この素晴らしい世界に時魔法を! 作:クロノス
前回でお気に入りが100を突破致しました!
それにしても中々ストーリーが進まない笑
「へぇ…面白い魔法を使うんだね君」
会話に介入してきたのは革の鎧というなんとも軽装な装備をした銀髪の少女だった。
頬には傷がついていて、今までみた中で一番冒険者らしいと言えるかもしれない。
「君がダクネスが入りたがってるパーティーのリーダーさんかな?」
「いや、リーダーは俺じゃなくてこいつだ」
「なるほど君か〜! みたところスキルを習得したいのかな?なら、盗賊スキルなんてどう?」
カズマを指差すと銀髪の少女の興味は俺からカズマへと変わった。
最初こそ値踏みをするかのように見つめていたが納得したように頷くと明るく話しかけた。
ダクネスと呼ばれたのは銀髪の少女の隣に立っている女性のことだろう。
身長は俺とあまり変わらないことから170cmくらいだろうか。
銀髪の少女とは違いがっちりとした鎧に身を包んでいることと偏見を合わせると騎士だと推測できる。
鋭い目はクールな印象を俺に与えた。
金髪碧眼とはまさにこの人のことに相応しい。
「盗賊スキル?」
女騎士を見た途端にぎこちない動きに変わったカズマだったが、盗賊スキルには興味を示した。
カズマのことだから『冒険者っぽくてかっこいい!?』とか頭の中で考えているんだろう。
「今ならシュワシュワ一杯で初期スキルを教えてあげてる」
「よし、乗った!」
シュワシュワ一杯。
エリス硬貨で例えると300エリスと言ったところだ。
これでスキルを教えてもらえるのなら安いものだ。
盗賊の少女はクエストに行った後だったのか、キンキンに冷えたシュワシュワを豪快に飲み干すとカズマを連れて外に出ていった。
俺たちはというと冒険者ではないためカズマについて行かずに待つことにした。
めぐみんから言わせると『爆裂魔法以外には興味ないので』らしい。
「ところでアクア、お前ってなんか特別なスキルってないの? 女神なんだし」
「まあ、スキルじゃないけど眷属に語りかけるくらいはできるわよ」
「なるほど、めぐみんは……聞くまでもないな」
「ちょっとソラ、なぜ私をスルーするのですか?私にも聞いてください」
「だって爆裂…」
「聞いてください!」
「めぐみんはどんなスキルを習得してるんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! 我が名はめぐみん! 紅魔族最強の魔法使いにして爆裂魔法を操る…」
カズマはアクアを駄目神と言い張っているし俺も前回のクエストを見てそう思った。
だが女神である以上、俺たちではできないことができるはずだ。
アクアは水の女神なのだから眷属は水の精霊と考えるのが妥当だ。
ならばアクアは水の精霊さんに語りかけて自由に水を操ることができるはず。
「まあ、そこはおいとくとして見なさい! カズマは行っちゃったから見せられないけどこれが私のスキルよ!」
なぜか勝手にやる気になっているアクアは水のコップを自分の頭の上に乗せると謎の種を用意する。
これだけで既にネタスキルであることは容易に想像がつく。
「アクア、これって戦闘用のスキルか?」
「そんなわけないじゃない宴会スキルよ」
「ん?」
「だから、宴会スキルよ!」
『知らないなんて馬鹿じゃないの』と吐き捨てるように言うといつの間にかコップに入っていた種を指差す。
するとなんということだろうか。
ただ水に浸かっただけだというのに謎の種がみるみる芽吹いていくではないか。
確かに摩訶不思議で面白いとは思うが戦闘で使えるスキルではない。
「す、すげえ!花鳥風月だ!」
「この街に花鳥風月を使えるやつがいるなんて!?」
「おいあのアークプリーストの姉ちゃんだ!」
「アークプリーストで宴会スキル習得してるなんてなんて物好きだ!?」
宴会スキルのなにが凄かったのか、花鳥風月を見た冒険者たちがアクアを取り囲む。
アクアはあっという間に周りを囲まれることに驚き戸惑っている様子だが、満更でもないようにも見える。
人集りはどんどんと増えていき、気がついた時には今の俺の場所では近づけないほどに人が集まっていた。
「おいソラなんだこれは?」
そこへまるで棒読みのカズマが合流するとアクアを遠い目で見つめていた。
先ほど一緒に出て行ったはずの盗賊の少女は赤面してカズマの後ろにいる。
「話はカズマが出て行ったところまで遡るんだが…」
明らかにスキル習得ではならないその表情に顔をしかめたものの、一通りの説明を済ませる。
カズマは宴会スキルという娯楽スキルに思わず頭を抱えるとしばらく空気になっていためぐみんの肩に手を乗せた。
「お前は変なスキルはなにもないよな!?」
「言ったじゃないですか、私は爆裂魔法した愛せないって」
「はぅぁぁぁぁッ…」
小首を傾げてさも当たり前のようにそう言っためぐみんは果たして悪意がなかったのだろうか。
天然かつ一つの事実ではあったものの、その一言は今のカズマを地に落とすには十分な威力があったに違いない。
「姉ちゃんもう一度やってくれよ!」
「お捻りだ! みんな金を積むんだ!
「能ある鷹は爪を隠すものよ。芸とは言ってもそう何度も見せびらかすものではないの。ようやく戻ってきたわねカズマ…その子なんで赤面してるの?」
お祭り騒ぎのような状況に流石のアクアも面倒くさくなったのか、カズマを視界に捉えると逃げるように人集りを押しのけてくる。
ようやく人集りから脱出したアクアはカズマの後ろにいる盗賊の少女
を一目見るとジト目でカズマを睨む。
「それ俺も凄い気になってた。スキル習得だけでそんな恥ずかしそうな顔しないだろ。あれか、エロエロなスキルだったのか?」
「クリスが恥ずかしがっているのは公衆の目の前で奪い取られたパンツを振り回され、返して欲しければ有り金よこせと脅されたからだろう」
「ちょっと待て金はともかくパンツを盗んだのは事故だろ!?」
「金は取ったんかい」
女騎士の言葉にギルドのみんながカズマを見つめる。
クリスと呼ばれたのは盗賊の少女で間違いない。
パンツを奪ったというのがどうにも腑に落ちないが、盗賊のスキルというあたり奪うスキルがあってもおかしくはない。
女性からは蔑みの視線。
男性からは蔑みと羨望の両方の視線。
どちらにせよ悪い意味で注目されていることに間違いはない。
「公の場でパンツ盗られて振り回されても先に勝負を仕掛けたのは私だもんね。自業自得ってやつだよね…よし、私お金稼いでくる!」
『ダクネスは適当に遊んでて!』と言うとクリスはクエスト受付の掲示板に走って行ってしまった。
残ったのは二種類の視線を浴びせられるカズマと無表情で佇むダクネスとあう女騎士。
そういえばカズマがダクネスと会ってからずっとソワソワしているような気がする。
「カズマがパンツ泥棒なのはわかりましたが、スキルは習得できたんですか?」
「パンツ泥棒ね」
「パンツ泥棒だな」
「パンツ泥棒はやめろ。まあ、見せた方が速いか」
俺たちの言葉が胸に突き刺さったカズマは右手を前に突き出す。
「行くぜ! スティール!!」
呪文を唱えて叫ぶと突き出した右手に魔力が高まっていくのがわかる。青白い粒子がカズマの手に集まっていき、やがて収まると右拳を開く。
そこにあったものは白い布…紛うことなきパンツだった。
「…冒険者ってレベルが上がって盗賊スキルを教えてもらうと変態にジョブチェンジできるんですか? …パンツ返してください」
「パンツ泥棒ね」
「パンツ泥棒だな」
「スティールってランダムで対象の何かを奪い取るはずなんだけど!?」
慌ててパンツをめぐみんに返すとめぐみんは更衣室に向かって走って去って行った。
周りの冒険者は相変わらずカズマをジト目で見ているが、心なしか先ほどよりも蔑んだ目をしているような気がする。
そんな中、ダクネスはまるでこの光景を待ち望んでいたかのように輝いた瞳でカズマを見つめていた。
尊敬するような視線を浴びているカズマ本人はそれに気づいているのかダクネスと目を合わせようとしない。
「やはり私の目に狂いはなかった! この鬼畜の所業、是非私にも…んんっ! 是非とも私をこのパーティーに入れて欲しい!」
「却下だ」
「あぁッ…!?」
カズマが即答すると同時に身体をくねらせ頬を赤らめる。
俺の知る限り、それは前世で呼ばれていたドSの対となるドMの反応に他ならなかった。
「おいカズマなんだこいつは」
「昨日パーティーに入りたいって言ってきた騎士なんだが、俺はこいつにアクアとめぐみんに似た何かを感じている」
「激しく同意だ。この女騎士、何かがおかしい」
こうして通常の状態のダクネスを見ている分にはなにも問題はない。
むしろ普通に綺麗な女性だと思うし、強そうだとすら思える。
たが、先ほどの反応は明らかにおかしい。
アクアも先ほどの様子に若干引いていたものの、ダクネスから冒険者カードを受け取ると表情を一変させて唾を飛ばすように口を開いた。
「カ、カズマ、この人クルセイダーよ!?断る理由はないんじゃない、むしろウェルカムなんじゃない!?」
「クルセイダーなんて上級職の中でも攻防一体の非常にバランスのいい職業ですよ! それに私、この人と波長が合う気がします」
戻って来ためぐみんもアクアの背後から覗き込むように見ると同じように表情を変えた。
「「まずい、
俺とカズマは言葉を交わさずにアイコンタクトをして頷くとダクネスに向き直る。
俺たちが誠心誠意を込めて体調に断ろうとしたときだった。
《緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者のみなさんは装備を整えて冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します…》
どうやらダクネスとお話する前に面倒なことになったようだった。