中立者達の日常   作:パンプキン

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傭兵は、常に「中立」であれ。
暗殺者は、常に「非情」であれ。
いつ如何なる時も、真の味方は「己」のみ。
汝らは、それが理解出来るか?
汝らは、それを覚悟出来るか?

汝らは、果たして「暗殺者」と名乗れるのか?


詭弁と詭弁

「ん〜…確かには「ソレ」はあるけど、ねぇ…」

「…ッ!!」

 

舐められている。それが、ジャッカルに対してのアカメの感想だった。

戦闘を開始してから数分…既に何度も攻防は行われているが、その差は見えていた。手加減無しのアカメに対し、ジャッカルは鼻歌混じりに、幼児をあやすかのような気軽さでこなしている。それも純粋な近接武器ではなく、大型拳銃(カスール&リドリー)に装着された「銃剣(小型ナイフ)」で。

アカメの武器は、極めて強靭な耐久性を誇る帝具の一つ「一斬必殺 村雨」。その二つ名の通り、村雨に切られた者は例外無く死亡してきた。村雨の刃には「呪毒」と呼ばれる呪いが宿っており、傷口から呪毒が流れ込めば数秒で心臓発作を起こし、即死する。解毒方法は存在せず、その威力によって如何なる生物であっても一撃必殺を誇っている。対してジャッカルが使用している銃剣は帝具という訳でも無く、特別な素材を使っているという訳でも無い。軍でも使われるコンバットナイフを、大型拳銃のオプションパーツになるように改造しただけだ。武器性能の差、攻撃スピード、攻撃間隔。様々な要因が高レベルに揃っている以上、ジャッカルの銃剣が砕けるのも、それこそ首切りザンクよりも容易に可能だろう。しかし現在もそれは起こっていない。それは何故か?

答えは簡単。ジャッカルはアカメの攻撃を「受け止めている」のでは無く「受け流している」。しかし、それは言葉とは裏腹に極めて困難だ。一回一回のスピードや多数、アカメ自身のパワーもそうだが、何よりも銃剣の耐久性の低さがある。力任せに受け流そうとすれば、銃剣はあっという間に役に立たなくなるだろう。が、ジャッカルはアカメの力に逆らわず、そして優しく軌道を逸らすようにアカメの猛攻を受け流している。それも容易にかつ連続で、アカメを観察しながら。

 

「そこ」

「ぐっ!!」

 

0.04秒という隙間を縫い、ジャッカルの右手に握られたリドリーから50口型弾が発射。至近距離から発射された拳銃最強クラスの弾丸をアカメは回避出来ず、右腕に命中。弾丸は右腕の筋繊維をズタズタに引き裂き、貫通。アカメの右腕から力が抜け、アカメの攻撃が緩む。数多の攻撃の後、ジャッカルが仕切り直しと言わんばかりに距離を取る。アカメは左手のみで村雨を構え直す。

 

「流石、元帝国暗殺部隊。確かに速さはある、力もある、技術もある。だけど…筋が無いわね」

「…何が言いたい」

「一つ聞くけど、貴女って如何して暗殺部隊(帝国)からそっち(革命軍)に身を転じたの?暗殺するなら、そのままでも適任の場所じゃない」

「私の心が、そちらが正しいと決めたからだ。己の信じる道を歩んだまで」

「…ああ、そういう事。成る程ね…」

 

アカメの言葉を聞いたジャッカルの声色が変わる。それは先程まで見せた事の無い、明らかな「落胆」を秘めていた。

 

「そりゃ筋も鈍る訳ね、暗殺者がそんな下らない信念を抱いてたなんて。ナイトレイドも、所詮「民の味方」とかをほざく偽善集団か…」

「…私の仲間まで愚弄するか」

「なら尋ねるけど、全ての帝国の民は貴女達に「助けてくれ」と言ったかしら?そして今、帝国の脅威と化している革命軍。もし彼等の革命が成功したとしても、本当に「民に優しい国」は作れるのかしら?貴女達は、本当に「全ての民の思い」を理解しているのかしら?たかだがそんな事で、貴女達は「赤の他人」を助けようと思えるのかしら?」

「…それは」

「一つだけでも確信していないからこそ回答は遅れる。そんな偽善に命を賭けるなら、私は「(中立)」の為に命を賭けるわ。だって私は死にたくないもの。 …素質はあるだけに本当に残念ね、貴女が私の仲間じゃない事が。貴女が「暗殺者(非情)」にならなければ、貴女(暗殺者)(傭兵)を殺せない。ナイトレイド(偽善者)(中立者)を殺せない」

「…興が冷めたわ。ザンクの帝具は貴女達にあげる、私の依頼は既に達成されているから。せいぜい頑張りなさい、貴女達の下らない信念(夢想)の為に」

 

ジャッカルはカスール&リドリーを仕舞うと、大きく飛び上がって近くの廃墟の屋上に着地。そのまま屋上を飛び移ってアカメの前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

ジャッカルはそのままの足でアジトに戻り、武器と仕事着を仕舞ってソファーに腰を下ろし、テーブルに両足を置いた。そして、盛大に溜め息を吐く。

 

「下らない事言ったわねぇ、私」

 

下らない事とは勿論、アカメと交わした言葉の数々。アカメとの僅かな会話と戦闘中の観察によって、アカメの本質を僅かながらにも見抜いたジャッカル。しかしそれは、ジャッカルからしたら「異常」の一言に尽きた。

 

(アカメって元々帝国の暗殺部隊所属なのに、なーんであんなにご立派な信念を掲げて、尚且つ生きた目をしてるのかしら。まるで無垢な子供…いえ、だからこそあんな下らない信念を掲げてる訳ね。勿体無い…私が育てたならそんなものは「持たせない」。「他人の為の偽善」よりも「自分の為の中立」の方がよっぽど効果がある。そして極限に無駄なプレッシャーを省き、極限に己を研ぎ澄まし、極限まで「自分」の為に「他人」を切り捨てる。究極的に「自分」の為だけに行動出来た瞬間に、初めて「二流(偽善)」から「一流(中立)」へと昇華できる)

(革命軍の人材採用者は馬鹿ね。『暗殺者は常に「非情」であれ』、これが出来なければ暗殺者としての「一流」には絶対になれない。競合相手とはいえ、オールベルクを潰したのは完全に失敗ね…報酬の良い帝国の依頼とはいえ、蹴っておけば良かったわ)

(…マイン()が仮面を被り続けるのも苦労する訳か。二流以下は中途半端にしか出来てない。だからこそ無駄な「信念」を探す。だからこそ無駄な「目的」を探す。そして「これで良いんだ。これが正解なんだ」と思い込んで、ボロボロな偽りの刃を持つ。そんな連中にわざわざ足並み揃えなきゃならないとなると、どれだけの精神的疲労があるのやら…これが終わったら十分に休ませましょう)

(どちらにせよ、ナイトレイドには期待外れね。 …いや、革命軍にオールベルクのような組織がある方が珍しいか)

 

一通りの考えを済ませたジャッカルは、妹の気苦労を思いながら一夜を過ごす事となる。

 

 

 

 

 

 

「以上だ」

「…そうか。ジャッカルが…」

 

同時刻。ナイトレイドのアジトに帰還したアカメとタツミは、ボスであるナジェンダに一連の報告を行なっていた。負傷したアカメの右腕は既に手当てされており、包帯が巻かれている。

 

「何にせよ、よく戻って来てくれた。ザンクの件もそうだが、ジャッカルの貴重な情報を持ち帰ってくれたのだからな」

「…ちょっといいか?ジャッカルって一体…」

 

二人の会話に挟み込んで来たタツミが、疑問を投げかける。

 

「…そうか、まだタツミには説明していなかったな。ジャッカルとはお前とアカメが遭遇した傭兵のコードネームだ。唯の傭兵ならば気にかける事は無いが、奴の手によって多数の革命軍幹部と寝返った元帝国の者達が暗殺されてきた。当初は革命軍も取り入れようとしたか、結果は全て失敗。今は革命軍の最重要目標の一つとして数えられているが、奴の素性を知る者は居ない。帝国側にもな」

「帝国側も?」

「ジャッカルはかなり用心深い。本名はおろか、人種、出身地、年齢、素顔さえも不明。どんな武器を使い、どんな戦術を使うかさえも分かっていなかった。ジャッカルに狙われた者は、全員がその命をジャッカルに奪われたからな。そう言った意味では、タツミとアカメは「初めて」の生存者だ。それが例え、見逃されたような形でもな」

「そんなヤベェ奴なのかよ、あいつ…」

「…ああ。その上、私も完全に見誤った。ジャッカルの実力は想像を遥かに超えている」

「奴が帝国側としている限り、革命軍は常に奴の脅威に晒される。その為にも一刻も早い排除が望まれている」

「ナジェンダさん!!」

 

その時、ナイトレイドメンバーの一人であるラバックが部屋に駆け込む。

 

「どうした、ラバック」

「マインが帰ってきてます!」

「…待て、シェーレはどうした?」

「分からない。だけど何かあったのは確かだ。マインが負傷してる」

「…何かあったのかは直接聞こう。案内してくれ、ラバック」

「はい!」

 

時は無情に進んでいく。全てを置き去りにするように。




駆け足になってしまった今回。これ以上の描写が自分には難しいのは反省点…

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