二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果   作:日λ........

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些細な出会いの切っ掛け

昼食の時間。それはもっとも鏃が暇な時間である。なにせ今の『食事』と言えるものは脳と脊髄を生かすために必要な栄養が詰まった溶液である。一定期間に消費した分継ぎ足せば終了。五分も時間は必要ではない。

そんな訳で、鏃は整備室へと赴いていた。自らのIS『ラファール』の調子を確認するために。

現在の鏃に所属国家は無い。彼は世界共有の人材であり、彼の事を研究したい国家は研究の為の資金と研究する人員を提供すればその研究成果を共有できるという一大プロジェクトの協力者という扱いである為だ。強いていうならば、その研究に協力している国々が彼の所属である。アメリカ、イギリス、イタリア、ロシア、中国、ドイツ、日本……現在強国と呼ばれている者達はこぞって彼の研究に協力を要請した。

 

その結果が、今の鏃の体である。

 

それ故に、彼の専用機扱いのラファールも各国共有の機体扱いであり、科学者達が日夜様々な改良案を出しては採用されたものが実施されを繰り返している。旧式と侮るなかれ、あくまでガワが第一世代特有の全身装甲なので改造しやすいというだけの理由で使われてるだけで、最早中身は別物である。鏃自身のISの使用経験を考慮して出力や性能等はあまり片寄った物にはされていないものの、この機体の価値はそんな所ではない。普段使っている義肢や戦闘用の義体、神経と直結した機体制御システムから取れるデータは莫大な利益を産み出す金の卵だ。この研究からフィードバックされた技術が、今後のISの発展に大きく関わるであろうと言われている程である。

 

そんな訳で、セシリア戦でデータを取った後にもまた鏃の元からラファールは回収され、新たな改良が施された。そして今日の昼前に届いたので、鏃は暇な昼食の時間を使って早速機体の状態を確認しようとした訳だ。

 

『ふむ、これで私一人でもラファールを纏えるようになりましたか。先生方の負担が減りますね』

 

今回の改良の内容の中には、普段使っている義肢をISの容量内に収容し、速やかな義体の装着を可能とする機能が含まれていた。 鏃自身が非常時に自衛を行えなかった現状では不味いと判断されたのか、それは優先的に行われていたようだ。

体を軽く動かす。様々な機材の置かれた整備室内なので最低限の動きだが、義体のその動きは生物のように滑らかな動きだ。セシリアと模擬戦を行った時とは比べ物にならないほどスムーズである。

ドイツから提供されたナノマシン技術の導入により、脳神経から出される信号をより素早く正確に受けとる事が出来るようになったとは聞いていたが、どうやらその改良は成功らしい。

 

 

(反応速度が大分上昇してますね。今まではほんの少し動かそうとして遅れていた動きが、ほぼ完全にタイムロス無しで操作出来るようになっている。反応速度の上昇に関してはこれ以上敏感にするとこちらが混乱しそうですので一旦この状態で止めて貰いましょう。後でレポートを送らないと……ん?)

 

そうして鏃がラファールの性能を確認していると、自分以外の生徒の存在に気がついた。

その生徒は何やらISの調整を行っているのか、空間投影型のディスプレイを眺め、集中してタイピングを行っている。その脇には購買で購入したと思われる未開封のサンドイッチが置かれていた。

 

 

(……あれ?そういえば今の時間は……)

 

 

内蔵された時計機能を表示すると、昼休みの終わりまであと二十分も無い。しかしその生徒は時間を忘れて作業しているのか、サンドイッチの存在を忘れているのかずっと作業を続けていた。良く見てみると、自分と同じ一年生であるようだ。面識が無いので、恐らく別のクラスの子だろう。

 

 

(……うーん、この時間帯に普通の食事が食べれない自分はともかく、他の生徒がここにいるのはなんか気になるけど……集中してるのを邪魔するのも悪いよね)

 

 

そう思い、ISの展開を解除し、ラファールを待機形体にする。そうすると同時に義肢が展開され、いつものドラム缶型の本体との接続が行われた。

 

 

(うんうん、待機形体への移行と義肢の再接続も問題なしと……でもちょっと機械音が響いてうるさいかな?)

 

 

ギュインギュインと鳴り響く自らの四肢の接続音に、これは要改良かな、などと思いながら鏃は教室へと戻っていった。

 

 

「……何、今の?ロボット?……凄いっ、まるでアニメや特撮の合体シーンみたい……!!」

 

背中に受ける熱い視線に気がつかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お前も待機形体のISを身につけるようになったんだな、鏃。その腕輪がそうなのか?」

『そうですよ織斑君。これが私の『ラファール』の待機形体です。良く気がつきましたね?新しい部品と思われるかと思ってました』

「いや、明らかに色が違うしそうかな?っと思っただけだよ。俺の『白式』のガントレット型程じゃないが、なんか大きいな……」

『元が旧式なので、その名残だそうです。それに、自分だと首飾り型なんかは装着出来ないので……』

「あー。そうだよな。でももうちょっと小型化出来なかったのかと思うよな……常につけてなきゃいけないからちょっと邪魔になることがあって」

『確かに自分もノート取る時にぶつける事がありましたね……いっそ搭載スペースを増設して貰おうかな?』

「わざわざそこまでやるのか……」

『はは、流石に冗談ですよ箒さん。いくら自分でもそこまで気軽に改造の依頼は出しませんって』

「貴方がいうと冗談に聞こえませんわよ鏃さん……」

 

 

放課後、鏃はいつもの面々と話をしていた。自分一人で漸くISを展開できるようになったので、アリーナを借りて自己練習をしようという話になったからである。

そうして練習試合を行った結果は、

 

 

「な、なんでそこまで避けられますの……!?それに以前より更にヌルヌルと動くようになってませんか!?」

「う、動きが滑らか過ぎて着いていけねぇ……すげぇな箒。なんで攻撃を当てられたんだ?」

 

 

と、この通りセシリアと一夏には一撃も攻撃が当たらないというとんでもない結果に終わった。以前はカスっていた攻撃が完全に回避出来るようになったものの、それ以外は全く前回の試合運びと変わらなかったセシリア。接近して刀を当てようとするがいざ近づくと非常に滑らかなその運動性と柔軟性に翻弄され、シールドエネルギーを削りきられた一夏は共に驚愕の声を上げた。

しかしそんな鏃相手に善戦したのは、意外なことに専用機持ちではない箒であった。

 

 

「確かにその動きの滑らかさは凄まじい物があるが鏃、お前武道は何もやったことがないな?分かりやすい動きだったぞ」

『ああ、だから対処出来てたんですか。自分近接戦闘に関しては完全に素人ですので。そりゃ付け焼き刃では対処されますか……』

「なんというか、素直すぎる動きだ。回避行動はやたらと上手いのに、攻撃がそれではカウンターを受けてくれと言ってるようなものだぞ」

『どういう訳か避けたりかわしたりは得意なんですがね。射撃は当てられるだけで攻撃行動自体がどうも下手、という事ですか。私の頑張るべき点はソコでしょうね。ありがとうございます。参考になりました』

 

 

箒は剣道の大会で優勝するほどの腕前である。それ故に間合いや相手の動きの先読みの感覚が非常に鍛えられており、目先の運動性に翻弄される事無く鏃に攻撃を当てられたのである。更に、彼女が使っているISは防御型の打鉄であることもあり、射撃では削りきれず、接近されての数撃を貰うことになってしまったのであった。

 

 

「うう、これではわたくしの面目が立ちませんわ……次は、かならず当てて差し上げますとも。鏃さん、もう一戦よろしくお願いできますか?」

『ええ、もちろん』

 

そういうと、鏃とセシリアは再びアリーナの空へと飛んでいった。

 

 

「俺はそもそも練習量が足りてないなこりゃ……よし、鏃とセシリアの練習試合が終わったら、次の相手を頼んでいいか箒?少しでも、皆に追い付きたいんだ」

「……っ!あ、ああ!!勿論だ、やろう!!」

(一夏に、頼られた……!ああ……頑張ろう、私)

 

内心ガッツポーズで箒は一夏に頼られた事に対する喜びを噛みしめつつ、友人達が駆ける空を見上げた。

 

まるで鳥のように縦横無尽にセシリアの弾幕を避け続ける鏃のその姿に、儚さを感じたのは何故であろうか?

箒には、その理由が分からなかった。

 


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