二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果   作:日λ........

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嵐、去りて

 

「いやー、流石に死ぬかと思ったわ」

「無茶し過ぎなのよ!!龍砲で自分が跳ぶなんて無茶苦茶にも程があるっての!!」

「でもアレしか有効打は与えられなかっただろ!?跳ぶ分龍砲で補っても俺の白式のエネルギーカッツカツだったしさ……」

「……むー。ま、しゃーないか。掛けに勝ったのは私達なんだからその辺は多めに見ることにする!!でも、もうしないわよ絶対。絶対防御が起動したから助かったけど、アンタが地面に叩きつけられた時は心臓が止まりそうになったんだからね……!」

「う、その、すまんかった……」

 

 

襲撃者……いや、学園を襲撃してきた無人ISを相手に、鈴と一夏は辛くも勝利を掴みとった。

矢鱈と動作が硬く、人が乗ったそれとは思えぬ程無機質かつ精密、そして同一のパターン行動を繰り返していた事。全身が装甲で覆われ、一切の動揺を見せない事等を理由に無人機である事を見抜いた一夏達であったが、その装甲の厚さ故に有効打を与えられずにいた。

そこで一夏は残された白式のエネルギー全てを攻撃に転換する事を決意し、見抜いた行動パターンから生まれる隙を付いて鈴の甲龍の龍砲を加速装置代わりにわざと受けて急加速。全エネルギーを込めた一刀を持って無人ISを真っ二つに切り裂いた。

 

コレだけなら格好が付くのだが、エネルギーが尽きたことで白式が搭乗者を保護する絶対防御モードへ移行した事により飛べなくなった一夏はアリーナへと自由落下。幸い絶対防御により衝撃による外傷を負うことなく地面に叩きつけられただけで済んだものの、見るものの肝を冷やす光景であったのは確かである。

だが戦いに勝利し生き残ったのは一夏と鈴である以上、それ以上を求めるのは野暮と言うものだろう。これは実戦なのだから。生きて帰ってこれただけでも満点というものだ。

 

 

「……うーん、不気味ね。コレ、何処から来たんだろう。ISの無人化なんてどこの国も成功できて無いのに……」

「……案外、束さんだったりするのかな……いや、流石にこんな事しないよなぁあの人でも」

「そうね。そう思いたいわね……あ、通信……千冬さんから……!」

 

 

『無事か、二人とも!?……良かった。二人とも五体満足のようだな』

「なんとか。正直、もう体力の限界だわ……」

『ふん、普段なら体力付けんか馬鹿者。とでも言ってる所だがな……二人ともよく生きて帰ってきてくれた。良くやったな。こちらは防衛システムの管理権がこちらに帰ってきた所だ。近々シャッターの開閉も、シールドバリアーの解除も可能となるだろう。後は我々教員に任せてくれ。全く、今日は徹夜だな……っと、お前たちはまだそのまま待機していてくれ』

「わかった。心配かけてゴメンな千冬姉ぇ」

『……ふふ、馬鹿者。織斑先生だ。学校では、な』

 

そう言うと通信が切れた。

きっとこの後先生方は皆酷く忙しくなるのだろうなとぼんやりと考えた。

 

「……鈴」

「なによ」

「俺、約束って何の事だかさっぱり分からなかったけどさ。それで鈴をひどく傷つけたって事は鏃から聞いたよ。ゴメンな、約束覚えてなくて」

「……ばーか。勝手に覚えてるって思い込んでた私もお互い様よ」

「それでも、ごめん」

「良いわよ。今度、私の酢豚食べて、感想言ったら許してあげる。絶対美味しいって言わせてやるんだから」

「ありがとう、鈴」

 

 

些細な、しかし一人の少女からしたら些細ではない勘違いから始まった喧嘩は、こうして終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『落ち着きましたか?箒さん』

「……ああ。情けない所を、見せてしまったな……いや、お前には、私の弱い所を見せてばかりだな、鏃……」

『仕方ないですよ。突然命の危機に晒されたんですから。自分達のように専用機を持ってるわけでもありませんし、アレの目の前には織斑君もいた訳なんですから。気が気でなかったでしょう?』

 

自分は事情を彼女から聞いている。か細くも、その繋がりがどれだけ彼女にとっての救いであったのか自分は知っている。家族との繋がりを断ち切られ、各地を転々としていた彼女がようやく見つけた絆が織斑君との繋がりなのだから。

そんな大切な人の命も、自分の命も両方失われるかもしれなかった状況下だったのだ。凄まじい恐怖だったろう。咄嗟に動けなくなってしまっても無理はない。

 

『織斑君達は、何とかあの襲撃者を撃退したといま通信が入りました。二人とも無傷だそうですよ』

「……良かった……良かったよぉ……すまん鏃……涙が、止まらないんだ……ほっとした筈なのに……」

『……私でいいならここに居ますよ。大丈夫。それは、良い涙の筈ですから』

 

悲しみにくれた涙で染まるよりはずっと良いはずだ。

二人とも無事に帰ってきてくれて本当に良かった……もしもどちらかでも大怪我したり、死んでしまったりしたらと思うと、ゾッとする。二人の友人を失ってたかもしれないという事実だけではない

そうなってたら、間違いなくこの目の前の人は壊れていただろうから。この人は脆い部分がある。いずれは時間が解決してくれる問題かもしれないが、これまでの環境は彼女にそれを克服する機会を与えてはくれなかった。友人として、どうか支えになれれば良いのだが。

 

 

 

幸い嵐は去って行った。織斑君と鈴さんが吹き飛ばしてくれたのだ。

だが、いつ次がやってくるのかも分からない。気の休まらない学生生活になりそうだと、自分は嫌な予感がしてきていた。

この体になっても尚、この手の予感は当たるんだよなぁ……




戦闘シーンは原作と大差無く終わりそうなので巻きで。鏃が箒を回収したので窮地に陥ることも無かった模様。

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