「珠雫!見違えたよ!これから会いに行こうと思っていたんだ」
「私が我慢できなかったのです、お兄様・・・」
「チュッ」
するとその少女は一輝を柱に押し倒し、強引にその唇を奪った。それを見ていた真琴とステラ、そして周囲にいた生徒はその実情を受け入れるのに時間は掛からなかった。そして驚愕の声を上げた。
「「「「「「「えええええええ え!?!?!?」」」」」」」
その現場に居合わせていた人達は、目を疑った。
「し、珠雫・・・」
「お会いしたかっです、お兄様・・・・」
彼女はキスをした一輝を愛おしく見つめていた・・・。一輝から珠雫と呼ばれた彼女は、入学試験を首席でこの破軍学園に入学した優秀な伐刀者だ。深海の魔女«ローレライ»という彼女の二つ名は、決闘で相手の頭を水で覆い、窒息させ勝利を決めてきた事に由来している。そんな彼女の名前は“黒鉄珠雫”一輝とは血の繋がった実の妹だ。その実の妹が血の繋がった兄に、公衆の面前でディープキスを行ったのだ!
「な、な、いきなり、何してるのよ!!アンタ!」
「何ってキスですよ?外国では挨拶みたいなものですから」
「そうなの?」
「だからって兄妹でディープキス何かしないわよ!」
「外国でも兄妹で糸を引くキスはやらないと思うぞ」
「・・・だそうだよ?珠雫」
「他所は他所、うちはうちです。恋人という浅い絆で結ばれた人もやっている事です、ならば堅い絆で結ばれた私とお兄様なら夜のまぐわいですら只の挨拶・・・」
「「「「「んなわけ有るか!!!!」」」」」
そこに居合わせていた人達が打ち合わせでもしていたかの様に声を揃えて珠雫に言い放った。
そんな言葉には耳を傾けず、珠雫は一輝にじりじりと寄っていく。それを見ていたステラは堪らず、一輝から珠雫を引き剥がした。
「アンタ!離れなさいよ!何、一輝も流されそうに、なってんのよ!!」
「ごめんステラ、有難う」
「貴女が噂のステラ殿下ですか・・何故私とお兄様の庶民コミュニケーションを邪魔するんですか?貴女には関係ないですよね!?」
「か、関係くらい有るわよ!」
「(何を言う気だ?ステラの奴・・・)」
「何です?どんな関係が有るというんですか?」
「・・・っ!」
「どんな“関係”が貴女とお兄様に有るというんですか?」
珠雫は念を押してステラに問いただした。ステラは顔を紅くしながら珠雫に告げた。
「い、イッキは私のご主人で!わ、私はイッキの下僕なんだから!!!」
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
(はぁ・・・こうなるんじゃないかと思ったぜ・・・)
「おい一輝、俺がお前の部屋に行く前にステラとどんな約束したんだよ・・・。一応聞くけど部屋のルールを決めたんだよな?」
「う、うんそうなんだけど・・・何でこんな事に」
「お兄様、これはどういう事ですか?」
「いや~その~・・・・」
「お・兄・様!どういう事なのかと聞いています!」
珠雫の眼は光を失い、その眼を使って人を殺せる程に珠雫の表情は恐かった。それに見つめられた一輝は答えずにはいられなかった。
「ま、まぁステラの言ってる事は本当かな?で、でも部屋のルールを決めただけで・・・」
「フフッフフヒッ!そうですか本当ですか・・・」
「し、珠雫?」
「しぶけ!宵時雨!!」
「何してるの!珠雫!」
「退いて下さいお兄様、ステラさんを殺せません」
「傅きなさい!妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!」
「何でステラまで乗り気なの!?!?」
珠雫は固有霊装«宵時雨»を展開し、ステラに向かい構えを取った。そしてステラもそれに呼応し固有霊装«妃竜の罪剣(レーヴァテイン)»を取り出した。だが教師の許可なく校内で固有霊装«デバイス»を顕現させる事は校則で禁じられている。
もしこの場で高ランクの伐刀者同士の戦いが始まれば、集まっている生徒達に被害が及ぶ事になるだろう。その事に気付かない二人ではない。だが二人の視野は狭くなり、周囲に人が居るにも関わらず彼女達は戦いを始めようとしていた。
「(一悶着有りそうだなぁ。今の一輝は止められないだろうし俺がやるしかないか・・・)」
真琴が覚悟を決め二人の様子を窺っている。
「止めなよ!二人とも!」
「退きなさい、イッキ」
「そうです、お兄様、私の属性は“水“ステラさんをヤれます!」
「アンタの固有霊装は随分貧相な形状してるのね!攻撃受けただけで壊れちゃいそうじゃないの!」
「ステラさんの固有霊装の方こそ、貴女と似て品が無いんですね、ただデカイだけ・・・」
「デブ」「ブス」
「「くたばれーーーーーーー!!!!」」
「おっとそこまでだ!二人とも!!」
真琴は剣の間合いに近付き、彼女達の固有霊装を白刃取りを使用し受け止めていた!珠雫の宵時雨は指で、ステラの妃竜の罪剣は掌で受け止めていた。攻撃を受け止められた二人は驚き、一瞬、自分に何が起きたか分からなかったようだ。
「(私の剣が手で抑えられて動かない!?)」
「(私の攻撃を指で止めた!?何故!?)」
真琴の力で自分自身の固有霊装がピクリとも動かせない事に、ステラと珠雫は気付いた。
「マコト!邪魔しないで!!手を離しなさいよ!」
「そうです、勝手に割り込んで来て、一体貴方は誰なんですか!」
「はぁ・・・少し落ち着けよ、お前ら・・・。一輝も流されてないで二人を止めろよ、お前が原因なんだからさ・・・」
「ご、ゴメン、助かったよ真琴」
「二人ともいい加減に固有霊装をしまえ、校則違反だぞ?」
「「!?!?」」
真琴は固有霊装をしまわない二人に対して、気当たりを放ち威嚇した。ステラと珠雫の身体から突如汗が吹き出し、震えはじめた。真琴は気当たりを放ち二人を威嚇し続けている。ステラはそのオーラを感じた時、昨日気さくに自己紹介していた“近衛真琴”とは思えず、恐怖していた。
「あ、アンタ・・本当にマコトなの?・・・」
「・・・いいからしまえ・・・」
「わ、分かったわ」
「なら、良し」
すると真琴から放たれていたオーラが無くなり身体中から出ていた汗や身震いが止んだ。
「おい、ステラとええと黒鉄・・」
珠雫は先程の気当たりの余韻消えず、まだ恐怖が身体に残っていた。
「・・・・・・黒鉄って私ですか?」
「他に誰がいるんだ、一輝の事は呼び捨てだからな。お前ら理事長室に行くぞ」
「な、何でよ!」
「校則を破ったんだ、指示を仰がないといけないだろう?またこんな事が起きたらたまったもんじゃないしな」
「分かったわ」「・・・・分かりました」
場所は移り、ここは理事長室。校則を破った伐刀者達と付き添いの二人が黒乃理事長の言葉を待っていた。
「という訳なんですが、指示を貰えませんか?」
「ふむ、了解した。入学早々不祥事を起こし今度は伐刀者の喧嘩か。面倒事ばかり起こすな、なぁ黒鉄ぇ?」
「す、すみません」
「でも理事長、今回悪いのは校則を破ったステラと黒鉄妹ですから、一輝はそれくらいで・・・」
「それもそうだな。ならヴァーミリオンと黒鉄妹には、放課後までに学園全ての女子トイレを、二人で掃除してもらおう」
「「!?」」
「こうなったのもアンタのせいよ!」「いや貴女のせいです!」
「「どっちもだ!!」」
「「・・・・・・・・」」
真琴と黒乃が口を揃えて、二人に言うとステラと珠雫は沈黙した。
「あ、放課後まで掃除なら、ステラと真琴の組手をやる時間が・・・」
「そうなのか、近衛?」
「まぁはい。組手の約束をしていましたけど・・・・」
「ならば、近衛に組手で勝ったら女子トイレの掃除は取消そうじゃないか!」
「ホントですか!?理事長先生!」「!?」「そんな勝手に!!」
「だが、負けた場合は明日から3日間、学園全ての女子トイレの清掃をしてもらうぞ?いいな?」
「良いわ!やってやろうじゃない」
「仕方ありませんね、私もやります」
「近衛はどうだ?」
「俺は別に構いませんよ、というか俺が負けたら俺が二人に変わってトイレ掃除するんですか!?」
「あぁそうだ。お前は男子トイレだがな」
「えぇ・・・俺は校則違反して無いんですし、やらなくても・・・」
「それじゃお前が女子トイレの清掃をするか?」
「男子トイレでお願いします!」
「なら決まりだな、では放課後に第三訓練場で組手を行う!」
その理事長の言葉に従い、組手に負けた者がトイレを清掃するという罰ゲームが始まろうとしていた。
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