二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果   作:日λ........

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招かれざる客

警報が鳴り響く。非常事態時に作動する各種防衛機能が作動し、アリーナは全シャッターが閉まり最新設備であるシールドバリアーで覆われた。それはつまり、我々が締め出された事も同然であった。

本来ならば開放されている筈の非常口すらすっぽりとシールドバリアーで覆われており、生身の人間が外に出る事は不可能と言えよう。ISの武装でもそうそう破れない強度のバリアがそのまま檻となった瞬間であった。

 

『……駄目ですね。織斑先生達も対応しているようですが何らかの干渉でシステムに干渉できずバリアを解除できないそうです』

「何という事だ……あの襲撃者はシールドバリアーを貫通する光学兵装を持っているというのに。このままでは我々は虎の餌箱に放り込まれた肉同然ではないか……っ、そうだ、鈴君達は無事なのか!?」

『襲撃者と睨み合ったままの膠着状態に陥ってるそうです。何故だか分かりませんが、あの襲撃者はあの一撃と共にこのアリーナへと入り込み、そのまま動きを見せていないとモニターを見ている織斑先生から聞きました。しかし、一度動き出せば……』

 

アレから約五分。自分とザイオング博士はアリーナの観客席から内部へと逃げ、自分のラファールの専用回線を使用した通信で状況の確認を行っていた。通信先はアリーナの管理室にいる織斑先生達である。生憎物理的にシャッターで行き先を閉じられている為そちらに向かうことが出来なかった。

 

『……了解しました。来客の方を避難させた後、すぐに確認してきます!!……ザイオング博士、申し訳ありませんが皆さんを少し離れてさせてください。シャッターを破壊する許可を得ました』

「わ、分かった!皆、鏃君から離れてくれ!!」

 

 

ザイオング博士達が離れたのを確認して、ラファールを起動させる。四肢の接続の解除後に拡張空間へ四肢が送られ、代わりに鋼の肉体が顕現する。神経接続良し。ハイパーセンサー起動。システム、オールグリーン……

 

 

『ウェポンセレクト、試作帯電式パイルバンカー『ハクサン』、セット』

 

それは冗談のような代物であった。ラファールの生産元であるデュノア社の現行のパイルバンカーよりも更に図太く、ラファールの両腕に接続しなければ持ち上げることすら困難な大きさの巨大パイルバンカー。元々はこのラファールが改造される前から装備されていた試作品の一つであり、破壊力だけは凄まじかったので惜しまれ、破棄されず拡張領域内にしまわれたままになっていた物である。何で入ったままになっていたかといえば、それほどまでにこのラファールの改造が急ピッチで行われた物である為である。後々装備を更新する際に返却して別の物を詰め込む予定であったが、何が役に立つのか分からない物だ。

 

 

凄まじい金属音と共に合金製のシャッターの中心が丸く撃ち抜かれた。更にもう一発。これで、人一人しゃがまなくても通り抜けられる道が出来上がった。

ラファールを解除する。それと共に四肢の再接続を行い、普段の手足のついたドラム缶のような姿へと戻った。

 

『ここから先に行けば地下への道が続いています。どうぞ皆さん、押さないで向かってください。自分は、外に戻らなければなりません』

「鏃君!?何をするつもりなんだい!?」

『友達が一人、アリーナの観客席に取り残されてるそうでして。自分は彼女を連れ出しに行きます』

「……分かった!気をつけて行ってくれよ……!幸運を」

『ザイオング博士もお気をつけて。では……っ!』

 

 

そう言って自分は来客の方々とは逆方向へと駆け出した。

 

箒さん……無事で居てくれよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

私は声が出せなかった。それだけではない。立ち上がる事すら出来なかった。我ながら情けない。

皆があの襲撃でアリーナの内部へと避難してく中、私はまだ観客席に居た。見てしまったんだ。あの無機質な『目』を。私達の事を何とも思ってないような、蟻でも潰すかのようにアレはアリーナに光を放った。

怖い。立ち上がろうとしても腰に力が入らず、声すらも上げられないような恐怖に襲われた事は初めてだった。あの無機質な殺意に、完全に当てられてしまった。これじゃ、一夏に弱くなったなんて言えるような立場じゃないじゃないか……

怖い、怖い怖い怖い怖いっ!!! なんでこんな事になってしまったんだ!!一夏の戦いを、見ていられる筈だったのに……今私は自分の命が奪われてしまうのではないかという恐怖と、あの黒い異形が一夏達を殺してしまうのではないかという恐怖で一杯になってしまっている。

恐れで声を上げないように、抑えているのが精一杯。なんとか動こうとしても、アレに見つかるんじゃないかと思うと途端に体が竦んで動かなくなる。もう、限界だ

 

動いてよ……私の足……!!

 

 

 

『……箒さん、大丈夫ですか?動けますか?』

 

 

 

あ──

 

 

 

 

「や、じり」

『織斑先生から、動けなくなっていると聞いて助けに来ました。肩を……ああ、無理ですね……仕方ない。申し訳ありません。掴まっててください』

 

緊急事態だ。腰が抜けて動けなくなっている箒さんを抱きかかえ、アリーナの中へと運んでいく。

 

「あ、ありがとう。鏃……怖くて、動けなくて……!」

『もう大丈夫。大丈夫ですよ、箒さん』

 

 

……さあ、後は頼みましたよ織斑君、鈴さん。どうか、生きて帰ってきてください……!!

 

 

 

 

 

 

「……箒は無事アリーナの中へ運ばれたそうだ。動きはあるか?鈴」

「いいえ、まだ動かないわね……あの光線撃ったクールタイム……なら良いと思うけど、そんな訳無いし……っ、熱源反応拡大!!来るわよ、一夏!! 」

「やるしかねぇか。行くぞ、鈴!!」

「無茶しないでよ。シールドエネルギー、あと三分の一だけなんでしょ?」

「俺達二人なら、何とかできるさ」

「……そうね!」

 

根拠のない自信だった。だが、それでも必要な意地であった。この戦場に立つために必要な勇気を奮い立たせる為には。

二人は動き出した襲撃者から放たれた光線を躱しつつ、二手に別れて踊りかかった。元より双方近接型。距離を取られては光線を放てる重武装のIS相手には不利である。

 

こうして、二人の初の命を賭けた戦いが始まった。

 

 

 

 




箒はイッピーの前で意地張ってるだけで、ほんとはすっごく脆い部分のある娘だと思うんだ。なので当作ではそういう所に光を当ててくスタイルです。

肩貸そうとしたけど支えられる肩が無い。そんな我らがドラム缶(主人公)

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