この素晴らしい世界に時魔法を!   作:クロノス

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紅魔族登場

ようやくカズマが立ち直ってから数十分が過ぎた。

相変わらず『このパーティー』に入れてくださいという物好きな上級職は来ない。

そもそものところ、この街は駆け出し冒険者が集まるのだから上級職を引き込もうという時点でまず無理があるのだ。

 

「…ハードル下げようぜ。流石に上級職のみ募集ってのは無理だろ」

 

「だってそれじゃ魔王討伐できないじゃない」

 

「ここどこ!? 駆け出し冒険者の街ですけど!? I am 最弱職!?」

 

「これだからヒキニートは困るのよ。一応時魔法師(クロノス)が集まったじゃない」

 

「ヒキニートはやめろ駄目神」

 

俺が時魔法師(クロノス)ってことで持ち上げてくれるのは嬉しいことなんだが、ぶっちゃけ言うとこの職業のどこがチートなのかわからない。

まず、魔法の使い方すらいまいち理解せずに自己流でどうにかしているのだから戦力として数えるのはおかしい。

 

というか魔王討伐するのはやめてほしい。

 

(めんどくさい、疲れる。魔王討伐なにそれ無理ゲー)

 

内心で早速諦めつつ、俺は2人の不毛な争いに終止符を打つべくして口を開く。

 

「まあカズマがヒキニートでアクアが駄目神なのは良しとして、カズマの言う通りハードルは下がるべきだと思うぞ」

 

「「いや、良くないから」」

 

綺麗に2人の声が重なって視線が俺に向いた時だった。

 

「上級職の冒険者募集を見て来たのですがここでいいのでしょうか?」

 

振り向くとそこには子どもがいた。

 

やる気が無さそうななにを考えているのかわからない赤い瞳。しかし片目は怪我をしているのか眼帯をしている。

この世界では意外と珍しい黒髪は肩にギリギリ届くほどの長さだ。

真っ黒なローブにブーツ、トンガリ帽子を被ったその姿はどこにでもありそうなRPGに出てくる魔法使いを連想させる。

その予想はあっているようでやはり手には杖を持っている。

 

年齢からして13歳くらいだと思われる少女は一度こちらに背中を向けると突然振り向きマントを翻し口を開いた。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

 

しん…と場が静まり返る。

別に驚いたとか、そんなことではない。

 

これはそう…ただ単に全員の思考が停止しただけだ。

 

恐らく今全員がどういう対応をすればいいのか頭を拘束に回転させて考えているはずだ。

 

そうして導き出された回答が…。

 

「…冷やかしに来たのか?」

 

「カズマ、子どもの戯れだ。アクア、遊んでやれ」

 

「なんで私!? めんどくさそうだからソラ、アンタやりなさいよ!」

 

「やだよ、めんどくさいもん」

 

これである。

 

「ちょ、わた…」

 

「大丈夫だ。夢見る年頃なんだろ。さぁ、お家に帰ってこのカズマを見習って漫画読んでこい」

 

「おい遠回しに俺をオタクみたいに言うんじゃない」

 

「違うのか?」

 

「カズマにはよくお似合いじゃない」

 

「は、話を聞けぇぇぇぇぇっ!!!」

 

▼ ▼ ▼

 

「まさか話を聞いてもらうのにここまで時間がかかるとは…」

 

めぐみん(笑)が俺たちに話を聞かせるのにたっぷりと時間を要したところでカズマの『まあ、話を聞こう』という一言で席に着くこととなった。

その際に『3日もなにも食べてないのです…』とお腹を鳴らしたので飯を奢ったり、眼帯がお洒落だと聞いてカズマがキレかけたのは良い思い出だろう。

一応お腹を満たしためぐみん(笑)は呆れたような疲れたような溜め息を吐いてフォークを置いた。

 

「…今更だけどあなた紅魔族よね?」

 

「いかにも!」

 

「「あ、もちなおした」」

 

「我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 爆裂魔法を操る爆裂道を歩みし者…ということで優秀な魔法使いなので入れてください、お願いします」

 

先ほどが自分を妙に売り込んでいるこのめぐみん(笑)なのだが、紅魔族という種族が俺にはよくわからない。

魔族とついているのだからやはり魔王軍に関わっていたりするのだろうか。

しかしそうならば、冒険者をする意味がわからない。

 

冒険者だと考えると魔王などとは無関係のやはり人間なのだろうか。

 

「わかりやすくカズマとソラに説明すると、生まれつき知力と高い魔力を持っていて大抵が魔法使いのエキスパートってところかしら。あとは特徴的な赤い瞳と変な名前ね」

 

「変とは失礼な。私からすればあなたたちの名前の方が変だと思うのですが…」

 

「…とまあ、本人たちは自身の名前をかっこいいと思ってるわ」

 

「「残念な種族だな」」

 

「哀れむような視線を向けないでください」

 

俺たちの視線の意図を感じ取ったのか、めぐみんは若干瞳を鋭くして俺とカズマを交互に捉えた。

なるほど、これでこのめぐみんという名前が俗に言うキラキラネームというやつだというのはわかった。

 

ここで気になるのがその名付け親の名前だ。

 

一体めぐみんの両親はどんな名前の親から名付けられたのか。

 

「ちなみに両親の名前は?」

 

「母はゆいゆい。父はひょいざぶろー」

 

「「「……」」」

 

俺の中でめぐみん(笑)がめぐみんへと変わったわけだが世も末だと思った時でもあった。

それからいろいろと残念なこのめぐみんの冒険者カードを拝見し、上級職のアークウィザードだということがわかったことでパーティーに加えることとなった。

アクアから爆裂魔法を使えることがどれほど凄いことなのかを聞いたことも大きな要因となった。

パーティーメンバーが揃ったところでいつもの見慣れた高原へと移動した。

 

俺は先日に済ませたカエルのクエストである。

 

カズマとアクアは昨日の一件で諦めたのではなく、戦力を増やして再び挑戦するつもりだったらしい。

 

まさに満を辞してというやつだ。

 

「爆裂魔法は最強の魔法。威力は絶大ですが、準備に時間がかかります。ですからみなさんは足止めをお願いします」

 

めぐみんが魔法使いらしく詠唱に入ったのを見て俺とアクアはカエルに向かって駆け出す。

なぜアクアまでも駆け出したのかはさっぱりわからないが、俺は俺の役目を果たすべくカエルを視界に捉える。

 

「足止めなら俺に任せろ、 停止(ストップ)!」

 

魔力を代償として唱えられた魔法は目に見えぬ束縛となってカエルの時間をきっぱりと停止させた。

俺が魔力を使っている間は何ら問題なく時間を止めていることができる。

 

これで十分時間稼ぎになるだろう。

 

チラリとアクアが駆け出していった方行を見てみれば、すでにアクアの姿はなかった。

あることにはあったのだが、カエルの口の端から僅かに足が飛び出している状態だった。

 

毎度のことながら、中々にショッキングな絵柄だ。

 

食べられないうちにまた援護に向かうべきかと考えたとき、俺はめぐみんから尋常じゃない魔力の流れを感じ取った。

俺の感覚が『これだけは食らってはいけない』と告げている。

恐らくめぐみんが爆裂魔法を使おうとしているのだろう。

どれほどの規模の魔法なのか知らないが、強大であることは変わらない。

 

「短かったなアクア…南無三…」

 

アクアに今世の別れを告げると頭上から僅かに見えてきた赤い魔法陣を目視すると直ぐに転移(ワープ)を唱えカズマのところへと移動する。

 

カズマのもとへと一瞬で移動した直後に起こる爆発と俺たちに襲いかかるように吹き荒れる余熱の風。

思わず腕で身体を守るようにして防ぎ、目を開くと高原には巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

「これが魔法かぁ〜」

 

感動したような声をあげるカズマ。

アクアは相変わらず捕食された状態から抜け出せていないようだ。

 

(消し飛んだカエルって売れないから儲けから減るんじゃ…)

 

「よしめぐみん! 次はあのカエルを…は?」

 

カズマの間抜けな声を聞いて俺も足だけのアクアから目を離してそこにいるであろうめぐみんを見ようとして固まった。

丘に立っていたはずのめぐみんは杖とトンガリ帽子を手放し倒れて状態で丘から落ちていた。

 

完全な魔力切れである。

 

ウィズから聞いた話だが魔力がなくなってくると体力を奪われ、最後には全く動けなくなるという。

今のめぐみんがその状態に違いない。

 

「最強魔法である爆裂魔法…それには尋常ではない魔力を要します。私が持っている全ての魔力を代償として放つのです。つまり私は魔力を完全に切らして身動き一つ取れません。あぁ、こんな近くにカエルが湧くなんて予想外です…すみませんが助けぶ」

 

本当に身動きが取れなかっためぐみんは自分が行った行為を事細かに説明すると今の爆裂魔法で地中から目覚めたカエルに捕食され、アクアと同じような見た目へと変貌した。

 

「「……」」

 

無言で顔を見合わせる。

恐らく俺とカズマは同じことを思ったに違いない。

 

『あぁ、こいつら使えねぇ…』と。

 

「とにかくあいつらを助けるぞ! カズマはアクアを頼む!丁度動きも止まってんだやれるだろ?」

 

「任せとけ、そっちもロリッ子任せたぞ」

 

カズマがショートソードを構えて突撃していったのを確認する。

俺はロリッコもといめぐみんのもとへと空間魔法で瞬間移動するとカズマと同じく手にしたショートソードでジャイアントトードを斬りつける。

ジャイアントトードは確かに打撃に弱い。

しかし斬撃に対してはとことん弱い傾向にある。

 

俺のショートソードはまるで高級肉を切るかのようにジャイアントトードの皮膚を容易に斬り裂いた。

もちろん狙った部分は膨よかな腹だ。

めぐみんの身長からしてジャイアントトードに食われそうなこの状況ではギリギリ腹部までは到達していないと考えた。

食道あたりで耐えているに違いないと判断した。

 

「ヌルヌル〜…」

 

気が引けるものの、倒したジャイアントトードからめぐみんの足を引っ張ってみると中から粘液まみれのめぐみんが現れた。

 

(生臭ッ!?)

 

思わず鼻を手で摘んでしまうほどの悪臭。

 

「そっちも終わったか」

 

「カジュマぁぁぁ、ありがと、ありがどねぇ〜」

 

同じように粘液まみれのアクアがカズマに抱きついているのを見て苦笑いを浮かべる。

確かにアクアは女神で見た目は綺麗でかわいいとは思うが、あの状態で抱きつかれたいかと問われれば答えはNOだ。

 

めぐみんに対しても同じだ。

 

兎にも角にもこれでジャイアントトード3体を倒したことで先日カズマとアクアが倒した2体を合わせて今回のクエストは終了。

 

無事に成功だ。

 

帰り道にカズマとカズマに背負われためぐみんとの間で些細な争いがあったが、それは置いておくとしよう。

 


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