遂に綾辻先輩登場です!お好きな方はお待たせしました!ここまで長かった・・・・。
UAも気が付いたら三万突破!思ったより速いです。これも皆様の応援のお蔭です。これからも頑張っていきますので宜しくお願い致します!
ではお楽しみ下さい!
「なぁ、一輝」
一輝、ステラ、珠雫、アリスと共に下校途中の真琴が突然、一輝に質問を投げ掛けた。
「何?真琴」
「あれ、いつまで放っておく気だ?」
「それ、私も気になってたわ。一輝が何も言わないから無視してたけど」
「やっぱり、二人は気付いてたんだね」
「どういう事ですか?お兄様」
「・・・私、全然話が見えないけど、どうしたのよ?」
ステラと珠雫が頭に疑問符を浮かべていると、一輝がその疑問に答えた。
「あのね、僕、最近誰かにつけられてるみたいなんだ」
「ええええ!?」「それってストーカーですか!?」
「確か、つけられて一週間位だよな?」
「うん」
「一週間も!?」
「す、ストーカーってあれよね?髭剃りとかを送ってくる、あの!」
「ステラさん、送ってくるのは剃刀の刃ですよ」
「は、刃を入れ忘れただけよ!」
「いや、刃を入れ忘れたとかそういう話じゃねぇよ・・・」
「あの!君、僕に何か用かな?」
一輝が後方の木に隠れているストーカーに声を掛ける。すると、気付かれた事に驚いたのかその人物は、慌てながら姿を現した。
「あ!あのぉ!ぼ、僕!ストーカーとかじゃなくてっ!」
僕と名乗った女性らしいその人物は、手を前にだし慌てつつ抗議している。
真琴と一輝はその女性の手を視認すると、ある“もの”に気付いた。それは武術をやり込む事で出来る武術タコだった。
「(あれは・・・)」
「(へぇ~この人、剣術をやってんのか・・・)」
二人が感心していると、逃げる様にその女性が後ろに後退していく。だが後ろは池になっており、手摺にぶつかりそのまま池に落ちてしまった。
「おい、落ちちまったぞ・・・」
「う~ん・・・・」
「気絶しちまったみたいだな・・・」
真琴がその様子を観に行くと、その女性は気絶していた。
だが、ステラはその女性に見覚えがあった。
一輝達と共にプールに行った時、この女性を目撃していたのだ。
「あれ?この人・・・」
「取り合えず、病室に運ぼう」
「そうね、私が連絡しとくわ」
「アリス、有難う」
それから、その人物をiPS再生槽に運んだ。真琴達は何故一輝の後をつけていたのか聞くために、病室の中で意識の回復を待っていた。
「つか、何で一輝の事をつけてたのかね」
「さぁ?」
「それを聞くために回復を待ってるんでしょ!?ホントにストーカーだというのなら、私が直々にお仕置きするんだから!」
「・・・その熱気を抑えろ・・・ったく」
その音に気付いたのか、僕っ娘であろう人物が目を覚ました。
「う・・・ここは?」
「気が付いたのね」
「そっか、僕、池に落ちて・・・・」
「気絶してましたので、iPS再生槽に運びました」
「そうなんだ、運んでくれて有難う」
ステラがその僕っ娘に問い詰める。何故一輝の後をつけていたのか聞くために!!
「ねえ!アナタ誰なのよ!もし、イッキのストーカーだというのなら・・・!」
「少し落ち着け!」
それを見かねた真琴が手刀でステラの頭を叩く。
「イッタイ!何するのよ、マコト!」
「いきなり、問い詰めても話せるもんも話せねぇだろうが・・・」
「脳筋お姫様は少し大人しくしてて下さい」
「ぐぬぬ・・・」
少し落ち着いたのか僕っ娘がその口を開いた。
「えっと、まず自己紹介だよね、ごめん。ぼ、僕の名前は三年一組綾辻絢瀬っていうんだ」
「(“綾辻”?その名前何処かで・・・)」
一輝はその『綾辻』という名前に聞き覚えがあった。頭の中の引き出しを開けてその記憶を探しだしている。
そして、ある一人の『剣客』を思い出した。
「もしかして、綾辻さんは“綾辻海斗”さん“ラストサムライ”と謳われた海斗さんの関係者なの?」
その名前を聞いた真琴と綾辻は驚きの表情を見せる。
「え!?」
「おい、一輝!今、“ラストサムライ”って言ったか!?」
「うん、確かにラストサムライと言ったよ」
“ラストサムライ”を知らないステラが、アリスに尋ねる。
「ラストサムライって誰よ?アリス知ってる?」
「私は知らないわ」
それには真琴が答えた。
「ラストサムライっていやぁ、表世界の名だたる剣の大会で優勝し、剣の世界じゃその名を知らない者はいないとまで云われる、達人級の剣客だぜ!」
「表世界?」
「武の世界には『表』と『裏』が存在する、それを聞きたいんだったら後で教えてやるよ。それより、先輩本当にラストサムライの関係者なのか!?」
「海斗は僕の父さんだよ、ふ、二人とも父さんの事を知ってるの?」
綾辻が嬉しそうに返した。
「勿論だよ、僕は子供の頃に、海斗さんの大会の様子なんかを見て剣術の勉強をしてた程ですよ!」
「武の世界に携わってる人間であれば、ラストサムライを知らない人間はいねぇよ!」
真琴と一輝が声を大にして、その質問に答えていた。
「う、嬉しいなぁ、黒鉄君と近衛君が父さんの事を知っていたなんて・・・」
「そういえば海斗さんは今、どうしてるんです?最近、名前を聞きませんが・・・?」
「それは・・・試合中の事故で入院してるんだ・・・」
海斗さんの現状を聞かれた瞬間、綾辻の顔は悲壮の表情になっていく。
真琴は綾辻の目の奥深くに、復讐に燃える炎が見えていたのを視認していた。
「(・・・先輩のあの目、試合中の事故にしちゃあ酷い暗さだな・・・何があった?)」
「そ、そうでしたか・・・すみません、変なことを聞いてしまって・・・」
「き、気にしてないよ、黒鉄君と近衛君みたいな凄い人が父さんを慕っていたなんて・・・それが嬉しいんだ」
珠雫が意を決して気になっていた事を質問する。
「あの、何でお兄様をつけていたんですか!その理由を聞かせてください!」
「そういやそれを聞くために待ってたんだったな、ラストサムライでスポーンと頭から抜けてたぜ」
「それは、えっと・・・。僕は剣士としてスランプ気味なんだ、黒鉄君に剣のヒントを貰おうと思ってつけてたんだ。でも僕、知らない異性に話し掛けるのが苦手で、黒鉄君にどうやって声掛けていいか、分からなくて・・・」
「成る程、考えが纏まらなくて一週間、話し掛けられなかったんですね」
「うん、ごめんね・・・」
「良いですよ、それじゃあ綾辻さん、僕と一緒に剣の修行をしませんか?」
綾辻はそれを承諾し、明日からいつもの場所で剣術の修行をする事となった。プールの一件から数日が経っていて、他の生徒達も片足立ちから、形稽古の修行に移っていた。
形稽古とは形を磨く為の稽古である。自己の学んだ技術の正確な所作・動作・趣旨を理解し確認するのが目的だ。
剣の稽古とは、戦いにおいての基礎、つまり、『土台』だ。“守破離”という言葉がある様に、 守=決められた通りの動き、形を忠実に守り、 破=守で学んだ基本に自分なりの応用を加え、 離=形に囚われない自由な境地に至るという意味である。 つまり形をしっかりと身に付けることではじめて、高度な応用や個性の発揮が可能になるということなのだ。
真琴はというと、晴比古の剣の稽古をつけていた。この前、ここで多くの生徒達が片足立ちをやっていた時に、この鈴木晴比古も稽古に参加していたのだ。後から入ってきたのにも関わらず、一輝は真琴の言う通り、晴比古の申し入れを快く承諾していたのだった。
「せや!おりゃ!」
「そうそう、相手に反撃の隙を与えないようにしろ」
「セイヤー!」
晴比古が真琴にとどめの一撃をお見舞いしようと、一太刀振り下ろした!だが真琴は其処へ❮白刃流し❯を打ち出し、それを回避した。
「くっそーまた避けられた!」
「まだまだ甘いな、お前は止めを刺す時、オーバーアクションになるな。読み易いぞ」
「・・・まだ真琴には追い付けねぇのか!悔しい・・・」
「まぁお前が相手の行動を読んでわざと、振り下ろして他の攻撃を当てるなら、話は別だが」
「まだ読みとか出来ねぇよ・・・」
「経験不足だな、そういや晴比古、片足立ちは何分出来るようになった?」
「確かー、3分位か?」
「お!3分か、剣術初心者なら上々ってとこだな」
「そうなのか?」
「三十秒でゆらゆら揺れてしまう奴もしるし、片足立ちから進めない奴もいるんだ。素直に喜んでおけ」
「ようし!もっと努力して今度こそ真琴に勝つぞ!」
「能力の方も忘れるなよ」
「分かってるさ、そういや黒鉄は?姿が見えねぇけど」
「一輝は奥の方で綾辻って人に剣を教えてるはずだ」
「そうだったそうだった、確か綾辻先輩って有名な道場の娘さんなんだよな?」
「そうみたいだな」
「腕は確かなのか?」
「・・・・」
その答えに真琴は沈黙し考えていた。綾辻の実力は掌のタコと目を観ただけだが、妙手の真琴は弟子級の実力を図ることなど容易だ。しかし、真琴はその答えを出すのに出し渋っていたのだ。それは病室で綾辻の瞳を観たときに暗い悲壮と復讐に燃える炎を観ていたからだった・・・。
「真琴?黙ってどうしたんだ?何かいけない質問でもしたか?」
「いや、そうじゃねぇよ。ただ・・・」
「ただ?」
「俺から聞いたって誰にも言うなよ?」
「わ、分かった」
「・・・綾辻先輩はな『心』が綻んでる」
「心が綻んでる?」
「ああ、勝負において最も重要なものは何か、晴比古分かるか?」
「うーん、努力?」
「それも大事だが、違う」
「んじゃー分からん!」
「ギブアップ早いな・・・」
「いいから、早く答えを教えてくれよ!」
「(こいつ、早く聞くためにわざと!・・・目敏いやつだ)・・・勝負において最も重要なものは“心の力”だ」
「心の力?」
「そうだ、『一胆、二力、三功夫』って言葉知らないか?」
「知らない、どういう意味だ?」
「勝負において重要なのは、心、力、技の順番だという意味だ。つまり綾辻先輩は勝負に必要なものが欠けてるんだよ」
「それって重要なのか?」
「そうだよ、もし戦う前に相手の巧みな言い回しで惑わされ、戦いに怖じけづき、その場から逃げ出したらそれだけで負けって事にならないか?」
「あ!」
「つまり、そういう事だ。綾辻先輩の瞳を病室で観たとき、暗い悲壮と復讐に燃えてた。俺は綾辻先輩に何があったのかは知らない、けどここまで心が綻んでるとなると、そういう人間は何を仕出かすか分からないものなんだよ。もしかしたら今度の仕合で、反則も平気でやるかもな」
「まさか、そんな・・・けど真琴の憶測だろそれ」
「そうだ、けど当たったら飯奢れよ?」
「ええええ!?理不尽だぜ、それ!」
「アハハハ!」
「笑い事じゃねぇから!」
そんな口約束をしつつ、稽古の時間は刻々と過ぎていった。そしてその憶測が的中する事になるとは、この時の真琴と晴比古は知るよしも無かったのだ・・・。
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