この素晴らしい世界に時魔法を! 作:クロノス
2回目で転びまくったのですが雪がフワフワで楽しかった〜。
冒険者ギルドに登録をしてから早くも3日ほどが経った。
その間なにをしていたのかと言うと、ひたすらモンスター狩りと鍛錬に明け暮れた。
ここに送ってくれたミカエラさんが言うには血の滲むような努力をすれば魔力が増えると言っていたため、モンスターとの戦闘の際は必ず魔力を使うように試みた。
結果として言えば、レベルアップはしたものの爆発的に魔力が上がるなんてことはなかった。
流石にこんなことでは血の滲むような努力とは言わないようだ。
今日も今日とてモンスター狩り…すなわちクエストを受けていた。
どこぞのRPGのようにモンスターを倒せばお金が手に入るなんてそんな安心設計はやはりどこにもなかった。
しかしながらこの世界にもクエストという存在はあって、依頼主の要求するモンスターを倒してくれば報酬が出る。
その報酬というのが意外と高い。
例えば今相手にしているジャイアントトード。
名前の通り巨大なカエルなわけだが、このカエル日本円にして5000円の価値がある。
この世界の通貨はエリスというものだ。
概念的なもので言ってみれば日本の円と変わらない。
名前が違うくらいのものだろう。
今回のクエストだが、ジャイアントトードを5日間の間で5体狩ればいいというなんともシンプルなものだ。
今日で3日目。
「
これは
この魔法は必要な魔力を対価として払うことで物体の動きを止めることができる魔法だ。
先ずは飛び跳ねるカエルの動きを止める。
手にした剣を思いっきりカエルに向かって投げつける。
この剣は決して高価な物でも攻撃力や殺傷力が高い物ではない。
どこにでも安く売っているただの剣だ。
「
視線と指でカエルの眉間に重力の球を精製する。
投げつけた剣は重力の球に向かって飛んでいく。
それも最初に投げた時よりも明らかにスピードが増していた。
これは投げつけた時の勢いにプラスして重力の球が剣を吸い寄せているからに他ならない。
要は下方面にかかっていたはずの剣の重力の向きそのものが無理やり変更させられたのだ。
今回のは吸い寄せると言ってもどちらかと磁石のようなものに近い性質だ。
自分が指定したもののみを吸い込むことができるので使い勝手が良い。
ギリギリまで重力の球に近づけ、重力の球を消す。
するとどうだろうまるでピッチングマシーンから射出された豪速球のような勢いで剣はジャイアントトードの眉間へとクリーンヒットし、貫通した。
「
ストップと対になる魔法を唱え、ジャイアントトードの動きを再開させると自分に穴が空いていることに気づきもせずに絶命した。
…というのもそれはこの魔法を使うのが俺しかいないからなのだが。
時間、空間、重力を操る時空間魔法だとミカエラさんは言っていた。
今のところ操れる初級の魔法は時間と重力のみ。
空間の魔法についてはまだなにも出てきていない。
もしかするとテレポートとか使えるのかもしれない。
だが、覚えるのには経験値やレベルが足りないのだろう。
今日で3体のジャイアントトードを倒したわけだが、昨日よりも魔力の消費が少ないように感じる。
これならもう一体くらい倒せるとは思うが、遅くなるとウィズに怒られる。
辺りを見回してみれば結構な数のジャイアントトードが街の郊外に広がる高原には飛び回っていた。
しかし、あいつらはこちらからどうこうしない限り好戦的ではない。
食べ物を求めているときは別だが、それ以外は特になにもせずにボーッとしている方がおおい。
「アクアァァ!? おま、食われたんじゃねぇぇぇ!?」
そんな叫び声に似た何かに思わず顔を向けると少し遠くで同じようにジャイアントトードと戦闘をしている高校生くらいの男がいた。
よくみれば目の前には何かを飲み込もうとして固まっているジャイアントトードの姿。
端っこからは青い何かが飛び出している。
捕食されたのだろう。
だが食われている本人はどうにかして持ちこたえている状態のようだ。
男がショートソードを抜きジャイアントトードに向かって駆け出すのと同じタイミングで俺も駆け出す。
流石に見ず知らずとは言え、捕食されているのを見過ごしたら目覚めが悪いというやつだろう。
「そこのお前、剣を胸の前に構えて今すぐ跳べ!」
「え!? お、俺のことか!?」
「助けるんだろ、食われるぞ」
「お、おう! なんかわかんないがわかった!」
「胸の前から剣離すんじゃないぞ!
精製したのは先ほどと同じく重力の球。
それも全力で作った重力もとい、引力の奔流だ。
「うぉ!? 引き寄せられぁぁぁぁ!?」
少年は先ほどの俺の剣よろしくジャイアントトードに向かって飛んでいき、胸の前に構えていた剣を突き刺した。
(やっべ、中の人に刺さったかな…)
そんなことを考えたのはどこまで飲み込まれていたのかを把握していなかったからだ。
▼ ▼ ▼
倒したジャイアントトードをギルドの移送サービスで移動させて換金を済ませて俺は先ほどの男と一緒にテーブルで座っていた。
俺が倒した1匹は約5000エリスで売却した。
助けたときに仕留めたもう一体はこの男がとどめを刺したわけだから男の冒険者カードに記入されていたために男のパーティーの方で売却してもらった。
山分けしようと言ってくれたのだが、俺としてはべつにそこまでお金に困っているわけではないので断った。
そうは言っても男は譲らず、せめてなにか食べるか飲むかして行ってくれということでこうして相席している。
それにしてもこの男、黒髪黒目とはこの世界では珍しいのではないだろうか。
もう3日目になるがどこの人も髪の色は様々だった。
中でも黒髪は絶滅危惧種かというほどいなかった。
「いや、さっきは申し訳ない。ああするしか間に合いそうになかったもので…」
「いやいや、こちらこそ助けてもらってありがとうございました。俺はサトウ カズマって言います」
「俺はハザマ ソラだ」
名乗りあって確信を得た。
同じようにこの男…カズマもどうやら確信を得たようだった。
「カズマってもしかして日本人か?」
「やっぱりソラさんもですか?」
「敬語はよしてくれ。多分歳も1つか2つくらいしか違わないさ」
「おっけー! 黒髪黒目っておかしいと思ったんだよ。そんなのは日本人くらいだからな。さっきのよくわからないやつは特典か?」
カズマの問いかけに頷く。
しかし、ここで疑問が出てきた。
カズマが日本人なのはよしとしよう。
ならばこの世界に転生してきたと考えるのが妥当なところなのだが、特典はどうしたのだろうか。
「そういや特典持ってるならどうしてジャイアントトードに苦戦してたんだ?」
特典があればジャイアントトードなどに遅れを取るはずがない。
そう思って問いかけてみると、カズマはプルプルと震えながら顔を真っ青にした。
どうやらこれは彼にとっては聞いてはいけない類…一種のトラウマだったらしい。
カズマはやがてテーブルに顔を埋めて頭を抑えてこう言った。
「今風呂に入ってる駄目神です…」
今風呂に入っていると言えば確か名前をアクアと言った女性。
(アクア…アクア? ん? アクシズ教徒…駄目神…)
頭に引っかかるなにかが今ようやく取れた。
「…お前か」
どうやら女神様を特典のはカズマらしい。
『ついやっちゃいました、後悔しかありません』と本人は懺悔しているのだが、これを本人が聞いたら泣くんじゃなかろうか。
その後続いた女神様ダメダメな話に俺は慄くと同時に僅かではあるがカズマに同情するのだった。