中立者達の日常   作:パンプキン

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マインにとって、(ジャッカル)と金以上に大切な物は「存在しない」。


会合

首切りザンクの件から数日が経った。私は今、アジトのホールで行われる緊急連絡を待っている。

 

(…)

 

前回の首切りザンク暗殺に、ナイトレイドは六人を動員した。本題は大飯食らいとタツミが終わらせたけど、それだけで終わらなかった。その時にコンビを組んでいたド天然と離脱していた最中、帝具持ちの帝都警備隊員に発見され、帝具戦に入った。

 

…結果はシェーレ(ド天然)の死亡。帝具「万物両断 エクスタス」は帝国に渡り、私自身も両腕を折られた。

 

まぁ、ド天然が死んだのは別に構わない。(賞金)が減ったのは良くないけど…まだ三人いるから十分リカバリー出来るし、左腕の骨はくっ付いた。問題は、私の顔がバレて「手配」された。つまり、姉さんとの帝都内で合流が不可能になった事に直結する。

 

(…とんでもないヘマしたわね、ホント)

 

帝都内に行く事も不可能。かと言ってわざわざ姉さんのアジトまで出向くには距離があり過ぎる。私の正体がバレれば、姉さんにも不利益な事が起こる以上、下手な行動は出来ない。一応こうなった時の想定は組んでたけど、正直こうなって欲しくなかったわね…

そんな事を考えてる内に、夢想家から緊急連絡の内容が語られ始める。

 

「一つ、「二つ」の地方チームとの定期連絡が途絶えた」

『!?』

 

え、二つ?一つじゃなくて?

 

「地方のチーム?」

「帝国は広い。私達(ナイトレイド)が帝都専門の分、他の地方で仕事をする複数の殺し屋チームがあるんだ」

「二つ目は一つ目に関係する。連絡が途絶えた地方チームの調査の結果、片方はジャッカルにやられた。それも極最近だ」

 

…えちょっと待ってこの短期間でいつの間に二つ目を潰してたの姉さんそんな事聞いてないんだけどどういう事なの高額報酬独り占めとか羨ましい帝国空気読みなさいよ私と姉さんが一緒に出来るタイミングで依頼送って来なさい馬鹿ああもう私だけ物凄く損してるじゃないいや此処にいる時点でもとんでもなく損してた──

って違う違う、そうじゃないわね…

 

「…また奴か」

「これで幾つやられたんだ?私が覚えてるだけでも結構暴れられてる様な気がするんだけど」

「四つ目だ。もう片方もそうだったら五つ目になる」

「とりあえず、アジトの警戒をより強める必要があるね」

「ああ、結界()の範囲を広げてくれ」

「そして三つ目。エスデスが北を制圧、帝都へ戻ってきた」

 

げ、もう戻って来たの?半年どころか2ヶ月で戻って来られたか…この状況でエスデスが帝都に居座ると余計に動き辛くなるんだけど…

 

ああもう…如何して悪い状況が一気に重なってくるのよ。神様は私に何か恨みでも持ってるの?正直に言ってくれたらお礼にぶっ殺してあげるのに。

 

 

 

 

 

 

緊急連絡が終わった後、私は自室に向かってる。

 

…エスデスの問題はまだ良いわ。やっぱり私の手配書が問題ね…次の姉さんとの情報共有までの日数は3日後、しかも場所は五番地(帝都内)。片腕が使えない状態で向かえば「どうぞ私を捕まえて下さい」って言ってる様なもの。しかも今はエスデスの拷問も付いてくる。姉さんに関する事は吐かない自信はあるけど、わざわざ捕まるなんて馬鹿は出来ない。だけど帝都での接触が出来なくなったから…十一番地以降(帝都外の接触ポイント)を使わざるを得ないわね。 …正直こうなるまで忘れかけてたんだけど。

…私の部屋の前に着いたか。特に何も思うことは無く、部屋に入ってドアを閉じようと振り返って

 

「ッッッッ────────!!!!!!!!!?」

 

思わず大声で叫びかけた口を左手で無理矢理抑える。思いっきり動かしたからくっ付いた所が痛んだけど、そんな場合じゃない。

 

 

何故なら、開いたドアに隠れるように潜んでいた姉さん(ジャッカル)がいたから。

 

 

…………割とマジで心臓止まりかけたわ。下手なドッキリよりも万倍タチが悪い。

私がそうしている間に、姉さんは静かにかつ素早くドアを閉じる。

 

「ッビックリしたぁぁぁぁぁ………!!!!」

「私も貴女を驚かせるつもりは無かったのよ、すまないわね」

「ていうか、何で姉さんが此処にいるの!?外にはド変態の警戒網が…」

「時間はかかったけど、ある程度パターン化されてたから突破出来たわ。本当はナイトレイドが使ってる出入り口を見つけたかったけど、そんな暇も無いし」

「…姉さんが潜り込めるなら、私の怪我が完治したら此処で奇襲するのもアリじゃない?」

「いや、流石に無茶よ…私達だけで複数の帝具持ちと真正面から殺り合う勇気は無いわ。生憎不可能な事は「絶対に」やらない主義だから」

「それよりマイン」

 

ピラ、と姉さんの右手にあったのは、私の指名手配書。

 

これ(指名手配書)、どういう事か説明してくれるわよね?」

 

 

 

 

 

 

「…なるほど、ね」

 

マインから一連の報告を聞いたジャッカルは、壁に寄りかかったまま腕を組んで思考を回す。

 

「ごめんなさい、姉さん…」

「…相手は帝具持ち、真正面から殺り合って生きて帰れただけでも上々よ。可能なら手配されるのは避けるべきだったけど、今それをグチグチ言っててもしょうがないわ」

「…うん」

「とりあえず、貴女はこのまま潜入を継続。このタイミングでボロを出す訳にいかないし、怪我の治療を最優先しなさい。手配書に関しては考えておくから」

「分かった」

「…さて、これで悪い話は終わり。一つ良い知らせがあるわ。漸く来たわ、組織潰しの依頼が」

「ホントに!?報酬は!?」

「一万。しかも賞金首は別腹よ」

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

 

ジャッカルの言葉を聞いたマインは、刹那に脳裏を支配した感情(歓喜)を表すように全身が震え、その表情は恍惚し、そして満面の笑みが浮かぶ。

 

「イイッッッッわねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………!!!!一人頭で千六百枚!!流石最恐の暗殺組織、散っ々私を煩わせてくれただけの金になってくれるわ…!!」

「…やっぱり随分と苦労してたのね、マイン」

「当たり前に決まってるでしょ。何が嬉しくて二流の連中に合わせなきゃならないの?姉さんだから喜んでやってるけど、他のグズが頼み込んでたなら即ぶっ殺してやるわ。それでいつ殺るの?私としては一分一秒でも早く、姉さんを殺そうとしたクソ野郎(大飯食らい)をぶっ殺したいんだけど」

「さっきも言ったけど無理。帝具持ち六人相手に真正面からの強襲は愚の骨頂、何にしても弱体化が必須。二流とはいえ、ほぼ全員が帝具持ちの組織である以上、今迄の様には出来ないわ」

「ッチ、そう簡単に掴ませてくれないってワケね…」

 

「…上等よ。久しぶりに大金を掴んでやるわ」

 

「…幸い、依頼条件は無期限及び方法問わず。中々難しい依頼だけど、必ず達成するわよ」

「ええ!!」

「次の接触は十二番地。直接の接触は避けるから、メモを隠しておいて。最大限の隠密を心掛けなさい。此処からは本格的にチャンスを探るわよ」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

マインとの情報共有を終え、無事にアジトに帰還したジャッカルは頭を抱えていた。その理由は勿論、マイン()が指名手配された一件。

指名手配された以上、マインの顔は既に帝国全土に割れたと言っても良い。そしてそれを行なったのは紛れもない「国家」。盗賊などと言ったグズの集まりとは違い、世界の中でもトップクラスの権力と信頼を持つ「組織」だ。対して何方も最底辺である「傭兵」では、「対等」な交渉のテーブルに着かせるには、一筋縄どころか不可能と言っても良い。しかも帝国の実質支配者は、幼い子供を皇帝(操り人形)に仕立て上げた切れ者のオネスト大臣。そんな者と下手に交渉に挑もう物ならば、交渉内容そのものが既に「弱み」。あっという間に首輪を付けられる事となるだろう。

 

ならば、此方も「弱み」を握れば良い事だ。

 

相手は民に圧政を掛け、複数の異民族と反乱軍と戦争をしている立派な「戦時中(末期的)」の国家。その手の方向から手を入れれば、「第三者()」に知られなく無い事など大小関係なく簡単に出てくるだろう。後は交渉人(オネスト)に対して効果絶大な弱みを選別し、それを交渉のカードにする。

勿論、それだけで此方が望む結果が引き出せるとは思っていない。他にも様々な方向から探るが、最終的にはジャッカル自身のアドリブ力(舌戦能力)次第。

 

(…どっちにしろ、まずは動かなきゃ話しに成らないわね。最近の帝都の動きもあるし)

 

北の異民族早期制圧、エスデス将軍と三獣士の早期帰還。そして不確定情報ではあるが、エスデス将軍を筆頭とした特殊警察の設立。

僅か数日で帝都の動きが目まぐるしく変化し、ジャッカルの予測を外れ始めた。特に懸念なのが、不確定情報である特殊警察。まだ詳細は不明だが、帝具使いが主力という情報もある。もし依頼で敵対する事になれば、それ相応の準備と戦略でなければ成らないだろう。

そしてそれを確かめるならば、やはり己の耳と目以上に信頼出来る物はない。

 

(行きましょうか、帝都に)




ジャッカルにとって、妹と己の命以上に大切な物は「一つしか存在しない」。

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