この素晴らしい世界に時魔法を! 作:クロノス
ありがとうございます。
4月に入りました…入ってしまいました…。
これから学校が始まるのでこれまでのように更新はできないかもです。
装備も新調して早速みんなでクエストを受けようと思ったのだが、ウィズの言っていた引っ越してきた魔王軍の幹部の影響で弱いモンスターが寄り付かなくなり俺たちが受けれるようなクエストはなかった。
それは国の首都から討伐隊が編成されて幹部が討伐されるまで駆け出し冒険者が受けられるクエストがないことを示していた。
やることがなくなった俺たちはそれぞれ解散することとなった。
ダクネスは実家に戻り、アクアは金欠のためにバイトで金稼ぎ、カズマとめぐみんは爆裂魔法の鍛錬に行くそうだ。
俺はどうすれば良いのか迷った挙句、クエストを受けずに適当にモンスターを探して鍛錬することにした。
ちょっとくらい強いモンスターを相手にしても今の俺ならなんとかなるだろうという慢心だ。
それにもしも魔王軍の幹部と相対することになればある程度の実力がなければ逃げることすらできない。
ウィズに手伝ってもらうこともできるかもしれないが、ウィズはお店の仕事で忙しいはずなのでやめた。
お店に人はいないとしてもやることはたくさんあるはずだ。
草原に出て歩き続けてみると確かにモンスターがいない。
繁殖期を迎えていたはずのジャイアントトードは1匹もいないし、前回倒した猪のようなモンスターもいない。
ここらに住んでいた原生生物ですらも鳴りを潜めているようで呑気に日向ぼっこしている生き物はいなかった。
草原を越えて山に入ってもそれは変わらなかった。
もう諦めて帰ろうとしたそのとき背後から何かの気配を感じた。
「ガォォッ!!」
すぐさま目の前にある木の上に
綺麗な黒い毛並みに大きな身体。
4足歩行だったはずのそいつは木の上にいる俺を見つけると2つの足で立ち上がって猛々しく吠える。
そいつの正体は巨大な熊。
『カズマカズマ、このブラックファングなんてどうだ? 山の中で巨大な熊に襲われると思っただけでも…』
脳裏に蘇るのはダクネスの言葉。
山の中、巨大な熊。
漆黒の黒い毛並み。
「ガォォッ!!」
間違いない…こいつがブラックファングだ。
幸いなことにブラックファングよりもこの木の方が高かったためになんとか躱すかとができた。
直前まで全く気配が感じなかった。
あのままだったら間違いなく死んでいた。
大きく深呼吸をして覚悟を決める。
魔法剣…エリアルを背中から引き抜き魔力を込める。
この剣は風を操る魔法がかけられており、魔法で言えば中級から上級の風が使える。
「
一気にブラックファングの背後へと回り込む。
ブラックファングは俺が突然いなくなったように見えたのにも関わらず、そのでかい巨体からは考えられない俊敏さで一閃を回避。
そのまま俺めがけて飛びかかる。
ギリギリのところもう一度
礫を
「ガッ…ガォォォォッ!!」
そのまま重力魔法に魔力を込めていくがブラックファングは徐々に盛り返し始め遂には完全に跳ね返し、大きく吠える。
それは魔力で精製された弾。
俺との間にある草や木をなぎ倒して一直線にこちらへ向かってくる。
「
一度魔力の弾を停止させて跳ね返すように巻き戻す。
ブラックファングの手前で
ブラックファングは当然のように躱そうとするがすかさず
(やっぱり魔力の消費が大きい)
最初から
それに今見た魔力の弾をみればかなり魔力が高い。
持久戦になることも考えると最初の方から使うことは得策ではなかった。
今回の判断は魔力の弾を見てからが正しかった。
だがあの体格のくせしてあんなに素早く動けることは驚異であり、どうにかして動きを封じる必要がある。
重力魔法が跳ね返されたこともあって今までよりもはるかに強く
ブラックファング自身が放った魔力の弾は見事に直撃する。
さらに
力一杯振り抜いた一太刀は身動きが取れないブラックファングを斬り裂いた。
「
目の前に俺がいることを好機と思ったのか左手を振りかぶるも自身の異変に気付く。
時魔法によって止まっていた間に蓄積されていたダメージは
ブラックファングは一際大きな叫び声を挙げるとそのまま動かなくなった。
「危なかった…」
今更になって生命の危機だったことを実感して地面にヘタリ込む。
今までのモンスターでは決して味わうことがなかっただろう生命の危機。
ジャイアントトードにしろ猪のモンスターにしろどちらにしても驚異とはなり得なかった。
だが今回で如何に自分が恵まれている能力を手にしたのかを悟った。
同時に大体は倒せるだろうと慢心していた自分を強く戒める。
確かに時魔法は便利だ。
だがそれは自分の頭が状況に追いつかないと意味がない…宝の持ち腐れだ。
冒険者カードを覗き込めばレベルが20に上がっていた。
先ほどが16だったことを考えれば一気に4レベルも上がったことになる。
これはブラックファングの経験値が特別多いのではなく、駆け出し冒険者では決して倒すことができないからこそのレベルアップだろう。
スキルポイントも一気に20という驚愕に値する量を入手することができた。
この日を境に俺は上級のクエストを受けるようになった。
慢心ではなく、自分自身を鍛えるために。
危ない時は必ず逃げた。
命あっての物種とはよく言ったものだ。
ダクネス相変わらず実家に帰っていようで戻ってこないし、アクアもバイトでお金を稼いでいる。
カズマとめぐみんは壊れたように『爆裂爆裂♪』とスキップしてどこかへで爆裂魔法の鍛錬をしている。
それは冷たい雨が降る日。
それは早朝の太陽が昇る頃。
それは月と星が夜空を彩る頃。
本人たちは知らないと思うが、どこか遠くで必ず爆裂魔法の轟音がアクセルの街には届いていた。
それを聞いた人々の反応は2つに分かれる。
煩いと怒る者といつものことかと呆れる者だ。
最近では夜に爆裂魔法の音が聞こえると子どもたちが花火と間違えているようで音がするたびにどこで花火が上がってるのかを探そうとキョロキョロしている。
俺はと言えば風物のように爆裂魔法の音に耳をすませながらクエストやウィズとの訓練に励む日々が続いた。
今日も今日とて、訓練に励む。
「モンスターとの戦闘においてウィザードは狙われやすいです。知能が高いモンスターとの戦闘では尚更です」
ウィズから放たれる氷の礫を
それを脳に作用させ高速で思考をすることが可能だ。
「
空間魔法で一気にウィズの背後へと
ウィズはこちらに振り向いて怪しく微笑む。
「空間魔法で相手の背後をとることは有効な手ではありますけど型にはまり過ぎると容易に反撃されますよ」
ウィズに地面を指さされて着地するはずの地面を見る。
そこにあったのは氷の幕。
「おわっ!?」
「今日はこれくらいにしておきましょうか」
「結局今日もダメか〜」
大きく伸びをしたウィズに苦笑いして立ち上がる。
今日はウィズを一歩も動かすことができなかった。
訓練を始めた最初の方は俺が空間魔法を使えると知らなかったこともあって優勢だった。
だが日を重ねていくに連れてウィズは空間魔法や時魔法に慣れ始め、今じゃ作戦まで読まれて一歩も動かない有様だ。
魔王軍の幹部ということも半信半疑だったが、コテンパンにやられた日を境に確信に変わった。
「いえいえ、最近は随分と動きが良くなってますよ?今はクエストが少ないはずなのによく鈍らないですね」
「そりゃあ高難易度のクエストに挑戦して…はっ!?」
「ソラさぁ〜ん?今なんて言いました〜?」
ウィズには高難易度のクエストに行っていることを話していない。
絶対に止められるという確信はあったし、クエストが少ないから訓練に付き合ってくれると言ってくれたのもある。
「おかしいと思ったんです。受けるクエストがないのに毎日毎日朝早くから外出して。いいですか、高難易度のクエストっていうのはですね…」
またウィズの長い説教が始まるのか…そう思った時だった。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは直ちに装備を整え戦闘態勢で正門に集まってください!!』
緊急クエストのアナウンスが神の救いの手のように思えた瞬間だった。