「いやぁ久し振りだなぁ、落第騎士«ワーストワン»と落第の拳«ワーストフィスト»今日は仲良くデートかな!?アハハハ!!」
「・・・相変わらず嫌味ったらしい野郎だな、桐原・・・」
「イッキ、誰なの?この人?」
「この人は破軍学園、二年三組、僕と真琴の“元クラスメイト”の桐原静矢君。破軍学園では«狩人»という二つ名を持つ強者の伐刀者だよ」
(“強者”ね・・・アイツの能力は確かに対人最強だ、でも“そんだけ”だ。使う人間があれじゃ宝の持ち腐れだぜ)
桐原の固有霊装は「朧月」と呼ばれる弓を使用する。そして桐原静矢の代名詞が«狩人の森»(エリアインビジブル)と呼ばれる伐刀絶技。その能力とは自分自身の情報を完全ステルス化するというもの。大抵の伐刀者はその能力の前になす術く、敗北している。桐原の二つ名は対戦相手の伐刀者をいたぶり、獲物を狙う狩人の様に振る舞う事からその名が付けられている。
そして桐原の声は対戦相手の頭の中に響いて伝わり、位置を把握するためには桐原が発射した弓を逆算して割り出さなければならず、手練れの伐刀者でなければ桐原の相手にはならないのだ。
「で?その狩人さんが何の用だよ?」
「たまたま近くを通ったんでね、助っ人に来たんだよ・・・。底辺ランクのお前らじゃテロリスト達を捕まえる事なんて出来やしないだろうと思ってね!」
「でもイッキ達のおかけで私達は無事よ?」
「それはテロリスト達が弱かったんだろう、良かったじゃないか!まぐれで勝ててさ!なぁ一年の落第騎士«ワーストワン»に落第の拳«ワーストフィスト»!アハハハ」
「後からやって来て図々しい人ですね」
その後、警察が到着し、真琴達は解放軍«リベリオン»と思わしきテロリスト達を警察に引き渡した。その数分後、桐原が侍らせている彼女達が桐原の元へやって来た。
そして桐原はあたかも自分がテロリスト達を撃退したかの様に語るのだった。
「私、なんかアイツ嫌い・・・」
「珍しく意見が合いましたね、ステラさん」
「つか桐原が居るなんて予想外だぜ」
「まぁ人質の人達が無事で良かったんだから、それで良いじゃないか」
「それもそうね」
すると、一輝の生徒手帳が鳴った。どうやら七星剣武祭実行委員会からの対戦相手決定の通知だった。その相手とは・・・。
なんと、目の前のベンチに座りガールフレンド達を侍らせている、«狩人»桐原静矢だったのだ。
「・・!」
一輝の表情は少し曇り気味に、生徒手帳の画面を見つめていた。
「おい、一輝、その表情は・・・まさかお前の相手って」
「何だ、七星剣武祭代表選抜戦、一回戦目の相手は落第騎士«ワーストワン»じゃないか!これは楽勝かな?」
「え!コイツが相手なの!?」
「そのようですね」
この桐原静矢という男は前年度の首席入学者にして、昨年度の七星剣武祭代表生でもある。そして伐刀絶技«狩人の森(エリアインビジブル)»は桐原自身が完全ステルス化する、対人最強の伐刀絶技を持ち合わせいる。今の一輝では勝ち目が無いに等しかった。
「去年は戦う事は出来なかったけど、“今度は逃げるなよ?・・・”じゃあな、黒鉄君?楽しみにしてるよ」
桐原はそんな言葉を一輝に吐き捨てならがら、ショッピングモールを後にした。
「何よアイツ!まるで自分が勝つ様な言い方をして!」
「大丈夫?一輝?顔色悪いわよ?」
「・・あぁ、大丈夫だよ、アリス有難う」
「なぁ、早く寮に帰ろうぜ?」
「そうですよ、行きましょ?お兄様」
真琴、一輝、ステラ、珠雫、アリスの五人も寮へ戻っていくのだった。そんな中、アリスは一輝を心配そうに見つめていた。何故アリスがそう思って見つめていたのか、それはアリスにしか分からない。
アリスが一輝に声をかけようとした瞬間、真琴がアリスの肩を掴んだ。
「ねえ・・!」
「アリス、一輝の事は俺に任せてはもらえないか?」
「真琴、もしかして知ってたの?」
「ああ、一年間アイツと生活してたんだ、それくらい分かる
さ」
「なら、何故放っておいたの?彼の心はもう限界よ?」
「分かってるよ、俺だって何とかしてやりたかったさ!けど一輝の心の問題は一輝が解決しなけりゃ意味がない。他人がとやかく言える事じゃない・・・」
「それは、そうだけど・・・でも何か出来なかったの?」
「俺の力不足でな、助ける事が出来なかった、そんな自分が情けない・・・。それによ一輝の“緊張”は剣武祭を迎えなきゃ解決出来ないんだよ、残念ながらな」
「・・っ壊れてくれない事を祈るしかないわね・・・」
そんな二人でそんな会話をしていると前にいた三人から声が掛かった。
「二人共ー、もうすぐ寮に着くわよー何してるのー?」
「ああ!今行く!・・なぁアリス」
「・・・何かしら?真琴」
「今日、少し一輝と話してみるわ」
「えぇ、頼んだわよ、真琴」
程無くして寮に到着した。珠雫とアリスと別れた三人は自分達の部屋がある階へ足を進めた。
真琴達はステラが来てから夕飯を一緒に過ごす様にしている。真琴が一人で食べるのは寂しいそうだからと一輝が提案したからだ。ステラは少し残念そうな顔だったが、一輝の熱い説得にステラは折れて、なくなく一緒に食べている。
楽しい夕飯を終えて気がつけば、夜の8時前だった。そして真琴が部屋に戻り、お風呂を沸かし入浴を終えて時計に目をやるともう10時を過ぎていた。
すると真琴は生徒手帳を取りだし、一輝に「話があるからベランダで待っててくれ」と一文メールを送った。そして約束の時間になり、真琴がベランダに足を運ぶと一輝が待っていた。
「ごめんな、急に・・・」
「ううん、気にしないでよ。真琴、話って何?」
「あぁ話って言うのはな・・・」
真琴はショッピングモールでの出来事を思い返していた。
それは解放軍との戦闘中の事だ。解放軍の“使徒”であるビショウの腕を一輝は躊躇いもなく斬った事だった。ステラの事で激昂してたとはいえ、一輝は人を斬ったのだ。活人拳である真琴は何故人の事を斬ったのか、聞かずにはいられなかった。
「それにしても今日の事件、何事も無くて良かったな」
「うん、そうだね、誰も怪我してないし。でも真琴が他の解放軍達を足留めしてくれたからだよ」
「俺は助けただけだよ」
「話って事件の事?」
「いや違う、なぁ一輝、何で“人を斬った”?」
「え?それはああするしかないと思ったから・・・」
「お前なら峰打ちでも仕留められただろうに・・・斬る必要はなかったよな?何故だ?」
「・・・良く分からないよ、そんな事考える暇もなかった・・・」
「・・・そうか」
「俺な、お前に質問があるだよ」
「質問?何?真琴」
「一輝、“殺人拳”と“活人拳”、どちらの道に進むんだ?」
その質問をされた一輝は少し驚いた。そして暫く考えた。自分はどちらの道に進むのだろう、どちらの道に進みたいのだろう、その考えは纏まらず時間だけが過ぎていく。数分沈黙していただけなのに、何時間も過ぎたように二人は感じた。その数分後一輝より先に真琴が口を開いた。
「だがお前は躊躇なく、人を斬った。ステラが辱しめを受けたってのも大きいんだろう・・・。だが、もしこのまま人斬りの快感を覚えちまったら、もう戻れないぞ?」
一輝は沈黙を続けている。
「・・・」
「一輝?」
やっとその重い口を開いた。
「・・・もし人斬りになりそうな時は、真琴が僕を止めてくれ。真琴は活人拳を志す武術家であり、伐刀者だ、真琴なら僕が闇に堕ちる前に助けてくれるって信じてるよ」
「・・・・」
「真琴ならそうするよね?」
「ふん、当たり前だろ?人の為に己の命をかけて人を助けるのが活人拳の理だ!それが俺の信じる道であり、俺の信念!それに親友を助けるのに理由はいらねぇ、そうだろ?」
「うん、真琴ならそう言うと思ったよ、でも真琴は凄いね、もう自分の道を決めて、前に進んでるんだから」
「んなことねぇって」
「いや凄いよ!僕は未熟者でどちらの道に進むかも分からないし・・・」
「俺的には活人拳に進んでほしいがな、お前の相手は骨が折れるからよ」
「それは僕も同じだよ」
「「アハハ」」
真琴と一輝はお互いに笑いあいながら、ベランダで一頻り盛り上がった。そんな二人の会話をステラは黙って聞いていた。
「二人で何の会話してるのかしら?」
話が気になるステラだったが、真琴の本命はこの話ではない。アリスと話した一輝の心の悲鳴について話したかったのだ。そして遂にその話題を口にした。
「なぁ一輝、少しは気が紛れたか?」
「・・・どういう事?真琴?」
「明日は桐原が相手だろ?俺と話して、お前の緊張が晴れてくれたらと思ってな」
「それは、分からないよ・・・」
「・・・そうか、わりぃな変な事言って、ただ一つだけ言わせてくれ」
「ん?何?」
「明日の試合、“全力で行け”よ?他の事はアイツをぶっ飛ばしてから考えろ、いいな?」
「それじゃ二言だよ」
「あっ・・・まぁ良いじゃねぇか、細かい事は気にすんな!」
「フフっ有難う真琴・・・僕は、必ず勝って来るから」
そんな会話をしながら二人はベランダを後にした。別れ際に一輝が口にした、言葉は真琴に不安を残させたのだった。そして夜が明け、落第騎士«ワーストワン»VS«狩人»桐原静矢の対戦当日となった。
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!