中立者達の日常   作:パンプキン

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遂に、この時は来た。


茶番の終わり

「逃げるなぁ!!」

「…!」

 

パンプキンより放たれる死の鞭。大振りで向かって来るそれを、アカメの機動力であれば回避は容易い。しかしその破壊力は凄まじく、砲撃が飛んでいく度にマイン周囲の地面や岩壁が抉れて行く。その破壊力と射程は極めて脅威であり、アカメの接近を許さない。

今現在は遠中距離から、パンプキンによる一撃必殺の大火力砲撃を連発するマインが優勢だが、アカメの武器(帝具)である一斬必殺 村雨の射程内へと接近されれば、形勢は一気にアカメへと傾くだろう。

何故か。それは村雨の持つ能力「呪毒」にある。程度の大きさに関わらず、村雨による一太刀によって肉体が傷付けられたのならば、即座に呪毒が体内に侵入、侵食。数秒もすれば呪毒は心臓部に辿り着き、直ちに心肺停止に陥れる。その致死確率は100%。所有者のアカメさえも例外では無い、「対生物」としての能力は48個存在する帝具の中でも最強である。

 

故に、アカメは如何にマインに近付いて必殺の一撃を当てるか。マインは如何にアカメに必殺の一撃を受ける前に仕留められるか。

この戦いの最も大きな要素は、その一点である。

が。もう一つ極めて大きな要素が、この戦いには存在する。普段は起こり得ない、イレギュラー。

 

 

────シュウウウウウ。

 

 

それは、パンプキンの銃身過熱。

 

(…やはり、あの砲撃には限界があるな)

 

パンプキンの砲撃は、確かに大火力であり脅威である。しかしそれはパンプキンにそれ相応の負荷が掛かるのは当然の事であり、連発などしようものならばその負荷は凄まじい事となる。

結果、パンプキンの銃身に膨大な熱量が発生。それは煙をも立ち上らせ、負荷限界が近づいている事をアカメとマインに示していた。

 

「………チッ」

 

またしても砲撃を躱されたマインは、煙を立ち上らせるパンプキンの銃身を見て攻撃を中止。即座にアカメは攻撃に転ずる。

最高速に乗り、駆ける。何処でもいい、一太刀を入れることが出来れば裏切り者(マイン)は生き絶える。己を待つ仲間達が手遅れになる前に。

 

「…葬る!!」

 

移動速度と射程内に合わせ、村雨を振るった。マインは銃身過熱のパンプキンを捨て、右手を左腕の袖の中に入れてすぐに抜き取り。

 

 

 

────ガキィィン!!

 

 

 

村雨の一太刀を、防いだ。

 

「私が、近接戦闘に疎いと思ったら大間違いよ」

「…仕込みナイフか」(それも、かなりの強度…)

 

マインの右手に握られていたのは、刃渡り6cm程度の小型ナイフ。村雨の強度とアカメの実力ならば、容易く折れてしまいそうな心細さのソレは、見事に村雨の一太刀を防ぎ、刀身に罅一つも入らずに拮抗している。

 

「パンプキンは使えなくなったけど、アンタを仕留めるには十分よ」

「…お前の言う姉とは、ジャッカルの事か?」

「私が勝手にそう呼んでいるだけ。夢想家(ナジェンダ)にくっ付いて来る前に、私は姉さんに拾われたのよ。私の全てを、姉さんから学んだ」

 

マインは拮抗を解き、下がる。そして左手も右袖の中に仕込んである小型ナイフを取り出し、両ナイフを逆手に持ち替える。

 

「アンタも、似たようなもんでしょ?ゴミ溜めみたいなクソの場所から引き上げてくれた恩人に付いて行くだけよ。私は姉さん(ジャッカル)、アンタは夢想家(ナジェンダ)。たったそれだけの違い」

「…ジャッカルの元から、離れる気は無いか」

「無いわね。私は「赤の他人」を無償で助ける気にはならないし、姉さん以外の人間が何人死のうが知ったこっちゃないわ」

 

ゆらりとマインが右足を踏み出し、アカメも村雨を構えた瞬間。

 

 

────ドゥッ!!

 

 

マインの左足が設置していた地面が爆ぜると同時に、瞬間的に最高速に到達。それはアカメが予測していた速度を大きく超過し、接近する。

 

「なっ…!?」

 

アカメは即座に防御を選択。振るわれた右手のナイフの一閃を弾く、が。マインはその勢いと速力を転換。目に捉えられない速さで身体を1回転しつつ、アカメを中心点に円を描くように動いて後方に回り込み、更に突きの一閃。移動速度を上乗せさせた攻撃は、アカメが反応しきる前に左肩に命中し、骨と筋肉を貫いた。

ナイフを抜けば、ブシュウと勢い良く血が流出し、アカメは苦痛の声を漏らした。

 

(…速い…!今まで戦ってきた、誰よりも…)

 

アカメが冷や汗を流す中、マインは血に塗れた右手のナイフの刀身を一度舌で舐めとった。

 

「貴女に選択肢をあげる。一つ、大人しく降伏して私の拷問を受ける。一つ、抵抗して私に無様な姿を晒し、私のオモチャになる。時間が無いからさっさと決めて」

 

状況は劣勢。エアマンタは先程の砲撃によって上空に退避しており、降りてくるまでもう少しの時間が掛かるだろう。

アカメが取った選択は、抗戦。エアマンタ抜きでは作戦は全て破綻し、即ちそれは革命の失敗を、仲間達の死を意味する。彼女は現段階で仲間達を見捨てられる程に非情では無かった。

 

「…あ、そう。なら死ね」

「────ッ!!」

 

一瞬で懐に潜り込まれる。やはりアカメの予測を上回る速度であり、その瞬間を捉えられない。紙一重で下がり、躱す。しかしマインはその勢いのまま斬撃の乱舞を繰り出す。小型ナイフという軽量武器故に高速かつ数多く放たれる攻撃に、アカメは防戦一方。なんとか反撃に転じようとするが、辛うじて放つその攻撃は余裕を持って回避されるどころか、カウンターを受けて傷を増やすばかりだ。

更にペースを上げる猛攻。アカメは堪らず下がり、再び距離を取る。

 

「ふー…まともな一撃入れさせてくれないわねぇ」

 

大きく息を吐き、呼吸を整える。幾ら優勢であろうとも、一太刀入れられれば自身の死は免れられない。故に太刀筋には最大限の警戒が払われ、相応の集中力を必要とする。

アカメも一撃必殺とはいえ、その猛攻によって攻め手が欠けている。時間を掛けて集中力を削り、隙を作ることが出来れば仕留める事は出来るだろうか、しかしそんな時間は無い。

 

時間は、確実にマインの味方であった。

マインは構えつつも、動かない。時間を掛ける必要は無い、のんびりと時間を掛けて仕留めれば良い。対してアカメは動けない。攻め手が無く、尚且つ時間も無い。表情こそ冷静だが、しかし焦っている。

その時。上空に退避していたエアマンタが、危険(砲撃)が無くなったと判断し、先程まで居た待機地点に再び着陸した。その場所は、二人から見て三角線状の地点。

 

刹那、アカメは再び走り出した。しかしそれはマインではなく、エアマンタに向かって。

 

(マズッ…!!)

 

反応が遅れたマインも直ぐに追うが、遅れた分の距離がある。

アカメの狙いは逃走。此処でマインを仕留める為に掛ける時間は無く、逃げるチャンスがあるならば逃げるに越した事は無いのだ。

 

「行けっ!!」

 

村雨を鞘に仕舞って飛び乗ったアカメの声に応え、エアマンタはふわりと浮き始めた。アカメが振り返れば、パンプキンを拾わず、小型ナイフをしまって走ってくるマインが見える。

 

そしてその勢いのままにジャンプした瞬間、エアマンタは垂直方向に飛び始めた。

 

「ぐうっ…!」

 

アカメはエアマンタにしがみ付き、垂直に押しかかる重力加速度を耐える。そして垂直上昇が終わった瞬間、アカメの視界にピンクの物体が高速で垂直に飛び上がっていくのを視認した。

 

「!?」

 

見上げればエアマンタの尻尾の先端から手を離し、此方に向かって飛んでくるマインの姿。その速度から立ち上がるのは間に合わない、右横に転がって回避。マインも体勢が整わず、背中からエアマンタに叩き付けられる。その瞬間、エアマンタはキュロクに向けて高速で飛行を始めた。

 

「ぐっ…!」

(今!)

 

落ちた衝撃に一瞬呼吸を詰まらせるマイン。アカメは瞬時に膝立ちになり、村雨を抜刀。胸部に向けて、その刃を振り下ろす。その凶刃に対し、マインは左手に再び小型ナイフを抜き持ち、刃の腹で受ける。

 

再び甲高い音と主に、一瞬の拮抗。しかし此処でマインは左手で村雨の峰を掴み、確実にアカメの力を受け止める。刃はギリギリマインの右肩を掠める危機一髪。

 

「ッ…!!」

「こ、の…!!」

 

アカメはエアマンタの飛行による風によって、マインは体勢の悪さによって、双方が全力を発揮出来ず。更にマインが村雨の峰を掴んでいる為、動こうにも動けない。その間にも、エアマンタはキュロクの大聖堂に向かっている。

 

此処でマインは思い切って、村雨の峰を掴んでいる右手を全力でアカメに向けて突き出す。そうなれば必然的に村雨はアカメの胸部を強打し、アカメの力と体勢が一瞬抜ける。その隙にエアマンタと村雨の間をすり抜け、膝立ちと同時に左手にも小型ナイフを抜き取り、突きを繰り出す。しかしアカメも直ぐに立ち直り、その突きを防御した。

 

此処で、二人に想定外の事態が発生する。

 

 

────ギュオオオオオオ!!

 

 

 

「「!?」」

 

エアマンタが突如断末魔を響かせ、急降下を始めた。

実は先程の拮抗の際、二人は気付いていなかったのだが、村雨の刃が僅かにエアマンタの肉体を傷付けていた。その深さは僅かに数ミリセンチメートル。しかしそれでも村雨の呪毒をエアマンタに流し込むのには十分であってしまった。結果、僅かに入り込んだ呪毒が遅れながらもエアマンタを侵食していき、多大な時間差でエアマンタの心臓に到達。エアマンタを死亡させ、急降下に至らせた。

 

そのスピードに攻撃どころでは無く、、二人共しがみ付くので精一杯。強風が吹き荒れる中、マインは何とかエアマンタの墜落先を推測する。

 

(…このままだと、大聖堂の中庭に墜ちるわね…!都合良いっちゃ良いけど、この勢いは都合悪い…!)

 

元の高速度と急落下のスピードが合わさり、後十数秒後には墜落するのは確実だ。このままの勢いでは、確実に無傷には済まない。故に二人がとった行動は、最善では無いが最適解でもあると言えるだろう。

 

 

────ズダァン!!

 

 

墜落の2秒前。二人は殆ど同時に墜落していくエアマンタから全力で跳躍。少しでもその勢いを緩和する事を図る。しかしそれでも、その勢いは決して緩やかではない。

二人の視界内には、自分達より速い速度で墜ちていくエアマンタと、それを避けようと走る「仲間達」が見えた。

 

2秒後、大聖堂中庭に大きな墜落音が響いた。

 

 

 

 

 

 

「────イン、マイン」

「っ………姉、さん。ごめんなさい、こんな形で来る予定じゃなかったんだけど」

「でしょうね。私もあんな方法では来るとは思わなかったわよ」

 

墜落の衝撃で気を失っていたのだろうか。若干の記憶が飛んでいるのを感じつつ、マインはジャッカルに助け起こされる。

 

「で、どうだった?」

「アカメは仕留め損ねたけど、それなりに傷付けてる。武器はナイフ二つとM500。パンプキンは追い掛ける時に置いてきちゃった」

「十分よ」

「残りは?」

「ナジェンダ、スサノオ、アカメの3人。レオーネはエアマンタの墜落に巻き込まれたから…まぁ良くて肉片ね」

 

墜落の衝撃で立ち上っている土煙が少しずつ晴れてくる。まだ敵は見えない。

 

「…姉さん。彼奴ら大聖堂の中に逃げ込んでるんじゃない?目的は私達じゃない、あくまでボリックを殺せば良いんだから」

「中庭から外に出れる所はさっきクローステールで封鎖したから、それは無いわね。私を殺しでもしなきゃ、此処から出れやしないわ」

 

刹那。土煙を突き破って頭部に黒角を生やし、胸部の核を黒く染めたスサノオが突撃。超高速で「飛来」し、ジャッカルに向けて飛び蹴りを放つが、寸前で身体を逸らし回避。

 

「禍魂顕現…!」

「スサノオの奥の手か…マイン、アカメとナジェンダは任せたわよ」

「分かった」

 

マインはジャッカルの指示を果たす為、スサノオが突撃してきた方向へと向かい、土煙の中に姿を隠した。ジャッカルはクローステールを操る鉤爪を外し、スサノオと相対する。

 

「さて、貴方は此処で破壊させて貰うわよ」

「…貴様は此処で殺す。ナジェンダと仲間達の為にも、千年前より承ってきた使命の為にも。『貴様達』のような存在を、消す為にもな」

「…へぇ」

 

スサノオは右手に大剣 天叢雲剣を顕現し、構える。対してジャッカルは自然体だが、纏う気配は闘志。

 

「その口振りからするに…既に千年前からその概念は存在してた訳ね」

 

その瞬間、スサノオが攻撃。核からエネルギーを抽出し八尺瓊勾玉を発動。高速移動によって瞬時にジャッカルへ接近し。

 

 

 

それ以上の速度で横に回し込んだジャッカルによって殴り飛ばされる。

 

 

 

(っ!?)

 

スサノオが体勢を整える前に、更なる追撃。またしても刹那の間でスサノオの至近距離に現れたジャッカルの回し蹴りを頭にマトモに受け、天叢雲剣が手元から離れ、身体は壁に激突する。

 

「とはいえ所詮はその程度、か…『私達』を相手取るには全く力が足りない。その程度で『私達』を殺せると思う事自体が間違いよ」

 

コツリと、甲高い金属音と重たい銃声の中に混じってジャッカルの足音が響く。その声色は怒りを堪え、震えている。

 

「『私達』に対抗する為に造られた48の帝具。其れ等が所詮こんな物…やはり技術は邪魔以外の何物でも無いわね」

 

身体が埋め込まれた壁を無理矢理破壊し、そして再び八尺瓊勾玉を発動。過剰なエネルギーを供給し、限界以上の速さを引き出す。その速さは遂にジャッカルの反撃を許さず、ジャッカルの胸部にその拳を到達させた。

 

響く轟音。

時が止まったかのように、ジャッカルも、スサノオも動かない。

 

 

しかし刹那、目にも映らぬ速さで放たれたジャッカルの右拳がスサノオの核に命中。

 

 

何か硬いものがヒビ割れる音と共に、再びスサノオは吹き飛ばされ、大聖堂西棟の壁を突き破り、姿を消した。

ジャッカルの足元には、粉々に砕けたスサノオの核の破片。

 

弱点()を露出させた開発者を呪いなさい」

 

呆気ない決着。呆気ない最期。

ジャッカルはそんな事は全く気にせず、マインの戦闘の援護に向かう為に振り返る。

 

 

 

────ズガァン!!

 

 

 

響く銃声。

振り返れば、マインの握るリボルバー拳銃(S&W M500)から放たれた銃弾によって倒れるアカメの姿を捉えた。

 

「見事ね」

「あ、姉さんも終わった?」

「ええ。…一応聞くけど、殺した?」

「生きてるわよ、一応だけど。二人共このままほっといたら死ぬけど、まぁどっちでも良いでしょ」

 

マインにとって、その末路には大した興味は無い。興味があるのは、報酬の数だけだ。

 

「はーぁ………これでこのクソみたいな依頼も終わりね」

 

漸くキツく縛られた生活から脱する事が出来る事実に、マインは溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────何だかクソみてぇな匂いがすると思って来てみたら」

 

二人の耳に届いた、聞き慣れない(聞き慣れた)声。

 

「驚いた、今までで一番匂いやがる。まるであの時嗅いだ匂いみてぇだよ」

 

いつの間にか其処にいた。大聖堂南棟の屋上に立っている、一人の人間。その姿と声色は女性だが、口調は男勝り。

 

「……で、だ。まぁ状況は見ての通りだろうがよ」

 

その女性は、ジャッカルを見やる。その目は侮蔑、そして疑問。

 

「テメェは誰だ?テメェから漂うその匂い、少なくともそんじょそこらの連中から出せる濃さじゃねぇ。一体何をやらかしてきた?」

 

マインも突然現れた女性に警戒を強めつつ、ジャッカルに視線を向け、驚いた。

ジャッカルが自らの姿を隠す外套に手を掛け、何の躊躇も無く脱ぎ取った。

 

「姉さんっ!?」

 

思わず声を荒げたが、もう遅い。

帝国に名を馳せてから、義妹(マイン)を除いた誰もが見た事の無い正体が、月夜に照らされて白日の下に晒される。

 

 

「これで、分かるでしょう?」

「……………あぁ、成る程な。そりゃあそんな匂いがする訳だ、そりゃあこんなにムカつく訳だ…!!」

 

ニコリとジャッカルは女性に笑みを向けて両腕を広げ、女性はジャッカルの姿に表情を歪ませる。

ジャッカルは慈愛を。女性は憤怒を。

相反する感情が、堪らなく溢れ出す。

 

 

「久しぶりね、メーヴ!!」

「久しぶりだなぁ、シルヴィ!!」




貴女をずっと、ずっと待ち続けていた。
貴女を待ち焦がれていた。
貴女を、愛している。
貴女が来てくれた事が、私は堪らなく嬉しい。
だって、漸く私が待ち望んでいた時が来たのだから。
さぁ、私に貴女の全てをぶつけて。私に、貴女の成長を見せて。
私を、██████。

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