」
「有難う、二人とも・・・。僕は真琴とステラと約束したんだ、七星剣武祭で戦うと・・・それを果たすためにもこの戦い、何としてでも綾辻さんに勝つよ」
「おう、信じてるぜ・・・“真友”よ」
「うん」
真琴と一輝はお互いに拳を作り、それを合わせた。アリスはそんな熱い友情を見せる二人を羨ましく見つめていた。自分にはもう“無いモノ”だったから・・・。
三人が寮に帰宅する時には、夕陽が沈みかけていた。その綺麗な情景を見ながら寮へ足を進めた。
時間が経ち、午前二時半頃ピンポーンと真琴の部屋のインターホンが鳴る。真琴は嫌々ながらベットから体を起こし、扉の前に向かう。
「ふぁい・・・一体誰だ?」
「真琴さん、私です、珠雫です」
「珠雫?ちょっと待ってろ、今鍵を開けるから」
「夜分遅くにすみません、失礼だっていうのは分かってるんですけど、どうしても今日中に話をしたくて」
「取り敢えず、入れ・・・。部屋で聞くから」
「はい」
真琴がテーブルに案内すると、冷蔵庫から麦茶を取りだし珠雫の前に出す。
「んで、こんな時間になんの用だよ?」
「えっとですね・・・真琴さんに明日から私に稽古をつけて欲しいと思いまして」
「稽古?それはいいけど何でこんな時間に・・・明日でも良かっただろ?それに、女性なんだから肌は大事にしろよ」
「それもそうなんですが、少し考え事をしてまして」
「考え事?」
「私の弱点についてです・・・」
「それ、この前、俺がお前に言ってたやつか」
「はい」
珠雫は破軍学園に入学したての頃に、真琴と組手をし敗北している。真琴と戦った経緯とは珠雫が校則を破ってしまった事が発端である。それを黒乃理事長に報告し破った事を免除する条件として真琴と組手を行い、真琴に勝利する事だった。だが敗北し罰として三日間の女子トイレ掃除をする事になったのだった。その組手の後に真琴と弱点について話していたのだ。
「それで、その答えは見付かったのか?ま、俺の所へ来たという事は言わなくても分かるけどな・・・。見付かって無いんだろ?」
「・・・・はい、情けないことに」
「んで考え出した結果、俺と戦えばそのヒントが分かるんじゃないかって感じか・・・」
「・・・仰る通りです」
「・・・お前の言い分は分かった」
「やっぱり駄目、ですか?」
「・・・俺が言った手前、NOとは断れないし、いいよ、受けてやるよ」
「本当ですか!?」
「ああ、お前は余り友達を作りたがらないからな、身近な友人でクロスレンジが得意で気軽に頼めるって言ったら俺だけだろうし、兄の一輝には頼めないんだろ?」
「はい」
「ならいい、ただし!」
「た、ただし?何か条件でも?お願いしてるのはこっちですし、無理難題で無ければ可能な限り条件を呑みます」
「その条件ってのはな・・・」
「は、はい・・・・」
珠雫は真琴の言葉を待っている。
「その条件は二つ!
一つ目、ロングレンジの魔法は禁止、ただし補助魔法はあり
二つ目、戦う時はクロスレンジのみを使用すること
これらを呑むなら稽古をつけてやるよ」
「・・・その理由を聞いても良いですか?」
「ん?いいよ、説明してやる。まずロングレンジの魔法の禁止だが、お前が遠距離魔法戦に頼り過ぎてるからだ」
「頼り過ぎてる?これが私の武器なんですが・・・」
「それは分かる、前にも言ったがロングレンジで互角に渡り合う相手と当たった時、ロングレンジだけじゃ勝てない、それ以外の武器を増やさないとな!」
「真琴さんが私に対して補助魔法を禁止しないのは、そこに弱点への答えがあるからですか?」
「そうだ、恐らく、だがな」
「・・・・分かりました、真琴さんを信じます」
「無理言ってすまんな」
「貴方が謝る事じゃないですよ、無理言ってるのは私の方ですから。それからクロスレンジだけで戦うということは、お兄様の小太刀術を練習する為、ですね?」
「察しが良くて助かる、そういう事だ。選抜戦じゃ、覚えたての小太刀を使えって言われても直ぐには対応出来ないだろうからな、少し体に慣れさせなければいけない。俺と戦えばその内嫌でも身に付くだろ」
「了解です、私の為にここまで考えて頂き、有難うございます」
「まぁ、元々俺が言ったのがきっかけだしな、気にすんな。さて、そろそろ寝る時間だ」
「そうですね、すみません・・・」
「部屋まで送る、こんな時間に女性を一人で帰せないからな・・・」
真琴がそう溢すと、もう午前3時を過ぎようとしたいた。
「はい、宜しくお願いします。今日は本当に有難うございます」
「いいっていいって」
二人が玄関に向かい外出する準備を始めた。真琴達は珠雫の寮へ歩みを進めるていく。しかし、“それ”は突然起きた。
ドボーン!という大きい着水音が二人の耳に届いた。そして、その音の方向は十一号館から聞こえたのだ。
「(この音は何だ!?十一号館から聞こえたぞ!?確か十一号館には一輝と綾辻先輩がいたはず・・・まさか!?)」
真琴の頭の中には“ある事”が浮かんでいた。
「(何か嫌な予感がするぜ・・・・)」
「この音は一体!?」
「珠雫、十一号館の方向だ」
「分かるんですか?」
「何となくな、だが急ぐぞ。あの音は尋常じゃない、人が落ちたようなそんな音だった」
二人は急ぎその場所へ走って向かった。その真琴の予想は最悪な形で的中する・・・・。それは・・・・。
「一輝!」
「お兄様!!」
二人がその場所に辿り着くと、見るも無惨な光景だった。それは、十一号館の壁や窓がボロボロに砕かれ、一輝がコンクリートの上に倒れ、それを綾辻が見つめているというモノだったからだ・・・。
この十一号館で一体何が起きたのか、真琴には完璧に把握する事が出来ていた。それは来る前に予想していた事と、ほぼ同じモノだったからだ。
「(やっぱこうなってたか!!)」
「何故、この場所が!」
「ま・・・こと?それとし、珠雫まで・・・?どうしてここに・・・」
「話は後です!今すぐ、病室に連れていきますから!」
「一輝、お前、一刀修羅を使ったな?いや“使わされた”な?綾辻先輩に・・・」
「(き、気付かれた!?な、何で!?)」「!?」「真琴さん!?それはどういう!?」
真琴の言葉に一輝達は驚き、真琴は綾辻に怒りの目を向ける。その感情は次第に軽蔑の視線へと変化していく。そして、綾辻に向かってこう続けたのだった。
「おい、綾辻先輩。こんな事は言いたくないけどな、言わせてもらうよ、あんた、蔵人より“非道な事”してるぞ?」
真琴は敬語すら忘れ、綾辻に言い続ける。
「・・・き、君に何が分かる!?あんな下衆野郎と友人のお前に!大切なモノを奪われた僕の気持ちが分かるもんか!!」
「悪いけど分かるんだよ、俺も大切なモノを失ってるからな」
「だ、だったら!」
「だけどな、一輝にそれをやるのは筋違いだ!もっとも他の人間に、ましてや蔵人に行うのも間違いだけどな」
「・・・っ!」
「あんたは自分自身で非道な道を選んだんだ、大嫌いな剣士殺し«ソードイーター»より非道のな・・・それを自覚しろよ?」
「ま、真琴・・・それ以上・・・あ、綾辻さんを悪く言わないであげ、て・・・悪いのはこの人じゃない・・・・」
一輝が一刀修羅の副作用で体力を消耗しながら、綾辻を庇った。喋るのもやっとの筈なのに・・・体力を振り絞り、真琴にそう告げたのだ。自分をこんな目に合わせた張本人にも関わらず・・・・。
「はぁ・・・一輝がそう言うんだったら仕方ねぇな、綾辻先輩、一輝に免じて見逃してあげます。珠雫、病室の連絡は出来たか?」
「・・・は、はい、なんとか」
「よし、さんきゅな、俺が一輝を運ぶ、珠雫はステラに連絡しとけ・・・」
「わ、分かりました」
「ま、真琴」
「一輝、いいからお前は寝とけ。心配すんな綾辻先輩にはなにもしない」
その言葉に安心したのか、一輝は真琴におぶさり静かに眠りに落ちた。真琴が一輝をおんぶし、病室に向かおうとした時、綾辻にこう告げた。
「綾辻先輩、これだけは言っておきます。貴女がどんな卑劣な手段を使おうと、一輝の切り札を封じようと、仕合中に如何なる反則技を使おうと、貴女は仕合に勝てない。それじゃ・・・・」
真琴はそんな言葉を残し、珠雫と共に十一号館を後にした。両者に異様な不安感だけが残る夜となった。
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