リインのアトリエーアインクラッドの錬金術師ー 作:kaenn
では本編をどうぞ
ー……キーーン……ー
「国際線JRN692便にご搭乗のお客様に御案内致し………。」
航空機のジェットエンジン音が響くドイツの空港でアナウンスが流れている。
「ほら、すずか!早くしないと乗り遅れちゃうわよ!692便って私達が乗る予定の飛行機じゃない!」
ピンク色のスーツケースを引いて早足で歩く金髪の少女が少し後ろにいる紫髪の少女を急かす。
「………待ってよ…アリサちゃん…私が…朝に弱い……の知ってるでしょ……。」
急かされた紫髪のすずかと呼ばれた少女は体調が良くないようで顔色があまり良くない、息も絶え絶えでどう見ても倒れそうな感じがする。
「いつもの事じゃない!それに日本よ?姉さんに逢えるのも嬉しいけど……やっと……やっと日本の観光も出来るのよ?一刻も早く着きたいじゃない!」
アリサと呼ばれた金髪の少女はすずかの顔を覗き込む様に見ながら人差し指を立て上を向け”なってないわね”とでも言う様な顔でまくし立てる。
「………フゥ…でもねアリサちゃん?今のアナウンスは私達が乗る予定の飛行機が遅れてるから少し搭乗時間が遅くなるって言ってたんだよ?私だってお姉ちゃんに早く会いたいし、日本観光して見たいもん。」
すずかは息を整えるとアリサに先程のアナウンスの内容と自分もアリサと同じ気持ちだと若干困った様に伝える。
「えっ?……まぁいいわ…それより!すずか…私達にはパパとママから頼まれた大切な用事が有るの忘れてないわよね!」
空港のアナウンスが搭乗時間が来た事を知らせるものだと勘違いしていたアリサはばつが悪そうな顔をして、話題を変えようと少し強めの口調で父と母からの頼まれ事をすずかに確認する。
「勿論だよアリサちゃん、将来私達の義兄さんになるかも知れない”ツボイリョウタロウ”さんと会って話をすることだよね?」
すずかはアリサの話を聞いて父と母から言われた
「リインが選んだ人なら間違いないと思うんだがな……恋は盲目とも言うし……お前達?前回日本に行った時は碌に観光も出来なかったしお父さんとお母さんは仕事で手が離せないから2人で会いに行ってくるかい?」
と言う父の言葉を思い出しながらアリサに確認する。
「ちょっとすずか?まだ義兄さんなんて呼び方早いわよ。
私達にはその”ツボイリョウタロウ”って男が姉さんに相応しいかを確認しに行くのが1番の目的なんだから!」
義兄さんなんてまだ早い!とプンスカと怒りながらすずかに注意するアリサにすずかは苦笑しながら、
「そうかなぁ?お姉ちゃんが選んだ人なら間違いないと思うんだけどなぁ……お母さんだって、
「お父さんは心配しすぎなのよ、だってお母さんリョウタロウさんと会ってお話ししたもの、良い人よ?リインも私と一緒であまり表情に出ない方だったけどリョウタロウさんと一緒に居ると表情が柔らかいもの。」って言ってたしね、それに…アリサちゃんも私と同じでお姉ちゃん達とゲームして見たいんでしょ?二卵性とはいえ双子だからお見通しだよ。」
そう返事を返すと、フンッ!とでも言いそうな顔をして横を向く。
確かにゲームや観光も楽しみで昨日は碌に眠れなかったのだ……ハイテンションは睡眠不足の影響もあったのだろう。
「……それにしてもすずかのケース、本当に重いわね?唯の色違いだった筈なのに…一体何が入ってるのかしら?」
空港に着いてから気紛れで交換したキャリーケースの重さについて質問するとすずかは少し顔を俯かせると、
「…………アリサちゃんは知らない方がイイよ……ふふ…ふふふ………」
と、暗い顔で呟いたが良く聞こえなかったアリサはすずかに、「何か言った?」と聞くが、
「……うん?何でもないよ、さぁ!まだ時間もある様だし少し早いけどお昼食べちゃおうか?」
と、言いながらアリサの手を引いて歩き出す。
「ち、ちょっとすずか!危ない!そんなに引っ張ったら危ないわよ〜〜………。」
「まったく!すずかは強引なんだから!ママもそうだけど、双子のはずなのに何でこんなに違うのかしら?姉さんも強引な方だったけどすずかとママはその遥か上を行ってるわ。」
私怒ってます、と顔に出しながら食後のコーヒーを飲んで言うとすずかは笑顔で、
「じゃあ私はお母さんに似たって事なのかな?嬉しいけどアリサちゃんだってお父さんにそっくりだよ?髪色が、じゃなくて喋り方とか雰囲気なんかが似てる時があって羨ましいよ?」
と返す。
すずかが座る席には空になったお皿が山の様にそびえ立ち、すずかのような美少女の前にある光景としては異常に感じるがアリサにとってはいつもの事なので会話を続ける。
「さっきのウェイターさん目が点になってたわよ?まぁ…すずかを見ても何処にこれだけ入るのかわからないわよね?」
本気で怒っているわけでもなかったので「ハァーーー……。」と深い溜息をついて呆れた様に疑問を口にする。
「アリサちゃんも知ってるでしょ私が燃費すごく悪いの……恥ずかしいけど外でお腹が鳴る方が恥ずかしいから食べなさい。ってお母さんから言われてるし………」
頬をほんのりと赤く染めながら恥ずかしそうにするすずかを見たアリサは、
「それにしても相変わらずそんなに食べてよく太らないわよね?羨ましいと言うか妬ましいと言うか……納得いかないんだけど……」
ジト目ですずかと皿の山を交互に見てからまた溜息を吐くアリサ、
「国際線JRN692便にご搭乗のお客様に御案内致します……遅れておりました準備が終了致しましたのでご搭乗の手続きを開始致します…ご搭乗予定のお客様は………。」
そんな時自分達が乗る飛行機の準備が終わったとアナウンスが聞こえたアリサは席を立つと、
「行くわよすずか!いざ!日本へ!」
だがアリサは忘れていた様だ………此処がオープンカフェの様な場所ですずかのおかげで注目を集めていた所だった事に、そこに大声を出したアリサはそのフロアの人の視線を一身に受けて顔を真っ赤にして固まった。
近くに座っていた人がのちに言っていたが、
「凄い可愛い娘が2人で大食いしてたんだよ!それに金髪の娘からは赤面する時”ボフュ!!”って成って蹲って動かなくなって凄い可愛いかったんだぜ!」
完全に機能停止したアリサを会計を終えたすずかは脇に抱えると軽快に走り去って行った。
それからドイツのとある空港には”大食い少女”と”怪力少女”という2つの怪奇現象が目撃される様になったとか………。
その頃、とあるマンションの一室
「そう言えば妹さん達が来るの今日の午前中じゃなかったっけか?」
遼太郎がリインフォースに質問すると、
「飛行機が遅れて今日の昼過ぎになりそうだと連絡があってね?もうそろそろ迎えに行こうかと思っているんだが……。」
リインフォースはそう返事をする。
言外に遼太郎は如何する?と聞かれている様に聞こえた遼太郎はリインフォースに笑顔で、
「モチ!リインちゃんの妹さんなら将来俺の妹になるんだろ?一緒に行くぜ!……そうだ!車で迎えに行ってそのまま東京観光しようぜ?この間来た時はゆっくりできなかったんだろ?」
遼太郎の言葉の意味を理解した私は”ボフュ”と赤面して動かなくなった……奇跡的にそれはアリサが空港で赤面した時間とまったく同じ時刻だったという事実は誰も知らない。
前後編に分ける気は無かったんですがね…
ではまた次回