二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果   作:日λ........

7 / 12
中国からの留学生

二組に噂であった転校生が来たようだ。名前はたしか凰鈴音(ファンリンイン)であったか。中国の代表候補生であり、二組にきてすぐに実力で二組の代表となったと聞くが一体どんな人物なのだろうか。その行動から自らの実力に確かな自信を持っているようなのは確かなようだが、生憎と組が違うので会う機会も無かったのである。

 

「うう……一夏のバカァ……約束……あたしは守ったのに……」

『……どうかしましたか?これ、落としましたよ』

 

……今、この瞬間までは。

先日料理の基本を教えた箒さんに、かつて愛用していた料理本と同じ本をこの前学園の購買で見つけ購入したので、プレゼントしようとおもったのである。暇な昼時にでも渡そうと思って普段は来ない食堂まで来たのだが、食堂の廊下まで近づくと、突然涙を流しながら走り去っていった彼女を見つけた。

その時、彼女がハンカチのような物を落としたので渡そうと追いかけていったのである。

 

「……え"っ、あ、あんた何者よ」

 

鈴は鏃のその姿に絶句した。考えてみてほしい。円柱型のドラム缶のような金属筒にやけに精巧な金属製の手足が着いた物体が人のように歩いて少女に話しかけてくるその姿を。誰であれそんな事があれば驚かざるを得ないだろう。流れていた涙も止まるというものだ。

尚、この体はわざと人の姿から欠け離れた姿で作られている。その音声も、少し人間味にかけた合成音声だ。

 

見た目こそロボットのような姿だが、その動作はあまりにも人間のようであった。各国の技術の賜物であることを差し引いても、元々は生身を持っていた五体満足の人間であったのだから当然ではある。だが、だからこそ起こった問題があった。不気味の谷現象である。

 

あまりにも人に似すぎた人形や物に対して人はおぞましい程の嫌悪感を抱くのだ。似すぎているが為に、逆に人として欠けている部分が目につき過ぎてしまう。現在の科学では人のような姿の体を自分に与える事はおそらく可能であるとされているが、その姿はどうしても作り物であるという印象が残ってしまい、試しに作った試作品はあまりにも不気味であった。それならばあえて人の形から外れたほうがまだマシと、現在のデザインにされたのだ。

そんな意図があった姿の為か、驚かれたものの不気味には思われなかった様子なのは自分にとって幸いだと言えよう。

 

『あ、これは失礼しました。私は鏃頭と申します。勘違いしそうなので先に言っておきますが、一応こんなナリですが人間です。これ、落としましたよ?』

「……あ、それお弁当包んでた包みの……ありがとうね、あたしは凰鈴音。中国の代表候補生よ。今度から二組の……鏃?あんたが二人目の男性搭乗者っていうあの……?なんか写真で見た姿とは、全然、違うんだけども。少なくとも私が見た写真だとそんな円柱形だったり金属みたいな姿じゃなかったけど、えっ?本物なの?」

『ははは、その頃は完全に生身でしたからねー。今その部分は全部研究機関に……おっと、些細な事です忘れてください』

「些細!?それ些細な事って言えないわよ!?」

『自分で望んでこうなりましたので大したことじゃあ無いですって。少なくとも自分は後悔してませんし。それよりも、どうしたんですか?あんな風に食堂から飛び出すなんて。ただ事には思えませんでしたが』

「……あんたには、関係ない事よ。はぁ……なんかメソメソしてるのが急にバカらしくなっちゃった」

 

そう言って、鈴さんは立ち上がった。渡した布で涙を拭って。

 

「落とし物、届けてくれてありがとね。今度、クラス代表戦で一夏と戦った後にあんたとも模擬戦すると思うけど、その時はよろしく。私のことは鈴でいいわ。日本だとその呼び方が呼ばれ慣れてるの」

『あ、はい。分かりました鈴さん。自分のことはお好きなようにどうぞ』

「分かった。それじゃあ鏃って言わせてもら……あっ、いけない!そろそろ昼休み終わっちゃうから、もう行かなきゃ!またね、鏃!」

『あっ、はい。それではまた。クラス代表戦の時はよろしくお願いしますね』

 

そう言って、彼女は二組の教室へと小走りでかけていった。織斑くんの事を言っていたし、きっと彼女も彼の友人なんだろうか。箒さんといい、セシリアさんといい、鈴さんといい、彼には女難の相でも出ているのであろうか?

 

そう思いながら、手にしたレシピ本を持ち直して自分も教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

クラス代表戦。言葉の通りクラス別に選ばれるクラス代表同士の練習試合である。クラス間での切磋琢磨を促すために行われているカリキュラムで、代表者の動きを見て自分達と見比べる為の場――なのだが同時に、代表候補生達が使うISの最新技術の御披露目の場を兼ねるという場合もある。

時期と場合によりけりだがどうやら今回は後者のようだ。アリーナには国外からの招待客の姿がちらほら見えるが、何人か例のプロジェクトヘ参加している顔見知りの姿も見えた。勿論全員ISの関係者だ。

 

鈴さんの専用機は第三世代。最新型の最新技術の塊だ。確か特殊装備は『龍咆』であったか。空間圧縮の技術の試験運用と第三世代機に使われる基本、もしくは基準としての立ち位置を目指した機体だと中国からの技術者の人は言っていた。

なぜ私が知っているかと言うと、例のプロジェクトは目的こそ自分の体の解剖解明であるが、ソレと同時にいまや参加してる各国の技術公開の場ともなっていた。本来なら、まだ隠匿されるべき技術でさえもだ。

 

まだISは発展途中の技術であり、その本懐を遂げていない――宇宙開発への利用の道は未だ目処が立っていないのである。

……解剖される自分には明かされるべきだと、各国の首相達は自分に語ってくれた。束博士はISコアを配る際に「これは未だ未完成品だ。配りはするが、その『未完』が埋めれられない限り私はこれ以上コアを作る気はない。そして、私はそれを自分で埋めるつもりもない。やるなら、自分達で勝手にやればいい」と言い捨ててコアを置いていったと。それから、彼女は世俗から縁を絶ったと。

 

その言葉を聞いて私は――更にやる気が出てしまった。ソレまでは流石に脳だけになる覚悟は決まっていなかったのだが、それが私に今の体になる為の背中を押す言葉となった。

彼女は世界にチャンスを与えていたのだ。そして、それに今まで我々は答えることが出来なかったのだ。

 

……ISを、男性にも使えるようにする事。コレを各国に見切りをつける最後のチャンスとして束博士は与えていたのだ。

そして、世界各国ですら叶えられなかったその望みの一端を私が持っていると知れた私にもはや迷いなど無かったのである。

……まあ、そんな理由から私はソレなりに各国の機体の情報にそれなりに精通している。まだ完全に未完成の機体は分からないが、外側が完成している機体のコンセプトや特殊装備は大体知っている。とはいえ知っているだけでどういう挙動で動くのかは、直接見てみなければ分からない。

視線を客席から会場へと戻す。そろそろ鈴さんと織斑君の試合が始まるようだ。見て学習し、どのような性質のものか見極める必要があるだろう。

 

 

 

 

 

『空間圧縮の機能で空気に圧力を掛け、不可視の砲台を作り上げて射出! 破壊力も制圧力も中々ですし、弾丸は空気そのものであるためハイパーセンサーでも検知するのは困難。宇宙に空気はありませんが、この技術を応用すればスペースデブリの除去からコンテナの射出を行うカタパルトにもなる……アレだけでも中国が第3世代機の基準となるべく作ったと言うのも納得の高性能さですね』

「そうだろうそうだろう?無論、基礎の機体性能も悪くない。今試合に出ている鈴代表候補生の甲龍は彼女の適正を元に近接格闘向けにチューンナップが施されているが、龍咆以外の基礎の部分はかなり柔軟性のある設計にしてある。外付けの装備さえ付ければ遠近いくらでも対応が可能だ。ただ、堅実に設計しすぎて『第2世代機のコンセプトから進歩が見られない』という批判があってな……嘆かわしい事だ。確かに基礎部分は第2世代機の発展型と言える作りだが、アレを見て感想がソレではコチラも……と、すまない熱くなってしまったな」

 

そう言って白衣の男は座席に置いてあったペットボトルから水を一口飲むと、試合中の甲龍を見て話を続けた。

 

「あの空間圧縮の機能は今も改良を続けていてね。今はISの装備としては弾丸を放つだけしか出来んが、いずれは機体の慣性を消すことによるGの軽減や、空間圧縮によって作り出した拡張空間に物を置いておくなんてコトもできるようになるだろう。束博士の二の足を踏むだけでは科学者として恥ずかしいと思って頑張ったんだ。SFを現実に変えるなんて、自分達に出来るとは思いもしなかったが。日本の青いネコ型ロボットの漫画を見たのが、私が物理学者を志したキッカケでね」

『不思議なポケットですか。夢のある話ですね』

「もう夢では終わらせんよ。このザイオングがいる限りはな。それにな、君の体全てを差し出す程の覚悟を持った宇宙への熱意には負けるさ。私の夢も持っていくといい。宇宙ではきっと役に立つだろうからな……おっと、もう君の体には搭載されてたかな?」

『勿論です。あなたの装置のおかげで自分は義足で走っても中の脳に振動一つ来ない状態なんですから……ありがとうございますザイオング博士。おかげでこんな状態でもキチンと日常を送れてます』

「結構、その言葉だけで更に頑張れるとも」

 

試合を見るために来た観客席で、自分は運よく見知った顔と出会った。この脳を保護するボディを作り出した各国の頭脳陣の一人で、主に衝撃に対する対策を担当していた中国の物理学者であるザイオング博士――本名、財 恩紅博士に。ザイオングというのは学者としての通り名であるそうだ。

今まで知らなかったがザイオング博士は中国の第3世代機のワンオフアビリティの設計の根幹に携わっていたそうだ。鈴さんの搭乗機である甲龍の大まかな調整も彼手ずから行っていたとの事で、色々と話を伺っていたのである。

 

「おお、我々の甲龍が優勢じゃないか!こう言うとなんだが、鈴君は頑張ってくれているからね。訓練の成果が出ているようで何よりだ」

『織斑君も食らいついてますが、流石に近接戦闘主体の甲龍をあの機体で相手にするのは厳しいでしょうからね。倉持は一体何を考えてあんな仕様にしたのやら……』

 

試合は白熱していた。織斑君の白式はその機体特性がほぼ彼の姉であるブリュンヒルデの搭乗機の仕様そっくりと言えるものであったのである。つまり刀一本と機体の運動性能ですべて何とかしなければならない超近接特化型。普通、近接戦闘を主体とする機体であっても牽制のために何かしら付いている筈の射撃兵装が一切ない。後付けで装備しようにも機体の拡張容量は既に一杯。 加えて拡張容量が一杯になってる理由であるワンオフアビリティを発動すれば一瞬でエネルギーを使い切る燃費の悪さまで備えている。まかり間違っても初心者に乗せるような機体ではない。

 

そんな機体に乗せられても腐らず曲がらず何とかしようと努力している織斑君は聖人か何かなのではないかと思ってしまう程に無茶な作りの機体であった。

 

しかしそれでも何とか織斑君は白式で鈴さんの乗る甲龍に食いついている。彼自身の才能もあるだろう。しかしそれ以上に、あの放課後の集まりが彼を成長させているように感じた。

龍咆の仕様に気が付き初めている。初めは何度か直撃を食らっていた透明な弾を、今では何とか躱しつつある。そうして白式は接近を可能としたが、それだけで勝てるなら鈴さんは甲龍の搭乗者として選ばれていない。甲龍は近接戦闘型なのだ。当然近接武装は搭載されていた。

 

接近してきた白式に対して甲龍は巨大な二本の蛮刀を振るった。織斑君は咄嗟に刀で切り結ぶも、振るわれるのは肉厚で巨大な蛮刀である。下手すると折れるのではないかと不安になったが、謎の硬度を誇るその刀は折れる事は無かった。しかし、衝撃までは殺せず白式はそのまま全身を吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされた姿勢を織斑君が立て直している間に、鈴さんは両手に持っていた二本の蛮刀を接続し、一本の薙刀へと変えた。そうして鈴さんは猛攻を開始するべく、牽制に龍咆を発射した後突撃した。それを見た織斑君は刀を構え、ワンオフアビリティを発動させるために刀を変形させた。このままでは勝ち目がないのを悟ったのだろう。次の一瞬に勝負を掛けたのだ。

 

次の瞬間に試合の決着が付く、そう思った矢先の事であった。

 

試合会場となったアリーナのバリアを貫く異様な轟音と共に、空から赤い光が放たれた。

 

 

 

 

 

 




久しぶり。今思うと当時自分の頭はどれだけ沸騰してたのか()
不定期ですが少しづつ更新再開していきます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。