この素晴らしい世界に時魔法を!   作:クロノス

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リッチーだったらしい

空から日が落ち、月の輝きが地上を照らす。

空を見上げれば星が瞬いていることはこの世界(・・・)でも変わらないようだ。

 

現在の時刻は夜の8時。

 

ギルドの中はすでに宴会モードでどいつもこいつもジョッキを片手に騒いでいる。

この街は夜にクエストに出ていく人は少ない。

夜にクエストに行く人は大体ダンジョンに行く人らしい。

 

ダンジョンに行く場合は前日の夜に出て行きダンジョンの前でキャンプをするのが通例らしい。

 

ダンジョンなんて今の俺たちからすれば無縁だがいつか行くこともあるだろう。

 

カズマ御一行が集合すると作戦会議も兼ねてギルドの中で軽く食事を摂る。

 

今回の討伐はゾンビメーカーということで攻撃の主体はアクア。

遊撃としてアクアのサポートをするのが俺だ。

遊撃と言っても霊体に対して有効な攻撃手段を持っていないため時魔法でサポートすることになる。

不足の事態…霊体ではないモンスターが現れた際に対象することとなった。

ダクネスはとりあえず壁となり、カズマは司令塔。

 

「んじゃ、幽霊退治といきますか」

 

「今日こそ私が活躍してみせるんだから! 女神としての威厳ってやつを見せてやるわ!」

 

「私、今日何にもすることないんですが…」

 

場所が墓地ということで爆裂魔法は使用禁止。

よってめぐみんは後ろで見ているだけ…ということになった。

 

(爆裂魔法しか覚えないのが悪い)

 

墓地の近くまで来ると暗いことも相まってホラーな雰囲気が漂う。

別に誰もホラーが大の苦手というわけではないため、怯えるようなことはない。

だが、若干空気が冷たいと思うのは外の空気が冷たいからか…或は…。

 

そのまま墓地の中へと進んで行くと急に先頭を歩いていたダクネスが立ち止まり、俺たちを手で制す。

 

「皆、敵感知が反応した。1体…3体…いや、6体…?」

 

「待て待て待て。受付のお姉さんの話ではゾンビメーカーの取り巻きは2、3体しかいないはずだろ?」

 

カズマの言う通り、受付のお姉さんの説明ではゾンビメーカーの取り巻きは多くて4体。

普通より強いゾンビメーカーがいると考えるのが妥当だが、強いゾンビメーカーがいるなら既に違うパーティーによって討伐隊が結成されていてもおかしくない。

 

「み、見てください! 何か光ってます!」

 

めぐみんが指差す方向に視線を向けると確かに青い光が立ち昇っている。

それはどこか幻想的で不気味さや怪しさといったものは感じられなかった。

更に近くに連れて何かがいることが明確にわかる。

だが、明らかにモンスターでないことはシルエットを見るだけでわかる。

人型だ。

それも黒いローブを纏っている。

 

青い光が立ち昇っている部分には大きな円形の魔法陣。

 

「人型ではあることを踏まえてゾンビメーカーではないと考えてもアンデッドの類だろう。ゾ、ゾンビプレイというのもなかなか趣があるのだがアンデットというのも…」

 

「おいこらやめろ、アンデッドが汚れる」

 

「アンデッドは既に汚れてるのでは!?」

 

カズマたちの漫才を横目に見ながらアクアの只ならぬ気配を感じる。

上級職のアークプリーストの本気が見られると思うと期待してしまうが、アクアだと考えると不安もある。

 

(だって駄女神(アクア)だし)

 

アークプリーストとしての実力には確信があるものの、アクアはどこか抜けているから結果的に何を仕出かすかわかったもんじゃない。

アクアの行動に極力注意しようと決意を固めると改めてローブのモンスターを見る。

その傍らには球体状のモンスターが青い光に照らされながらフワフワと宙に浮いている。

 

あのモンスターもアンデッドの類なのだろうか。

その割にはとても小さい。

 

「あーーーーっ!!」

 

「どうした! アクア!?」

 

突如としてローブのモンスターを指差して叫んだアクアは全力疾走でローブのモンスターに駆け寄ると握り拳を作って殴りかかる。

しかしギリギリのところで気づいたローブのモンスターが大きく後退したことでアクアの一撃は虚しく空を殴った。

 

「こいつモンスターじゃなくてリッチーよ! 私の前にノコノコと現れたのが運の尽きね! 成敗してやるわっ!」

 

リッチーとはアンデッド類の一番上に君臨するアンデッドの王。

大魔法を極めた魔法使いが何を思ったのか奥義によって人としての生を捨てた姿…ノーライフキング。

恨みや未練が動力となるアンデッドとは違い、自らの意思によって生を捨てた。

 

つまりは神への反逆。

 

アクアが妙に怒ってるのはアクア自身が女神だからなのだろう。

 

だが俺は別の意味で驚愕し、言葉を失くした。

ローブのモンスターはもともと背を向いていたために素顔が見えなかった。

しかし今はアクアの攻撃を避けたことによってこちらを向いている。

しかも魔法陣の青い光によって下から照らされはっきりと見える。

 

ローブは纏っているものの、その顔は毎日見ている人のもの。

俺に部屋を貸していてくれて、自分で店を開いている女性。

 

「ウィ、ウィズ!? レッダ!?」

 

「ソ、ソラさん!?」

 

『キュー!!』

 

そこにいたのはローブを纏っているウィズとレッダだった。

俺に気づいたレッダは嬉しそうな様子で突進する勢いで俺の胸元へとダイブしてくる。

まったく可愛いやつなのだが、状況が呑み込めず呆然としながら頭を撫でる。

 

(ウィズがリッチー!?)

 

確かに年齢については尋ねたことなんてない。

見た目は20くらいだろう。

ということはウィズはリッチーになってから永遠の20を手にしたということだ。

 

どんな理由があってリッチーになったのかはわからない。

しかし20の時点でウィズは大魔法を極めたということになる。

 

「騙されないでソラ! こいつはリッチーよ!この魔法陣もどうせろくでもない事の為に描かれたものに違いないわ!」

 

敵意剥き出しなアクアは素早く魔法陣の中へと入ると描かれた魔法陣をグリグリと踏みにじる。

 

「あっ、待って、やめて、やめてぇぇぇぇぇ!」

 

「お願いやめてぇぇぇ!」

 

地面が徐々に抉られていくのと同時に幻想的な青白い光の量が少なくなる。

ウィズは涙目になって魔法陣の破壊を実行するアクアの腰にしがみ付いている。

今でも困惑はしている。

しかし悪いリッチーならば行き倒れていた俺を助けたり部屋を貸したりするわけがない。

ならばウィズにはリッチーになってでもやらなければいけないこと、やりたいことがあるはずなのだろう。

 

それにこうして見てみるとどちらが悪者なのか見分けがつかない。

 

「アクア、停止(ストップ)

 

文字通りアクアの動きを完全に停止させる。

 

「ソラさあぁぁぁん…」

 

今度は俺の腰へとしがみ付いてきたウィズの頭を撫でて宥めた。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

一通り落ち着いたところでアクアの時魔法を解き、ウィズに説明をしてもらうべくそれぞれ剣を納めていた。

 

「カズマどうでもいいから早く私に成仏させなさい」

 

しかしながらアクアは相変わらず敵意むき出しなようで隙あらば成仏させようとしている。

アクアの穏やかでない言葉にビクリと震えて俺の後ろへと隠れるウィズ。

 

「で、ソラの知り合いか?」

 

「行き倒れてた俺を助けてくれた挙句、住むところを貸してくれたウィズだ」

 

「そこの…怖い人の言う通り、私はリッチーです。ウィズと言います。ソラさんとは同居人という関係です」

 

「あぁん!?」

 

アクアは怖い人という単語に過剰反応したがその反応は前世のヤンキーそのもの。

女神というにはなんとも品がないと言えるが、リッチー含めアンデッドに敵意を向けてしまうのは女神の性なのだろう。

 

「ソラおまっ、羨ま…んんっ、で一体何をしてたんだ?」

 

「ここが共同墓地だということは皆さんご存知ですか?貴族のような立派なお墓がないのはまだしも、お金がなくて葬式すらしてもらえずに成仏出来ず彷徨う魂。ここにはそんな魂がたくさんいるんです」

 

「それでアンデッドの王のウィズは成仏させていると?」

 

カズマの言葉に頷いたウィズは魔法陣を指差す。

 

「これがそのための魔法陣なんです」

 

確かに青白い光とともに何かが空へと登っていくの見えた。

だがそれでもどうしてリッチーであるウィズがそんなことをしているのかは謎だ。

 

「ではなぜこの街のプリーストに任せないのだ?」

 

俺の言いたいことをそのまま代弁してくれたダクネスの言い分は尤もな疑問だろう。

そういうのはそれこそアクアのような専門がいるはずなのだ。

 

「この街のプリーストさん達はお金が目当てなんです。だから共同墓地の中でも貧困な人たちは後回しでして…」

 

「それで慈善行為でやっている…と」

 

「はい。ソラさん、黙っていてごめんなさい。一昨日言っていた用事もこれのことなんです」

 

プリーストといえば俺たちの中にもアクアがいる。

なるほど、確かに酒場で借金を作るほどにはお金に執着がある。

 

まあ、プリーストからしてもモンスターの討伐ができないために拝金主義になるのは仕方がない。

成仏させることを生業としているのだから慈善行為で全て無料にしては成り立たないわけだ。

 

「まあ悪いことしてないみたいだから何も言わないけど気をつけろよ〜。目の前にいる自称女神みたいに目の敵にする人もいるから」

 

「自称ってなによ!私は現在進行形で女神です〜!」

 

「お、自称するかわいそうな人がアクアです」

 

俺の言葉に噛み付くように反応したアクア。

そこへ今まで空気だっためぐみんが参戦するとアクアが涙目で膝を着く。

カズマは呆れたように遠い視線をどこかへ向ける。

 

そんな俺たちにウィズは困ったように笑った。


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