この素晴らしい世界に時魔法を! 作:クロノス
不定期更新にはなりますが、よろしくお願いします。
転生…転んで生まれると書くその言葉の意味を考えたことはあるだろうか。
人は必ず死ぬ。
それは人のみではなく、この地球という惑星に生きる生きとし生ける全ての生物にやってくる。
いわば生命の最後だ。
殺害、事故、餓死、病死…たとえ誰だとしても死というものはやってくる。
この先難しく死について考えるより、案外容易いものなのかもしれない。
そう…今まさにこの瞬間のように唐突に死はやってくるのだ。
目の前に迫ってくるトラックは猛スピードで迫っているのだろうが、まるで自転車のようにゆっくりに感じる。
この思考に至るまでに回避する方法は考え抜いた。
しかしどれもこれも実行するにしては明らかに時間が足りない。
トラックはもう目と鼻の先。
この場面から動いて避けようなどそれこそ自分が通常の3倍速で動かないと不可能だ。
ダメな時というのはいつだってすぐにこう直感するのだ。
「ああ、これ無理ゲー」
言葉を言い終わった直後に訪れた言いようのない衝撃と身体の熱さを最後に俺の意識は途絶えた。
▼ ▼ ▼
目を覚ますとそこは見知らぬ天井…ではなく空間だった。
若干暗くて薄気味悪い気がしないではないが、どことなく神聖さを感じる謎の空間に俺はいた。
「…妙だなおい」
おかしい。
てっきり死の世界とは魂だけの存在になると思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。
身体は五体満足でちゃんと存在しているし、痛みなどはまったく感じない。
むしろ調子が良いほどまでに清々しく感じる。
今なら空だって飛べる気分だ。
「狭間 空さん残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
突然聞こえた声に思わずあたりを見回すと突然として強い光と共に1人の女性が姿を現した。
整った顔立ちに流れるような金髪。
背中には人のものではない綺麗な羽がある。
この言いようからしてこの人はここの管理者的な存在なのだろう。
この人は今確かに『お亡くなりになりました』と言ったということは、ここが死後の世界で間違い無いということだ。
「どうやら話す手間が省けたようですね。私はミカエラ。この死後の世界で魂を導く仕事をしております」
綺麗な仕草で礼をしたミカエラさんを見て思わず自分も座ったまま礼を交わす。
この世界で魂を導くということはこの人は女神様なのだろうか…だが、なんというか失礼ではあるが女神様とは少し違う気がする。
「女神様…じゃないんですか?」
「よくお気付きになりましたね。女神様はつい先ほど、ある方に転生特典として連れていかれました」
「…つまり女神様を特典として選んだと?」
「そういうことです。その女神様はアクシズ教徒の御神体、アクア様です。あなたが転生する世界にいらっしゃるでしょうからお見知り置きを…」
「な、なるほど。俺はこれからどうなるんですか?」
「あなたには三つの選択肢があります」
そう言ってミカエラさんは3つの指を立ててニッコリと微笑んだ。
ここまでくると何を言われるのかなんとなく予想がついてしまうあたり、俺の悲しいところだろう。
「一つはこのまま天国で魂のまま暮らすことです。この場合、今のあなたの身体は消滅し魂のみの存在となります。イメージで言えば、身体は雲ですね。手も足もなくフワフワと浮かんでいます」
「却下で…」
「では二つ目です。記憶をなくして赤子からやり直すことですね。この内容は付け足すことはありません。そのまんまですね」
「…最後は?」
「最後は異世界に転生することです。もちろん記憶を保持したまま転生して頂きます。転生する世界がモンスターや魔王討伐を主としているため、なんらかの特典を与えます。その特典を活かして、異世界で暮らし、最終的には魔王を討伐することを目的として生きてもらいます」
やはり転生ものがあったわけだが、これは結構人生が決められているな。
つまり、女神様含めたこの人たちによって大まかな人生が決められているということだ。
転生特典を持って転生し、モンスターを狩る生活をし、成長して最後には魔王を倒す。
「異世界転生でお願いします」
魔王というのはとても強大だろう。
ぶっちゃけどんな特典をもらったところで『なにこれ無理ゲー』と直感しそうだが、それでも異世界という響きにはあらがえなかった。
「特典はどうしますか?」
「それならもう決まっています。時間を操る魔法を使えるようにしてください」
「やはり、時間ですか…」
「知ってたんですか?」
「はい。あなたの生前の多くの行いはそれこそ賞賛に値するものばかり…とまではいきませんがそれでも善意で行った行動は多かったですね。最後に助けたあの少女を含め、多くの人があなたの御墓参りには必ず行っています」
「そうですか…」
俺がトラックに轢かれる原因となったのは別にトラックの暴走などではない。
信号のない横断歩道を横断していた小学生くらいの女の子がトラックに轢かれそうだったために飛び出して背中を押したのだ。
その結果として死んでしまったわけだが、特に悔いはない。
もともと親はいなかったし、やりたいことばかりやって生きてきたからだ。
「そうですね。あなたには
「
「
「そりゃまたどうしてですか?」
「この職業に就くためには魂単位での因果が必要です。幸いなことにあなたは魂の概念を形作る名前、そして性格から最も適した職が
「よくわからないですが、ラッキーってことですね」
うん、さっぱりわからん。
「そういう理由もあって、向こうではある意味勇者よりも伝説級の職になると思います。勇者は転生者が特典で頼み込めば誰にでもならますから」
よくあるベタベタな転生特典を選んだ人も中には結構いるのだろう。
それが悪いとは言わないが、勇者がインフレするのではないだろうか。
まあ、女神様を特典にするというよくわからない人はある意味すごいと思う。
というか、女神様が特典で行っちゃったら『魔王なにそれお強いの?』レベルで倒せちゃうんじゃないだろうか…。
「これはサービスですが、あなたが努力をすれば魔力の量も大幅に上がるようにしましょう。それこそ血が滲むほどの努力が必要ですが…」
「ありがとうございます」
「いえいえ、あなたのような善悪ともに持ち合わせた人間らしい方は久しぶりに見たのでそのお礼です。ではそろそろ時間です」
空間にぴしりと亀裂が入ると、俺の足元に大きな光る魔法陣が姿を現わす。
「では、お行きなさい
言い終わると同時に俺の身体がフワリと宙に浮かぶ。
そのまま先ほど亀裂が入った場所に向かってどんどんと登っていく。
ミカエラさんは登っていく俺を見ながら微笑むともう一度その桜色の唇を開いた。
「今のは定型文になります。ぜひ、あなたの思うように生きてください」
「本当にありがとう。ミカエラさん」
「はい。お元気で」
ミカエラさんが手を振ったのを最後に再び俺の意識は途絶えた。