星の守護者、来たれり   作:帰灰燼

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キノコのこの子可愛い子

 

 

 

 

何故、こうなったんだろう。

 

私はただ、「トモダチ」と静かに暮らしていたいだけだったのに。

 

 

「う、うう……」

 

 

ココは、私の居場所じゃない。

 

ココでは、私は「不協和音」だ。

 

 

「……ふ、フヒ……」

 

 

汗が吹き出す。

 

動悸が乱れる。

 

息が詰まる。

 

 

「……う…うっ……」

 

 

誰か、助けて。

 

誰も、来ないで。

 

誰か。

 

誰も。

 

だれか。

 

ダ レ カ ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーいや、何やってんだよ」

 

「フ、フヒィッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「スカウトったって、どうすりゃいいんだよ……」

 

 

眼力を見せてくれないか。

 

今西さんーー俺が配属される部署の部長の言う事には、武内さんはまだしも、人を見る目が相当厳しい美城常務までも認めたという俺の資質を確かめてみたいらしい。

 

それで、まずはプロデューサーとして最も必要とされる「人を見る目」を、俺がどんな女の子をスカウトしてくるかによって試そうという事だ。

 

 

「あの人、温厚な顔して実はドSだろ……大体、アイドルの資質なんて素人が見て判る筈がーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーぅーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー何処だ?」

 

 

ボヤきながら歩いていた俺の耳に、雑踏の中、微かに女の子の呻き声が飛び込んでくる。

 

 

「……近いな。 随分と怯えてるみたいだけど、怪我でもしてるのか?」

 

 

ひょっとしたら、悪質なナンパから逃げ出してきたのかも知れない。

 

だったら、早く保護した方がいいだろう。

 

そう決まれば、後は行動に移すだけだ。

 

 

「よっーーと!」

 

 

行き交う人混みや車の邪魔にならないよう、一呼吸で歩道から道路の向こう側まで跳躍。

 

呻き声の聞こえた場所ーー薄暗い路地裏へと急ぐ。

 

着地した際、如何にもガラの悪そうなグラサンパンチのおっさんが化け物でも見るような目で見てきたけど、なんか変な事でもしたか俺?

 

 

「ここかーーって……いや、何やってんだよ」

 

「フ、フヒィッ!!?」

 

 

路地裏を覗き込むと、小柄な女の子がゴミ箱の裏で何かを抱えて蹲っていた。

 

どうやら怪我や疲労の類は無いようだ。

 

 

「フ、フヒ……な、何か用かな……?」

 

 

臆病な性格なのか、こっちを思いっきり警戒している。

 

 

「いや、こんな所で蹲ってたら俺じゃなくても声かけるだろ。 ーーそれ、何持ってんだ?」

 

「フヒ!? い、いや、別に怪しいモノじゃない……」

 

「そんなに警戒しなくても取りゃしないっての」

 

 

まあ、いきなり身長182cmもあるゴツい男が話しかけりゃ、警戒するのも無理無いか。

 

 

「……本当に、取ったりしないか?」

 

「ん? ああ、俺は別に引ったくりじゃないし」

 

「……本当か?」

 

「ああ」

 

 

と、ややあって女の子が大事に抱えていた何かを見せてくる。

 

 

「……キノコ?」

 

 

それは、植木鉢一杯にビッシリ生えたキノコの鉢植だった。

 

 

「……私の、トモダチ……」

 

 

いや、そんな事言われても返答に困るんだが。

 

 

「……とりあえず、場所を変えないか? ここじゃ落ち着いて話せないし」

 

「……ここで、いい。 人混みは……苦手、だ……」

 

 

俺の台詞に、「トモダチ」を抱き締めながら縮こまる。

 

 

「だからって、ほっとく訳にもいかないんだよ。 特にここは色々とヤバい奴等もうろついてるしな。 俺が信用出来ないのはわかるけど、せめてここからは離れようぜ?」

 

 

よくよく見てみると、この女の子結構可愛いし、このまま路地裏にほっといたらタチの悪い奴等に連れ去られかねないんだよ。

 

そんな俺の願いが届いたのか、女の子が俺の方をじっと見つめてくる。

 

 

「……人の少ない所なら、一緒に行く……」

 

「決まりだな。 ほら」

 

 

手を取って立たせると、女の子は俺の陰に隠れるように付いてくる。

 

さて、どうしたもんか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

道すがら、女の子から事情を聞く。

 

名前は〈星 輝子〉。

 

見た所142cmの小柄な体格だが、こう見えて15歳らしい。

 

というか、良く見ると服から覗く手足も折れそうなくらい華奢だし、肌も病的なくらい白い。

 

腰まで届く髪も白に近い銀髪だが、これは生まれつきらしい。

 

何でも、人付き合いが苦手で、目を合わせると上手く喋れない為、人間の友達は全然居ないそうだ。

 

その為、休日は専ら趣味の「トモダチ」の世話に没頭しているらしく、そのせいで益々口下手になり、更に人付き合いが苦手に……といった、本人曰く「ボッチのスパイラル」に陥っていたらしい。

 

 

「まあ、気持ちはわからないでも無いけどな。 入学初日とかで友達作るのに失敗するとそのまんまズルズルと孤立しがちだし」

 

「フヒ……そ、その通り……」

 

 

何処か嬉しそうに頷く星。

 

だが、そんな彼女にも最近よく話しかけてくるクラスメイトがいるらしい。

 

 

「ちょっと、気は強いけど……凄く可愛くて、周りをグイグイ引っ張っていく魅力のある子……羨ましい……」

 

 

途切れ途切れの説明を要約すると、要は「イジメっ子グループのリーダー」といったイメージの子のようだ。

 

ただし、その子本人はイジメを酷く嫌っており、自分の取り巻きが他人を虐めている現場を見かけようものならそれこそ烈火の如く怒るらしい。

 

星もそんな感じでその子と知り合って以来、妙に話しかけられるようになったそうだ。

 

今日、学校の休校日を利用してこの街に遊びに来るのを持ちかけてきたのもその子らしい。

 

しかし、前日になって急にその子に急用が出来てしまい、「さっさと終わらせて合流するから、先に行って待ってて!」と取り巻きの一人を案内役として付けてくれたらしいが、駅に着いた所で案内役が姿を消してしまい、人混みから逃げるように路地裏に迷い込んだ所で俺が話しかけた、という訳だ。

 

 

「何ともまあ……大体、いきなり何で街に繰り出そうって話になったんだよ?」

 

「フヒ……女の子なんだから、ちゃんとオシャレした方がいいって言われて……服を選びに……」

 

「なるほど。 まあ、確かに星は可愛いしな」

 

「フヒッ!? わ、私が可愛い訳無いだろ!」

 

「いやいや、贔屓目に見てもかなり可愛いぞ。 その服も似合ってるし」

 

 

俺の台詞に、星は赤くなりながら俯いてしまった。

 

 

「フヒ……あの子と、同じ事言うんだな……ちょっと、嬉しいかな。 これ、母さんが前選んでくれた服だから」

 

 

どうやら、親御さんとの仲は良好のようだ。

 

 

「よし、着いたぞ」

 

「……う……こういう、リア充空気の漂ってるエリアは……苦手……」

 

「リア充空気って……」

 

 

辿り着いた場所は、346プロに併設された喫茶店〈346カフェ〉。

 

とりあえず、ここなら星のクラスメイトが見つかるまで落ち着いて休んでいられるだろう。

 

そんな事を考えていると、ウェイトレスが注文を取りに来る。

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様☆ ご注文は何になさいますか?」

 

 

……ここってメイド喫茶なのか?

 

 

「いえいえ、ナナがメイドとして働く許可を貰ってるんです。 あれ、その社員証……もしかして、今日から入社するっていうプロデューサーさんですか?」

 

「ん? ああ、そうだけど……君は?」

 

 

その問いに、ウサミミのようなでかいリボンを付けたメイド少女は完璧な振り付けと共に名乗り出した。

 

 

「よくぞ聞いてくれました! 歌って踊れる声優アイドル目指して、ナナはウサミン星からやってきたんですよぉっ! キャハッ☆ メイドさんのお仕事しながら夢に向かって頑張ってまーすっ!」

 

 

……え? は? う、ウサミン星?

 

 

「えっと……つまり、君は地球人じゃない、と?」

 

「え"っ!? そ、そういう事になりますね!」

 

「なるほど……」

 

 

流石老舗芸能プロ、まさか宇宙人まで在籍しているとは……格が違ったぜ。

 

 

「フヒ……なんか、変な勘違いをしてる気がする……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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