この素晴らしい世界に時魔法を!   作:クロノス

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時魔法

それは遥か昔の話。

ある村におかしな魔法使いがいました。

その魔法使いは真面目なようでどこか不真面目。

いつも飄々としていて考えてることがわからない。

 

その魔法使いの何よりも不思議なところは現代で初期魔法と呼ばれることになる魔法が使えないことでした。

魔法を使うから魔法使いと呼ばれるのは今も昔も変わりません。

 

この魔法使い、時間を自在に操る魔法を使えたのです。

 

それが、時魔法。

 

時魔法とは名前の通り、時間を司る魔法。

 

生きとし生けるものすべてに平等に与えられたはずの時間という一つの概念を歪めることができる魔法。

 

草木に過剰な養分を与え成長させることなど容易いこと。

壊れた物を前の状態に戻す巻き戻し(りたーん)

果てまでは病気の進行までも停止(・・)させたと言います。

 

少年は様々な視線に曝された。

 

遂には異端扱いされたその魔法使いは村から追い出され、旅立つことになった。

 

ウィズの話が区切れたところで俺は事前に淹れておいた紅茶のカップに手を伸ばし一口飲む。

ウィズは閉じていた瞳をゆっくりと開けると懐かしむような表情で手を重ねた。

 

「まあ、ここから先はよくあるベタベタな冒険譚なんですけど」

 

「なるほど、それって魔王討伐の話なのか?」

 

「まあ、そんな感じです。魔王討伐を目指す勇者一行と一緒に自分探しの旅をするために旅をするんです」

 

魔王討伐と一緒に自分探しの旅とはよく言えたものだ。

 

「最後はどうなるんだ?」

 

「それが、この物語未完なんです。主人公の時間が止まっちゃうところで物語は終わってるんですよね〜」

 

「ちょっと待て。聞き捨てならない言葉が出てきたんだけど?」

 

時間が止まるということは元に戻る方法があるのだろうか。

なにせ時魔法師(クロノス)は希少なはずだ。

昔と言えどそんなにいるのだったら今の時代にも溢れてるはずだ。

 

「まあ、昔話とは言っても御伽噺のようなものでしたので私自身、こうして見るまで半信半疑でしたよ」

 

『キュー』

 

いつもとなんら変わらない表情をしたレッダの頭を撫でる。

レタスの葉の感触ではあるが魔物になったことからか若干柔らかい。

 

自分の時間が止まるというのは気に留めておくことにしよう。

そもそもある程度のデメリットは覚悟していたことだ。

 

(まあ、若干いきすぎな気もしなくはないが…)

 

「そう言えば明後日はどうするんですか?」

 

「多分いつも通りクエストを受けてくる予定だけど」

 

「申し訳ないのですが、明後日の夕飯は外食にしてもらっていいですか?」

 

「それは構わないけど遠出でもするの?」

 

「ちょっと夕方から夜中にかけて用事が入ったんですよ」

 

いつも夕食を用意してもらっている居候の身である俺にどうこう言う権利はない。

ウィズの料理が食べられないのは残念だが、外出する予定があるなら仕方ない。

外出と言っても用事と言っているあたり、お店関連のことだろうか。

 

(仕入れとか大変なんだろうな…売れるかどうかはさておき…)

 

次はどんな珍商品を入荷してくるのか不安半分期待半分な気持ちでウィズに受け答えをした。

 

▼ ▼ ▼

 

時は経って2日後。

 

清々しくウィズの店を出た俺は断続して転移(ワープ)を使いギルドまでやってきた。

レッダは家で留守番という形になっているが、夕方からはウィズに連れていってもらえることになった。

別に冒険者と用事があるわけではないから狩られることはないと言う。

 

『もしレッダさんに手を出しだら私も怒っちゃいますしね』

 

なんて早くもレッダに愛情を注いでいるようなのでなんら問題はないだろう。

 

やはりレッダは可愛いのだ。

 

そのうちレッダの商品でも販売しようかなどと妄想しながらギルドの中へと入るとそこにはいつもの面々の姿はなかった。

いつもはクエスト掲示板にいるか、ギルド内の酒場のテーブルで談笑ないし突っ伏しているかのどちらか。

しかし今日はカズマ御一行の姿はギルド内には見当たらない。

 

すでにクエストを受けて行ったのかもしれない。

 

「あ、ソラさん! カズマさんたちから伝言を預かってます」

 

「お、なんです?」

 

「クエスト開始は夜の8時からのためそれまでは自由行動…だそうです。ちなみに受注していただいたクエストはゾンビの発生源であるゾンビメーカーの討伐です」

 

ゾンビメーカーというからには今回の相手はアンデッド系。

大方攻撃手段のないアクアが言い出したクエストなんだろう。

 

プリースト系の職業に攻撃手段がないことはもう既知のことだろう。

 

だが、考えて欲しい。

 

経験値が入るのはモンスターを倒した者のみだ。

だからこそ俺は前回のキャベツ戦で大量の経験値を入手することができた。

それも魔法を使って簡単にだ。

 

だがアクアはどうだ。

 

攻撃手段がないプリースト系故にクエストでは毎回後衛。

経験値なんて入ったもんじゃない。

今までアクアはクエストを受けてきても報酬こそもらっても成長の糧となる経験値はもらっていなかったのだ。

そこでアンデッド討伐だ。

プリーストが唯一倒せるといっても過言ではないモンスター。

 

(だけどどうしてスキルポイントはあったんだ?)

 

若干アクアの秘密の一端を知ったような気分でクエスト掲示板に貼ってある中から適当なものを選ぶ。

自由行動なのだからクエスト受けたって構わんだろうという魂胆である。

受付のお姉さんに紙を手渡してさっそく草原へと駆け出す。

 

今回は凶暴化したモンスターの討伐。

 

モンスターではあるが普段は大人しくて人間に害がないため放置されていたモンスターが凶暴化して暴れているらしい。

情報によれば対象は猪のような姿をしたモンスターで数は4体。

 

前もって聞いておいた場所へと移動するとそこには確かに猪型のモンスター。

 

転移(ワープ)

 

対象の背後へと迫ると猪のモンスターへと向かってショートソードを振り下ろす。

ショートソードは見事に猪の背へと突き刺さる。

だが体が大きかった故か、モンスターが力一杯動くのと同時にショートソードは抜け落ちる。

 

モンスターは俺を視界に捉えると憤怒の形相で突進してくる。

目の前に迫る鋭い牙を見ながらほんの一瞬だけ思考し左手を前に出す。

 

遅延(スロウ)

 

青白い魔力が左手に集まると猪を取り囲みやがて動きを制限する。

青白い魔力は時計の形を取らなかったのは遅延(スロウ)でもって行かれている魔力があまりにも少なかったからだろう。

 

全力の時には完全に時計が顕現(・・)するのだから。

 

突進が歩くように遅くなったことに戸惑うモンスター。

どんなに突進の威力があろうとも勢いを殺してしまえば何の意味もなさない。

 

1体を重力(グラビデ)で倒してからは他の個体を倒すのもあっという間だった。

勝てないと悟り散り散りに逃げていくモンスターを重力の球で引き寄せた後、一網打尽に圧し潰す。

 

声にならない叫びを挙げたモンスターはそのまま動かなくなり、冒険者カードには討伐したことが数となって記される。

 

事態はそこからだった。

 

「!?」

 

レベルが上がったのを意識した途端、俺の身体を青白い魔力が包む。

燃え上がるように溢れる膨大な青白い魔力は間違いなく俺の身体から出ている。

 

だがもう魔力は放出していない。

 

青白い魔力はやがて俺の身体の中へと消えていった。

突然のことにしばらく呆けていたが、すぐに冒険者カードを覗き込むと尋常じゃないほど魔力が増えていた。

今までの伸びとは明らかに違うこの伸びこそ、ミカエラさんが言っていた成長に違いない。

 

確かにめぐみんの爆裂魔法を時魔法(力づく)で止めたり、毎日鍛錬したりとかなり頑張ったとは思う。

 

更にスキルの欄には新しく3つ項目が増えているのがわかる。

 

巻き戻し(リターン)…5

対象を巻き戻す。

魔力量によって変化する。

 

・消費魔力減少…7

時魔法持続時の消費魔力減少。

 

重力世界(グラビティワールド)…20

重力による世界を作り出す。

魔力量によって範囲確定。

 

どうやら魔法だけはなく、よくゲームであるアビリティのようなものもあるようだ。

今回のレベルアップで時魔法に関してはある程度コンプリートしたのではないだろうか。

気になるのはスキルポイントを20も消費する重力世界(グラビティワールド)

魔力量によって変化するのはいつものことだが、これは内容がよくわからない。

今すぐに覚えてみたい欲求に駆られるものの、残念ながらここでスキルポイントを使ってしまうと他の項目が取得できない。

 

巻き戻し(リターン)はなにかと役立つと思うし、レッダの維持に消費魔力減少は必須だ。

スキルポイントを20も使用するのだから使えないことはないだろうが不確定要素が多い。

 

ここは我慢するべきだ。

 

欲求を抑えてギルドに戻った頃には夕焼けが輝いていた。


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