この素晴らしい世界に時魔法を! 作:クロノス
バックアップが残ってなかったらと思うとゾッとします笑
《緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者のみなさんは装備を整えて至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者のみなさんは装備を整えて至急冒険者ギルドに集まってください!》
冒険者ギルドに既にいた人々は緊急のアナウンスにも関わらず、大して焦っている様子は見受けられない。
むしろこの日に来たのが当たり前かのように『漸くか…』と言いながら既に待機していた受付のお姉さんの元へと歩いていく。
なんだかやる気に満ち溢れているようにも見えた。
緊急クエストと言うのだからRPGでよくある悪魔だとか魔族みたいな異常な敵が現れたのかと思ったがそういうわけではないようだ。
「そうかもうキャベツの時期か?」
「「キャベツ?」」
「キャベツとは緑で丸い野菜のことです。食べられるあれです」
ダクネスの納得したような言葉に俺とカズマは呆然としながら問いかけるとめぐみんは人差し指を立てて説明した。
若干そこに憐れみに似た何かが含まれているのは言うまでもない。
「日本育ちのカズマやソラは知らないと思うけど、この世界のキャベツ…」
アクアが何か続きを言おうとしたとき冒険者がある程度集まったのか、受付のお姉さんは手を2回叩き口を開く。
「みなさんお集まりいただきありがとうございます。もう多くの方が気づいてると思いますので説明は最小限にします。今年もキャベツ収穫の時期がやって来ました!」
(キャベツ…収穫…おい、まさか)
実は俺の中ではアクアが言おうとしたことはなんとなく予想がついていた。
ここが日本ではないこと…というよりも、この世界には魔物がいると考えたらこの考えに行き着くのは至極当たり前のことだ。
「今年のキャベツは出来が良く、1玉につき1万エリスとします!みなさん奮って捕まえてください!」
外から歓声に似た大きな声が挙がると冒険者たちは我先にとこぞって街へと繰り出していく。
俺たちも冒険者たちに続いて外に出ていくとそこには街中を駆け巡るように飛ぶ緑色の物体。
分かりきってはいたもののその正体は記憶の通りキャベツ。
ただ違うのは空を飛んでいることと、目がついていてちょっとばかりチャーミーになったくらいか。
「この世界のキャベツは飛ぶわ、収穫の時期が近づくと、食べられることを恐れるかのように…。そうして最後は誰も知らない場所でひっそりと息を引き取るの。そこでもったいないから美味しく食べてあげましょうってことで緊急クエストになってるのよ」
絶句するカズマにアクアはドヤ顔で説明すると『残さず捕まえて酒代ガッポガッポよ!』などと叫びながら浮遊するキャベツへと向かっていった。
それでいいのかと女神様という内心の言葉は隠しておくとして、俺の中ではそんなことよりも遥かに大きな問題が発生していた。
「…チャーミーだ…」
「おいソラ、若干可愛いとか思ってんだろ」
あのキャベツを一目見て、かわいいと思ってしまったのだ。
それと同時にペットにしたいという欲が湧き上がる。
しかし1玉で1万エリスという破格の買取値段を見過ごすわけにはいかない。
ジャイアントトード一頭5千エリスと考えてこの値段が破格だということは言うまでもないだろう。
お金を貯めることはこれからのためにも必要なことだ。
「お、おいソラ…?」
カズマが心配そうにこちらを覗き込む中、俺は必死に考えた。
お金は必要…しかし俺はあれをペットにしたい。
相手は魔物、しかもキャベツだ。
キャベツは無害だ。
決意が固まると俺はクラウチングスタートの姿勢をとって力を込めると地面を蹴って走り出した。
「…1匹必ずペットにしてやるッ!!」
「俺もう帰っていいかな…」
▼ ▼ ▼
「
フワフワと浮かぶキャベツを時魔法で停止させると手にしたショートソードですぐさま斬りつける。
斬り付けられて身動きが取れなくなったキャベツたちは俺の背中の籠の中に入っている重力の球に引きずられて収穫されていく。
今回は普段ではあり得ないほど時魔法を使用しているのだが、対象がキャベツだからなのか魔力の消費は全くといっていいほどない。
やはり、この時魔法の効力は相手の魔力や体格などに左右されるのだろう。
チラリとあたりを見回してみると剣を振り回しても振り回してもキャベツに当たらないダクネス。
どことなく現れてはスティールを使ってキャベツを収穫していくカズマ。
帰りたいとぼやいていたカズマだったが、やはり1玉1万エリスという誘惑には勝てなかったのだろう。
多くの人がキャベツを収穫する中、めぐみんが丘の上で魔力を高めているのを偶然にも見つけてしまった。
(人がいないとろこを狙っているとして座標を決めるとしたら…)
めぐみんが狙っているであろう場所を見て固まる。
(今からじゃとても間に合わない!? いや、だけど魔力の流れは感知できてる。止めてみせる!!)
当然
俺の持てる全ての魔力を注ぎ込んで時魔法を使わなければならないことは目にみえていた。
左腕を前に突き出して全ての魔力を込めて叫ぶ。
「
俺の青白い魔力が時計の形となり、同じく青白い針が目まぐるしく回転する。
時計の針が高速で回転する音が聞こえた直後、めぐみんの周りに溢れ出ていた青黒い魔力が動きを止める。
「ひゃっ!?」
突然魔力を込めることができなくなっためぐみんは違和感を覚えて尻餅をつく。
収束されていたが行き場を失くした魔力は綺麗に霧散した。
なんとか止めることに成功したものの、
それどころか明らかに魔力不足に陥ってしまい、まるでゾンビのようにめぐみんの脚へとしがみつく。
「な、なにをするんですかソラ…ひぃっ!?」
「よく見ろ。あれは…」
「レタスだ」
▼ ▼ ▼
「いや〜、よかったなレッダ燃やされなくて」
『キュー』
緊急クエスト終了後、ギルドに戻りさっそく料理されたキャベツを食べながら俺の膝の上で大人しくしているレタス…もとい、レッダの頭を撫でる。
(レタスに頭…あったっけ?)
まあレタスの細かいことは置いておくとして、めぐみんの爆裂魔法を止めた後、俺はパタリと気絶してしまった。
次に目を覚ますとそこは病室で俺のベッドの上にはここにいるレッダが鎮座していた。
愛くるしい瞳でこちらを見ていたのはなんともいい思い出だ。
アクアとめぐみんはレッダを狩ろうとしていたのだが、レタスは200エリスしかしないということがわかって放置したらしい。
まったく現金なやつらである。
「何故キャベツ炒めがこんなに美味いんだ?何故レタスがペットとして成立している?納得いかねぇ…納得いかねぇよ…」
今はあちこちでキャベツ祭りとなっており、どこにいってもキャベツ料理が出てくることだろう。
多分家に帰ったらウィズもキャベツ料理を作って待ってるんだろう。
「…ソラ、私の爆裂魔法を邪魔したんですから埋め合わせしてくださいね!」
「あぁ、わかってるよ。今回相当な報酬が入る予定だから3分の1は分けてあげる」
「半分の間違いでは?」
「お前、レタスの群れに爆裂魔法撃とうとしてたんだぞ? 報酬出ても5千エリスくらいじゃないか? 3分の1っていっても倍はあるぞ」
「うぐっ!?」
めぐみんが爆裂魔法を放とうとしていた場所に群がっていたのはキャベツではなくレタスの群れだった。
なぜレタスが混ざっているのかは甚だ疑問であるが、こうしてレッダをペットにできたことを考えるとどうでもいいことだ。
「それにしてもソラの魔法は凄かったな。まさか爆裂魔法の魔力ごと止めるとは恐れ入った」
「私も
やっぱアクアは何か知ってるようだ。
これは後でねっちょり話を聞くしかない。
「いや、ダクネスは色々と問題がありそうだけど守りに関しては言うことなしだと思うぞ」
「そ、そうだろうか!」
(ただしM体質はどうにかして欲しいものだが)
ダクネスはキャベツに向かって駆け出していき剣を振るっていたのだが、攻撃はまったく当たらずキャベツに体当たりを繰り返されていた。
だが、それはダクネスにとっては御褒美のようなものだったようで体当たりの度に頬を紅潮させていた。
手遅れかもしれないと思いながらもその光景を見るのは結構くるものがあった。
「改めて自己紹介させてくれ。職業はクルセイダー。先ほどのキャベツ戦を見ての通り、前衛としての攻撃は皆無だが防御には自信がある。むしろ大得意だ。よろしく頼む」
カズマが途方に暮れている姿を見ながら肩を叩く。
満足そうな表情のアクアにまた房ニ発言をし始めためぐみん。
そして新しく入ったドM体質のダクネス。
問題は山積みでアンバランス過ぎる謎編成のパーティーではあるがやっぱりここは退屈しなさそうだ。