二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果 作:日λ........
「主任、次のプロジェクトに関する資料ですが……」
「ああ、ありがとう。早速見させてもらうよ……これはっ!」
「ええ、貴方の発案が通りました。しかし、豪勢な事ですね。まさか一人の人物の為に、二機目のISコアの使用の許可が降りるなんて……」
「今彼が使用しているのは、彼が失った物を補う方向で開発されている物だからな。言いなれば彼以外も使う事が確定されたような技術ばかりが積まれたISだ。だが、これは違う。今は彼しか使わん。いや公的には使えん技術だからな」
「彼のあの状態が前提で組まれた、ギリギリまで搭乗者のスペースを省き、性能面の向上を目指した機体の開発……でしたね。住み分けてデータを収集した方がISコアの成長を含めて効率的だと上は考えたのでしょう」
「まあ、我々としては開発資金の上限額が上がりそうでうれしいじゃないか」
「ははは……相変わらずですね、主任は」
机の上に、彼は部下から渡されたその計画書を置いた。
「まあなに、あの少年はあそこまで自分を投げ売ってくれたんだ。我々はその思いに答えるのが仕事だと思わんかね?」
そう言うと、彼は計画書の詳細を読み進めて行く。
Project LEOと書かれた、その計画書を。
IS学園に来て数週間が過ぎた。今の機械の体に鏃は慣れつつあり、今ではかなり普通に動けるようになってきた。かつて生身であった頃に比べると流石に劣るが、実技授業での準備運動で校庭を数週するくらいは平気である。
「……鏃、お前も普通に走るのだな……その、平気なのか?」
『義肢の耐久テストも兼ねてますので。コレくらい出来ないととてもじゃありませんが使えないですしね』
「いや、そういうことじゃ無くて」
『それに、この程度で動けないようじゃとてもじゃないですけどISに乗って動くなんて無理ですよ?ちゃんと保護はされてますから大丈夫です』
何重にも分けられた対ショックジェルや衝撃を逃がす構造の下に自分の脳と脊髄は詰まっている。計算上はある程度上空から落ちても内部には振動が一切伝わらない作りになっている為この程度なら全く問題ない。
尤も千冬先生辺りに殴られたらどうなるかは分からないが……
「……それもそうか。すまんな鏃、気にしないでくれ」
『いえ、要らない心配をお掛けしてすいません箒さん。客観的に見てみるとそりゃ不安になる姿でしょうし……と、これでノルマ分終りましたね』
鏃は走り終えた後、専用機を持つものとして一夏やセシリアと共に集められた。どうやら見本として先に行動する事を求められたようである。
「織斑、オルコット、鏃、ISを展開しろ」
千冬先生にそう言われ、少し二人から離れる。万一巻き込まれたら事であるので、当然の配慮であった。
そうしてラファールに干渉して、四肢の接続を解除、そのままラファールの腹部に収まるように埋め込まれ、戦闘用義体にアクセスする。
__よし、接続完了。だがやはり、咄嗟の装着とはいかないなコレは。
義肢の解除を含めて三十秒近くかかってしまう。しかし、これ以上時間を短くすると今度は接続不良や事故が起きかねないので短くする訳にもいかないというジレンマがあった。
しかし30秒近く棒立ち状態というのは素人考えでも__
いや、そもそもそういう状況に追い込まれないように気を付ければいい話か。
「鏃、お前の場合は理由が理由だ。仕方ない面もある。幸い、最低限の素早さはあるぞ」
『……そうですね。工夫してなんとかしてみせます』
「オルコットは流石代表候補生だな。今の時点では中々だ。だが織斑、お前が鏃より遅くてどうする?最低あと15秒は展開速度を早めろ」
「う、分かったよち……ワカリマシタ織斑先生。その出席票をお収め下さい」
「分かればいい。では三人とも、そのまま上昇と降下からの停止を行う。今各自に送った目標高度に達した後降下し、落下慣性の相殺を行え。最低限の地面からの距離も網膜投影の画面に記してある。では、今から始めろ」
その言葉と共に、三人はブースターを吹かして上空へと飛んで行った。
その後、鏃とセシリアは難なく着地を行えたものの、一夏は地面に危うく激突しかけてしまい、落下は避けたが危なっかしかった事を咎められ千冬からグラウンド5週を命じられた模様。
『この時期に、転校生が?』
「ああ、来るらしいな。どうやら中国からだそうだぞ。別の組の奴らが噂話をしていたのを耳に挟んでな」
『……はて、随分微妙な時期に来ますね。こんなに早くから転校生がくると。なにやらきな臭い物を感じますが……それはそうとして、箒さん?』
「なんだ?」
『いつも食堂で定食とか頼んで昼食は食べてましたよね。何故に今日に限ってお弁当を整備室で食べてるんですか?』
「……実は、一夏にお弁当を作って持っていこうとしたのだが……見ての通り、作ったはいいが人に食べさせられる出来で無くてな。作ったものを粗末にするのは駄目だと思って自分で食べようと思って詰めたのだが、その、人に見せられる出来でも無くて……恥ずかしくてな?人気のない場所を探していたらここに行き着いて、鏃を見つけたから、その」
『ああ、確かに自分は事情知ってますからねー。気がね無く食べられる、と……?その、失礼ですがその黒い物は何ですか?』
「……卵焼きだ」
……センサーで成分解析を掛ける……!?は、八割が炭化しているだと!?
『それは食べてはいけません!!』
「なっ!?何故だ鏃、少しだけ焦げているが確かに卵焼きなんだぞ!!」
『八割以上が炭化しているものを食べ物として認めるわけにはいきませんよ!?殆ど炭じゃないですか!!』
「……そんなに、か?」
『そんなにです。あの、箒さんは料理ってしたことは?』
「……あまり自主的にはやったことがなかった。なにか切ったりとかは得意だったんだが、焼いたり揚げたりは殆ど初挑戦だな」
『レシピは……?』
「思い付いてやったことだったから……やはり、必要なのか?」
あっ。これはいけません。このまま続けさせては箒さんが倒れるか、比較的マシだと錯覚した物を織斑くんに持っていって倒れさせるかというか悲しい結末になってしまう……!
『……この身体になってからはしてませんでしたが、昔は料理をある程度出来ましたから、今度教えます』
「えっ。そこまでされるとその、なんというか申し訳が立たないのだが」
『いいえ、せめて基本が出来るようになる程度には教えます!こんな物を食べようとしてたなんて、身体壊しかねませんよ!!心配なので、教えさせてください……』
「……本当に申し訳ない、鏃」
その後、『味見出来ないので少し自信がありませんが』といって見本として鏃が作った厚焼き玉子を食べた箒は、己の未熟を酷く悔いたそうな……その甲斐あってかしっかりと料理の基本を教わった箒は、きちんとレシピを読んで手順通りに料理をするようになったようである。
……ドラム缶ボディの人にすら女子力で劣っていると目が虚ろになった箒のメンタルを犠牲に。