この素晴らしい世界に時魔法を! 作:クロノス
アクアが風呂に入っている間にカズマと熱い友情を交わした俺はジュースを一杯だけ頼ませてもらってそのままウィズの店へと帰ってきた。
カズマはジュース一杯しか飲まないことに不満気な様子だったがお金がないことは確かなようで引き下がってくれた。
これからも何かと仲良くはするつもりだが、まさかカズマが
アクアは女神様だが、攻撃魔法は一切使えず、支援魔法や回復魔法ばかりらしい。
結果として戦闘では常に後方支援ということで役に立たないらしい。
これからカズマが強くなって攻撃力や敏捷が上がっていけばアクアも貴重な戦力として数えられるとは思うが、俺たちのような駆け出しには意味をなさないのかもしれない。
「ただいまウィズ」
「おかえりなさいソラさん」
毎度ウィズの店へと足を踏み入れるとこうして笑顔で迎えてくれる。
「ありがたいけどいいのか? 泊めてもらっちゃって」
「も〜何回聞くんですかぁ〜? いいんです。二階は空いてますし、私一人じゃ大きいんですよ」
「ありがたく泊まらせてもらうけど、なにか手伝うことあったら遠慮しないで言ってよ。ただで泊まらせてもらうのはなんか悪いから」
この世界にやってきた日、寝床が確保できなかった俺は外出していたウィズとばったり出くわしウィズの店へと居候することになった。
もちろん、最初は断ったものの有無を言わさない剣幕で引きずられ居候という形で落ち着いてしまった。
幾ら何でも悪いということでなにか手伝いをしようにしても店のことはさっぱりわからないし冒険者としても駆け出しな俺には恩返しすることすらままならない。
(こういうのを甲斐性なしって言うんだろうなぁ…)
今の自分の状況に嘆きつつ、ウィズから与えられた部屋にベッドの上で座禅を組む。
用意するのは日本のものよりも一回り大きな砂時計。
「
逆さにした砂時計に向かって魔力を流し続け、砂時計の動きを止める。
この魔法を使っている間に別の魔法を使えることは今日のジャイアントトードの狩りからもわかるだろうが、実は難点がある。
この時間魔法というものは止めている間、対象に向かって魔力が流れ続けている状態なのだ。
その状態でさらに魔法を行使するとなると問題は魔力量だ。
今はジャイアントトードのような群れをなさないモンスターだからいいものの、群れで襲われたら溜まったものじゃない。
魔力切れで自爆するのがオチだろう。
だからこうして中でも出来る訓練を考えてみた。
「
停止魔法によって動きを止めた砂時計に対して重力魔法をかけて強引に引きずり落とそうとする。
どちらも俺の魔力によって使用されているため、匙加減によって砂は落ちたり止まったりを繰り返す。
停止魔法は自分よりも強い魔力に対しては効力を持たない。
せいぜい動きを遅くする程度が関の山だ。
今回は魔力の量を調節できるようにするのが目的だ。
「鍛錬もいいですけど、まずはお風呂に入って休んでください」
呆れたような視線を向けてドアから顔をのぞかせたウィズ。
時計を見てみれば時刻はすでに20時を回っていた。
どうやら結構な時間熱中していたらしい。
ちょうど魔力も底をつきかけていたため二つの魔法を解いて大きく伸びをして促されるまま風呂に入り、その日は就寝した。
▼ ▼ ▼
翌日、ジャイアントトードをさらに討伐すると魔力の量は随分と増えた。
レベルも1の頃と比べると随分と増えた。
それでも1回のレベルアップで爆発的に増えているわけではないあたり、努力が足りないのだろう。
今日で5体のジャイアントトードを狩り終えたわけだが、魔力量が上がったせいでまだまだ魔法を行使することができそうだ。
慢心は事故の原因ではあるが、ジャイアントトードを数匹倒すくらいになら問題はないだろう。
それに新しく覚えたスキルを使って見たいという気持ちもある。
ジャイアントトードにめがけていつも通り停止魔法をかけると今度は手にした剣を構えて次の魔法を唱える。
「
とうとう俺は空間系の魔法を覚えることができた。
この魔法は自分が思った位置に自身を転移させることが可能だ。
難点は移動距離が遠すぎると使用できないことと自身以外を飛ばすことができないことだが、それはレベルアップで補えるのでなんとかなるだろう。
剣で数回斬りつけてもう一度空間魔法を唱えて別の場所から斬りつける。
止まっている間に与えたダメージは、対象が動き始めたときに自覚される。
「
ジャイアントトードは突如として訪れたダメージに目を白黒させながら身体をバラバラにした。
それにこの空間魔法を使うことでわざわざ移動する手間を省くことができる。
「随分と様になってきた気がする」
ガッツポーズをしてギルドへと戻り、クエスト完了の報告を済ませて先ほど狩ったジャイアントトード3体の換金を済ませる。
今回の報酬と換金で合わせて14万エリスを貰い、明日のクエストのことを考えて掲示板を見てみる。
何枚か良さそうなクエストをピックアップしていく中で依頼クエストとは別に奇妙な紙を見つけた。
上級職求む!!
アークプリーストがいるアットホームなパーティーです!
このパーティーに入っていいことばかり、宝くじも当たりました!
イケメンの冒険者と出会うことが出来て毎日ハッピーです!
こんなパーティーあなたも入ってみませんか!?
「胡散臭ッ!?」
上級職に値するアークプリーストは確かに貴重な戦力になるが、自ら攻撃することができないのが難点だ。
そのことはカズマから十分に聞いた。
アークプリーストのみならず、プリーストも攻撃の手段を持ち合わせていない。
だからこそ相棒となる相方、パーティが必要になるのだ。
しかしこの募集張り紙はいくらなんでも胡散臭すぎる。
このパーティに入って運が上がるというセリフは一体どうなのだろう。
さらに言えば現在この街にいるアークプリーストはアクアただ一人。
このパーティは必然的にカズマのパーティだと言っているようなものだ。
「まあ、前回の惨状を見れば募集をとるのはいいが…」
酒場の端っこにあるテーブルを見てみれば、そこにはカズマとアクアらしき人物が突っ伏している。
あの体勢からしてまだ一人も来ていないのだろう。
溜め息を吐いてからカズマの方へと近づき突っ伏して肩を叩く。
ゆっくりと振り向いたカズマに俺は満面の笑みでこう言った。
「パーティ、入りたいんだが」
▼ ▼ ▼
先日に二人とは既に見知った中だった俺は歓迎ムードで迎えられた。
上級職のみを焦点に当てた募集だったため、職業を最初に聞いてくるのかと思ったらそんなことはなかった。
それほどまでにパーティーメンバーが集まらずに途方にくれていたらしい。
軽い自己紹介を済ませると談笑をしながらもう少し待ってみることにした。
「…で、そう言えばあなたってなんの職業就いてるのよ?」
「
思い出したように口を開いたアクアに自分の職業を言うとテーブルに身を乗り出して顔を至近距離も近づけた。
「
「そう言えばミカエラさんもそんなこと言ってたな」
魂がどうのこうのとか言っていたが、要は誰にでもなれるものじゃないということなのだろうか。
それにしたって世界に一人しかいないというのは流石に冗談だと思う。
こんなに人がいて一人もいないというのは考えられない。
思考する俺に対してアクアは目を細めて若干引き気味に口を開く。
「あなたこの世界に転生したとき意識なかったんじゃない?」
言われてみれば、俺にはこの世界に転生したときの記憶がすっぽり抜けている。
ウィズ曰く、空から降ってきたらしいが転生ってそんなものなのだろうか。
「…確かに気絶してた」
「特典にするにしても脳にかける負荷が多いのよ。脳が爆発しなかっただけでも賞賛ものね」
「……」
アクアの言葉に思わず絶句しながら初めて自分の幸運さに感謝した。
カズマはアクアを特典として連れきたことを悔やんでいるようで未だにテーブルに突っ伏して『チート、特典、駄目神…お先真っ暗』とぶつぶつ呟いている。
そんなカズマに若干涙目になりながら怒るアクア。
この2人を見ながらやはりこのパーティーは面白そうだと思う俺であった。