東方社畜妻   作:続空秋堵

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くっそ長いです。しかも導入編なのでイチャイチャ少ない。
それに作者はラブコメを描く才能がないのかもしれない。それでも良い方はどうぞ。


社畜のごとく!

不思議と不可思議の違いはなんだろうか。そう考えたことがある。

地霊殿と呼ばれるこの地でやる事がなく退屈で持て余した私のやることは読書かペットを愛でること。いつもいつも同じ日々で、それが嫌とは思えないが新鮮味が無いとは日々思う。たまに起きる異変だって大概が地上でのことで地底はまるで関わってない。だから耳に挟む程度で実際に見たわけでもない私は面白くない。

 

いや、面白くないと言ってしまうと私の生まれを否定しかねない。

だって私は覚妖怪。心を読む程度の能力を得ている古明地さとりなのだから。

 

心を読むことは面白くない。私は断じてそう言うだろう。他者が聞いたら便利な能力だとか嫌らしい能力だと言うが私は後者よりの答えが出る。例えば私が殺人事件に巻き込まれたとして集められた一室で始まる推理。誰が犯人で誰を信じたらいいのか分からない緊迫感。誰もが胸を高鳴らせるだろう。恐怖や緊張、それに半疑。そんな様々な感情の中で私は孤独に笑うのだろう。

 

なぜなら、私には犯人が分かってしまう。誰が犯人で誰がどんな感情を抱いているのかが目で認識するように、体で体験したように読めてしまう。私だけは絶対にその様々な感情の中に入れないのだろう。だからこそ孤独。普遍的な感情に身を委ねられない虚無感。

 

これでは先の展開を読む程度の能力じゃないか。

 

私は読書家だ。様々な本を読む。この地霊殿には数々の本が眠る。それも人が一生かけても読み尽くせないほどの。

本は好きだ。展開が読めないから。誰の声も入ってはこない、入ってくるのはページをめくる音だけ。それが最高のBGMとなり続きが知りたいと手が動く。それが今の幸せだった。

 

読むものは何でも読んだ。

推理 ミステリー サスペンス ホラー サイコホラー ファンタジー。例をあげたらキリがない。私は乱読派のようだ。

 

ちなみに余談だが、ミステリーとサスペンスの違いは大きい。

ミステリーは最後まで犯人がわからなくて謎を解いていくと犯人が最後にわかる作品のことで、逆にサスペンスは最初から犯人が分かっていてその犯人が追い詰められたりする姿を見てハラハラしたりと頭を使わずとも物語の展開を追っていき楽しむもの。

 

ホラーは非現実的な体験を通して恐怖を刻むものでサイコホラーは現実的なはずなのに非現実的だと思えてしまう作品だ。私としてはサイコホラーの方が好きだった。人の、答えが分からなくてぐちゃぐちゃになった成れの果てを見れるから。私には一生体験することも見ることもないその姿は酷く美しく見えた。ああ、愛おしいと。

 

閑話休題。

 

そんな乱読派な私だが一つ分からないジャンルがある。

いや、読んでいて内容は理解できるし楽しめるのだがなぜこう呼ばれるのだろうかと疑問に思う。

 

『SF』

 

もともと横文字に弱い私にはこのジャンルの意味が遠い高台に見える鳥に見えた。人間に限りなく近い妖怪として生まれたからか他の命、生き方が私には理解できないし誰にもできない。

人々は羨むかもしれないが、鳥類の持つ羽。飛べることに想いを馳せるが実際にはその羽は重いのかもしれない。真実は彼らのみぞ知る。

そんな未知な『SF』だがたまたまこちらに暇つぶしに来た八雲紫に聞いたところ、それは『少し不思議』の略なんだとか。私は感心したように頷いてしまった。

 

宇宙人と相対であると証明してみせた曖昧な彼の物語は確かに少し不思議な物語だった。私は絶対に指を合わせたくなんかないが。

 

私は探究心が旺盛だ。どんな物語でもどんな現実でも一体誰がどう考えていて何を思って、想ってくれているのか探究し続けたかった。だがそれは叶わない現実。自分の想いとは裏腹に全ての感情が想いが流れ込む。だから実際に起きた事件なら犯人が分かるし、鳥のように翼はないが飛べてしまう。

 

つまらない。

 

自分が環境が私の興味を持ったことにあっさりと答えが出てしまう。積み上げたブロックが蹴飛ばせばバラバラになるように当然だと言う結果が残る。私は生まれる場所を間違えたんじゃないかと思ってしまうが、今の生活が気に入っている自分もいて葛藤。ああ、なんて幸せなんだろう。

だが幸せ過ぎてはつまらない。だからこそ、今私は刺激を求めているのだ。ちょっとした料理にスパイスを探して。

 

 

 

夢を見た。

私がたくさんの背の大きい建物に囲まれて鉄の塊がとんでもない速さで過ぎ去っていく。橋には線路があってそこにまた鉄の塊が過ぎ去る。ここはどこだろうか。なんの夢なのだろうか。呆然としていると甲高い音がして、その音に惹かれているのか同時に多くの人間が白い横線を跨ぎながら進んでいく。私はその音に冷水を頭からかけられたように意識が戻った。よく見たら上に赤と緑の物体が見えた。その物体の絵を見る限り緑でこの線を渡るようだ。私は立ち尽くし人間たちの姿を眺める。冷静に今の状況とこの場所の分析をし始めたところ私は探究心が旺盛を通り越して危機意識がないのかもしれない。今まで自分が危機的状況に陥ることがなかったせいだろう。

 

「ここはどこかしら?」

 

やっと開いた言葉は平凡で知的ではない。だがこの一言で他者から私が戸惑っているのだと分かるだろう。

なんとも不思議な夢だ。でも同時に楽しくて、仕方がない。ここはどこなんだろう?同時にわくわくしている。あの塊はなんだろう?同時に惹かれている。ああこの状況が、晒せた自分が輝いて見える。覚めたくない夢だと思った。

 

 

「……なんで覚めるかな」

 

一瞬だった。自分が夢を見ていたいと思って直ぐに現実に返され、不服でぷくぅ〜と頰を膨らませた。

 

「もう一回寝たら見れるとか。……ま、そんな上手い話もないか」

 

まだ朝の六時前。目をさますには早いだろう。もう一度同じ夢を見れることを願って瞳を閉ざした。

 

 

 

「本当に見れるなんて」

 

案外、言ってみるものかもしれない。寝て覚めたら同じ夢にいた。先ほどと同じ場所に、信号機の前で立ち止まっていた。

思わず踊ってしまいそうだ。だが人前なので自重。いや、夢だしいいのかもしれない。

 

信号機が青に変わる。同時に人々が歩き出すのを見て私も歩き始めた。目的地はない。あたりまえだ。見知らぬ辺境の地なのだから。何時覚めてしまうかわからない夢。今だけは楽しもう。

 

「ふんふんふんふーん♪」

 

それから私は好きなだけ歩いた。どこまでもどこまでも。気持ちが高揚して思わず鼻歌をするまでに。ここには私の知らないことが多すぎた。未知なる物が多すぎた。ごく普通な道端のガードレール一つで探究心、知的好奇心が脳を震わせるのに充分すぎる。道端の石を蹴飛ばしたり花を摘んでみたりもした。

明らかに一時間と経過した気がするが夢の時間は現実の時間とは異なるだろう。多分。これもある意味楽しみだ。

 

それに時間が経てばお燐やお空が起こしにくるはずだ。それまで自由に歩いていればいい。だってこれは夢なのだから。

どこまでも行き流石に覚めてもいいだろう思えた頃、

 

「私はどれだけお寝坊さんなのかしらね」

 

異変に気付く。

『夢の世界の物は果たして触れることが出来るのだろうか』と。

 

それ気づいた時、私の行動は早かった。

もう一度確かめるように石を蹴飛ばす。転がった。止まっている鉄の塊を覗いた。自分が映る。頰を、引っ張った。

 

痛かった。

 

 

いた、かった………?

 

 

 

「………ッ!?」

 

それを把握してゾワリと悪寒が体を巡った。背筋が凍り目をパチクリとした。改めて行き交う人々をみる。私を見ていた。見ていた。気付いて慌てて駆け出す。何故自分が視線を集めていたのかはわからないが夢に認識されている現実が恐ろしい。私は夢に囚われてしまったのではないか?そんな疑問が浮かんできた。

 

怖くなった。探究心が旺盛で、恐怖を危機感を知らなかった私が激しく胸が上下して戸惑っている。なんだか人通りの少ないところに入っていく。取り敢えず今は誰の目にも止まりたくない。この悪寒が現実味を帯びるから。

 

それから考えることは同じだった。私はどうしたら夢から覚めるのか。どうしたら帰られるのか。私はこれから、どうしたらいいのか。

帰る方法が分からず、行く当てもない。ただ未知なる場所で過ごすこの時間はさっきまでと異なって息苦しい。この絶望的状況は普遍性的感情に乏しかったさとりを危機感という普遍性を取り戻す。

今にも気を失いそうなほどに。

 

「あれ、お嬢ちゃんなにしてるの?」「一人?」「・・・」

 

一人苦しんでいると唐突に入ってくる若僧が三人。一人はちゃらく、一人は心配そうに、一人は黙って。だがこうして喋りかけられたことによってさとりは夢に今生きているのだと確信した。夢に生きているのではなく、文字通り、夢の世界で息をして生があるのだと。

 

「ひっ」

 

この状況がさとりを酷く混乱させた。息が苦しくなって、冷や汗が止まらない。

顔が次第に真っ青になっていく。そしてさとりは無意識に能力を使ってしまうのだ。

 

「(なんでこんな危険な場所に?最近柄の悪いのが多いしな、早く避難させないと)」

「(変わった服だな。この国の人じゃない?気品があるしどこかの令嬢かな?)」

「(おうどん食べたい)」

 

彼らは見た目にそぐわず大変善良な人たちなのだと心が読めるさとりには分かるはずだったのだが、いかんせん。さとりは混乱していた。

だから彼女にはこう聞こえていたのだ。

 

『(可愛いお嬢ちゃんだなぁ?おい、ちょっと遊びに行こうぜぇ?)』

『(なにかあったら危ないよ、家においで。まぁ、僕たちが危険かどうかはわかんないけどね)』

『(おうどん食べたい)』

 

「………うぅ」

 

心を読んださとりは勝手に萎縮した。想像の中の彼らの言葉が現実だと思って。

だんだんさとりの目に涙が浮かんできた。今にも溢れそうほどの滂沱の涙が。それを見た男たちは慌ててさとりの手を掴む。

 

「おい、泣くんじゃねーよ」

「とりえず、交番いこうか。迷子の届け出だしたらお母さんも迎えにくるだろうし」

「・・・」

 

彼らは勝手にさとりのことを年下だと思うがさとりの方がずっと年上なのは余談だろうか。

ちゃらい男がさとりの手を掴んだと同時にさとりはついに叫び出してしまう。

 

「だれか、誰か助けてください!!??」

 

聞こえませんか!と続いて叫んだ。

 

「ちょ、おま人が親切にしようとしてるのに……」

「待って、これ不味くない?これで人が来て勘違いされたら……」

「蕎麦もいいよね」

 

慌てふためきさとりの叫び声が響き渡った。冷静な男が逃げ出すように提案するがちゃらい男は誤ってさとりの口を手で塞ぐ。これで完全に事案。犯罪確定の絵図らが完成した。

 

もうダメだ。もう、私は……。ごめんね。

お燐……最近尻尾が取れそうなくらいの痛みがあるって言ってたけど、ごめんね。私が引っ張ってどこまで伸びるか研究してたの。

お空……最近おやつや食後のデザートが気づいたら無くなってるって言ってたけど、ごめんね。実は私が食べてて「知りません?」て聞いてきた時「鳥頭だから食べたことも忘れてたのよ」なんて言って。

 

走馬灯のように思い出す楽しかった思い出。

時にはお燐に丸いボール状のカマキリの卵を転がさせたり。時にはお空にバードウォッチングしたいからそこで待っててと言って楽しみにしているお空……じゃなくてうなじを描いていたり。あの時、お空が見せてと笑い覗いてきたのを「下手だから見せられないよ」と微笑んだのは後々「私なにやってんだろ……」て思い直したからなの。

 

ああ、全て良き思い出だった。

でも、私は今穢されちゃうんだね。全てを諦めてしまった頃だ。物語は動いた。

 

『………ッ!?』

 

唐突に手が離された。

恐る恐る目を開けると、そこには先ほどの男性三人組が壁に頭をのめり込み動けなくなっていた。私は何事かと震えたが、直ぐに後ろから違う男性の声がした。

 

「まったく……。こんな小さな女の子に三人も男が絡むなんて、恥ずかしくはないのかい?って聞こえてないか」

 

そう言って首を鳴らした彼は鋭い目つきで呟いた。

 

高そうなスーツに腕時計、ネクタイや靴までもその辺の物ではないと一目瞭然。全てブランド品のものだろう。さとりとて高そうだと思った程度で価値はわからないが。

さとりは状況が上手く飲み込めなくて視線を四方八方に向ける。先ほどの壁にのめり込んだ三人を見てみる。

 

「(え、なに、どゆこと?)」

「(ほら、側からみたら事案だったじゃん……てか痛い)」

「(和食はいいぞ)」

 

それぞれ何か言ってたみたいだが次第にそれが聞こえなくなった。きっと意識が飛んだのだろう。

そして助けてもらった男を見る。彼は私を見ると一礼して口を開いた。

 

「見苦しい姿を失礼。そして助けが遅れてすまない、声が聞こえたものでね。急いでやって来たはいいが、怪我はなかったかい?」

「え、あの、えっと、…… はい」

 

一瞬ぼーっとしそうになったが慌てて返事をする。

 

「そうか、ここは危ない。人通りも少ないからね。早く立ち去るといい」

 

そう言って気を使ってくれた。だが私は言われた通り早く立ち去りたかったがそう出来ない事情があった。

びっくりしすぎて腰が引けているのだ。

 

「……おや、私としたことが配慮が足りなかったね。お嬢さん、お手を拝借」

 

優しく手を取ってくれて立ち上がらせる。彼はポケットからハンカチを取り出すと服の汚れてしまった場所を払うようにしてくれた。至り尽せりである。

 

「じゃあお嬢さん。私はこの辺で、君も真っ直ぐお家に帰るといい」

 

そのまま去っていく。そのまま後ろ姿を見つめていたがやっと彼女は慌てて彼の服を引っ張った。

 

「えっと、すみません。しばらく一緒に行動してもよろしいでしょうか」

「………どうして?」

「まだ、信用できそうだから……です」

 

彼は少し思考した後、勝手にするといい。と言ってくれた。私は彼についていく。初めてこの地でまだ信用できる人を見つけたから。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、藍。至急地霊殿の、いや古明地さとりの様子を見てきて」

「………なにゆえでしょうか?」

「いいから」

 

はぁ……と呟いて藍は地霊殿へと向かった。

それを見届けて八雲紫は手に持っていた扇子を閉じる。どうして藍を地霊殿に向かわせたのか、紫はこの異常事態に心がざわめいた。しばし待つと直ぐに藍は帰ってくる。

 

「紫様、申し上げます。古明地さとりが唐突に姿を消し行方不明となっております」

「やっぱり……」

 

思わずため息を。

私は目を閉じて考える。どうしてこうなったのかを。

 

古明地さとりが唐突に姿を消したことは隙間に繋がっている様々な場所を見ていて気がついた。恐らく古明地さとりは幻想郷のどこにもいない。だって彼女は、

 

「紫様、古明地さとりは一体どこに行ってしまったのでしょうか?」

「そうねぇ……外、じゃないかしらね」

 

隙間でひたすらに探してようやく見つけたさとりだがその場所は幻想郷ではない。外の世界と呼ばれる人間社会で発見された。彼女は今すぐさとりの救助に向かう事も考えたがこの異常事態の正体を掴むためにしばらくの間さとりをあちらに置いておくことを紫の中で決定される。申し訳ないがさとりには頑張ってもらいたい。あちらの世界が辛いかもしれないはこれ以上の被害が出た場合どうするかを検討するために。

 

 

 

 

 

 

 

私がこの男性について行くこと数分。話すネタがないが何かを話さなければいけないと思い口に出す。

 

「助けていただいてありがとうございました。えっと……」

「ああ、私の名前だね。白露……は契約上の名前だし五月雨と呼んでくれていいよ」

「分かりました、五月雨さん。私は古明地さとりです」

 

契約上の名前とはなんだと思ったが聞かないでおく。それに心を呼んでしまえがいいのだから。

先ほどから唐突に無理言って勝手について行く私だが彼は私のことをどう思っているのだろうか。少し、覗いてみることにする。今彼がなにを考えているのかを。

 

「(仕事だ仕事だ仕事だ。今ので約10分のロスだからこそ今からは「(次の取引先まであと十五分かかるとしてあそこから逆計算を……仕事だ仕事だ仕事だ「(この子は一体何者なのか。見た所どこかの国の令嬢、または王女か、正体が分からないが帰ったら国に聞いてみるとしよう、なに関わりはある。それよりも仕事だ「(貴族の娘だった場合このまま放置しておけば問題になる。私がしばらく保護をして国の偉い方に投げよう。今は仕事を……)」

 

 

 

 

なんだか、凄い勘違いをされていた。私がどこかの国の貴族の娘か女王とかでこのまま置いておけば事件になるから保護した。というのが彼の結論だったらしい。

それよりも…………仕事仕事ってこの人大丈夫ですか!?なんか呪われたみたいになってますよ!?よく見たらハイライト無いし!?

 

 

私はとんでもない人に関わりを持ってしまったのではないか。と頭を悩ませるがやはり今信用できるのは彼しかいないので大人しくついていく。だいたい十五分くらい歩いたあと、彼は暫く待っていて欲しいと言って大きな建物の中へ入っていく。

私は待っていろと言われたのだし待っていたかったが先ほどの経験を思い出して身震いし彼の服をまた引っ張ってしまう。

 

「一緒にいくかね?」

 

頷いた。

 

 

「お待ちしておりましたよ、朝露さん。ささ、おかけください」

「失礼します」

「おや、そちらの方は?……もしかすると遂にご結婚なされたのですか!?」

 

いやぁめでたい!と一人で笑顔になるこのおじさんだが見た限り偉い人なのだろう。五月雨さんだったはずの彼がいつの間にか朝露になっていたが気に留めておくことにする。

 

にしても結婚か。私が誰かと結婚したら……と考えてみるが想像出来なかった。おじさんは五月雨さんとその横で手を握ってる私の姿を想像しているようで、そう思うと私も意識してしまい頰が染まる。

 

それからは長ったらしく難しい話が始まった。大体は理解が出来るが流石に株状況がどうこうのと言うくだりは良くわからない。とりあえずお互いの会社のメリットデメリットについて話し合っているようだった。

 

無意識ながら発動する能力によるとこの通り。

 

「(いやぁ、ついに朝露さんが結婚か。いい男なのに女の影すら見えなかったから心配していたが。うん、これはよかった。あの小柄な彼女には朝露さんをよろしくと言うことにしよう)」

「(あいも変わらず無駄話が多い。早く議題を進めるべきだ。これだけで三分四十秒のロスタイム)

「(このじじいの秘書本当に辞めたい。でもお給料いいしなぁ……)」

 

以上の通りである。

心を読んだ私としては複雑な気持ちだった。

 

この社長は秘書にも五月雨さんにも信望が厚いと言うのに秘書は金の為に隣にいるだけで面倒くさそうだし、五月雨さんは完全に仕事のことしか脳にないようだ。

だからといって私がどうこう口出しできない。そのまま話が終わるのを待ち続けた。

 

 

「いや、有意義な時間でした。ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございした」

 

二人はガッシリと握手を交わし微笑んだ。

 

「次はどちらまで?」

「次は三千院家までですね」

「ははぁ、あそこのお嬢様は気が強い。そちらのお嬢さんに文句を言うかもしれないですし少し着飾るべきですな。いえ、今のままでも十分美しいですが高級品の一つや二つがないと嘗められかねない」

「ご忠告感謝します」

 

それで本当に話が終わり五月雨さんが扉に手をかけ去ろうとしたときだ。

相手のおじさんが私に話しかけてきた。

 

「朝露さんはとても繊細で難しい方だ。もし本気なら苦労するでしょうが受け止めてあげて欲しい。彼は本当にいい男なのだから。朝露さんをよろしく」

「……… はい」

 

戸惑った私は愛想笑いを浮かべて立ち去った。

これにてお仕事終了……のようだが続きがあるようだ。

 

彼と会社を出てついて行くと次に向かうのはまたもや大きな会社。だがそれは先ほどのように企業ではないようで沢山の服やドレスにアクセサリーなどどれも高級そうで美しいものがあるお店。

彼が店内に入っていくと急ぎ足で奥から店長らしき女性が現れた。

 

「五月雨様、どうぞおいでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「この娘に一番似合う服とドレスにヒール、それに流行りのバックとネックレスをいただきたい。センスは任せるよ」

「ありがとうございます」

 

淡々と告げる彼とそれに深く頭を下げる店員。ぼーっと見ていると店長ではない女性店員数名が私の手を取り引いていく。

ってちょっとまって。

 

「え、なんですか」

「だから君の物を買いに来たんだ。時間が勿体無い、早く寸法してきなさい」

 

そんな、勝手について来てるだけなのだからそこまでしていただかなくても。と言おうとしたが先ほどの会話を思い出した。三千院家は厳しい人間らしく飾らなければいけないと。つまり私の為ではなく自分の為なのだ。当然と言われれば当然だが少し期待してしまった私もいたのが事実。

 

「ではこちら」

「ささお嬢様」

「久々に可愛い娘ktkr」

「あの、引張らないでください」

 

私はどことなく嬉しそうにキラキラ輝いている三人の女性に連れてかれてカーテンの裏に入れられた。

いや、読んだから嬉しそうな理由はわかってますけど………。

 

 

 

 

「ちょ、どこ触ってるんですか!?」

「いいえー、寸法ですよー」

「ですですよー」

「キャッ、だからどさくさに紛れて……」

「yesロリータnoタッチ」

「触ってるじゃないですかぁぁぁあ!」

 

やはりこうなった。

 

 

 

 

「お、お待たせしました」

「ふむ」

 

出てきた私の姿を見てどこか思うとこがある五月雨さん。

確かにこう言う服は初めてきますがどこかおかしいのでしょうか。無意識に心を読もうとしてしまうがその前に彼が口で言ってくれた。

 

「よく似合っているよ。とても可愛らしいね」

 

ドキっとした。いや、確かに自分でも似合っているかな?とは思ったけどここまで好感触とは。

少し嬉しくなって頰が熱いが気のせいだろう。

それでも嬉しいのは事実なのでもじもじしそうになるが彼は店長の元で会計を始める。

 

「合計二千八百万円です」

「カードで頼む」

 

黒いカードを出した彼の姿を見て申し訳なく思った。イレギュラーな私の所為で無駄な出費だろう。

それとこの世界の金銭感覚はわからないがきっと合計金額は高かった。

 

店を出た。

 

「あの、すみません。無駄な出費でしたね」

「何を言ってるんだい?こうして君の美しい姿を見れただけで無駄なんかじゃないさ。お釣りが来てしまうよう。本当に可愛らしいね君は」

 

こうやって平然と口説いてくるのは馴れているのだろうか。……そうじゃないらしい。本心のようだ。

それを自覚してまた頰が赤くなった。うぅ……なにか落ち着かない。私なんかそんなに可愛くないというのに。さっきから私は恥ずかしい思いをしてばかりだ。いろんな事を言われて揶揄られてると思えばそれは本心で。本当に落ち着かない。でも楽しいと思えているのも事実だ。

 

「ごめんね。その靴歩き辛いだろう?靴擦れが起こりにくい素材にこだわるように言っておいたが大丈夫かい?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

確かに初めて履くヒールというのは指の辺りがガクッと下がり踵が上になって変な感覚だ。素材がいいのかあまり違和感などはないが履きなれないものは少し困惑はする。

 

「(もし辛そうだったら抱っこでもすることにしよう)」

「〜〜〜ッ!」

一人悶々とした。想像して、恥ずかしくて、でも悪くなくて。

 

「さて、三千院家に着いたよ。すまないが腕を借りてもいいかな?」

「えっと、どうしてですか?」

「君はどうやら私の彼女になるかもしれないらしい」

「へ、ふぇ?」

「先ほどの社長が勘違いしていただろう?だからこう言う路線もアリかなってね」

 

そういう事ですか。とホッとする。でもちょっと残念。

だが私は彼にただ付いているだけの子なので素直に腕とやらを貸す事にする。

 

「で、どうしたらいいんですか?」

 

心を読んで内容を知るが、私は顔が真っ赤になる。だってこれって

 

「こうするのさ」

「〜〜〜ッ!?」

 

本当にお付き合いしているみたいじゃないか。

 

 

 

 

三千院家に入ってからは早い。

中から私より少し小さい金髪ツインテールの女の子が出てきて隣には幸が薄そうな執事と笑顔のメイドさんが。私のところのお燐やお空みたいな人たちだろう。お燐もお空も心配してないかなぁ……。

 

「待っていたぞ五月雨!それと、その横のちっこいのは誰なのだ?初めてみるな」

「ナギも十分小さいですよ」

「お嬢様が言えたことではないですよ」

 

小さい金髪の女の子がナギと言うらしい。この屋敷の主人のようだ。すごい、私の地霊殿ともいいとこ勝負かもしれない。

そして執事がハヤテでメイドがマリア。心が読めると自己紹介しなくても名前がわかるのはいいことだ。五月雨さんは本名かわからないけど。

って私も挨拶しておいたほうがいいですよね。

 

「初めまして、古明地さとりと申します。以後、お見知り置きを」

 

一応礼儀正しく一礼。それを見た執事が「わー、お嬢様よりお嬢様みたいだ」なんて言っているが声に出さなければ問題ないのだろう。

挨拶が終わるとジーと私を品定めするように見てくるナギさん。正直、気持ちのいいものではない。

 

「ふーん、で。五月雨とはどういう関係なのだ?」

 

私がなんて答えようと悩んでいると。

 

「この子は私の彼女ですよ」

「ふぇっ」「なっ」「あら」

 

左から私、ナギさん、マリアさんである。

それより彼女って……彼女って……。

 

「あわあわあわ」

 

何がなんだかわからなくなって変なことを言っている気がする。

すると執事も驚いたように五月雨さんに言葉を続けた。

 

「本当ですか!五月雨さん!?」

「本当だよ、真剣にお付き合いしてる」

 

心を読めば冗談だと分かるのに分かってなお呂律が回らない。私は完全に暴走している。

 

「しゃみ、さみ、さみだれしゃん!」

 

はっはっは。と笑う彼に揶揄(やゆ)られたと思うが顔が熱くて仕方がない。彼はなんてことしてくれたのだ。

 

「ほらハヤテ、別に年下とお付き合いすることは不自然ではない!むしろ当然なのだ、愛は地球を救うってテレビでも言っているように!」

「いや、でも法律が認めないんですよ!あと僕はロリコンじゃないですからね!」

「誰がロリだゴラァ!」

 

ナギさんがハヤテさんに飛び蹴りを食らわせた。アクロバティック。

戦闘は苦手なので尊敬してしまう。

 

「はは、でもね。彼女はこんな見た目だが君たちの誰よりも年上だよ?」

「嘘……だろ……?」

 

ナギさんがど肝を抜いていますが。はい、そうなのです。私は百を超えています。みんな若すぎるぐらいです。

 

「確かに落ち着いてますもんね」

「どことなく気品に満ちてますわね」

 

二人も納得のようだ。

そんな凄いものを見る目で見ないでほしい。視線には敏感なのだ。

 

心を読む限り悪い人たちじゃなさそうです。

暫く挨拶した後メイドが客間に通してくれて高級そうな、いや高級な椅子に座る。あ、紅茶美味しい。

 

「それで、さとりは五月雨の恋人らしいが」

「こいっ」

「ん?まぁいい。五月雨の彼女ならもちろん彼の趣味や人となりを知っているのだろう?」

 

……。どうしたものか。確かに五月雨さんには会ったばかりかもしれないが、この短時間で良くわかった気がする。

だが趣味ですか。心を読んでみても

 

「(趣味?必要ない。仕事さえあればいい)」

 

これですもんねぇ……。

どうしたものかと悩んでいるとナギが訝しむ視線を送ってきたのでもうどうとでもなれと思う。

 

「仕事……ですかね……」

「なんだ、よくわかってるじゃないか」

 

あっていたらしい。

いや、まぁそうでしょうけど。

 

それからは適当に相槌を打ちながら話は進む。

特に難しい話もなくどうでもいいお話が多い。どうやら今回はナギのお爺様に頼まれて様子見にきた。というのが本筋だったらしい。

 

「さて、さとりは五月雨の彼女ならもちろんアレはやったんだろう?」

「アレとは?」

「サーモンギアソリッドだよ」

 

なんだそれは。

え。えっ?と困惑したが読むところ映画のお話らしい。有名な映画で原作はゲームだったとか。げーむが何かはわかりませんが弾幕ごっこ的なノリでしょう。

 

「2はどのシーンが好きだった?3のベアー部隊では誰が好きなのだ?」

「お嬢様、古明地さんはゲームなんてやらないと思いますよ。するとしても読書とかだと思いますし」

 

そうかなぁ?なんて二人の会話を聞いていて少し不味いと思った。

ナギはおそらく私がその作品のことを知っているのだと思っている。ここで話が出来なければナギから私への興味は失いあまりいい関係にはなれないだろう。読んでナギと同じ感想を言ってみてもいいがそれだと怪しまれるだろうし。

 

「(まったくこのお嬢様には困る)」

 

横から声が聞こえた。

 

「(私は別にゲームも映画も見ないというのに。たまたま企業のお偉いさんがそういったものが趣味なやつがいたから知識として持っていただけで興味はない。ただこのお嬢様に返事をするなら2の放電が葛藤しながらも自由と子供たちの未来のために生きると誓ったシーン。3ならザ・ファイナルとの森の中での一騎打ちが最高だっただろうか)」

「ーーーでしょうか」

「おお、よく分かってるじゃないか!!」

 

ナギはお気に召したらしい。

私は心の声で呟く五月雨さんの言葉をそのまま読み上げただけなのだが助かった。

チラリと横を見てみるが五月雨さんは面白そうな顔をしている。そらそうだ。心を読んだのだ。それを口に出せば何かと気付かれるのに決まっている。だが彼は少し表情を変えたと思えば視線を戻した。気付かれてない?

 

「さて、どうせじじいに呼ばれて夜は本邸でパーティに参加するんだろう?だったら時間までこの屋敷で寛ぐといい。そうだ、古明地。よかったら私と来てくれ」

「えっと……」

「行って来なさい」

「はい」

 

私はナギに手を引かれて部屋を出た。

 

 

 

「古明地はどこのお嬢様なのだ?」

「えっと、それより三千院さん。よければさとりとお呼びください」

「じゃあお前もナギと呼ぶと良いぞ」

「わかりました。ナギ」

「うむ、それでよいぞさとり」

 

私はナギにそう呼ばれて微笑んだ。

なんだかやっと心を落ち着かせることができそうだ。ナギは私と身長だとか近いからか一緒にいて気を使わなくてよさそうだ。ふぅとため息を一つついた。

 

「私はちょっと訳ありですのでどこの子とは言えませんがすみません」

「よい、事情はそれぞれだろう。うちのハヤテ……まぁ執事だっていろいろあってここで働いているからな」

 

いろいろ。わざわざ言葉を濁してくれいるのだが申し訳ない。

だいたいわかった。執事さんは親に売られて拾ったのがナギのようだ。なにかと苦労しているのだろう。

 

「さとりはどんな本を読むのだ?私は漫画なら大概なんでも読む。冒険ものもミステリーものもなんでもだ」

 

ナギは私と同じく乱読派のようだ。

 

「私もなんでも読みますよ。漫画はあまり読んだことはないですけど」

「それはもったいないな。今度オススメの漫画を貸してやろう」

「ありがとうございます」

 

漫画か。知識としては文だけではなく絵で伝え魅せるものだと知っている。

正直興味はあるのだ。

 

「私はやはりラブコメとか好きだな。熱血系も捨てがたい。さとりはどうだ?」

「私はSFとか好きですね」

「SFかぁ。意外だな」

 

そうでしょうか?と続く私。完全なファンタジーより少し不思議で現実味があるお話の方が性に合うのだ。

 

「ああ。サイエンスフィクションは人を選ぶからな。私は好きだがさとりもSFが好きだなんて驚きだよ」

「サイエンスフィクション?なんですかそれ?」

「・・・?SFが好きなのだろう?」

「ええ、ファンタジーみたいな魔法の世界とかも憧れはしますがやはり現実のどこかに見える少し不思議なお話の方が」

「・・・。さとり、お前はどうやら勘違いしているみたいだぞ」

 

その後、ナギからの説明を聞いて穴があったら入りたい気分になった。私はどうやら八雲紫の揶揄られていたらしい。SFは『少し不思議』の略ではなく『サイエンスフィクション』の略らしい。サイエンスとは大まかに言えば科学らしく、SFとは科学的な進化を遂げたことに関連する超絶な物語のことだとか。

 

覚えておいてください、八雲紫。あなたは私を怒らせた。

 

「そ、そうだ、うちのペットでも見てみるか?可愛い猫ちゃんだぞ」

「ぺ、ペットですか!」

 

変に間が空いてしまったのを埋めるためかナギが話の向きを変えた。

だがその向きはさとりにとって物凄く興味のある事柄だったのが杞憂。

 

そっか。この世界にも動物いるんだ。私は思わず目を輝かせてしまう。

だってペットといえば可愛いイメージがある。お燐もお空もとっても可愛いし他の子たちも愛おしい。ここのペットはどんな子だろうと胸を高鳴らせていると。

 

「ほら、あそこだ」

「・・・」

 

窓の外から見たその二足歩行する虎は果たしてペットと呼んでもいいのだろうか。

この距離でも能力は発動してしまう。

 

「(ったくあの借金執事のせいで俺の出番が全くねーじゃねーか。原作でも一切触れられなくなったし出てたの巻数が二桁行く前だけじゃねーの?やってらんね、やっぱあの借金執事を食うしか……)」

 

・・・。

 

「見に行くか?」

 

純粋な瞳で微笑えんでくるナギに

 

「結構です」

 

私も微笑み返した。

 

 

 

 

「どうしてさとりは五月雨の彼女になろうとしたのだ?私が言うのもなんだけどあいつは変わり者だぞ?三度の飯より仕事をしてたいようなやつだ」

「確かにそうですよね」

 

心を読んで知っている。彼の頭には仕事しかない。

それに私は五月雨さんの彼女ではない。そういう設定なのだ。

 

「実は、私は五月雨さんの彼女じゃないんですよ」

 

この子に嘘はつきたくなかった。そう思ったら口に出していた。

 

「たまたま出会って、お世話になって、迷惑ばかりかけて」

「訳ありなのだな」

 

そう、訳ありだ。こうして五月雨さんについていくのも外が危険だと分かったからで、この世界にやってきてしまったのも訳ありだろう。帰り方はわからないし、どうすればいいのかもわからない。それでも一つわかったのは、ここは夢の世界なんかじゃないことだ。

心を読んで、人の悪意や善意を感じた。夢を見ることはあるが、その世界は美しい。嫌な悪夢もあるが、心を読んでも葛藤している人はいなかったからだ。

だからここはどこか別の世界。もしかしたら私も昔はここにいた。そう、外の世界なのかもしれない。

 

「ええ、彼女というのはあくまで設定で本当の想いはないのです」

「本当にそうか?」

「はい?」

「本当にそうかと聞いている。だって想いがないならそんな悲しそうな顔はしないよ」

 

私はそんな顔をしていたのでしょうか。

鏡がないからわからない。

 

「恋する乙女は分かりやすいんだよ。男のことで直ぐに楽しくなったり悲しくなったりして表情にでる。素直にはなれないし我慢ばかりしてしまう。まぁ私は我慢しないけどな」

「そんな感じしますね」

 

私は思わず苦笑い。

 

「だから五月雨との関係を設定と自分でいって悲しい顔をしたっていうことはさとりは、恋しちゃったんだよ」

 

鯉?故意?………恋!?

顔が熱い、煙が出ている気がする。ってそれは勘違いです!

 

「わた、わたしがしょんにゃわけにゃいじゃないでしゅかー!」

「いや、それが答えだよ」

 

苦笑するナギを見てだんだん冷静になってきた。

でもこれが恋なわけが無い。だってしたこと無いし。なによりも五月雨さんは恩人でそれ以上でもない。それに会ってまだ半日。どうしてそんな時間で人を好きになれようか。

 

「さとり、会って間もないとかは禁止だぞ。恋っていうのはな、突然なんだ。出会って時間が経ってなくても意識してその人のことを考えて好きだなって思えば好きだし、そうでもないならそれで終了。もしかしたら発展することもあるしないこともある。私だってハヤテとの出会いは突然で、一瞬で恋に落ちた。理屈じゃないんだよ、自分の感情に嘘はつけない。例え自分の感情が揺れてもそれは屁理屈で自分が認めたくないだけなのだ。だから時間がどうとか出会いがどうとか関係ない。さとり、恋はいいぞ」

 

そう言われて、よく分からなくなってきた。確かにここまでくるのにいろいろあった。不安で仕方がなかった私を見つけて他人に優しくしてくれた彼。その理由は美しくなくて未練がましいような理由だったけど、私はそれでも構わなかった。

嬉しかったのだ。

理由がどうであれ、出会いがどうであれ、今の私が彼に自分のことを考えて思ってもらえて感情の面で想ってもらえて嬉しかった。そこに嘘はない。ナギに言われた屁理屈は認めたくないと言う気持ちの現れなのかもしれない。だって私が今までどうこうと否定し自己完結してきたのは屁理屈に他ならないから。

でも、そんな私でもわからなかったことが何故ナギにわかるのだ。

 

「どうしてナギはそんなことわかるんですか?」

「んー?」

 

ナギは背を向けながら頰を掻きながらも幸せそうに笑うのだ。

 

「だって、私がそうだから」

 

それが、その一言がどんな言葉や答えよりもすんなり受け入れれた。

 

 

 

「じゃあナギも執事さんが好きなんですね」

「ああ、大好きだ」

 

素直に言葉に出すナギを見て少し羨ましく思う。心の声がそのまま言葉になって出てくるので裏表のない素直な子だと思える。

この子はいい子だ。

 

「お互いに頑張ろう」

「えっと……はい」

 

そう言って固く握手を交わす。約束だぞ。とナギが微笑んでくれて私の心が暖かくなれた。

なんだか初めて身近にいる人を見つけた気がして握手は暖かく感じた。

 

私、古明地さとりは恋しているらしい。

ナギに言われて意識して恋がなんなのかわからないけど、恋してるんだなって思えます。五月雨さんのことを考えると、暖かくて嬉しい気持ちが現れる。それと同時に切ない気持ちも現れる。この気持ちが心地いい。悩んでるはずなのにこの悩みが幸せだ。これが恋なんだとナギは言っていて、恋は素晴らしいと語った。

確かに、素晴らしいと思う。今こうして考えているだけで明るい気持ちになれるから。

 

 

 

 

時刻は夜。月の光が天高く輝いて全てを照らす。

私たちは今、ヘリコプターなる空を飛ぶ鉄の塊に乗って三千院家より大きな豪邸にやってきています。中で様々なセレブが綺麗な格好に身を包み談笑しながらも食事をしてお酒を嗜み華麗に踊る。

 

私は場違いな気がして仕方がないが、意外なことにその姿はこの場所に溶け込んでいる。

 

「五月雨さん……。この服なんですか……。歩き辛いしそれにえっと……恥ずかしい……です……」

 

私はたくさんの人たちと同じようにドレスに身を包み大きな宝石のついたネックレスをつけていた。その全てが新鮮で困惑する。

常に頰には熱がありもじもじとしてしまった。

 

「よくお似合いだよ」

 

優しく微笑んで来た五月雨さん。意識するようになってかそれだけで嬉しくて恥ずかしい。

遠くを見ると面倒くさそうにするナギの姿が見えるだけで、やはり五月雨さんの近くにいなければ迷子になりそうだ。スーツの裾をチョコンと持って赤くなった顔を見られないために顔を俯かせた。

 

それからは五月雨さんに挨拶をしてくるお偉いさん方に挨拶をし返して食事に舌を打つ。美味しい。赤いワインと言うお酒も悪くない。

挨拶してきた人たちは揃って私を五月雨さんの彼女だと言って盛り上がり私を見に来る輩まで現れてしまった。挨拶が続くせいで食事もまるで出来なく困っていると、五月雨さんは手を握ってくれて出ようか?と言う。

 

頷くと隣の受付までやってきて人が少なくなったので安心した。

ホッとするさとりを見て五月雨さんは申し訳なさそうに苦笑する。

 

「すまないね。ここまで彼女だと言う話が広がるとは予想外だった。苦労をかけた」

「いえ、そんなことはないですよ」

「気分は大丈夫かい?」

 

やたら心配してくれる五月雨さん。嬉しくて大丈夫だと見栄をはるが実際はかなり苦しいものがあった。

視線が集まるとは感情が集まるということである。感情が集まるということは想いが集まると言うことである。その数々の感情に当てられて気分が悪いのだ。たくさんの言葉を聞いた。私のことを美しいと言う人もいればそうでもないと言う人。気品があると言う人もあれば素朴な女だと言う人もいた。下種なことを考える人もいたし品定めしてくる人もたくさん。全てが全て、言葉とは裏腹の気持ちが伝わった。気持ちが悪かった。視線が痛かった。苦しかった。

そうして顔色が悪くなったのを見て五月雨さんは気を使って出てきてくれたのかもしれない。

 

「本当に大丈夫かい?あれほどの人が集まったのだ、色んな感情が混ざり合って気持ちが悪くなったりは」

「本当に大丈夫ですよ………。待ってください、今五月雨さんはなんと言いましたか?」

「色んな感情が混ざり合って気持ちが悪くなったりは」

「………いつから気がついていたのですか」

 

気がつかれていた。私の能力が。気味が悪いと、忌々しいと言われ続け、それが嫌で地底へ逃げ込んだ理由ともなったこの能力に気付かれていた。その事実が私の首を締めた。今にも苦しくて喘ぐような声が出そうになる。

それが情けなくて私はこの場から逃げ出すように走り去る。五月雨さんから声がかけられた気がするが耳がそれを聞きはしない。聞こえるのは自分の息遣いだけ。

そうしてどこまでも走り着いたのは中庭だった。大きな噴水が中央に鎮座し、その水面に月を写し蜃気楼のように揺らめく。そこまできて私はやっと一息して座り込んだ。

 

「なにやってるんだろう。私……」

 

冷静になって思えば五月雨さんには大変失礼なことをしたと思う。せっかく着させていただいたドレスも皴になってしまった。本当に最悪だ。

 

いつも、心を無意識ながらに読んでしまい傷ついた。だから彼の心の声が聞こえる前に逃げ出したのだ。私は。大概の出会った妖怪は私のことを最初から嫌悪するような態度をとるか、上辺だけいい顔をして心の中で罵詈雑言を吐くのだ。私はどちらにせよ傷ついた。だから心が読めない動物たちをペットにして地霊殿へ引きこもって生活をし続けたのだ。

 

嫌だった。

 

素直でも、建前でもどちらも私に嫌悪感を示す。私は覚り妖怪故にそれが本質。別に好きでこんな能力を得たわけではないし、使う訳でもない。だがそれは誰にもわかってもらえずに耳を塞ぐのだ。私たちは。それも全て自分を守るために。

その結果、妹のこいしは塞ぎ切ってしまい姿を消す能力を得てしまった。これはある意味皮肉だと思えた。私たち覚妖怪への嫌がらせ。辛いかと問われれば頷くだろう。

あたりまえだ。どうして普通に会話ができない。どうして外をのんびりと歩くことができない。誰にでも出来るようなあたりまえが私には禁じられてしまっているのだ。

だから、ナギとの約束は果たせそうにない。だって、あたりまえが出来ない私には『恋』というあたりまえの気持ちを抱くことができないのだ。そう思うと全てがどうでもよくなって空を空虚に見つめる。もう幻想郷に帰れるかどうかもどうでもいい。

 

そんな時だ。

彼はあの時のように現れる。

 

「いつまで座り込んでいるんだい。さて、お嬢さん。お手を拝借」

 

座り込んで空を見る私を塞ぐように手を伸ばしてくる彼。視界を塞ぐ彼の表情を見ると胸が痛い。まるで、私が騙していたような気さえしてしまうから。いや、騙していたのだろう、私は。この世界の者ではなく人間でもなく、妖怪である私が人間のフリをして過ごしていたのが間違いだったのかもしれない。

 

それでもずっと座り込んでいるのも埒があかない。

私は話すことに決めた。それで、この物語は終わり。これにて完結するのだ。妖怪の少女が不覚にも人間に恋をして叶わずに消えるお話。私は妖怪だと知られて悲しい訳じゃない。妖怪だと、心が読めることを黙って、秘密を抱えたまま都合の良い展開を望んでいた自分が嫌で罪悪感を勝手に持っているだけ。

 

「五月雨さん、聞いてくれますか。私が何者で誰なのか」

 

手を取り立って私は彼の瞳を見た。今だけは心を読みたくない。そう思える。

最初から私のことを深く言及せず、むしろ何にも知らないまま私を見てくれたこの人へ。

彼も黙って頷いてくれた。よかった。それだけで私は救われた気がして頰が緩む。ああただこれだけの事で喜んでしまっている自分がいる。だから嘘は止めよう。フィクションではない真実を話そう。

 

「信じられないような話かもしれないですけど、聞いてください。私はまず、人間ではありません」

 

二人で噴水の側にあるベンチに腰を掛けた。そこで私は少しずつ語り始める。

 

「ここからは遥か遠い幻想郷と呼ばれる忘れ去られた者が集まる世界に私は住んでました。そこには妖怪や神々がいてそれぞれ自由に生きていましたよ。全てを受け入れるのが幻想郷らしいです」

 

幻想郷がどんな場所なのか一通り話した頃、彼は苦笑するように言った。

 

「でもいいのかい?私のようなただの人間に最後の楽園の話をしてしまって。その幻想郷の管理者様とやらに怒られないかな」

 

確かにそうかもしれませんね。と笑う私。これは八雲紫に半殺しにされるかもしれない。

でも心を除く限り幻想郷を知ったところで彼にできる事はないと達観し、さして興味がなさそうだ。ありがたい。

 

「そしてここからが本題です。私はそんな自由な場所ですら居場所がなくて自分の家に引きこもりペットを愛でる生活をしていました」

 

今思うと。お燐やお空にこいしが居てくれていたけど、それでもどこか寂しかったのかもしれない。彼女たちは私の能力を知っていても一緒にいてくれる。だが日常に刺激のようなスパイスを求めていた私はこうなることを望んでいたのではないかという矛盾を心に産んだ。やはり、私は自分のことがわからない。

 

「それは私の正体が覚妖怪だから。心を読む程度の能力を持っている私の運命だった」

 

運命だとか宿命だとか。そう言った言葉は好きじゃないけどその言葉が合っていると自嘲。

いやはや苦労したものだ。この能力のせいで見られる周囲からの視線。どれだけ不快だったことか。

 

「不可思議、いえ不思議なものですね。こうしてこの世界にやってくるのは」

 

まるで台本があってそのまま演じてるようだ。不可思議と不思議の違いはわからないが言葉として伝えてみせる。

一通り語り終えて最後に感想を漏らした私は浮かぶ三日月が私のこの物語の終わりを告げているような気がした。これで全て終わりだと思うと惜しいと思えて仕方がない。ここでの体験は刺激だった。少しスパイスが効きすぎた気がしなくもないが。話し終えたらスッとした。やはり思ったことは口に出すべきなのだ。

 

私は全てを聞いた彼の顔を伺った。果たしてなんと思っただろうか、この話を聞いて。頭がおかしいと引いたか、相手にもしていないか。心の声が流れてくる、その瞬間に彼は言葉を紡ぐ。

 

「知っているか、不可思議とは不思議の略で意味は同じだそうだ」

 

それは意味もわからず使ってみた私への当てつけか。どうして今そう言ったのかわからず首を傾げる。

また心を読もうとして、またしても彼がそれを邪魔する。能力を知った上で、読まれて、自己完結されないように遮るように彼は意識しながら。

 

「それでも私は思うのさ。不可思議とはどう頑張っても実現できない事柄と。科学的にも、奇跡的にもそれは表現できない物語を不可思議と。だが不思議は違う。あくまで少し不思議なお話で、なんらかの力によって引き寄せられた物語。あるべきしてなった物語を不思議と。完全なる持論だけどね。だから、これは不思議なお話だよ。なに、世界は不思議で満ち満ちている。だから君とこうして出会ったのは夢でもなければ幻でもない。現実だ」

 

彼は言ってくれるのだ。私は幻ではないと。この時間は本物だったと。

その言葉だけで救われた気がして涙が出そうになる。胸が暖かい。

 

「そう言ってもらえるだけで嬉しいです」

 

本当に。自分がここまで人を恋しく思っていたとは。自分でも気づいていないことは多いようだ。

それを見て頷いた彼も話があるようだ。

 

「私も一ついいかい。信じられないような話だが」

 

私が聞いてもらったので、次は聞くばん。なんだかこうした時間も好ましく思えてきた。

彼がなんの話をしてくれるのだろうか。興味を持って耳をすます。するとなんとも私を騙すような話だったのだ。

 

「実はね、心を読む程度能力ってのは正直私からしたらあまり珍しくもない」

「・・・え?」

「無意識に勝手に私の心を除いて騙しているような気がして罪悪感抱いているようだが、私はそんなことで不快にはならないよ。昔、仕事の取引先でサイコ・マンティスと言う男と対峙したが彼も同じく心を覗くことが出来る能力を持っていてね。それにまんまと気づかず嵌められて自分の足場を不利にされたことがある」

 

それから語ったのはファンタジックな本や嘘みたいな話だった。

世界にはいろんな能力を持った人がいて、それはごく一部だが存在してそれぞれの能力を役立てているらしい。彼は仕事でそんな人たちとたくさん付き合ってきたからさとりの能力はさして珍しくなかっただとか。

 

私のこの気持ちはなんだったんでしょうね……。

 

「ふふ、あはは」

「おかしいかい?」

「ええ、とっても」

 

この世界は広かった。幻想郷よりも、地霊殿に眠る本の数々の中身よりずっと広かった。

冗談や嘘みたいな世界があって、様々な生き方があって、まるで私の悩みがちっぽけに見えるじゃないか。だが、不快じゃない。むしろ心地がいい。

 

「だから、君は自分の能力に悩まなくていい。確かに嫌だという奴もいるだろう、不快だと糾弾する者も多いだろう。だがそれは君が生まれ持った能力で、切っても離せないのならば、その能力を役立てて自分を認めてもらうんだ。そうすれば世界は広がる。ずっと見たこともない景色が見えるはずだ」

 

彼は私の腰に手を当てて立ち上がらせた。

私はなんとなくその意味がわかって苦笑した。でも嬉しかった。先ほどの言葉も含めて。

 

「せっかくのパーティだ、踊ろう。月夜の下でダンスもなかなか乙なものだろう」

「ふふ、私はダンスなんてできませんよ」

「いいさ、私が君を支えてやる。だから合わせてくれればそれだけでいい」

「ええ、お願いいたしますわ。私に……思い出をください」

 

二人は踊った。ぎこちなくも、美しくなくも踊る。洒落た曲はないし、シャンデリアもない。あるのは月の光と噴水の醸し出す小さな音楽。それに合わせるようにそよ風がハーモニーを生んで、それは一つの晩鐘。いつまでも続くような踊りにもいずれ終わりはやってくる。

 

「………どうだった?」

「悪くはない………ですね」

 

私は照れくさくも素直に笑う。

もうそろそろ十二時の鐘がなる。魔法は解け日を跨ごうとしているのだ。私はそれを感じて抱き合っていた場所から下り噴水の端に腰をかけた。おそらく、私はもうそろそろ帰るのだ。あの場所に。完全に直感だったけど、間違ってはいないのだろう。徐々に何かを置いてきたものが戻る感覚がある。この『少し不思議』な物語の幕が閉じるのだ。

 

「………また、会えますかね」

「きっと、会えるさ」

 

そう言ってくれるだけで幸せな気持ちが溢れた。これが惚れた弱みなのか、これだけで昇天するような気持ちだ。

 

「君との時間が本物だったと言う証を君に残させてくれ」

 

彼がそういうと後ろから私の手が握られた。

そして、薬指に美しい宝石の付いた指輪がはめられたのだ。

 

「これは……」

「もう一度会えるようにというおまじないさ。もし受け取れないと言うなら、それを持ってまた返しにきてくれ。私は待ち続けよう」

 

言葉を聞いて指輪を見つめた。うっとりとして指輪から視線をはずせない。

 

「返しにきますよ。必ず」

「ああ、だから今日君に買ったものは全て君の物だ。帰ってきたらまた全て纏めて返すとしよう」

「それは楽しみですね」

 

微笑んで喜ぶ。

私もずいぶんこの短時間で素直になったものだ。

 

「じゃあ、これでさよならだ」

「はい、また会いましょう」

 

背を見せて歩いていく彼。私はその背を見つめたい気持ちを抑えて月を見つめた。

あの三日月にお願いするように祈りを込めて。

 

「五月雨さん」

 

言葉で彼の動きを止めた。

だがこちらには振り返ってくれない。でもそれでいい。私はどうしても伝えたい言葉があるのだ。

 

「大好きですよ」

 

短くて、完結された言葉だ。この一言で今の私の気持ちが伝わるんだから凄い言葉。

 

「ああ、私も大好きだよ」

 

冗談のように笑いが含んだような声音だったが、不快にはならない。だって彼は嘘だらけなのだ。ずっと心を覗いてきてわかる彼の素顔。嘘で塗り固められた彼はきっと本当の姿も誰にも見せないのだろう。名前も、言葉も、言動も嘘で嘘しかない彼。そんな嘘に惚れて、真実を見て愛したいと思ったのは私の負けなのか、勝ちなのか。そんなどうでもいいことが頭に浮かんでは、萎んで消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………り様」

「………とり様!」

 

遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。懐かしくて、暖かくて、私を迎えてくれる声。ゆっくりと目を開けるとそこには見慣れた可愛い二人の姿。

 

「お燐、お空、ただいま」

 

さとり様!と胸に飛び込んでくる二人を抱きしめて彼女らの想いを受け取った。帰る場所があるのは嬉しいものだ。

 

「ねぇ、二人とも聞いてくれる?私のちょっとした冒険譚。少し不思議なお話を」

 

それから私が思った感情を、抱いた気持ちを彼女らに語ってしまうのだろう。誰かに聞いて欲しくて仕方がないのだ。もしこの場にいるならこいしにも届いているはず。一応、こいしも聞いてくれると嬉しいなと一言かけて、私は語りだす。

 

この物語を通して思うことがある。やはり私には完全なるファンタジーのような夢物語ではなく、本当のSFのような話でもなく、『少し不思議』なSFの方が好きであるという事。人よってはSF意味が違うかもしれない。私の思うSFが間違いなのかもしれない。それでもやはり私にとってのSFは

 

『少し不思議』に他ならないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれこれ惚気話聞かされただけじゃね?砂糖吐きそうなんだけど。ちょっとらーん!らーん!コーヒー持ってきて、ブラックで、今すぐ」

 

全部を語れと言われたので語ったのにこの扱いはなんだろうか。納得いかない。若干イラっとしたが八雲紫は御構い無しだと知っているので言わないでおく。

 

「そういえば、SFの意味間違ってたじゃないですか」

「ばっか、違うのよ?決して知らなかったとかじゃなくて、純粋なさとりちゃんにあえて嘘を教えて自分で気付いて成長してほしいなって言う賢者様の心遣いよ」

 

調子のいいことばかり語るものだ。

思わず「は?」と言いそうになったが押し黙る。すると、近くに隙間が現れて藍がコーヒーを片手にやってきた。それを紫に手渡したのを見送った。

 

「ちなみに、紫様は素で間違えて覚えていましたよ」

「ちょっ、藍!」

 

と言われても覚妖怪がそれに気づかない訳がないじゃないか。知っていたから黙ってあげたのにこの式は案外黒いかもしれない。

しばらく揉めたあと、ごほんと咳き込む紫を見て本題に入るのだと察した。

 

「それで、この異変の正体だけど。正直まったくわかってないわ。こちらで対策できない以上あの男に頼るしかない。そのことで不満はないわね」

「はい」「仕方がないのでは?」

「仕方がないって、藍も可能性はあるんだからね?」

「それは分かってますが」

 

夢送り異変。今回の異変を紫と私の中で決定された呼び方だ。その概要はこうだ。

まず。寝たあとに夢を見ることがある。その夢で完全に見知らぬ世界だったとしたら、それは外の世界だと思わなければならない。そして、午前六時に夢で見たその場所で目を覚める。外の世界に行った場合、自分の体は幻想郷から消え、夢の世界に送られるのではなく、文字通り『夢で見た世界』に送られる異変だという事。

午前十二時と共に姿は幻想郷へと戻ってきて、その時身につけていた物などはそのままだという事。これが全てだ。

 

その証拠にさとりの薬指には今でも指輪をはめており外す気配がない。彼女の中で宝物となってしまったのだろう。

 

「はぁ……難儀な異変ねぇ。はっきり言って面倒くさい」

 

ちなみに、今日紫が外の世界にいたのは本人がさとりと同じように夢の世界に送られてしまったのだ。だからこれが冗談だとか間違いじゃないと知ってしまった。彼女は隙間を使えるので直ぐに幻想郷へと戻ってきたのだが本人も信じられない気持ちだったのだ。

 

「藍」

「はい。射命丸文や姫海棠はたてにそれに、力のある妖怪や神たちにこの話を幻想郷全域に広めるようにしています。現在は幻想郷の住人の九割は内容を把握しています」

「流石、仕事が早いわね」

 

紫も一安心だと心を落ち着けた。

だがやることは多すぎる。恐らく外の世界に出たことで調子こくもの、好き勝手する者も少なくはないだろう。幻想郷の住人は力こそ全てで常識があるやつが少ないのだ。

だから能力を使って送られてしまった者の力や能力を制限しなければならないし、他にも取り掛からなければならない問題が多すぎるのだ。紫は「老けちゃう……」などと呟いていたが、それを聞いた藍とさとりは菩薩の様な表情をすると一言も話さず聞かなかったふりをしたそうだ。

 

さとりはひと段落した後、薬指の指輪を手でなぞって頰を赤くした姿が発見されたとお燐とお空が騒いでいたがこれは別のお話。

 

 




この物語って誰得なの?という人は多いはずです。
言いましょう、俺得です。完全に自己満足でして書いてて凄く楽しかったし満足してます。正直次回考えてないしよくね?と思えるほどです。
「もうゴールしてもいいよね?」早すぎるんだよなぁ……。

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