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「〈島村 卯月〉、17歳です。私、精一杯頑張りますから、一緒に夢叶えましょうね♪」
サイドを結んだロングの少女が輝く笑顔で、
「〈本田 未央〉15歳、高校1年生ですっ! 元気に明るく、トップアイドル目指して頑張りまーっす!」
外ハネショートの少女が弾ける笑顔で、
「ふーん、アンタが私のプロデューサー? ……まあ、悪くないかな…。 私は〈渋谷 凛〉。 今日からよろしくね」
黒髪ロングの少女が素っ気なく、
「ようこそ、〈346プロダクション〉へ。 私は今日から貴方の上司を務めさせて戴く〈武内〉と申します。 どうか宜しくお願いします」
一週間前に俺を面接した強面の男が名刺まで差し出しつつ物凄く丁寧に、それぞれ自己紹介する。
「は、はあ……って、今俺の事何つった?」
聞きなれない肩書に黒髪ロングに聞き返してみるも、
「プロデューサー、だけど?」
真顔で返された。
WHY? といった表情で振り向いてみるも、
「そうだな、改めて自己紹介させて貰おうか。 今日から君達の上司となる〈美城〉だ。 君も自己紹介するといい」
いや、この状況説明して欲しいんですが。
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ちょっと記憶を整理しよう。
といってもざっとしか覚えてないけど、まずは一ヶ月程前。
俺は美城と名乗った女性面接官と武内と名乗った男性面接官相手に、如何に自分が警備員として有用かアピールした。
自慢じゃないが、俺は高校に入ってから腕っ節でそんじょそこらのチンピラに負けた事は一度も無い。
また、人に教えるのもそれなりにこなせ、「先生」と呼んで慕ってくれてる奴も何人か居たりする(まあ、その殆どが俺に喧嘩を売ってきた元チンピラだったり拉致紛いの強引なナンパに興じてた元チャラ男だったりするんだが)。
そんな事を至極正直に答えていると、美城と名乗った女性が一枚の紙を差し出してきた。
「ご苦労だった。 これで今日の面接は終了だ。 一週間後、そのメモに記された住所まで来るといい」
そう言い残し、二人は退出した。
「……あれ? 普通こういう時って俺が退出するんじゃ……まだ面接受ける奴残ってたよな?」
違和感に首を傾げていると、岡本さんが呼びに来たのでとりあえず帰る事にする。
「じゃあ、今日はこれで。 もし受かったらよろしくお願いしますね」
「はい。それでは」
岡本さんの見送りを受け、876プロを後にする。
ただ、去り際に、
「観堂さんならきっと受かります! ですから、頑張って下さいね! お元気で!」
と励まされたのが妙に心に残った。
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それから一週間後。
俺は、メモに記された住所まで来ていた。
「……えーと、ここで間違いない……よ、な?」
俺の不安も無理も無いと思うんだ。
何せ、目の前にあったのは城と見紛うばかりの馬鹿でかい建物なんだから。
勿論、876プロの入ってた雑居ビルとは比べ物にならない。
「……つっても、いつまでもここで突っ立ってる訳にもいかないしな……ええい、当たって砕けろ!」
意を決して中に入ってみるも、
「あ? 呼ばれたから来た? 下手な嘘つくんじゃねえよ、帰れ帰れ」
入り口にいた警備員にメモを見せた途端破り捨てられた。
てか、随分とガラの悪い警備員だなおい。
「いや、確かにここに来いって言われたんですけど……」
「うるせえな、さっさと帰らねえと警察を呼ーー」
「観堂君か。 良く来てくれた」
警備員の台詞を遮るように背後から声が掛かった。
「えっと……美城さん、でしたよね?」
「そうだ。 良く覚えていたな」
「いや、まだ一週間しか経ってないですし……ところで、何でここに呼び出したんですか?」
その問いに、美城さんは当然といった顔でこう返した。
「面接に決まっているだろう。 付いてくるといい」
そう言って、答えを待たず歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って下さい! そいつ、不審者ですよ!? 呼ばれたとか言って変なメモまで自作して、ここに進入しようとしたんです!」
去ろうとする美城さんの背中に向かってガラの悪い警備員が叫ぶ。
だが、美城さんは警備員を一瞥すると、
「不審者? 彼は紛れも無く私が呼んだ。 私の書いたメモも待たせていた筈だが?」
その言葉に警備員が固まる。
「あー……それならさっきその警備員に破かれちゃいまして。 ほらこれ」
ダメ押しとして元メモだった紙吹雪を美城さんに見せると、警備員の顔が某ガミラス帝国総統のように青褪める。
「いや、あのっ! それはっ!!」
慌てて取り繕う警備員に向かって、
「今度の査定を楽しみにしているといい」
そう言い放つと、美城さんは真っ白に燃え尽きた元警備員を尻目に歩き出した。
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その後、〈今西〉と名乗る初老の男性面接官との面接でもしっかり警備員アピールをしておいた。
俺が自分の事を語る間、今西さんはにこやかに頷いていたのでとりあえず好感触だったと思う。
そして、面接が終了して退出する際、今西さんからこんな事を言われた。
「君は実に面白いね。 君が我が346プロに来てくれるのを楽しみにしているよ」
その言葉に、内心ガッツポーズしながらも礼儀正しくありがとうございますと返して部屋を後にした。
だからこそその場では気付かなかったのだろう。
今西さんは確かにこう言っていた。
「346」プロ、と。
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それから二週間後、つまり今日。
「346プロ」からの合格通知を手に、俺は改めてあの馬鹿でかい建物へと足を運びーー〈千川 ちひろ〉と名乗った三つ編みがキュートな事務員に案内された部屋にてさっきの自己紹介と相成った訳だ。
「あの……ちょっと説明して欲しいんですが。 俺、確か警備員の面接でここに来た筈なんですけど」
「ああ、そうだったな。 悪いが、私の独断で志望先を変えさせて貰った」
「何故に!?」
あまりに酷い台詞に、思わず頭を抱える。
「申し訳ありません。 実はーー」
武内さんの話によると、美城さんーー美城常務と共にとある仕事の話で876プロに赴いた際、偶然面接に来ていた俺にとある「素質」を感じた武内さんが美城常務に直談判し、美城常務が直々に面接した結果876プロに交渉し「実質まだ面接を受けてないから」と346プロの方で引き取る事で話を付けたらしい。
その「素質」というのが、人の才能を見抜きその資質を引き出すーープロデューサーとしての素質という訳だ。
「すいません、私の方で説明するべきでした」
「いや、私も説明不足だった。 すまない」
二人掛かりで頭を下げられ、思わず溜息がついて出る。
「はあ……もういいですよ。 けど、プロデューサーといっても何をすればいいのか……」
その呟きに、背後から初老の男性の声が返ってくる。
「そうだね、先ずはーー」
「ーー君の眼力を見せてくれないかな」